眼科 62巻12号 (2020年11月)

特集 角膜知覚を極める

序論 雑賀 司珠也
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今月号の特集は「角膜知覚」を取り上げます。

1 角膜の神経分布 高取 真吾
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ヒトの角膜は,知覚神経や自律神経など豊富な神経支配が認められている1)。角膜神経の大部分は知覚神経から構成されており,三叉神経(第V脳神経)の第一枝である眼神経(V1)から分岐して,角膜実質内において上皮下神経叢を形成し,その上行枝が角膜上皮細胞層へ到達している。In vivo共焦点顕微鏡法を用いた検討において,ヒト角膜神経は6-12時方向を主として,5-11時,1-7時,3-9時,2-8時および4-10時の各方向から角膜中央下へ伸長していることが確認されている2)~4)。

2 ドライアイと角膜知覚 海道 美奈子
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人口の高齢化や生活様式の変化に伴い,日本のドライアイ有病率は急増している。特に,角結膜所見が軽微でドライアイ症状の強いBUT(break up time of tear film)短縮型ドライアイはドライアイ全体の約80%を占め,臨床所見と自覚症状に乖離がみられるのが特徴である。近年,ドライアイ症状の発現メカニズムの解明に関心が寄せられており,本稿では角膜における感覚神経とドライアイの自覚症状との関係について論じたい。

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糖尿病症例に対する内眼手術や網膜光凝固を契機に難治性の角膜上皮障害が発症し,治療に難渋することがある。このような糖尿病による角膜障害を糖尿病角膜症とよび,点状表層角膜症superficial punctate keratopathy(SPK)や再発性上皮びらんあるいは遷延性角膜上皮欠損を生じる(図1)。糖尿病角膜症の発症には複数の機序が関与しているが,糖尿病神経障害の一症状である角膜知覚の低下がその一因を担っている。近年の技術進歩によって角膜神経の詳細な観察が可能となり,糖尿病症例の角膜神経にどのような変化が生じているか徐々に明らかになってきた。

4 角膜ヘルペスと角膜知覚 杉岡 孝二
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単純ヘルペスウイルスherpes simplex virus(HSV)は眼瞼,結膜,角膜に初感染した後,角膜神経を導線のように利用して逆行性に三叉神経節に移動し,そこで潜在的なHSV感染を確立する。そのため角膜ヘルペスの発症には,角膜神経が深く関与している。そして病態が進行し,最終的に角膜神経が機能不全に陥ると角膜知覚が低下し,神経麻痺性角膜症としての所見を示し,不可逆的で重篤な視機能低下をきたす。

5 緑内障点眼と角膜知覚 徳田 直人
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緑内障診療において角膜知覚の影響はほぼ毎日経験する。接触型の眼圧計で眼圧測定を行う際に何気なく点眼する眼科用表面麻酔剤(以下点眼麻酔)であるオキシブプロカイン塩酸塩点眼液(ベノキシールⓇ点眼液0.4%など)は緑内障外来に長く通院している患者に点眼してもほぼ無反応だが,眼科初診の患者にうっかり何も説明せずに点眼してしまうと,その強い刺激のためその後の関係に影響しかねないほどに恨まれてしまうこともある。つまりこれらの点眼麻酔は角膜知覚が正常の眼にとってはとても「しみる」のである。ではなぜ緑内障外来の患者の多くは点眼麻酔に対して無反応なのであろうか。本稿では緑内障診療における角膜知覚の意義,そして緑内障点眼と角膜知覚の関係について述べる。

6 神経麻痺性角膜症 岡田 由香
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角膜は眼表面の組織で,その透明性と形状の維持は良好な視力の維持に必須である一方,眼表面に位置することから外傷を受けやすい。角膜の知覚は三叉神経第1枝の支配を受けており痛覚の維持が角膜組織の恒常性維持に重要である。角膜には体内で最も多くの知覚神経終末が分布しており,その数は皮膚のおよそ300~400倍あることが知られている。

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角膜は元来血管・リンパ管が存在しない組織である。そのメカニズムは角膜や前房水が,角膜・リンパ管新生を抑制する因子,炎症を抑制する因子を正常状態で保持していると報告されている。

白内障手術のトラブルシューティング

7.皮質吸引中の後嚢破損 髙田 幸尚
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超音波乳化吸引(US)中や皮質吸引(IA)中,IAチップによる後嚢研磨時,眼内レンズの射出時など白内障手術のどの場面でも後嚢破損は起こりうる。佐藤らの報告1)では,日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケートから2009年時点で67%の術者では後嚢破損の頻度は1%以下である。白内障手術機器の進歩などから後嚢破損の頻度はより低下していると予想される。

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目的

東邦大学医療センター大森病院眼科(当科)での非外傷性角膜穿孔症例について検討する。

対象と方法

2014年4月から2018年7月までに当科を受診した非外傷性角膜穿孔症例32例34眼(男性13例,女性19例,平均69.5±14.8歳)を対象とした。角膜穿孔の原因,穿孔部位,治療内容,視力予後,全身合併症の有無,について診療録に基づいて後ろ向きに検討した。

