臨牀透析 39巻10号 (2023年9月発行)

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特集　透析患者の希望（ホープ）を照らす

緒言―希望とは？柴垣　有吾 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1147-1150

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透析の黎明期に米国で透析医療を学び，生涯，透析医・臨床医として生きた父を筆者はもつ．その尊敬すべき父が，胃がん術後に進行性の身体・認知機能低下をきたした．繰り返す誤嚥性肺炎で入院治療を受けたが，拷問のような身体抑制や絶食に耐えながら，怒りと悲しみの表情のなか，徐々に弱っていく姿をただ横で見ていた．自分が「内科教授」という一見偉そうな肩書が全く意味のないものと自覚するほどに無力であることに気づき，父がそのような辛い治療を前向きに受けるためには何が必要なのか，それが「希望」という概念に興味をもつ大きなきっかけである．本項では緒言として，透析患者の希望とは何なのかをかなりの私見であることを承知のうえで述べてみたい．

1．総論：こころとからだからみた希望（1）CKD・透析患者のこころとからだ栁　麻衣 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1151-1156

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透析患者は高齢者が多く生命予後も一般人口より悪い．さらに透析という負担の大きな治療を継続する必要があり，希望を抱きにくいと考えられる．また，透析患者は身体面・心理面が相互に関与する複数の症状を有することが多いが，薬物治療は薬剤の副作用が出やすく，非薬物治療による対応が望ましい．腎不全診療に携わる医療者は，透析患者が身体面・心理面・社会生活面において抱える問題について理解し，希望を引き出すよう関わる必要がある．

1．総論：こころとからだからみた希望（2）行動医学・心身医学的側面から考えるCKD・透析患者における希望（ホープ）の照らし方吉内　一浩 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1157-1164

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CKD・透析患者においては，「喪失体験」により，さまざまな精神・心理的な症状を呈することが知られている．このような苦悩に満ちた状況において，患者に「希望」を導き出すための方略に関して，行動医学的な視点から考察する．具体的には，希望へとつながることが期待される，セルフ・エフィカシー（自己効力感）とセルフ・エスティーム（自尊感情）を高める方法を紹介する．

2．各論：希望の内訳（1） CKD・透析患者の希望を測定する健康関連ホープ尺度の開発と応用栗田　宜明 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1165-1170

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「健康関連ホープ尺度（HR-Hope）」は，慢性腎臓病や透析患者などの慢性疾患のホープ（希望）を測定するための新しい患者報告型アウトカム指標であり，患者がホープに気づくことを医療者がサポートすることを目的に開発された．18 項目のHR-Hope は，「健康と病」「役割とつながり」「生きがい」の三つの領域（ドメイン）をもつ．病による負担の把握や将来のイベント予測，治療のアドヒアランスを規定する要素として活用できる．これにより，医療者は患者の疾患ライフのサポートが可能になる．現時点では，HR-Hope の改善に対する介入研究は行われていないが，患者との信頼関係の構築を通じてホープを育む取り組みの有用性が示唆されている．

2．各論：希望の内訳（2）血液透析患者の希望―2021 年実態調査より甲田　豊 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1171-1176

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日本透析医会は「2021 年度血液透析患者実態調査」のなかで，患者中心アウトカムについて調査した．25 ％の患者が生活に不満を感じていた．自分にとって大切で優先してほしいことでは，「長生きしたい」は最も多かったが（23.2 ％），視点を変えると80 ％近い患者が長生きは最優先ではなく，さらに切実な願いや希望があることになる．シャントが良好で疲労感が改善できれば患者の負担感はかなり減ることが想像できた．透析時間の長さについては，医療者と患者の間に認識の齟齬があり課題を特定できた．旅行，食事なども患者の優先項目として明確になった．患者視点の診療，研究の方向性はこれらの回答のなかにある．

3．各論：ACP とSDM の重要性（1）End of Life における希望森　雅紀 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1177-1182

