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最近脳神経外科学会長老の訃報が相次いで誠に淋しいことである。この1年間に植木幸明先生,清水健太郎先生,そして8月に入って近藤駿四郎先生がお亡くなりになっている。これら三先生は,共に日本脳神経外科学会の会長を勤められ,学会創世紀を担い,終戦後の社会的に困難な時期に学会の独立と発展に尽された先生方である。
最近は,第何世代という言葉が流行している。CTスキャンが登場してから,第2世代のCTとか第3世代のCTといった具合によく使われた言葉だし,一方第3世代,第4世代の抗生物質などと呼ぶ風潮もある。しかし,どの場合もせいぜい第4世代位迄で,第6世代のCTとか第7世代の抗生物質などという話しは耳にしない。このような世代の呼び名もたかだか第4世代迄のことかもしれない。冒頭にあげた三先生は,一般に第一世代の脳神経外科医と考えられているようである。しかし,脳外科の手術は実際にはもっと古くから行われていた。日本で脳腫瘍の最初の手術は恐らく福岡医科大学(現九州大学)で明治38年(1905)10月20日に三宅速教授によって行われた腫瘍摘出術であったと考えられ,その正確な記録が残されている。この報告は2年後,明治40年の日本外科学会雑誌に「左脳皮質運動中枢ニ於ケル「グリヲーム」の抽出ニ就テ」と題する論文で発表されている。この腫瘍は,今から考えれば髄膜腫であると思われるが,それはさておき,真の第一世代の脳神経外科医は,この三宅速先生あたりかと思われる。その後名古屋大学の斎藤真教授,新潟大学の中田瑞穂教授などはもちろんのこと東京大学の青山徹蔵教授の時代にも脳の手術はかなり行われていたので,このようにしてみると清水健太郎先生も第三世代ということにもなろう。第何世代という言葉は,いずれにせよ俗語であるから,どうでもよいようなものではあるが,第一世代の先生方は脳神経外科と一般外科の双方の手術をされた方で,第二世代は脳神経外科だけをライフワークとして専念された方,さらに第三世代は脳腫瘍とか脳血管障害とか,各自の専門分野を明確にした世代と考えれば,上記の先生方は第一世代の先達には違いなかろう。第四世代,第五世代はどうなるのだろうか。専門分野がさらに細分化されて,スーパースペシャリストばかりの時代になるのであろうか。余りに分化し過ぎても患者は困るのではなかろうかとも考える。
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