結果

原因は,感染性17例(ヘルペスウイルス9例,細菌7例,真菌1例),非感染性15例(リウマチ7例,特発性周辺部潰瘍2例,その他6例)であった。感染性17例のうち,全身性の自己免疫疾患のある症例は4例で全例ステロイドが使用されていた。穿孔部位は,中心部9例(感染性8例,非感染性1例),傍中心部10例(感染性8例,非感染性2例),周辺部13例(感染性1例,非感染性12例)であった。治療は32例中14例で保存的治療,17例は外科的治療(全層角膜移植3例,表層角膜移植4例,羊膜移植8例,角膜縫合1例,眼球摘出1例)を行い,1例は治療を自己中断した。視力は,感染性で自己免疫疾患の既往がない症例では有意に改善していた(P=0.0343)が,感染性で自己免疫疾患を有する症例では改善がみられなかった。

結論

全身性の自己免疫疾患を背景に持つ場合,ステロイドによる易感染性が角膜穿孔の契機となることがあり,その場合は視力改善が得られにくいと考えられた。

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今回我々は17歳に発症した典型的なintrapapillary hemorrhage with adjacent peripapillary subretinal hemorrhage(IHAPSH)の1例を経験した。症例は17歳女性。主訴は左眼の飛蚊症。前日から突然左眼の飛蚊症を自覚し,江口眼科病院を受診した。初診時所見は右眼視力0.07(1.5×−2.50D),左眼視力0.05(1.2×−3.50D),左眼底は視神経乳頭部の出血と視神経乳頭の上鼻側の網膜下出血,硝子体出血を認めた。その後出血は吸収し,再発はなかった。本症例では①視神経乳頭部からの出血。②近視眼。③視神経乳頭の上方,鼻側に網膜下出血。④発症が急性であり,視力予後が良好。⑤再発がみられない。⑥17歳で,日本人。⑦基礎疾患を伴わない。と,ほぼすべてがIHAPSHに合致したことから,診断された。IHAPSHは本邦でも報告されているが,10歳代の報告は少なく,広く認知されているとはいえない。その意味でも,今後も症例の積み重ねが必要であると考えられる。

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原因の不明な片眼失明の既往がある高齢女性の僚眼に発症した重篤な視力低下について診断に苦慮した肥厚性硬膜炎の症例を報告する。

原因不明で左眼を失明した82歳女性。右眼の見えづらさを自覚し,発症4日後に当科を初診した。右眼の矯正視力は0.4,1か月後の再診時に光覚弁まで低下していた。頭部CTと血液検査では異常所見はなく,造影MRIで右眼窩先端部から前頭蓋底~右側頭部にかけての硬膜および左前頭蓋底硬膜の造影効果を認めた。臨床的に肥厚性硬膜炎と診断し,ステロイド内服による治療により視力と造影MRI所見が改善した。

本症例は高齢の女性で頭痛と聴力低下の後に視力低下をきたし,少量のステロイド内服で視力回復が得られた。臨床症状に加え造影MRI所見,およびステロイド治療によって視力や画像所見の改善を認めたことから肥厚性硬膜炎と診断した。また対側眼の失明原因についてもMRI所見から本症の可能性は否定できないと考えた。

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クマによる顔面外傷に伴い眼球損傷をきたした2症例を報告する。

症例1:26歳男性。ツキノワグマに襲われ顔面を損傷し,当院へ搬送となった。顔面皮膚の損傷と,CTより眼窩外壁骨折を認めた。眼科的には左眼上眼瞼裂傷と結膜下出血,前房出血,硝子体出血がみられ,視力は光覚弁であった。眼窩部CTにより左眼球破裂が疑われたため,同日全身麻酔下に手術を施行した。上直筋付着部後方に上眼瞼裂傷と一致する強膜裂傷を認めたことから,クマの爪による強膜穿孔と考えられた。眼瞼縫合と強膜縫合を施行し,手術を終了した。術後硝子体出血,強膜裂傷部への硝子体嵌頓を認め,第12病日に白内障手術と硝子体手術を施行した。受傷1年半後の矯正視力は1.0であった。

症例2:65歳男性。犬と散歩中にクマ(種不明)に襲われて右眼を受傷し,当院へ搬送となった。多発する顔面皮膚の裂傷を認めた。右眼は前房出血,結膜下出血を認め,光覚は確認できなかった。眼窩部CTにより眼球破裂が疑われたため,同日全身麻酔下に手術を施行した。外直筋付着部下端の後方から上直筋鼻側にかけて8時-2時の円周方向に強膜裂傷を認めたことから,極めて強い鈍的外力による眼球破裂と考えられた。強膜縫合を施行したが,後日網膜剥離を認めたため,第7病日と第65病日に硝子体手術を施行した。7か月後の視力は手動弁であった。

クマ外傷に伴い眼球損傷をきたした2例を経験した。爪による眼球穿孔と考えられた例は,視力予後が良好であった。一般にクマ外傷による眼球破裂は重篤であるが,損傷の機転によっては予後が良好な症例もあり,可及的に整復を目指すべきである。

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編集後記

基本情報

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眼科
62巻12号 (2020年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0016-4488 金原出版

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