Brain and Nerve 脳と神経 39巻10号 (1987年10月発行)

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Polycystic kidney剖検例におけるウイリス動脈輪の病理学的検討池田　秀敏 , 吉本　高志 39巻10号 , 1987年10月 , pp.909-913

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　抄録　多発性のう胞腎に脳動脈瘤を含む多彩な血管病変を伴った2剖検例を経験した。1例は，左中大脳動脈分岐部の動脈瘤と大動脈弁狭窄とを合併し，他の1例には，脳底動脈と前交通動脈とに脳動脈瘤を認め，また，解離性大動脈瘤，脳梗塞，心筋梗塞をも合併していた。本論文では，多発性のう胞腎には全身的な血管系の異常が存在するという想定のもとに，特にウイリス動脈輪を中心とした血管系の病理組織学的検討を行った。組織学的には，内弾性板の断裂，部分的消失が高頻度で見出された。この内弾性板の異常が，多発性のう胞腎における脳動脈瘤合併の頻度を高くしているものと考えられ，さらに，この異常には先天的要因が深く関与しているものと推察された。

Lidocaineの脳浮腫および局所神経機能におよぼす効果室田　武伸 , 長尾　省吾 , 門間　文行 , 西浦　司 , 須賀　正和 , 西本　詮 39巻10号 , 1987年10月 , pp.915-921

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　抄録　実験的脳虚血や脊髄損傷に対し神経保護作用を有するとの報告があるlidocaine （Ld）の抗脳浮腫作用，局所神経機能に及ぼす影響を検討した。方法は，ネコを用い曝気法により脳浮腫を作成した。皮質，白質，視床（以下同順）の局所脳水分量（比重法），ICBF （水素クリアランス法）を測定し，一次知覚運動野から体性感覚誘発反応（SER），直接皮質反応（DCR）を導出した。Ldは曝気直後に4.5mg／kgを静注し，以後2mg／kgを点滴投与した。その結果，曝気12時間後のLd非投与群の脳水分量は正常値に比べ約1.9,4.1,0.7％増加し，ICBFは約71,57,56％に低下した。曝気6時間後よりSERのN₁潜時は有意に延長し，DCRの振幅は有意に低下した。Ld投与群の脳水分量，ICBFは白質，視床では非投与群と同様であった。皮質では水分量の増加，1CBFの低下はLd投与により有意に抑制された。N₁潜時は曝気12時間後にもコントロールに比し有意差なくDCRの振幅は非投与群に比べ有意に高値に保たれた。曝気法による脳浮腫に対するLdの投与は白質浮腫に対する抑制効果はなかったが，皮質のICBFを保ち，視床皮質系，皮質の電気生理学的活性の低下を抑制した。

片側顔面痙攣におけるblink reflexの検討—特にsynkinetic responseの経路について永廣　信治 , 松角　康彦 , 和田　伸一 , 浦崎　永一郎 , 弥富　親秀 39巻10号 , 1987年10月 , pp.923-929

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　抄録　片側顔面痙攣の20症例に対し，blink reflexの検討を行い次の結果を得た。（1）患側のR1潜時は顔面神経ブロック未経験群では正常であったが，顔面神経ブロック経験群では遅延していた。（2）患側口輪筋からsynkinetic response （SR）が得られ，その出現率はSR1（100％），SR 2（90％），SR 2c （95％）であった。（3） SR 1潜時はR1潜時より若干延長していた。（4）刺激部位を眼窩上神経から遠ざけ，顔面神経の中枢側に近づけると，R1およびSR 1潜時は短縮し，R 2およびSR 2潜時は延長した。（5）局所麻酔剤で眼窩上神経のブロックを行うと，R2とSR 2は消失したが，R 1とSR 1は残存した。また顔面神経側頭枝のブロックではSR 1が消失した。（6）手術後，SRは消失していくが，R 1潜時の変化はみられなかった。以上の所見からSRの求心路として，SR 1は顔面神経，SR 2は三叉神経を介すると考えられた。このような逆行性および順行性のimpulseがephaptic transmissionにより容易に隣接する神経線維に伝播し，reverberating circuitが形成され，顔面痙攣を誘発すると思われた。

