臨床皮膚科 64巻4号 (2010年4月)

連載 Clinical Exercise・32

Q考えられる疾患は何か? 小幡 桃子
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症 例 患 者:70歳,男性

主 訴:下痢,全身皮膚色素沈着

既往歴:胆石症

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:約1か月前から倦怠感,嘔気,嘔吐,味覚異常が出現し,半月前から下痢,両手掌の色素沈着,全身の脱毛が出現した.下痢が悪化し,摂食不能となったため内科に入院した.

現 症:全身皮膚びまん性色素沈着,脱毛を認めた.口腔内の色素沈着は認めなかった.

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要約 Toxic shock syndrome(TSS)は,黄色ブドウ球菌が産生する外毒素エンテロトキシン(SE)がスーパー抗原として作用し,惹起される重篤な全身性感染症である.急激な発熱,血圧低下,びまん性の紅斑などで発症し,多臓器不全に進展することがある.今回われわれは,TSSの3例を報告する.症例1:63歳,女性.20年来の関節リウマチがあり,副腎皮質ステロイドホルモン剤を内服していた.齲歯の抜歯4日後に発症した.症例2:28歳,女性.産褥6日目に子宮内容清掃術を施行し,その3日後に発症した.症例3:79歳,女性.左乳癌の手術後8日目に発症した.原因菌として,症例1,2ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が,症例3ではメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出された.症例2,3で黄色ブドウ球菌のSE genotypeを同定し,症例2は典型的な院内感染型のMRSAであることが判明した.

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要約 57歳,男性.2006年冬頃より突然の下口唇の腫脹と軽快を繰り返していたが,放置していた.しかし,2007年夏頃より上口唇にも腫脹が出現するようになり,当科を受診した.肉芽腫性口唇炎と診断し,プレドニゾロン(PSL)15mg/日内服にて軽快したが,減量に伴い増悪するため,シクロスポリン3mg/kg/日(ネオーラル®200mg)を併用した.投与開始1週間後より改善を認め,投与開始4週目よりPSLの減量を行った.現在,シクロスポリンのみ内服しているが,再燃なく経過している.

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要約 生後5か月,女児.妊娠(在胎)26週1日,730gで出生した超早産児であった.経口のみの栄養摂取が困難であり,出生後,中心静脈栄養を開始した.生後3か月で中心静脈栄養を中止し,母乳栄養のみとした.生後5か月より口囲を中心に紅色落屑性丘疹が出現した.外用治療に対する反応は悪く,難治であった.腸性肢端皮膚炎を疑い,血中亜鉛濃度を測定したところ,13μg/dlと低値であった.亜鉛の経口補充療法を行ったところ,約1週間で著明な改善がみられた.発症要因として,授乳期後半の母乳亜鉛濃度の生理的低下と,超早産児であり体内亜鉛含有量が少なかったこと,成長に伴う亜鉛の需要増大が挙げられた.

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要約 64歳,女性.2001年より原因不明の心臓収縮能障害にて,低用量バイアスピリン®を内服中であった.2008年8月に突然左手掌に有痛性の皮下結節が出現し,生検の結果,真皮静脈・毛細血管内に血栓があった.血液学的検査にて,6週間の間隔をあけて抗カルジオリピン抗体2回陽性を認め,原発性抗リン脂質抗体症候群(APS)と診断した.皮疹を契機に診断に至った貴重な症例として報告する.

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要約 症例1:67歳,女性.1991年,全身性強皮症limited typeと診断され,1999年よりプレドニゾロン(PSL)4mg/日内服を継続していた.2001年より紅斑,水疱が軀幹,四肢に出現した.症例2:55歳,女性.2005年,全身性強皮症limited typeと診断された.2007年1月頃より軀幹に紅斑,水疱が出現した.2例とも抗デスモグレイン(Dsg)1抗体陽性,抗Dsg3抗体陰性であり,組織学的所見,蛍光抗体所見,免疫組織化学所見とあわせて,紅斑性天疱瘡の合併と診断した.症例1はPSL40mg/日を投与し,症例2はD-ペニシラミンによる薬剤誘発性天疱瘡を疑い,内服を中止し,PSL60mg/日に増量し,軽快した.強皮症と天疱瘡合併例では薬剤の関与が問題となることが多い.しかし,薬剤中止後も難治な場合には,個々の症例に応じた治療の選択が求められる.

