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近年悪性腫瘍に対する免疫療法についての研究が盛んに進められるなか,この論文では悪性黒色腫に生じた患者特異的なミスセンス変異による癌特異的新生抗原を探し出し,これを樹状細胞と反応させ患者に投与するという究極のオーダーメイド療法を提唱している.まず特定のHLA抗原を持つ悪性黒色腫Stage 3,抗CTLA4抗体治療後の3名の患者の癌組織を取り出して,全エクソーム解析によりその患者の癌細胞特異的に生じた,アミノ酸変異を伴う突然変異250〜500種を網羅的に同定した.続いて同定した変異蛋白から,T細胞免疫の抗原になりうるペプチドをコンピューター解析で割り出し,50〜100種に絞りこんだ.さらに実際に悪性黒色腫で発現していてHLA抗原に結合できるペプチド配列を選択し,そのペプチド抗原と患者の末梢血単核球から得た成熟樹状細胞を反応させ,これをワクチンとして患者に投与した.患者は治療後特に自己免疫性疾患を含む有害事象なく経過している.ワクチン免疫前と免疫後の患者の末梢血単核球細胞とCD8陽性T細胞をin vitroで反応させることで,特定したペプチド抗原は,ワクチン免疫前から免疫が成立しているものと見かけ上免疫が成立していないものがあるが,いずれもワクチン免疫後には大きくその反応が増強したことを確認した.次に複数のペプチド抗原の発現ベクターを悪性黒色腫細胞株に遺伝子導入し,その細胞に特異的T細胞が反応するかどうかを追跡し,候補9つのうち7つのペプチド抗原がHLA抗原と結合して抗原提示され免疫反応が成立することを確認した.また,誘導された免疫反応により悪性黒色腫がin vitroの培養実験で死滅すること,特定されたペプチド抗原が実際に悪性黒色腫においてHLA抗原と結合し抗原提示されていること,さらにペプチド抗原に対する特異的T細胞レセプターをすべて網羅的にクローニングし,ワクチン免疫後には患者体内で特異的T細胞の出現率,種類ともに増えたことを確認した.本研究ではワクチン免疫後に癌特異的T細胞の多様性が増すことを確認したが,これはつまり体内には潜在的に癌特異的変異ペプチド抗原に対する特異的T細胞が多様に存在しうることを意味しており,今後これら特異的T細胞を活性化させる免疫療法が悪性黒色腫の治療に大きく貢献する可能性を示している.
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