フェニトインの細胞性免疫への影響岡本　裕 , 清水　恵司 , 田村　和義 , 宮尾　泰慶 , 山田　正信 , 松井　豊 , 津田　信幸 , 最上　平太郎 39巻10号 , 1987年10月 , pp.931-936

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　抄録　免疫機能の低下が示唆される脳腫瘍患者に汎用されているフェニトインの細胞性免疫への影響を機能の面から検討した。連日1,000μgのフェニトインを28日間腹腔内投与したマウスを投与群とした。エフェクター細胞は脾細胞を用い，細胞障害試験は4時間の⁵¹Cr release assayを用いた。リンパ球増殖能は，ConA,rIL−2作用下における3H-thymidineの取り込みで評価した。NK活性はCBA／Jマウス脾細胞のNK感受性YAC−1細胞に対する障害能で，抗原特異的細胞障害（CTL）活性は，MMC非働化C3H／HeN脾細胞で5日間刺激したC57 BL／6脾細胞のC3H／HeN由来RSV-M gliomaに対する障害能で，またLAK活性はC3H／HeN脾細胞からrlL−2を用いて誘導したLAK細胞の，同系由来RSV-M glio-ma，異系由来203 gliomaに対する障害能で評価した。リンパ球増殖能は，投与群はコントロール群に比べ有意に低下していた。NK活性CTL活性も投与群はともに数％以下で，コントロール群の75％，67％に比べ著明に低下していた。一方LAK活性は，RSV-M gliomaに対しコントロール群が68％，投与群が66％，203 gliomaに対しコントロール群が80％，投与群が65％（p＜0.05）であった。フェニトインはConA,rlL−2に対するリンパ球増殖能，NK活性，CTL活性を著明に抑制したが，LAK活性にはほとんど影響を与えなかった。

脳血管写追跡により病変進行を示したintracranial fibromuscular dysplasiaの2例藤本　俊一 , 嘉山　孝正 , 小川　彰 , 桜井　芳明 , 吉本　高志 , 鈴木　二郎 39巻10号 , 1987年10月 , pp.937-945

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　抄録　脳血管写において，fibromuscular dysplasia （FMD）に特徴的とされる"string of beads"所見を頭蓋内血管に認め，しかも経時的脳血管写追跡により，FMD病変が進行していくことを捉えた2例を報告する。症例1は8歳男子，痙攣発作で発症し右半身完全麻痺，運動性失語が出現した。第7病日の左CAGで左M₁〜M₂部に"string of beads"所見を認め，第66病日のfollow-up CAGではM₁の狭窄が明らかに進行していた。本症例に対し，初めは低分子デキストラン，ウロキナーゼ，ステロイド投与を行ない，その後，左総頸動脈・内頸動脈周囲交感神経叢剥離術・上頸神経節切除術を施行したところ，症状の改善，脳血管写上の狭窄改善をみた。症例2は34歳女性。突然の右下肢脱力，失見当識で発症したが・症状は3時間後に消失した。第3病日の左CAGで左C₁〜M₁に"string of beads"所見を認め，第6病日でのfollow-up CAGで狭窄の進行を，更に第19病日には左内頸動脈閉塞を確認した。本症例に対し，STA-MCA吻合術を施行し，以後，神経症状の出現をみていない。頭蓋内血管でのFMD報告例は少なく，またstaticな病変とされるFMDの血管撮影追跡例も少ない。文献例と併せ，自験例を考察した。

慢性硬膜下血腫におけるtissue plasminogen activator活性の意義望月　龍二 39巻10号 , 1987年10月 , pp.947-952

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　抄録　慢性硬膜下血腫の血腫内容，血腫被膜（外膜），血腫外膜と密着する硬膜のtissue plasminogenactivator （TPA）活性を測定し，さらに病理所見との比較を行った。これらの結果と血種の成因や血腫の生活史との関連をさぐった。対象は手術時に採取した血腫内容15例，血腫外膜，硬膜26例である。血腫内容は遠沈分離後，上清をlysine-sepharose affinity chromatocolumnにて1oad後，TPAを溶出しフィブリンプレート法にて測定した。外膜，硬膜は緩衝液を加えて，ホモジナイズし同様に測定した。血腫内容のTPA活性は平均0.035±0.18IU／mlと低値であった。血腫外膜のTPA活性は55.0±39.7IU／g，硬膜のTPA活性は平均28.1±20.4IU／gであった。硬膜のTPA活性は外膜より常に低値で両者はよく相関した。硬膜，外膜ともに，外傷後40日〜60日頃，TPA活性が高い傾向を示した。外傷性硬膜下水腫が40日〜60日前後で慢性硬膜下血腫に移行することから，TPA活性亢進は血腫の成因に関与していると考えられる。病理所見との比較ではsinusoidal layerの発達しているもの程，高い傾向を示した。TPA活性の中心は血腫外膜のsinusoidal layerにあると推察される。

