臨床皮膚科 63巻3号 (2009年3月)

連載 Clinical Exercise・19

Q考えられる疾患は何か? 陳 科榮
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症例

患 者:18歳,男性

主 訴:顔面の皮疹

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:初診の2か月前,交通事故にて顔面を挫傷,下口唇から下顎部にかけ切創を受けた.

現病歴:初診の5日前より顔面に痤瘡様の膿疱,丘疹が多発し,近医にて抗生剤を処方され内服したが,皮疹が増悪したため当科を受診した.

現 症:両側頰部に大小の有痛性の潰瘍が多発・融合し,虫喰い状を呈し,潰瘍底は凸凹があり,黄色の膿苔が付着していた.潰瘍辺縁部は暗紫紅色調で軽度隆起し浸潤を触れ,右頰部は径100×70mm,左頰部は径90×64mmの不整形の局面を形成していた(図1).その局面の周囲と前額部には暗紅色の示指頭大までの局面および丘疹が散在し,痤瘡様の丘疹や膿疱も認められた.また,初診の3日後より下腿から足背にかけて半米粒大までの浸潤の触れない紫斑が発症した.同時期に軽度の腹痛症状も認められた.

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要約 近年,テレビなどの影響により,手足の悪性黒色腫や爪甲の色素性病変を主訴に受診する患者が増加している.爪甲にできる色素性病変では,進行例の悪性黒色腫を除き,早期悪性黒色腫と,爪部色素性母斑による爪甲色素線条との鑑別が困難な場合が多い.そこで,4種類のダーモスコピー,①HEINE DELTA10®(HEINE),②Dermaphot®(HEINE),③DermLite II FLUID®(3GEN),④DermLite FOTO®(3GEN)を使用し,爪甲病変の見え方の比較を行った.その結果,DermLite II FLUID®では,爪甲部病変の境界が明瞭に確認でき,また色素斑と重なった出血の判断にも,より有用であった.一方,DELTA 10®,Dermaphot®は色合いが自然であり,爪以外の皮膚を見るのにより有効と考えられた.このように病変・部位ごとに,より適したダーモスコピーを選択する必要があると考えられた.

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要約 50歳台,女性.3か月間持続する無痛性の左上眼瞼腫脹にて眼科を受診したが,特に異常所見なく,当科へ紹介され受診した.左上眼瞼に浸潤を触れる弾性軟の腫脹を認め,かゆみや痛みは伴っていなかった.血液検査や画像検査では異常所見は認めなかった.病理組織において,真皮全層に血管周囲リンパ球浸潤と,類上皮細胞の集簇による非乾酪性肉芽腫を認めたことから,肉芽腫性眼瞼炎と診断した.ステロイドとトラニラストの内服治療にて症状は軽快した.

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要約 42歳,女性.既往として多発性囊胞腎がある.2007年7月上旬,慢性腎不全が急速に悪化したため,右大腿静脈よりUKカテーテルを挿入し血液透析を開始した.経過中,両総腸骨静脈および下大静脈の閉塞・狭細化を認めた.カテーテルを抜去し,末梢よりヘパリンの持続点滴静注を開始したが,両総腸骨静脈および下大静脈の閉塞は改善しなかった.経過からヘパリン起因性血小板減少症を疑い,抗ヘパリン-PF4複合体抗体を測定したところ,陽性だった.末梢点滴ルートとして使用していた両側下腿の点滴刺入部は,抜針後徐々に潰瘍化したが,デブリードマンとスルファジアジン銀外用にてほぼ上皮化した.日常広く使用されているへパリンの副作用として,出血傾向ではなく,ヘパリン起因性血小板減少症の存在を知ることは重要である.

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要約 44歳,女性.汎血球減少を有し,全身倦怠感および指尖の色素沈着を2か月前より自覚していた.血液内科で骨髄異形成症候群の診断で加療のため入院中,指尖の色素沈着について当科に紹介され受診した.貧血に伴う色素沈着より悪性貧血を疑い,血中ビタミンB12値を測定したところ,著明低値であり,悪性貧血と診断した.ビタミンB12製剤の筋肉内注射により,貧血が迅速に改善するとともに,色素沈着も2か月後にはほぼ消失した.本症例のように,全身倦怠感を訴え色素沈着を呈する患者では,ビタミンB12欠乏による巨赤芽球貧血を考慮に入れて,検査を施行すべきである.

