Brain and Nerve 脳と神経 32巻1号 (1980年1月)

特集 頭蓋内圧亢進

脳室とその周辺 小林 英司
  • 文献概要を表示

I.はしがき

 初期発生にみられる神経管は一本の単純な管であるが,成体ではその内腔が脳室,中脳水道,脊髄の中心管となり,場所によつては複雑な形をとつている。

 以上の三つを合わせて脳室系と呼んでいる。このうち脳室はさらに側脳室,第三脳室,第四脳室,終室というように,場所によつて異なる名称が与えられている。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 髄液は頭蓋内容積の10%を占め,一日に4〜5回のturnoverがあり,髄液圧が上昇すると吸収能力は産生量を大きく上まわる。こうした機能は頭蓋内圧亢進時における緩衝系としての機能を理解する上で重要である。また一方,髄液の動態異常により,頭蓋内圧が上昇する水頭症と言われる病態がある。緩衝系としての機能と水頭症の病態の2面から髄液動態をとらえようと試みた。

 髄液に関する生理学的な,あるいは病理学的な事項はすでに多数の秀れたReviewがあり11,25,26,27,53,64,67,68,69,83),本稿では関係あると思われる部分のみにとどめ,できるだけ簡略した。次いで頭蓋内圧亢進時の髄液動態について述べ,水頭症の病態,治療についても言及する。

脳浮腫の面から 中沢 省三
  • 文献概要を表示

I.はじめに

 一般に,生体の組織は損傷を受けると腫脹をもつて反応する。脳もその例外ではなく,損傷や非生理的条件によつて,容易に脳実質の腫脹をきたす。しかし,脳の腫脹によつてもたらされる病態は,他臓器のそれとは全く異なつた重要な意味をもつ。

 脳は頭蓋骨という硬い骨性のsemi-closed boxの中に被われているので,腫脹による膨化が許容される空間的余裕が極めて少ない。それ故,脳が何らかの理由で腫脹を余儀なくされた場合,脳はその実質の膨化をclosedboxをこえて拡げることができず,圧を内方に及ぼしてみずからの首をしめる結果になる。すなわち,脳ヘルニアがこれで,他臓器に類をみない重篤な状態に陥り,臨床上重大な問題となることは,今更強調するまでもない。

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内圧冗進は,脳神経外科臨床において日常遭遇する最も重要な命題の一つである。頭部外傷,脳腫瘍,脳血管障害などの種々の疾患の経過中に発生する頭蓋内圧亢進は,脳循環を阻害し,脳代謝を低下させるばかりでなく,頭蓋内圧充進が進行すると,天幕切痕または大後頭孔への脳の陥頓をひき起し,脳作の圧迫または血行障害によつて,死を招くことになるので,頭蓋内圧亢進の治療は救命的な意義を有することを認識しなければならない。以下頭蓋内圧亢進に対する外科的ならびに薬物学的治療法について述べる。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 頭蓋内疾患において,しばしば頭蓋内圧の高低が論じられるが,これは脳組織圧,髄液圧,脳動脈灌流圧,などを総合した複雑な臨床的指標であるが,脳局所病変にとつては2次的なものであり,病変の性状には無関係である。私達は脳疾患の性状を物性的に把握したいと感じていたが,たまたまE.G.Walsh (1976)14)の報告にヒントを得て,変位計,圧力計を組み合わせた装置を開発し,大脳をクモ膜上より圧迫し,圧迫部分の粘弾性特性(compliance)を定量的に算定したのでその方法,結果の一部を述べる。

  • 文献概要を表示

 本書は神経放射線学の我が国で唯一のまとまつた専門書ということができる。今までにも,神経放射線学の部分的な単行本や,他の専門領域の書物の中に検査法の一部として神経放射線学が記述されたものはあつたが,此度,牧豊,久留裕両教授の編集により,神経放射線学が一つにまとめられたことは,我々臨床神経学(神経内科)を専攻するものにとつても極めて有用である。