Colloid cystの組織起源について—Immunoperoxidase study 柴田　太一郎 , Peter　C．　Burger 39巻10号 , 1987年10月 , pp.953-958

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　抄録　Colloid cystの組織起源を明らかにする目的でcolloid cyst 8例，および類似の上皮性のう腫2例のパラフィン包埋組織を使用してepithelial membrane antigen （EMA），　tissue polypeptide antigen（TPA），epidermal keratin （EK），およびS−100蛋白のperoxidase anti-peroxidase （PAP）染色を行った。全例がS−100陰性で，colloid cystは上皮表層がEMA陽性，中間の立方状，または円柱状上皮がTPA陽性，基底部の細胞がEK陽性であった。脈絡叢はS−100陽性で，EMA, TPA, EK陰性であった。従ってcolloid cystは免疫組織学的に内胚葉由来であることが示唆される。

脳死診断に不可欠の無呼吸テストについて横山　徹夫 , 植村　研一 , 龍　浩志 , 宮本　恒彦 , 今村　陽子 , 白坂　有利 , 渡辺　修 , 杉山　憲嗣 39巻10号 , 1987年10月 , pp.959-963

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　抄録　過去2年間の11例の脳死判定例のうちの6例に無呼吸テストを施行し，その間の動脈血ガス分析値および血圧，脈拍の変化につき検討を加えた。原疾患はクモ膜下出血3例，髄膜炎1例，心停止による脳虚血2例であった。無呼吸テスト前のPaCO₂の設定は平均46.2±6.0mmHgであり最終PaCO₂は73.4±15.6mmHgであった。この間に呼吸の再開の見られた症例は1例もなかった。酸素カテーテルの気管チューブ装着不良による不十分なapneic oxygenationの1例を除いた他の症例では，テストを通じコントロールの値に比し統計学的に有意差をもって変化をしたのはPaCO₂濃度とpHであった。血圧および脈拍に関しては有意の変化は見られず，テストを通じ極めて安定していた。PaCO₂は3.04±1.12mmHg／minの割で上昇し，それに伴いpHは0.016±0.007の割で低下を示した。最終の平均値はPaCO₂　73.4±15.6mmHgでありpHは7.17±0.03であった。無呼吸テストにて脳虚血あるいは循環系の障害を来すことなくPaCO₂の上昇をもたらすことが可能であり，そのためには酸素カテーテルを気管チュ—ブの奥深く少なくとも10cm以上は挿入し，確実なapneic oxygenationを得ることが絶対条件として必要である。またこのことによりPaCO₂は英国基準の50mmHgをはるかに越える濃度に上昇し，自発呼吸の有無の確認が得られる。

頭蓋内腫瘍におけるβ₂—microglobulinの臨床的意義—Carcinoembryonic antigenとのcombination assayも含めて鈴木　康夫 , 石井　鐐二 , 大塚　良一 , 小川　洋介 , 菊岡　政久 , 平野　一宏 , 田中　隆一 39巻10号 , 1987年10月 , pp.965-970

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　抄録　各種の腫瘍マーカーが臨床応用されているが，頭蓋内腫瘍に関しては未だ充分とはいえないのが現状である。今回，β₂—microglobulin （β₂—MG）が有用な脳腫瘍マーカーとなりうるか否かについてcarcino—embryonic antigen （CEA）とのcombination assayも併せて行い検討した。対象は，神経膠腫の血清34例（髄液15例），非神経膠腫18（7），惡性リンパ腫18（18），転移性脳腫瘍31（24）である。β₂—MGの血清の陽性率は低く，各群間で明らかな差は認められなかったが，髄液では悪性リンパ腫と転移性脳腫瘍で陽性率がそれぞれ83.3％，25.0％と高かった。一方，同時に測定したCEAは血清，髄液とも転移性脳腫瘍では陽性率がそれぞれ54.8％，33.3％であったが，悪性リンパ腫など他の3群では大多数が正常値を示した。以上より，頭蓋内腫瘍患者のβ₂—MG測定は，血清では脳腫瘍マーカーとしての有用性には限界があるが，髄液では悪性リンパ腫および転移性脳腫瘍で有意に高く，両者の有力な補助診断法になりうると考えられた。さらにCEAを同時に測定することにより，これら両者の鑑別も可能であることが強く示唆された。

