腎と骨代謝 31巻4号 (2018年10月)

特集 Calcimimetics の新しい展開

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カルシウム感知受容体(calcium-sensing receptor;CaSR)は,細胞外Caによる副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)分泌調節に必須のG 蛋白共役受容体である.CaSR は副甲状腺に加え,腎臓や骨などいくつかの組織に発現している.CaSR遺伝子変異は,PTH分泌や腎尿細管Ca 再吸収の変化により,Ca代謝異常を惹起する.したがってCaSR はCa代謝の維持に必須である.一方CaSR は,ケラチノサイトの分化や消化管機能,インスリン分泌等にも影響することが報告されている.ただし,これらの報告されているCaSR の機能が,どの程度生理的に重要であるのかについては,不明な点が残されている.

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副甲状腺細胞表面上にカルシウム(Ca)受容体(CaR/CaSR)の存在が提唱されてから30 年以上が経過する.G 蛋白質共役型受容体であるCaR を発現する細胞は,細胞外Ca 濃度のわずかな変化を鋭敏に感知し応答する.本受容体は,細胞外Caの恒常性維持機構に必須の蛋白であり,ゆえに高Ca/低Ca 血症に関連する疾患治療薬の重要な標的分子となる.CaR を活性化させ,副甲状腺ホルモン(PTH)分泌を抑制する薬剤は,原発性および二次性の副甲状腺機能亢進症(HPT)治療に有用である.医薬品としてのcalcimimetics の原型は,既存のCa チャネルブロッカーを副甲状腺細胞を用いて評価することで,CaR クローニング以前にNemeth 博士により見出された.Fendiline やprenylamine は,CaR のpositive allosteric modulator であることが判明し,その後の構造活性相関研究により,最初に臨床試験に供されたcalcimimetics であるtecalcet(NPS R-568)が創製された.Tecalcet は原発性および二次性HPT 患者において,安全性と有効性が証明されたが,生物学的利用率が低いために開発が中止された.薬物動態プロファイルが改善された誘導体であるシナカルセトは,世界各国で承認された最初のcalcimimetics であり,その後日本では,エテルカルセチドおよびエボカルセトが上市されている.

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カルシウム感知受容体(CaSR)は全身の多くの臓器に発現しているが,副甲状腺における発現量はとりわけ多い.そのため薬剤としてのcalcimimetics は,血中に入ってからは主薬効である副甲状腺ホルモン(PTH)抑制作用以外は薬理作用をほとんど発現しないため,安全性の高い二次性副甲状腺治療薬として定着した.一方,消化管に発現するCaSR は,薬剤の曝露量が高く,副作用である上部消化管障害と関連が強い.ここでは,CaSR と上部消化管障害についてこれまでの知見を総括する.

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シナカルセト塩酸塩は,世界で最初に実用化・市販化されたカルシウム受容体作動薬(calcimimetics)で,透析患者を対象に広く使用されている.シナカルセト塩酸塩の有効性は多くの臨床研究で実証され,従来では副甲状腺摘出術の適応となるような重度の症例でも一定の効果が得られることが示されている.また最近の臨床試験では,血管石灰化の進展を抑制するとともに,心血管合併症,骨折,死亡などの患者アウトカムのリスクも低減する可能性が示されている.近年,次世代のカルシウム受容体作動薬が登場し,シナカルセト塩酸塩のエビデンスに改めて大きな関心が向けられている.本稿では,これまでに行われたシナカルセト塩酸塩の臨床研究をレビューし,その効果や恩恵を概説するとともに,残された課題について考察する.

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エテルカルセチド塩酸塩は副甲状腺機能亢進症に対する国内2 番目のcalcimimetics であり,注射剤として世界初のcalcimimetics である.静注製剤のため,患者の服薬負担がなく投与することができる.エテルカルセチドはCa 受容体に対するアロステリック作用による強力なPTH 抑制を有する.血清Ca ・血清P 低下作用を有し,血清intact-FGF23 濃度の低下も認められた.静注製剤の特徴を活かし,より確実にPTH 低下効果をもたらす薬剤として期待される.

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二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)に対するシナカルセト治療はさまざまなベネフィットが報告されているものの,嘔気や食思不振などの消化管関連有害事象(GI-related AEs)により内服アドヒアランスが低下することが問題として残っている.エボカルセトは新たに開発されたcalcimimetics で,基礎実験において胃内容排泄遅延とCYP の阻害がシナカルセトと比較して軽減されていることが示された.これをもとにSHPT を有する維持透析患者に対して第Ⅲ相試験としてシナカルセトとの直接比較試験を行った.エボカルセトのPTH 抑制効果はシナカルセトと統計学的に同等であり,GI-related AEs はシナカルセトよりも軽減されており,低Ca 関連有害事象はシナカルセトと同等であった.一方で経口製剤であるため,GI-related AEs の改善によって長期的に服薬アドヒアランスが改善するかどうかについては不明である.さらにエボカルセトがSHPT を有する維持透析患者の臨床的アウトカムを改善するかどうかについては今後の研究を要する.