 本書は2巻からなり,I巻は,I頭蓋単純撮影,II頭部CT,III脊椎撮影および脊髄造影,IV脳血管造影からなり検査方法別に組まれている。II巻は,I脳腫瘍,II脳血管障害,III頭部外傷,IV脳萎縮性疾患,V脳奇形〔付〕気脳造影からなつていて主として疾患別の記述になつている。我々が実際に神経放射線学的検査を行うとき,一つはその手技の確実さを含めた実施方法の問題があり,他の一つは,どの種の検査を選択するかの問題がある。およそI巻は前者に対応し,II巻は後者に示唆を与えるものとみてよい。各章,項の執筆者はそれぞれの分担において現在日本での第一人者ときており,またそこに掲げられている図も豊富であると共に,鮮明で,神経放射線学の最終的な目標,すなわち所見を知る上での条件を満たしている。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 近年cyclic adenosine 3´,5´monophosphate (cAMP)およびcyclic guanosine 3´,5´monophosphate (cGMP)などのcyclic nucleotidesが細胞の分化や増殖に関係することが明らかにされてきた。

 cAMPは一般に細胞の分化を促進するが増殖を抑制し,一方cGMPはcAMPと逆に作用するという成績が報告され注目を集めている15,16,33,38)42)。脳腫瘍に関しては,培養グリオーマ細胞がcAMPの存在下にある種の分化型へtransformすることが報告され11,34,35)臨床的にも治療の手段の可能性が検討されている24,47)。しかし脳腫瘍細胞の分化や増殖とcAMP,cGMPとの関連は明らかでなくまた脳腫瘍内のこれらcyclic nucleotidesの組織内濃度も詳細には検討されていない。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 後頭動脈・椎骨動脈吻合(Occipital-Vertebral Anas—tomosis)は脳血管撮影を多数経験しているものにとつてそれほど珍しいものではない3,6,12,15,17,18)。脳血管撮影により発見されるそのような吻合は,総頸動脈や椎骨動脈などの閉塞に伴う副行路のことが多いが2,12,18),動脈の閉塞過程を有さない症例に発見されることも少なくない3,17)

 Schechter12)は1000例の脳血管撮影において8症例のOccipital-Vertebral Anastomosisを経験している。そのうちの2例は頸部における椎骨動脈の狭窄を合併しており,第3例は内頸動脈結紮術後の血管撮影において発見され,第4例は内頸動脈および外頸動脈起始部の狭窄に合併していたが,残りの4症例には血管性病変を認めなかつた。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 心臓血管性求心刺激は,血液量に関する低圧系と,血圧の維持調節機構に関する高圧系に分けられる8,12)。前者からはstretch receptor後者からはbaroreceptorによつて,主として迷走神経を介して,脳幹のvasomotorcenterおよびその周辺に対して,それらの情報が送られていることが報告されている5,7,8,11〜16,19)。しかし,心血管系からの大脳皮質への投射に関する研究はまだ少なく,Bailey1),Scheibel17)およびKornらが9),前頭葉の心窩部にそれからの投射を報告しているにすぎない。