ネコ扁桃核内キスカリン酸微量注入により誘発される辺縁系部分発作の特徴貝嶋　光信 , 田中　達也 , 米増　祐吉 39巻10号 , 1987年10月 , pp.971-976

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　抄録　カイニン酸（KA）と並ぶ興奮性アミノ酸であるキスカリン酸（QA）の，てんかん惹起効果を，慢性深部電極を植え込んだネコの扁桃核内にQAを微量注入し検討した。QA 2μgの注入では脳波および行動上に変化は見られなかったが，5μgで，辺縁系に限局する，てんかん性発作波の誘発を認め，行動上わずかの注意反応ないし軽症の辺縁系発作の特徴を認めた。15μgの注入では，辺縁系部分発作の重積状態が誘発され，多くの例ではその回復後に辺縁系に限局する発作間発射が長期間観察された。その一部の例に辺縁系発作重積状態からの回復後，自発性の二次性全般化痙攣発作が起こるようになった。病理組織学的所見では，15μg注入群において，両側海馬のCA 3およびCA 4のpyramidal cell layerに変性が認められた。QAのてんかん発作惹起効果は，KAのそれに比較し弱く，かつ脳波上特徴的な発作波を呈する。以上の特徴は，ヒトのcomplex partial seizureに見られる所見によく類似しており，その実験てんかんモデルに値すると思われる。

Levodopa,bromocriptine,trihexyphenidylが奏効したakinetic mutismの1例渡引　康公 , 成田　祥耕 , 倉橋　幸造 , 田中　輝彦 , 松永　宗雄 39巻10号 , 1987年10月 , pp.977-982

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　抄録　Levodopaを中心とする治療に劇的に反応したakinetic mutismの1例を報告した。症例は42歳の男性で，39歳時，中脳水道狭窄で発症し，それがシャント手術で速やかな改善を示した後，約2年半の無症状期を経て，シャントトラブルによる内水頭症の再発をみた。このトラブルが解消され，内水頭症が改善したにもかかわらず，臨床症状は進行性に増悪し，akinetic mutismを呈するに至った。このakinetic mutismはlevodopa, bromocriptine, trihexyphenidylにより劇的に改善したが，このことからその責任病巣を推定し，網様体賦活系とドーパミン神経路の関わりについて考察した。

頭部外傷性昏睡，直後痙攣および死亡率に対する神経伝達物質の影響—実験的研究佐々木　司 , 橋爪　敬三 , 間中　信也 , 高倉　公朋 39巻10号 , 1987年10月 , pp.983-990

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　抄録　外傷性昏睡に関与するニューロン系を調べるためにマウス頭部外傷モデルを用い神経伝達物質のagonistおよびantagonistの意識障害に対する影響を検討した。マウス735匹を無麻酔下で頭部に600g・cmの衝撃を加え，昏睡から立ちなおり反射の現われるまでの時間（RR）と自動運動の出現するまでの時間（SM）で判定した。痙攣発生率，死亡率も検討した。薬剤は衝撃30分前に腹腔内投与した。Acetyl-choline系：physostigmineはRR （p＜0.1），SM （p＜0.01）短縮またはその傾向を示し，scopolamineは対照と変わらなかった。atropine sulfateは短縮傾向を示したが，B．　B．　B．非透過性のatropine methyl-bromideも同様の傾向を認めた。Dopamine系：methamphetamineはRR （p＜0.1），SM （p＜0.05）短縮傾向を認めた。haloperidolはRR,SMとも延長傾向を示した。Serotonin系：5—HTPはRR （p＜0.05）短縮，SM （p＜0.1）延長傾向を示し，methysergideはRR （p＜0.05），SM （p＜0.01）とも短縮した。痙攣はphysostigmine （p＜0.01），5-HTP （p＜0.20）が抑制傾『Uを示した。以上より間接的ではあるが，本モデルにおける昏睡にはdopamine,acetylcholine系ニューロンの抑制，serotonin系ニューロンの賦活が関与する可能性が示唆された。