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腎疾患，進行がんを問わず重篤な病をもつ患者や家族は，なんらかの希望を大切にしながら日々を過ごしている．死を目前に意識するがん患者や家族から，人間に普遍的な「死」を前にした希望について示唆をいただくことは少なくない．本稿では，がん医療での希望に関する知見や臨床経験をもとに，まず人生の最終段階（end of life；EoL）における希望や関連要因，スピリチュアルペインとしての「希望のなさ」について概説する．次に，医療者のアプローチとして，基盤となるケア，希望の確認，希望を支えながら行うEoL についての話し合い，希望がないという患者へのケアについて振り返る．本稿が腎不全・透析患者のEoL における希望を考えるうえで参考になれば幸いである．

3．各論：ACP とSDM の重要性（2）Advance care planning という希望宮下　淳 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1183-1187

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アドバンス・ケア・プランニング（ACP）は，患者の価値観を反映させた治療・ケアを行い，患者にとって最善と思われる生を全うできるように支援するために重要な役割を担う．腎不全・透析領域の患者のACP について症例を提示し，人生の最終段階における医療・ケアの意思決定に関する日本の文化的・歴史的な背景と日本の文化や風習に適したACP について解説する．

3．各論：ACP とSDM の重要性（3）透析施設におけるACP およびSDM の実施状況―全国調査より岡田　一義 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1189-1192

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末期腎不全患者に最良の医療とケアを提供するために，医療チームは，共同意思決定（shared decision making；SDM）のプロセスを促進するアドバンス・ケア・プランニング（advance care planning；ACP）を患者・家族等と行い，患者の意思を確認しておくことが重要である．全国の透析施設に実施した実態調査で，ACP とSDM の実施体制は約40％の施設が整備しておらず，透析の継続中止に関する関係者全員の合意形成率はSDM を十分実施すると高くなった．医療チームと家族等も合意して患者の希望を叶えるために，ACP とSDM の実施体制を整備しなければならない．

4．各論：具体的なアプローチ法（1）腎疾患患者の心理状態に基づく認知行動療法的介入―理論と臨床をつなぐことの重要性藤本　志乃 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1193-1198

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認知行動療法（CBT）とは，人間の認知と行動を扱う心理療法であり，腎疾患患者に対する介入として効果を示す知見も多くある．腎疾患患者の心理状態を表す疾患ライフの受容段階（喪失，拒絶・闘争，折合）に合わせて，喪失段階にはbehavioral activation（行動活性化），拒絶・闘争段階にはacceptance and commitment therapy，折合段階では，行動分析を使用したCBT という形で，CBT に基づく介入を行うことで患者は疾患と共により良く生きることが可能となる．

4．各論：具体的なアプローチ法（2）心理的アプローチ齋藤　凡 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1199-1204

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患者の希望を引き出すアプローチは，まずは患者との信頼関係を築き，話せる状況を整えることが重要である．信頼関係の構築と希望を引き出すアプローチにはコミュニケーション技法が役に立つが，大前提は他人事ではなく相手に関心を寄せて話を聴く姿勢である．一人ですべてを請け負うのではなくチームで関わり，希望は言語化しにくいことも多いことを念頭に，経験してきた事例などを参考に丁寧に引き出す支援をしていく．一方で，必ずしも希望を引き出すことがケアの目的ではないことを忘れずに，人として相手に関心を寄せてそばに在る．また，希望を作り出す表現の意識と，引き出した希望の実現に向けた支援を忘れないことが重要である．

4．各論：具体的なアプローチ法（3）腎臓リハビリテーション（運動介入）渡辺　久美 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1205-1209

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慢性透析患者の高齢化が進み，サルコペニア，フレイルを有する患者が増加している．運動療法のみならず食事療法も併用して考慮していく必要がある．しかしながら，運動療法は患者の状況から長期にわたり継続することは難しい．多職種連携を基盤とした医療職の関わり方が求められる．

5．各論：事例紹介（1）腹膜透析導入を契機に，生の輝きを取り戻した1 例山田　将平 , 岡　文恵 , 前川　早智子 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1211-1218

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脳出血後，有料老人ホームに入所中，境界知能である患者の腹膜透析（PD）導入を行った．療法選択の段階から家族と患者の意識の違いが顕著であり，それぞれの思いの把握と歩み寄りを行った．実際の導入では多職種での連携を密に行い，患者の問題点の把握とその対策を適宜行った．退院後も多職種でのフォローを継続することで，安定したPD ライフの維持のみならず，患者の生に輝きをもたらすことができた．