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calcimimetics であるシナカルセト塩酸塩は副甲状腺の主細胞に働きPTH 分泌を抑制するのみならず,活性型ビタミンD と異なり,血中P ・Ca に対する低下作用も認められている.そのため,血管石灰化に抑制的に作用することが期待されている.改訂KDIGO ガイドラインに引用されている臨床研究のなかでEVOLVE 試験はintent-to-treat 解析では有意な効果を見出すことはできなかった.EVOLVE 試験の後解析においてシナカルセト塩酸塩のアテローム型内膜石灰化関連病変(心筋梗塞,非出血性脳梗塞,不安定狭心症による入院,末梢動脈硬化性病変,心臓カテーテルによる死亡,大動脈瘤破裂,解離性大動脈瘤)には効果を認めなかったが,メンケベルグ型中膜石灰化関連病変(心不全,脳出血,突然死,肺梗塞,その他)に対する効果が見出された.その背景のもと改訂KDIGO ガイドラインでは以下のように変更されている.「活性型ビタミンD はPTH 抑制以外の目的で使用するべきではない.一方,EVOLVE 研究の後解析においてはcalcimimetics に潜在的利益を否定できなかった.しかしながら現時点でPTH 抑制には,活性型ビタミンD とcalcimimetics 使用の優先順位はない」.その背景のもとわが国ではエテルカルセチド塩酸塩とエボカルセトという二つの新規calcimimetics が使用可能となった.

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calcimimetics は,カルシウム(Ca)感知受容体に直接作用し生体内のCa 代謝のセットポイントを下げる薬剤であり,これにより透析患者において副甲状腺ホルモン(PTH)と同時に血清のCa やリン(P)を低下させることが可能となった.この薬剤の登場は透析患者に対して多くの恩恵をもたらしたが,腎機能が保持されている保存期CKD 患者や移植患者においても同様の恩恵をもたらすかについてはまだ十分わかっていない. とくに保存期CKD においては,PTH がもつP 利尿作用がcalcimimetics によって遮断され,結果的に血清P が上昇してしまう点には注意が必要である.一方,移植患者においては遷延性副甲状腺機能亢進症の治療薬として期待されているが,長期的な評価はまだ十分なされていない.

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二次性副甲状腺機能亢進症は,透析患者にとって骨病変のみではなく血管の石灰化ひいては生命予後に関わる合併症である.各国のガイドラインがあるが,わが国のガイドラインの特徴は管理目標PTH が低めに設定されていることである.これは,長期透析患者が多く他国より生命予後の良い日本の患者を守ろうという意識によると考えられる.内科的治療で維持できない患者には副甲状腺摘出術(PTx)が必要になり,これを行った患者の予後が良好であることが多数報告されている.一方2008年シナカルセト塩酸塩が内科的治療に加えられ,日本の透析患者のPTH は低く抑えられるようになった.これを受けPTx 件数も2007 年の1,749 件をピークに年々減少している.しかし,生命予後のためにPTx が必要となる患者は一定数おり,治療が手遅れになってしまわぬように観察することが必要だと考えられる.

巻頭言

Promiscuous考 永野 伸郎
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カルシウム感知受容体(CaSR)が1993 年にクローニングされて四半世紀,そしてシナカルセト塩酸塩が本邦で上市されて10 年目に当たる本年(2018 年)に,「巻頭言」を執筆する機会を賜り感慨一入である.結婚記念日になぞらえれば,10 周年はアルミ婚式/錫婚式に,25周年は銀婚式に当たる.また,発売後1 周年が経過したエテルカルセチド塩酸塩は紙婚式に相当し,本年発売されたエボカルセトは,さしずめ新婚ホヤホヤといったところであろう.実は,結婚記念日を長年にわたって(円満に?)迎えるためには,決してpromiscuousであってはならないのである.

連載 Co-medical staffsのためのROD

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ロンドン観光では「大英博物館」を外してはならない 海外旅行でイギリスに出かけた方も多いのではなかろうか.初めてイギリスを訪問するとなれば,まずはロンドンからだろう.となれば,まずはバッキンガム宮殿,タワー・ブリッジ,ロンドン塔,ハイド・パーク,ケンジントン・ガーデンズなどを押さえることになるだろう.あるいはマダム・タッソー蠟人形館やシャーロック・ホームズ博物館だろうか?

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編集後記

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基本情報

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腎と骨代謝
31巻4号 (2018年10月)
電子版ISSN:2433-2496 印刷版ISSN:0914-5265 日本メディカルセンター

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