MRIによる髄液循環動態の観察—脳脊髄液腔のsignal void phenomenon 大原　茂幹 , 松本　隆 , 永井　肇 , 伴野　辰雄 39巻10号 , 1987年10月 , pp.991-996

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　抄録　289例の脳神経外科症例のMR画像を比較検討した結果，77例の中脳水道脳脊髄液腔からのMR信号が消失していること（signal void phenomenon＝SVP）が観察された。エラスタンスが高く硬い頭蓋腔内で脳が拍動し，その体積が変化すると，脳室内および脳表くも膜下腔の脳脊髄液は，エラスタンスがより低い脊髄腔との間を，脳の体積変化分だけ拍動性，往復性に移動する事が知られている。この髄液流の速度は脳室系の中でも中脳水道などの狭い部分ほど速い。MRIで観察されるSVPは，速度のはやい髄液流による"high velocity signal loss"を反映したものである。中脳水道でのSVPの存在は髄液流通路に閉塞や狭窄のないことを示し，頭蓋腔と脊髄腔のエラスタンスに比較的大きな差が有り，髄液が脳の拍動により容易に頭蓋—脊髄腔間を移動させられている状態と考えられる。MR Iで髄液腔のSVPを詳細に観察することにより，髄液の脈流が制限されるような病態と，正常の頭蓋内髄液循環状態とを鑑別できる可能性がある。

書評

—二木　立（代々木病院リハビリテーション科顧問・日本福祉大学教授）　上田　敏（東京大学教授・リハビリテーション部）—脳卒中の早期リハビリテーション—これからの考え方と進め方高木　誠 39巻10号 , 1987年10月 , pp.914

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　このたび医学書院から，二木立氏と上田敏氏のお二方による「脳卒中の早期リハビリテーション　これからの考え方と進め方」が発行された。本書はお二人の対談形式でまとめられているが，主に上田氏が聞き手となり，二木氏が代々木病院のリハ病棟で実践されてきた脳卒中の早期リハに対する考え方とその実際を述べる形となっている。私は二木氏と同様に，都会の第一線病院で脳卒中患者の診療にあたる医師の立場から，この本を読んで考えさせられたいくつかの点につき，感想を述べてみたい。

　著者達が本書を著された目的は，上田氏がまえがきの中で述べているように，これまで脳卒中のリハビリテーションのパラダイムとされてきた"温泉地型"のリハを早期リハを中心とする"都市型"のリハに転換させることにある。お二人はこのテーマに対し，共通した問題意識を持たれており，本書を通読すると，脳卒中のリハにおける発想転換をねらわれるお二人の強い情熱を感じることができる。そして本書を読み終わった後に，読者に脳卒中のリハというものを考え直させるという点で，多大の影響力を持っており，著者達の目的は見事に成功していると言えよう。特に著者達が本書で強調されている点は，私なりに解釈すると，下記の二点にまとめられると思われる。

—訳　大西晃生　納　光弘　岡崎春雄—臨床神経学の基礎　第2版　メイヨー医科大学教材里吉　営二郎 39巻10号 , 1987年10月 , pp.922

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　メイヨー・クリニック，メイヨー医科大学の神経学教授4名によってまとめられた「臨床神経学の基礎」改訂第2版がメイヨー・クリニックで研究生活を送った大西，納両先生とメイヨー医科大学の神経病理の岡崎春雄教授の3名の方々の努力でその訳書が出版された。原本の表題は「Medical Neurosciences」，医学の中の神経科学としてあるが，副題としては「システムと局所レベルの両面からの解剖学，病理学および生理学概論」がつけてある。

　神経疾患の診断をするに当っては病変の解剖学的広がり，病理学的性質，さらには生理学的ないし生化学的特徴を理解することによって初めて正確な診断が可能となる。私が神経学を始めた30年前には神経学の教科書も僅かで，診断学についても少なく，局所診断学については解剖，病理を主体としてHaymakerの名著があるのみであった。その後臨床神経学や神経学の基礎に関しては多くの本が出版されるようになったが，この「臨床神経学の基礎」も1978年初版が出され，大変な名声を得ている。