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要約 93歳,女性.飲酒歴がある.近医から血清アミラーゼとCA19-9の値が高いため,2007年6月8日当院消化器内科へ紹介された.臨床血液検査やCT画像検査で明らかな異常はなく,経過を観察されていた.同年8月初旬から下腿に有痛性の結節が多発し,増加するため,8月17日当科を受診した.病理組織でghost-like fat cellや石灰沈着を伴う巣状脂肪壊死を認めた.その頃より腹痛があり,血液検査では血清リパーゼ,ホスホリパーゼA2が高値であった.CT画像検査でも膵頭部周囲の炎症所見を認め,急性膵炎に伴う皮下結節性脂肪壊死症と診断した.膵癌が強く疑われたが保存的治療を行い,3か月後に死亡した.本症では皮疹から膵疾患が発見されることもあり,知っておくべき疾患と考えた.

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要約 症例1:56歳,男性.肺癌の転移巣に対しエルロチニブ(150mg/日)を内服し,7日目より顔面,胸部に毛孔一致性丘疹,膿疱を生じた.症例2:71歳,男性.エルロチニブ(150mg/日)内服開始後6日目より顔面,頸部,胸背部に膿疱,紅斑,丘疹が出現した.2例とも同薬投与終了後,速かな皮疹の改善をみた.分子標的抗癌剤が次々と登場するとともに,それらによる薬疹が報告されている.エルロチニブは,ゲフィチニブと同じ上皮成長因子受容体阻害型の抗癌剤である.同薬はゲフィチニブと同様に痤瘡様発疹を生じることが確認された.

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要約 53歳,女性.化膿性脊椎炎のため,2005年4月からミノサイクリン(100mg/日)を開始し,断続的に内服していた.2006年1月中旬に,右下腿内側に小豆大の皮下硬結,3月には両足関節周囲に複数の圧痛を伴う浸潤性紅斑が出現した.症状は内服にて増悪,休止にて軽快していたとのことであった.5月31日に当科を受診した.両下腿,足関節周辺に,指頭大の浸潤性紅斑および皮下硬結を数か所認めた.血液検査では,CRP1.1mg/dl,血沈92mm/hと炎症所見を示した.病理組織学的に,脂肪層の隔壁,小葉内にリンパ球,組織球を主体とする炎症細胞の密な浸潤,異物型巨細胞を認め,葉間結合織の線維化が目立った.内服テスト(ミノサイクリン50mg)で発熱と倦怠感,腹痛を伴って,両下腿に浸潤性の紅斑が出現した.

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要約 17歳,女性.2005年より月経痛のためノーシンピュア®の服用を開始した.2006年10月に同剤を服用した後より口唇,右耳朶,右環指に赤色から暗紫色調の皮疹が出現した.色素沈着を残し軽快したが,月経ごとに同様の症状を繰り返すため,他院を受診した.固定薬疹や月経疹が疑われ,精査のため当科を紹介され受診した.初診時,口唇,右耳朶,右環指に自覚症状のない褐色~紫褐色調の色素斑を認めた.皮疹部パッチテストでノーシンピュア®とアリルイソプロピルアセチル尿素が陽性であった.以上より,ノーシンピュア®の主成分であるアリルイソプロピルアセチル尿素による多発性固定薬疹と診断した.本剤は多くの市販薬に含まれるため,皮膚科医は原因成分をできる限り検索し,患者に正確に伝えることが重要と思われた.

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要約 18歳,女性.腹痛,嘔吐とそれに引き続き臍部に結節が出現した.病理組織は異物肉芽腫像を呈した.抗生剤投与に抵抗性で,再発するため精査したところ,CTでは臍から膀胱への連続性の索状病変を認め,尿膜管遺残症と診断した.泌尿器科で尿膜管摘出術を施行した.病理組織で移行上皮は認めず,この点が比較的稀と思われた.

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要約 13歳,男児.半年前より尾骨部の圧痛と腫脹を自覚し,強打した後より症状が増強した.仙骨から尾骨部にかけて18×40mm大の淡紅色隆起性病変があり,X線で尾骨の前方偏位を認めた.隆起した皮膚と尾骨の一部を切除し,以後再発はない.病理組織では真皮の膠原線維の増生がみられた.自転車通学歴はなく,いすに長時間浅く腰掛けていることなどによる慢性刺激が一因であったと考えた.