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要約 1歳5か月,男児.体外受精・胚移植(IVF-ET)にて妊娠し,在胎41週で微弱陣痛のため,帝王切開にて出生した.生下時より皮膚の乾燥,老人様顔貌を認め,軽度の発達障害を認めた.X線上歯牙欠損があり,病理組織学的検査により汗腺・毛囊・毛包の低形成を認め,低汗性外胚葉形成不全症と診断した.

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要約 35歳,男性.4月より屋外作業中のうつ熱が出現した.7月以降,ほぼ全身の無汗に気づき,作業中の体温は40℃に達するようになった.血液検査,神経学的検査にて異常はなかった.ヨードデンプン反応による温熱発汗試験で全身性の無汗を確認した.病理組織学的には,汗腺分泌部へのリンパ球浸潤を認めるも,汗腺組織の変性・破壊像は欠いていた.特発性後天性全身性無汗症と診断し,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日×3日間)を2クール施行後,明らかな発汗を認めた.汗腺組織が障害される特発性後天性全身性無汗症の報告は少なく,病態も不明だが,何らかの免疫学的異常が関与していると推察された.治療法は確立していないが,ステロイド全身投与は有効であった.

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要約 74歳,女性.関節リウマチに対し,初診3か月前からTNF-α阻害薬であるエンブレル®を投与中.5年前に左胸部に出現した米粒大皮疹が,2~3か月前から急速に増大.病理組織学的には,表皮内に好塩基性で異型性の著明な小型で類円形の細胞が乳頭状に増殖し,一部では管腔構造を形成.PAS,CEA,EMA陽性.これらの細胞間でS100蛋白陰性の明るい大型細胞が増殖して胞巣を形成しており,eccrine porocarcinomaと診断した.エンブレル®使用後に急速に増大した臨床経過から,TNF-α阻害薬が腫瘍細胞を増殖に導いた可能性がある.今後,乾癬などにTNF-α阻害薬を使用する際には,使用前に悪性腫瘍の有無を検索し,また使用中には悪性腫瘍の発生について留意する必要があると考えた.

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要約 67歳,男性.3年前より左前胸部に自覚症状を伴わない皮下結節が出現し,徐々に増大した.初診時,5.5×3.2×高さ1.0cmのドーム状に隆起した皮下結節を認め,初診から6か月後には6.0×4.5cm×高さ2.0cmと増大がみられた.病理組織学的には,脂肪織に被膜に覆われた腫瘍塊があり,腫瘍細胞は紡錘形で楕円形の核を有し,索状,渦巻状に増殖していた.腫瘍細胞はS100蛋白とNSEで陽性を示した.一部に核異型を認めるが,核分裂像はなかった.また,管腔様構造,血栓像,血管壁の硝子化,出血像,ヘモジデリンの沈着を認めた.以上より,ancient schwannomaと診断した.Schwannomaは本来良性の腫瘍であるが,管腔の拡張や囊胞変性をきっかけに急速に増大する場合もあるので,早期切除が望まれる.

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要約 44歳,男性.左鼠径部に生じた胡桃大の皮下結節が急速に増大した.初診時,左鼠径部に径6cm大の皮下腫瘤を認め,CTでは皮下に限局し,周囲との境界が明瞭な囊腫を認めた.全身麻酔下に切除し,術中にリンパ液様の囊胞内容液を認めた.病理組織学的には,複数の囊胞を有する結節性の病変で,囊胞壁はD2-40染色で陽性であった.腫瘤内容液の所見と病理組織学的所見から囊胞状リンパ管腫と診断した.囊胞状リンパ管腫は,通常は頸部・腋窩に生下時から2歳までに発症するが,成人発症はきわめて稀である.その成因は不明だが,組織学的に多彩な炎症細胞浸潤,線維化を伴う肉芽腫を認め,顕症化に炎症が関与していたことが示唆された.

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要約 77歳,女性.関節リウマチ(RA)の治療でメトトレキサートを投与中,右下腿部に紅斑,熱感,および皮膚潰瘍が出現したため,当科を受診した.蜂窩織炎あるいはリウマチ性血管炎を疑って,セフジニルあるいはプレドニゾロン(PSL)5~15mg/日の内服とクロベタゾール軟膏外用により加療したが,紅斑は硬く隆起し,局面を形成した.病理組織像では,真皮の血管周囲に核異型性を有する大型細胞が浸潤していた.異型細胞は,CD20,CD79aが陽性,CD3,CD4,CD8が陰性で,B細胞リンパ腫と診断した.表在リンパ節の腫大はなかった.B細胞リンパ腫の診断の直後,急性間質性肺炎を発症し,メチルプレドニゾロンパルス療法と水溶性PSL30~40mg/日,および抗生剤の点滴で加療した.下腿の局面は消退したが,初診から2か月後に呼吸不全にて永眠した.