 本実験で観察した心臓血管性皮質電位に関しては,Callawayらが3),心臓サイクルと反応時間の研究のなかで,脳波を加算平均してそれを大きな徐波成分として記載しているが,詳しい解析は行なわれていない。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 頭蓋内くも膜のう腫は全頭蓋内占拠物中約1%の頻度といわれ29),比較的稀な疾患である。また,くも膜のう腫はくも膜の存在するあらゆる部位に発生可能であるが,大半の例でくも膜槽に接近して生じる特徴がある。その発生部位ならびに頻度は大まかに,天幕上で約60%,天幕下で約40%である。中でもシルヴィウス糟に接して生じる中頭蓋窩(側頭部)くも膜のう腫は全体の約20%と,最も頻度が高い13〜15)。他方,ここで述べる第3脳室後部で,天幕切痕間に位置するくも膜のう腫は非常に稀で,われわれの調査し得た1950年以後の比較的詳細な報告はこれまで自験例を含め13文献に25症例を数えるに過ぎない。なお,この部位のくも膜のう腫は各報告者により,paracollicular (arachnoid) cyst25),arachnoid cystof the quadrigeminal cistern19),paramesencephalicarachnoid cyst9),arachnoid cyst posterior to the thirdventricle13),cyst of the cisterna ambiens17),などと呼ばれ,必ずしも呼称に関して一致していないが,左右いずれか一方に偏して存在するものはcisterna ambiensに関係し,中心部に存在するものはquadrigeminal cisternに近接したのう腫と思われる。われわれの症例は第3脳室後部で,下方は小脳を圧迫し,しかも正中線上でちょうど小脳天幕切痕部に位置する大きなのう腫であつた。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 成人大脳半球には感覚,運動に関する以外に,象徴や機能の左半球優位性や,記憶における右半球の役割などが推測されている。

 一方,言語発達のいまだみられない新生児はおいても,行動面(Emiasら,1971)7),脳波(Molfese,1975)10)神経解剖学的(Wadaら,1975;Chiら,1977)3,21,23)に大脳半球優位性がみとめられている。著者らも脳波のパターン識別法を応用して未熟児で受胎後36〜37週頃より中心部,後頭部背景脳波活動に定量的に左右差がみられることをすでに報告(小川,1979a)14)し,さらに,新生児より成人に至る過程で生後6ヵ月,3歳に機能的左右差の臨界期がみられることを定量的に報告した(小川1979b)15)

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 実験脳腫瘍は腫瘍の発生,腫瘍に付随するさまざまな病態の解明や化学療法の検討などに欠くことのできないものである。しかしながらその基本となる病理組織学的性格については十分明らかにできない場合も少なくないといわれる15)

 astroproteinはBogochらの発見した10B蛋白の主成分で,1970年に森らによりヒト・グリオーマ組織より抽出精製されたグリア特異蛋白である1,6,7)。この蛋白性抗原に対する抗血清を用いた免疫組織的学研究により,この蛋白はヒト,ラット,マウスなどのastrogliaに特異的に存在することが証明されている8〜10)。そこで私達は抗astroprotein血清を用いた螢光抗体法を実験脳腫瘍の病理組織学的診断に応用し,この方法が有用であることを報告した17)

--------------------

海外文献抄録 大友 英一
  • 文献概要を表示

てんかん患者の髄液はγ—aminobutyric acidの低下

 γアミノ酪酸(γ—aminobutyric acid-GABA)はてんかんに関与していることは知られている。

 本研究では21例のてんかん患者(平均29歳)と20例の正常者(平均32歳)を対象として髄液のGABA含量を測定した。

あとがき 塚越 廣
  • 文献概要を表示

 1980年の新春を迎え,本誌の第32巻1号をお送りする。本誌が今後ますます発展するであろうことを先ず祈念したい。

 今年から本誌の名称が変わり,「脳と神経」から"Brain and Nerve"となるという。日本語から英語に変わるだけで,編集方針も内容も変化するわけではなく,本誌が世界的に発展することを願つての改名のようである。つまり日本語の「脳と神経」のままでいると,その訳名は"No to Shikei"となり,世界に通用しない,わけの分らぬ雑誌になることを恐れての改名ということである。しかし名前だけが改称されて,内容がこれに伴わなくては世界に通用するはずの本誌の名前を汚すことにもなりかねないのであり,今後お互に力を合わせて本誌の内容充実に一層の努力をする必要のあることを痛感する次第である。

基本情報

00068969.32.1.jpg
Brain and Nerve 脳と神経
32巻1号 (1980年1月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

継続誌

文献閲覧数ランキング(
6月22日~6月28日
)