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要約 72歳,男性.50歳時より2型糖尿病に罹患し,インスリン治療にて血糖コントロール中,腎不全を併発し,血液透析導入のため入院した.同時期より上肢に強い掻痒を伴う皮疹が出現した.初診時,体幹・上肢に,爪甲大までの中心部に黒褐色痂皮を固着した褐色結節が多発しており,結節周囲には発赤を認めた.皮疹部より黄色ブドウ球菌を検出した.病理組織学的所見は中心部の表皮欠損と欠損部の壊死組織に膠原線維の排出像を認め,acquired reactive perforating collagenosisと診断した.塩酸ミノサイクリン1日150mg内服とナジフロキサシン外用を開始したところ,数日後より軽快傾向を認め,2週間ほどで大部分が平坦化,治癒した.

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要約 45歳,女性.既往歴に甲状腺機能亢進症,Sjögren症候群,統合失調症がある.10年前,右腹部に今回と類似の皮疹があり,他院にて全摘術を施行された.今回は数か月前より左腹部に結節が出現し,徐々に増大してきた.当科初診時,35.8×24.8mmの弾性硬の皮内結節が認められ,表面は常色から黄白色の小水疱が多発し,一部紫斑を混じていた.病理組織学的には真皮浅層と真皮中層から脂肪織にかけて,無構造均一な好酸性に淡く染まる物質が塊状ないしびまん性に沈着していた.コンゴーレッド染色・ダイロン染色陽性,過マンガン酸カリウム処理に抵抗性であった.免疫組織化学的にCλ陽性,AA,Cκ,トランスサイレチン陰性であった.血液所見,尿所見,心電図に異常なかった.骨髄穿刺,直腸粘膜生検は未施行である.以上の所見より,萎縮性結節性アミロイドーシスと診断した.

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要約 70歳台,女性.初診の4か月前より顔面や上肢に赤色調の小丘疹と指関節の腫脹が出現し,他院で接触皮膚炎を疑われて治療されていたが,難治性であった.その約1年前より指関節変形,膝関節痛があった.病理組織検査にて,真皮内にすりガラス様の好酸性細胞質を有する多核巨細胞の浸潤を認め,多中心性細網組織球症(MR)と診断した.膠原病や悪性腫瘍の合併はなかった.肺門部リンパ節が腫脹していたが,MRの一病変であろうと推測された.

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要約 症例1:29歳,女性.症例2:37歳,女性.いずれも外陰部に生じた手拳大懸垂性の腫瘍を主訴に受診した.病理組織学的に,膨化した膠原線維の中に管腔様構造が増生し,ムチンの沈着を認めず,境界明瞭で,浸潤傾向はない.CD34が管腔壁に,α-平滑筋アクチン(SMA),デスミン,エストロゲンレセプター(ER),プロゲステロンレセプター(PR)が一部の腫瘍細胞に陽性を示した.これらより,angiomyofibroblastomaと診断した.類縁疾患のaggressive angiomyxomaとの鑑別について考察し,巨大化したangiomyofibroblastomaの間質増生にさまざまなサイトカインが関与している可能性を考えた.

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要約 47歳,男性.既往歴に急性骨髄性白血病があり,10数年前に骨髄移植を施行されて寛解状態にある.骨髄移植後,口内炎,口腔内白色変化を繰り返し,移植片対宿主病による扁平苔癬としてステロイド外用治療を受けていたが改善,悪化を繰り返していた.当科初診の5日前より下口唇部に腫瘤が出現し,急速に増大してきた.生検部組織像よりケラトアカントーマと診断した.生検約5日後,腫瘤は自然消退した.

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要約 70歳,男性.骨髄異形成症候群(MDS)のため内科通院中である.灸により下腿に熱傷を受傷した.その後,創傷治癒は遷延し,壊死組織が拡大した.病理組織では,真皮内に異型細胞のびまん性増殖を認め,異型細胞はミエロペルオキシダーゼ陽性であったため,自験例をgranulocytic sarcomaと診断した.放射線療法により加療したが,放射線皮膚炎部位より腫瘍はさらに拡大した.そこで低用量シタラビン連日投与を施行したところ,病勢はやや治まった.Granulocytic sarcomaは白血病に前駆するか,ないしは伴って発症することが多いが,自験例のように白血病化していないMDSの状態で皮膚に発症する症例はきわめて稀である.