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要約 37歳,女性.下肢の紅斑が急速に拡大し,同時に顔面と上肢に浮腫と紅斑,下肢に浮腫と紫斑が出現し,歩行困難を訴えた.皮疹の組織像は,血管周囲の炎症細胞浸潤と赤血球の血管外漏出であった.末梢血検査で血清総蛋白11.4g/dl,IgG6,585mg/dl.血清蛋白分画でγグロブリンにピークがあり,免疫電気泳動でIgG-λ型M蛋白が検出された.骨髄穿刺で形質細胞が33.6%を占め,多発性骨髄腫と診断した.画像所見で第2腰椎レベルの脊柱管内と右下葉傍椎体に腫瘤影がみられ,髄外病変と考えた.化学療法後に自己造血幹細胞移植を行い,髄外腫瘍も消失し,経過良好である.

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要約 65歳,女性.再生不良性貧血に対して2004年からメテロノン内服治療中.2004年3月に右足内側の悪性黒色腫を切除し,stage IB(pT2a,N0,M0)と診断された.2007年9月に右鼠径リンパ節転移を認めた.当科でFDG-PETを施行し,左大腿骨,右腸骨,第2腰椎に異常集積を認め,骨転移を疑われた.しかし,悪性黒色腫の転移様式にしては肺や肝臓などへの血行性転移がみられないことから再生不良性貧血の影響を考え,精査を進めた.造血部位に特異的に集積する111Indium chlorideシンチグラフィを施行したところ,FDG-PETの異常集積部位と同じ部位に集積を認め,FDG-PETの異常集積は再生不良性貧血での代償性造血機能賦活によるものと考えた.本症例のように既往歴に血液疾患や骨髄炎などがある場合は,FDG-PETで骨に異常集積することがあり,骨転移の診断に注意を要すると考えた.

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要約 81歳,男性.肺転移を伴う食道癌および糖尿病の既往がある.3日前より左胸部から左上背部,および右腹部から右腰部にかけての発疹が出現した.初診時,紅暈を伴う小水疱が多発,集簇し,Tzanck testにて巨細胞を認め,両側性非対称性の複発性帯状疱疹と診断した.入院のうえ,アシクロビルの点滴にて加療し,帯状疱疹は軽快した.隣接しない2か所の神経領域に出現した帯状疱疹は複発性帯状疱疹,3か所以上に出現した帯状疱疹は多発性帯状疱疹と呼ばれ,比較的稀である.複発性および多発性帯状疱疹の過去25年間の本邦報告例を検討したところ,基礎疾患保有率が49.4%と通常型の帯状疱疹に比べて高く,40歳以上では58.1%とさらに高率であった.また,複発性の基礎疾患保有率は通常型と変わらないとする報告が多いが,今回の検討では複発性のみの集計でも45.9%と高率であり,悪性腫瘍などの基礎疾患の検索を考慮する必要があると考えた.

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要約 29歳,男性.インドネシア人.初診3か月前から左頰部に紅色結節が出現した.初診時,左顔面に弾性硬,境界明瞭な隆起性紅色結節が連なり,結節周囲の知覚鈍麻を認めた.病理組織学的には真皮に組織球性肉芽腫形成,多数の抗酸菌を認めた.スメア検査では菌指数4+~5+で,多菌型Hansen病と診断した.治療直前に急速な皮疹の悪化と顔面神経麻痺が出現した.1型らい反応と考え,WHOの多剤併用療法(ジアフェニルスルホン,クロファジミン,リファンピシン)に加えプレドニゾロン1mg/kg/日内服を併用し,皮疹および顔面神経麻痺は改善した.Hansen病では,らい反応による神経障害が永久的な後遺症を残し,偏見・差別につながることがあるため速やかで適切な対応が必要となる.神経症状を注意深く観察し,らい反応による急激な末梢神経炎がみられたら早期にステロイド投与を開始することが重要である.