—編集　竹内一夫（杏林大学教授）—標準脳神経外科学　第4版平川　公義 39巻10号 , 1987年10月 , pp.945

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　この度，「標準脳神経外科学」が改訂された。第4版の特徴は，大事なところが色刷りに変わったことである。きれいな図表を眺めているうちに，自然に頭に入るという仕組みである。かねがね私は，ものごとを記憶する得意わざによって，聴覚人間と視覚人間の二種類の人種があると考えてきた。聴覚人間は耳学問だけでも覚えてしまう。視覚人間は右の頁の上の方にあったアノ図だと想い出す。後者の類の人間にとって，本書は極めて有難い存在である。従来，私は色刷りを小馬鹿にしていた。確かに内容は同じである。でも成るほど，色が付くと，今まで見えていなかったものが浮かび上がってくる。大切なものが何かを理解させるには，このようなやり方のほうが早い。それに現代の若者向きである。

　内容も少しずつup-to-dateのものに改められている。まずMRIの写真が幾つか収録された。臨床の場では，MRIは日常の事になってきたので，見慣れておく必要がある。脳腫瘍の章では，これまでの伝統的な「松果体部腫瘍」という項目から「胚細胞起源の腫瘍」という新しい項目だてに変更された。従来の書き方では，suprasellar germino-maの取扱いに困った。腫瘍マーカーを持つ悪性のgerm cell tumorsについて一貫した説明が難しかった。これで理解が楽にできるようになろうというものである。次に脳動脈瘤の章では，再出血は動脈瘤破裂の当日に最も多いというJaneらのデータが採録された。先般，学生の試験で再出血に関する問題を出したところ，出題に対して抗議を受けた。議義には一部の学生しか出ていない以上，我々の信ずるのは教科書であり，そこには再出血は初回発作7日前後におこると書いてあるというのである。今度の改訂でこのような喜劇も解消されるわけである。

連載　症候学メモ・33

安全ピンの効用平山　惠造 39巻10号 , 1987年10月 , pp.946

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　◆最近，医療関係者の感染事故としての劇症肝炎が新聞紙上をにぎわしている。注射針の誤刺が主な原因である。劇症肝炎は急速に昏睡に陥り神経内科的にも問題となる。これほどに急激ではないが，亜急性に知的障害が起こり植物状態に陥るCreutzfeldt-Jakob病も，しばしば医療事故の対象の話題となる。これは角膜などの移植による他に，使用した医療器具が感染を媒介するとされている。今後は後天性免疫不全症候群（AIDS）も問題にならないとは限らない。

　◆ところで神経学的診察には昔から針の類が用いられている。筆者の記憶では，痛みの検査に注射針が用いられていたことがあり，少し気のきいたドクターは婦人用のヘアピン（帽子をとめるピン）を白衣の胸襟にさしておいて，必要に応じてそれを抜きとり，使用していた。また虫ピンも用いられていた。

海外文献抄録

一過性全健忘とてんかん—脳波学的区別，他大友　英一 39巻10号 , 1987年10月 , pp.998-999

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　一過性全健忘例で発作間欠期の脳波で棘波，鋭波の出現が報告されている。そして，一過性全健忘がてんかんの機序によるともされている。

　本論文は一過性全健忘とてんかんとの関連を追求したものである。

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編集後記高倉　公朋 39巻10号 , 1987年10月 , pp.1001

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　最近脳神経外科学会長老の訃報が相次いで誠に淋しいことである。この1年間に植木幸明先生，清水健太郎先生，そして8月に入って近藤駿四郎先生がお亡くなりになっている。これら三先生は，共に日本脳神経外科学会の会長を勤められ，学会創世紀を担い，終戦後の社会的に困難な時期に学会の独立と発展に尽された先生方である。