5．各論：事例紹介（2）腎臓リハビリテーションに取り組んで前向きになれた3症例中山　昌明 , 山本　愛 , 徳元　しのぶ 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1219-1223

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われわれ医療者が患者から希望を引き出すということは，患者の自己効力感を高めるための支援を意味していると筆者らは考える．この事例として，腎臓リハビリテーションに取り組んだ3 例の患者を紹介し，このなかで，患者（人）それぞれのさまざまな希望を医療者が把握することの重要性を考察する．

5．各論：事例紹介（3）生活に寄り添い，共感することで引き出されるそれぞれの希望水内　恵子 , 坂　さとみ , 藤井　亜美 , 西　朋美 , 森　美穂 , 池田　潔 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1225-1230

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透析患者は，死を身近に感じながらも，透析治療により生きる希望をもつことができる．しかし，継続する治療への負担感や病状の悪化，心理・社会的な問題などさまざまな出来事は，患者の希望を喪失させ修正を余儀なくする．VA トラブルで絶望した患者の希望につながったのは，カテーテル透析の提案と患者に寄り添った丁寧なケアであった．ある高齢患者は透析以前に生活自体が困難で，生きることを諦めていた．だが，看護師が辛抱強く関わって訪問看護を導入し，心地よい生活環境が整ったことで，生活への希望をもてるようになった．身近な人の支援や社会的環境は「希望」に影響する．看護師が透析患者の生活に寄り添い支援することは希望の創造につながる．

OPINION

エコー下穿刺宮本　哲 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1145-1146

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透析患者の薬，どう使いわける？

プロトンポンプ阻害薬―Helicobacter pylori 除菌を含む杉本　光繁 , 河合　隆 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1231-1236

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本邦ではHelicobacter pylori（H. pylori）の感染率の低下が著しく，さらに高齢化社会，生活環境の変化，食生活の欧米化も相まって，日本人における酸分泌をめぐる環境は劇的に変化している．そのため，酸関連疾患のなかでも胃食道逆流症（GERD）や薬剤性消化管粘膜傷害〔低用量アスピリン（LDA）や非ステロイド性抗炎症抗薬（NSAIDs）〕のように，厳重な酸分泌調整を必要とする酸関連疾患の割合が増加してきており，酸分泌抑制薬を使用した適切な酸分泌調節の重要性が増している．

症例による透析患者の画像診断

腹膜透析中に注排液困難となり，非典型的な所見を呈した大網巻絡の1 例坂口　美佳 , 古林　法大 , 亀井　敬子 , 有馬　秀二 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1237-1241

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腹膜透析中の注排液困難は早期離脱の重要な原因の一つである．原因の鑑別診断にカテーテル造影は有用とされ，カテーテル閉塞や大網巻絡の鑑別に施行されることも多い．今回注排液困難の腹膜透析症例で，画像検査では特徴的な所見を認めず，手術施行前に診断が困難であった症例を経験したので報告する．

透析食のレシピ

キーマカレー，キャベツのイタリアン風ナムル猪野瀬　渚 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1242-1242

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話題・論点

口腔ケア・歯科受診のススメ加藤　明彦 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1243-1246

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私たちが歯を失う二大疾患が歯周病とむし歯である．平成28 年の歯科疾患実態調査（厚生労働省）によると，歯周病は年齢とともに増え，45 歳以上では歯周ポケットの保有者が過半数を占め，約4 割に歯肉出血を認める．一方で，80 歳になっても自分の歯が20本以上ある8020（はちまるにいまる）を達成できた人の割合は，平成23 年調査の40.2％から平成28 年は51.2 ％まで増えており，口腔ケアに対する関心の高さがうかがえる．

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目次 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1142-1143

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ご案内 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1210-1210

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次号予告 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1247-1247

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編集後記 39巻10号 , 2023年9月 , pp.1248-1248

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基本情報

臨牀透析
39巻10号
(2023年9月発行)

電子版ISSN：2433-247X 印刷版ISSN：0910-5808 日本メディカルセンター

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