  • 第1位 補足運動野と運動前野の喚語機能の比較—超皮質性運動失語患者の語列挙と視覚性呼称の検討 大槻 美佳,相馬 芳明,青木 賢樹,飯塚 統,吉村 菜穂子,佐原 正起,小山 晃,小島 直之,辻 省次 Brain and Nerve 脳と神経 50巻 3号 pp. 243-248 (1998年3月1日) 医学書院
  • 第2位 症状,徴候,症候,症候群の使い分け 平山 惠造 Brain and Nerve 脳と神経 48巻 6号 pp. 580 (1996年6月1日) 医学書院
  • 第3位 日本語版NPI-DとNPI-Qの妥当性と信頼性の検討 松本 直美,池田 学,福原 竜治,兵頭 隆幸,石川 智久,森 崇明,豊田 泰孝,松本 光央,足立 浩祥,品川 俊一郎,鉾石 和彦,田辺 敬貴,博野 信次 Brain and Nerve 脳と神経 58巻 9号 pp. 785-790 (2006年9月1日) 医学書院
  • 第4位 夢の生理学 鳥居 鎮夫 Brain and Nerve 脳と神経 46巻 1号 pp. 19-27 (1994年1月1日) 医学書院
  • 第5位 各種臨床検査法を用いた放線冠梗塞の病態生理学的検討 太田 文人,川原 理子,関本 裕,福田 稔,高家 幹夫,山暗 俊樹,森竹 浩三 Brain and Nerve 脳と神経 43巻 2号 pp. 155-161 (1991年2月1日) 医学書院
  • 第6位 パーキンソン症候群とMPTP (methylphenyltetrahydropyridine) 永津 俊治 Brain and Nerve 脳と神経 38巻 7号 pp. 706-707 (1986年7月1日) 医学書院
  • 第7位 弛緩性麻痺 大友 英一 Brain and Nerve 脳と神経 29巻 1号 pp. 6-7 (1977年1月1日) 医学書院
  • 第8位 第9回筋電図学会総会講演抄録(1) 上田 幸一郞,村尾 哲,宇南山 史郞,楠 豊和,白鳥 常男,片寄 一男,手島 英,高倉 一夫,長谷川 哲哉,小野 慶一,笹村 雅人,今井 英夫,浜本 英次,依田 忠雄,中村 恒男,黒田 勲,岡部 保,箱崎 総一,志賀 柳一,河野 兵衞,河村 洋二郞,島村 宗夫,築山 一夫,中井 昭,吉田 秀雄,根本 金重,小笠原 達,東野 修治,瀬藤 光仁,今井 真,木谷 威男,井村 次郞,宇野 克久,小林 敏雄,三浦 義範,高橋 巧,田坂 定孝,関 清,大牟礼 一雄,石場 甚吉,小川 一吉,山根 至二,余村 吉一,日下 洋,森沢 明,三輪 信二,阿久根 猛,中村 裕,稲田 七郞,富永 聰,野村 晋一,沢崎 坦,宍戸 弘明,増村 陽子,伊藤 忠厚,廉子 康彦,小浜 金吾,中野 駿児,三上 智久,島津 浩,川村 浩,藤田 安一郞,岸 欣一,延原 通夫,藤本 順三,横井 浩,岡 益尚,中村 文雄,原 芳雄,園田 隆,浦田 敬造,木村 直正,村尾 恒治,德永 篤,司平田 東太郞,田坂 博之,森戸 俊和,江良 昭八郞,石沢 命德,川田 平,松本 有煕,結城 清三郞,三原 鏡,秋葉 壬司,瀬野 庄助,阿部 靖,鈴木 正夫,本間 三郞,菅野 久信 Brain and Nerve 脳と神経 10巻 2号 pp. 129-142 (1958年2月1日) 医学書院
  • 第9位 4.パーキンソン病における呼吸調節障害 小野寺 宏 Brain and Nerve 脳と神経 54巻 5号 pp. 390-395 (2002年5月1日) 医学書院
  • 第10位 病的反射とは? 平山 惠造 Brain and Nerve 脳と神経 42巻 12号 pp. 1184 (1990年12月1日) 医学書院