　最近は，第何世代という言葉が流行している。CTスキャンが登場してから，第2世代のCTとか第3世代のCTといった具合によく使われた言葉だし，一方第3世代，第4世代の抗生物質などと呼ぶ風潮もある。しかし，どの場合もせいぜい第4世代位迄で，第6世代のCTとか第7世代の抗生物質などという話しは耳にしない。このような世代の呼び名もたかだか第4世代迄のことかもしれない。冒頭にあげた三先生は，一般に第一世代の脳神経外科医と考えられているようである。しかし，脳外科の手術は実際にはもっと古くから行われていた。日本で脳腫瘍の最初の手術は恐らく福岡医科大学（現九州大学）で明治38年（1905）10月20日に三宅速教授によって行われた腫瘍摘出術であったと考えられ，その正確な記録が残されている。この報告は2年後，明治40年の日本外科学会雑誌に「左脳皮質運動中枢ニ於ケル「グリヲーム」の抽出ニ就テ」と題する論文で発表されている。この腫瘍は，今から考えれば髄膜腫であると思われるが，それはさておき，真の第一世代の脳神経外科医は，この三宅速先生あたりかと思われる。その後名古屋大学の斎藤真教授，新潟大学の中田瑞穂教授などはもちろんのこと東京大学の青山徹蔵教授の時代にも脳の手術はかなり行われていたので，このようにしてみると清水健太郎先生も第三世代ということにもなろう。第何世代という言葉は，いずれにせよ俗語であるから，どうでもよいようなものではあるが，第一世代の先生方は脳神経外科と一般外科の双方の手術をされた方で，第二世代は脳神経外科だけをライフワークとして専念された方，さらに第三世代は脳腫瘍とか脳血管障害とか，各自の専門分野を明確にした世代と考えれば，上記の先生方は第一世代の先達には違いなかろう。第四世代，第五世代はどうなるのだろうか。専門分野がさらに細分化されて，スーパースペシャリストばかりの時代になるのであろうか。余りに分化し過ぎても患者は困るのではなかろうかとも考える。

基本情報

Brain and Nerve 脳と神経
39巻10号
(1987年10月発行)

電子版ISSN：2185-405X 印刷版ISSN：0006-8969 医学書院

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第1位 Kernohan's notchがMRIにて確認された慢性硬膜下血腫の1例山崎文之,児玉安紀,堀田卓宏,勇木清,谷口栄治,橋詰顕 Brain and Nerve 脳と神経 49巻 6号 pp. 563-566 (1997年6月1日) 医学書院
第2位くも膜下出血で発症し術前診断が困難であった解離性中大脳動脈瘤の1例塩屋斉,菊地顕次,須田良孝,荘司英彦,進藤健次郎 Brain and Nerve 脳と神経 56巻 11号 pp. 965-970 (2004年11月1日) 医学書院
第3位 Wernicke Mann肢位大友英一 Brain and Nerve 脳と神経 29巻 5号 pp. 478-479 (1977年5月1日) 医学書院
第4位 ALS特異的QOL尺度ALSAQ-40日本語版―その妥当性と臨床応用にむけて山口拓洋,大生定義,斎藤真梨,伊藤陽一,森若文雄,田代邦雄,大橋靖雄,福原俊一 Brain and Nerve 脳と神経 56巻 6号 pp. 483-494 (2004年6月1日) 医学書院
第5位 1．海馬の構造と線維連絡石塚典生 Brain and Nerve 脳と神経 50巻 10号 pp. 881-892 (1998年10月1日) 医学書院
第6位筋萎縮性側索硬化症（ALS）患者の日常活動における機能評価尺度日本版改訂ALS Functional Rating Scaleの検討大橋靖雄,田代邦雄,糸山泰人,中野今治,祖父江元,中村重信,角野修司,柳澤信夫 Brain and Nerve 脳と神経 53巻 4号 pp. 346-355 (2001年4月1日) 医学書院
第7位 3．脳動脈解離高木誠 Brain and Nerve 脳と神経 58巻 11号 pp. 963-970 (2006年11月1日) 医学書院
第8位第3脳室上衣嚢胞について—1手術例の報告と文献的検討坂田一記,山田弘,星野睦夫,今村健,松井順吾,高橋親彦 Brain and Nerve 脳と神経 22巻 11号 pp. 1325-1332 (1970年11月1日) 医学書院
第9位最新ツベルクリンの家兎大槽内注入による視神經交叉部附近蜘網膜及び視神經のアレルギー性變化に就て赤松二郞 Brain and Nerve 脳と神経 1巻 4号 pp. 252-258 (1949年7月1日) 医学書院
第10位息こらえにより一過性に改善が認められる書字振戦の1例森田修平,三輪英人,近藤智善 Brain and Nerve 脳と神経 54巻 12号 pp. 1055-1058 (2002年12月1日) 医学書院