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要約 56歳,女性.ワシントンDC在住.左上腕に虫刺様皮疹が出現した.その後,同部位の発赤・疼痛と頭痛が出現し,帰国後に当科を受診した.初診時,左上腕伸側に径4cmの硬結を伴う紅斑局面,中央に紫紅色の紫斑と径2mmの水疱を2個認め,異所性ヘルペスおよび二次感染を疑い,抗生剤の点滴,内服を行った.その後,紅斑局面の外側に径8×7cmの環状紅斑が生じ,検査で血清中の抗Borrelia抗体はELISA法で陽性,リコンビナント抗原を用いたウエスタンブロット法でIgM陽性,IgGボーダーラインの結果を得て,ライム病と診断した.塩酸ミノサイクリン200mg/日内服を1週間行い,色素沈着のみとなった.その後,渡米して現地の医師を受診し,塩酸ドキシサイクリン200mg/日を6週間,1か月後さらに3週間内服し,以後再発は認めていない.自験例のように,北米ではワシントンDC近郊などの住宅地でもライム病の発症が少なくなく,また北米のBorrelia burgdorferiは毒性が強いといわれており,注意が必要である.

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要約 19歳,女性.右下智歯の抜歯5か月後から右下顎部に紅色結節が出現し,徐々に増大した.抜歯11か月後に当科を受診した.初診時右下顎部に径25mm大の鮮紅色結節を認め,中央皮下に波動を触れた.炎症性粉瘤を疑い生検を試みたところ,灰白色の膿汁が排出.病理組織にて好塩基性の塊状物質を認め,放線菌の菌塊と考えられた.以上のことから,抜歯が誘因となった皮膚放線菌症と診断した.

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要約 12歳,男児.6歳頃より鼻背,鼻唇溝に丘疹が多発してきた.病理組織で真皮浅層から中層にbasaloid cellによる胞巣が多発し,一部は毛球に似た構造を示していた.母にも同症があることよりfamilial multiple trichoepitheliomaと診断した.液体窒素を試みたが効果が乏しく,月1回の炭酸ガスレーザー治療を行った.方法は1%キシロカインにて局所麻酔後,5.0J/cm2,0.1秒,single pulseにて数回照射した.皮疹は8か月でほぼ平坦化し,目立たなくなった.本疾患の治療に炭酸ガスレーザーは試みるべき手段の1つと考えられる.

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 「いだてん」って,韋駄天(増長天八将軍の一神,小児の病魔を除く足の速い神)? いやいや日本感染症教育研究会こそ「IDATEN」なのである.歴史は古くなんと…大野博司先生(洛和会音羽病院)がまだ研修医だった2002年に,麻生飯塚病院で始められた「病院内感染症勉強会」にさかのぼるという.現在は大曲貴夫先生(静岡県立静岡がんセンター)が代表世話人を務められ,年に2回感染症セミナーが全国で開催される.私は2008年の夏に参加させていただいたが,市中感染症のreviewを豪華講師陣から聞くことができ,実に充実した感動の3日間だった.

 「IDATENセミナーの本が発売されるらしい」との噂を聞き,居ても立ってもいられず馴染みの本屋に注文した.「お~,これぞまさにIDATENセミナーではないか!」冒頭の「感染症診療の基本原則」では,青木眞先生が「発熱=感染症の存在ではない」こと,「CRPや白血球数上昇の程度=感染症の重症度ではない」ことを熱く語られる.

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あとがき 伊藤 雅章
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 『臨床皮膚科』はいわゆる商業誌で,『日本皮膚科学会雑誌』(日皮会誌)のような学会が発行する学会誌ではありません.しかしながら,1936年,『臨牀の皮膚泌尿と其境域』として創刊し,日本の皮膚科関連の学術雑誌として伝統と実績のあるもので,医学・医療の分野で高く評価されているものです.皮膚科医の方々は,日本語論文を発表する場合,日皮会誌でなければ,『臨床皮膚科』に掲載されれば「満足」に思うのではと思います.

 私事ですが,そのような雑誌の編集委員を務めることはとても名誉であるとともに,大きな責任を感じます.1つの投稿論文について常に3名の編集委員が査読して,意見を総合して月1回の6名全員の編集会議で検討して,採択,再考および不採択を決めています.再考というのは論文の修正を要する場合で,コメントを付して著者に返送し,再投稿していただくものです.論文形式のみでなく,内容の修正を要するものも多く,特に図・写真の数・質を修正してもらうことが非常に多いのです.皮膚科における形態学の重要性が忘れられているのかな,と危惧するこの頃です.

基本情報

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臨床皮膚科
64巻4号 (2010年4月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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