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この度,「標準脳神経外科学」が改訂された。第4版の特徴は,大事なところが色刷りに変わったことである。きれいな図表を眺めているうちに,自然に頭に入るという仕組みである。かねがね私は,ものごとを記憶する得意わざによって,聴覚人間と視覚人間の二種類の人種があると考えてきた。聴覚人間は耳学問だけでも覚えてしまう。視覚人間は右の頁の上の方にあったアノ図だと想い出す。後者の類の人間にとって,本書は極めて有難い存在である。従来,私は色刷りを小馬鹿にしていた。確かに内容は同じである。でも成るほど,色が付くと,今まで見えていなかったものが浮かび上がってくる。大切なものが何かを理解させるには,このようなやり方のほうが早い。それに現代の若者向きである。
内容も少しずつup-to-dateのものに改められている。まずMRIの写真が幾つか収録された。臨床の場では,MRIは日常の事になってきたので,見慣れておく必要がある。脳腫瘍の章では,これまでの伝統的な「松果体部腫瘍」という項目から「胚細胞起源の腫瘍」という新しい項目だてに変更された。従来の書き方では,suprasellar germino-maの取扱いに困った。腫瘍マーカーを持つ悪性のgerm cell tumorsについて一貫した説明が難しかった。これで理解が楽にできるようになろうというものである。次に脳動脈瘤の章では,再出血は動脈瘤破裂の当日に最も多いというJaneらのデータが採録された。先般,学生の試験で再出血に関する問題を出したところ,出題に対して抗議を受けた。議義には一部の学生しか出ていない以上,我々の信ずるのは教科書であり,そこには再出血は初回発作7日前後におこると書いてあるというのである。今度の改訂でこのような喜劇も解消されるわけである。
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