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要約 74歳,女性.職業は海女.5年前,慢性骨髄性白血病に対してハイドロキシウレア(以下,HU剤)による治療を開始した.1年5か月前より両手背にびらん,皮膚潰瘍が多発し,軽快しないため,近医皮膚科を受診した.HU剤による皮膚潰瘍と考え,1年前にメシル酸イマチニブに変更した.その後,両手背のびらん,皮膚潰瘍は軽快したが,左第2指間の潰瘍は残存した.8か月前より同部位に角化性腫瘤が出現し,1か月前より疼痛が出現し,腫瘤が増大してきた.有棘細胞癌(squamous cell carcinoma:SCC)と考え,皮膚悪性腫瘍切除術および分層植皮術を施行した.長期間の紫外線曝露の影響に加え,HU剤の投与の関連性について考察した.

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要約 62歳,男性.30歳頃に陰囊右外側に小指頭大の結節に気づいた.半年ほど前から急速に増大してきた.初診時,右鼠径部に約15×10cm大のカリフラワー状に隆起した腫瘍を認めた.生検でverrucous carcinomaと診断した.触診で右鼠径リンパ節腫大を認めた.ヘモグロビン4.4g/dlと低値を示したため,手術前日および当日に赤血球製剤の輸血を行った.全身麻酔下に腫瘍全摘術,右鼠径リンパ節郭清術を行った.病理組織像では,表皮から連続して高分化な腫瘍細胞が増殖し,乳頭腫状構造を形成していた.切除部断端に腫瘍細胞の浸潤は認めず,郭清したリンパ節にも腫瘍細胞はみられなかった.手術後,貧血は速やかに改善し,2年経過した現在,再発は認めていない.

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要約 症例1:31歳,女性.陥入爪でガター法のみで加療し,治癒した.症例2:57歳,男性.巻き爪で超弾性ワイヤー法にて加療し,治癒した.陥入爪,巻き爪は日常遭遇する頻度の高い疾患である.治療法は非観血的療法と観血的療法を含めると多数の報告がある.陥入爪や巻き爪の治療では,爪甲の状態,その周囲組織の炎症の程度,患者個々の悪化因子や背景を調べ,患者個々の状況を考慮して,治療しなければならない.

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あとがき 瀧川 雅浩
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 あるジャーナルのチーフエディターから,インパクトファクターを上げたいのだが,何かいい案がないかというメールが廻ってきた.それに対して,ある編集委員から返事がやってきて,曰く『Impact factors of journals are becoming less and less important, and the emphasis you put on them(インパクトファクターをアップしたい,等々)seems perhaps outdated. The Hirsch index is now more interesting. My Hirsch factor is at least 34, indicating that at leat 34 articles in which I(co)authored have been cited 34 times or more.』初めて聞く用語なので,WikipediaでHirsch factor(h指数)を調べてみた.それによると,物理学者Jorge E. Hirsch(UCSD)が引用索引データベースWeb of ScienceのTimes Cited(被引用数)を元に考案した指標で,論文数と被引用数とに基づいて,科学者の科学的貢献度を示すものである.しかも,雑誌の種類やインパクトファクター,筆頭著者かどうかというauthorship に無関係である.h指数は,その研究者が公刊した論文のうち,被引用数がh以上であるものがh以上あることを満たすような数値である.たとえば,h指数が30である研究者は,被引用数30以上の論文が少なくとも30編あることを示す.実際の計算は,論文A(10),論文B(8),論文C(5),論文D(4),論文E(3)(カッコ内は被引用数)ならh指数=4,となる.したがって,この指標は,当該研究者の論文の量(論文数)と論文の質(被引用数)とを同時に1つの数値で表すことができるという利点を持つ.アメリカでは,h指数が10~12ならメジャーな大学のテニュアになれる,18ならfull professorshipがもらえ,45かそれ以上ならNational Academy of Sciencesのメンバーになれる,という.いろいろな問題点があるにせよ,h指数 はインパクトファクターに代わって用いられつつある.雑誌の内容を問わないなら,日本語雑誌でインパクトファクターのない我らが「臨床皮膚科」も堂々と名乗りをあげられるではないか! ここで問題,論文A(25),論文B(8),論文C(5),論文D(3),論文E(3)(カッコ内は被引用数)ならh指数はいくらになるでしょうか?

基本情報

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臨床皮膚科
63巻3号 (2009年3月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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