BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 70巻1号 (2018年1月)

特集 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の今

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特集の意図

米国疾患管理予防センターが1988年に慢性疲労症候群の調査基準を作成してから今年で30年を迎える。病態不明であった疾患を30年でここまで解明できたことの驚きを,日本の研究者の活躍も含め,この節目の年に再確認したい。

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1990年に木谷照夫,倉恒弘彦らにより日本第一号の患者が発見された筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群は,慢性で日常生活に支障をきたす激しい疲労・倦怠感を伴う疾患であり,1988年に米国疾患管理予防センターが原因病原体を見出すための調査基準を作成し,世界的にその診断基準が広まったものである。かなりのオーバーラップがみられる疾患に線維筋痛症があり,また,機能性ディスペプシアなども含めて,機能性身体症候群という大きな疾患概念も存在する。客観的診断のためのバイオマーカー探索も鋭意行われ,わが国におけるPET研究によって,脳内のセロトニン神経系の異常やさまざまな症状と神経炎症の強い関わりなどが明らかになってきた。一方,このような最新の知見を踏まえた治療法の開発研究も鋭意行われている。

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本稿では,プライマリ・ケアを担っている医療機関において利用されることを目的に厚生労働科学研究班より2016年3月に改訂された筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)臨床診断基準を紹介するとともに,ME/CFS診療が行われている代表的な医療機関において現在実施されている治療法やその予後についても解説する。

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筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は,慢性で深刻な原因不明の疲労,認知機能障害や,慢性的で広範な疼痛を特徴とする疾患である。われわれは世界で初めてME/CFS患者における脳内神経炎症をポジトロンエミッション断層撮影(PET)によって明らかにした。神経炎症は患者の広範な脳領域に存在し,神経心理学的症状の重症度と関連していた。現在,診断法および治療の開発につなげる研究がスタートしている。

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慢性疲労症候群は,原因不明の強い全身倦怠感を主訴として健全な社会生活が過ごせなくなる病態である。発症要因として,ウイルスなどの感染,内分泌や免疫機能異常などが報告されてきたが明確な病因は特定されておらず,診断に用いられるバイオマーカーは確立されていない。そこでわれわれは,メタボローム解析手法を用いて,診断に有効と考えられる代謝物質を同定した。これまでの疲労研究における知見とともにその内容を概説する。

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筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の生物学的病因を探索する近年の研究により,血液・脳脊髄液における種々のサイトカイン上昇,ME/CFS亜群と関連した自己抗体などの異常が明らかにされている。またB細胞を除去する抗CD20抗体(リツキシマブ)がME/CFSに有効であるという医師主導治験の報告もあり,自己免疫応答亢進などの免疫異常を背景とする中枢神経系炎症がME/CFSの本態である可能性が議論されている。

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筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は6カ月以上持続する疲労感,睡眠障害,認知機能障害などを生じる疾患である。ME/CFSは自覚症状により定義されているため疾患概念そのものに対する懐疑的意見もあるが,近年の研究では神経画像,血液マーカーの解析,代謝,ミトコンドリアなどの研究でさまざまな客観的な異常が報告されている。特に脳内外での免疫系の活性化がきっかけとなり,炎症性サイトカインが放出されることで病気が発症する可能性が指摘されている。この総説ではME/CFSについての客観的なエビデンスを中心に解説する。

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 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome:ME/CFS)に罹患する患者数は米国では80万〜250万人,英国では25万人とされる。ME/CFSはこれまで長年にわたって議論の対象になってきた疾患である。議論の焦点は「ME/CFSは果たして『本当の病気』と言えるのか」という点であった。慢性の疲労自体はがん,精神疾患,神経疾患をはじめとするさまざまな疾患の一症状として生じる。既知の疾患が除外でき診断されても,ME/CFSのバイオマーカーが存在しないために,その病因は謎に包まれていた。一方,多くの医師を含む社会がME/CFSを「本当の病気」と認知しないことは,「慢性疲労」という語感からは想像し得ない重篤な障害に苦しむ患者を偏見に曝し苦しめてきた。事実,ME/CFSに罹患して何年も寝たきりの患者が少なからず存在することは意外と知られていない。

 この状況に対し,2015年米国医学研究所(Institute of Medicine:IOM)はME/CFSに関して画期的な報告書を発表した1)。この報告書は研究者と患者団体が協力して9,000以上の過去の文献を調査し,ME/CFSは生物学的基盤を有する重大で複雑な疾患であることを明らかにし,精神症状はME/CFS発症の後に現れる二次的なものであることを明言した2)。しかしこの報告書はME/CFSの原因,病態メカニズム,自然経過に関しては結論を下していない。

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SNAP(suspected non-Alzheimer's disease pathophysiology)はバイオマーカーに基づく概念で,バイオマーカー(PETや脳脊髄液マーカー)でアミロイドβ蛋白は正常レベルでありながらアルツハイマー病(AD)様の神経変性を示す病態である。SNAPは認知機能健常高齢者や軽度認知障害やAD認知症の臨床診断例の2〜3割前後を占める。SNAPの進行はADより遅い。その背景疾患は多様で非ADタウオパチーが含まれる。

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症例は38歳男性である。4歳時に頸髄髄膜腫による歩行障害が発現し,6歳時に腫瘍切除術を受けて症状は消失した。19歳から聴力障害が発現し,29歳で右耳は高度難聴,左耳は聾となった。21歳頃から歩行障害が再度出現した。27歳からはてんかん発作が出現し,脳表ヘモジデリン沈着症と診断された。37歳時に右耳の難聴が急激に増悪したため,耳鼻咽喉科で同年に右耳に人工内耳挿入術を施行した。術後8カ月の時点で,神経学的に四肢失調,両耳難聴,錐体路徴候を認めたが,聴力は徐々に改善し,日常生活動作が向上した。さらに,術後29カ月の時点で難聴は増悪していなかった。脳表ヘモジデリン沈着症による難聴に対する,人工内耳挿入の長期的な有用性を示した症例と考え報告した。

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 PNS(Peripheral Nerve Society)の2017年Annual Meetingに参加してきました。このPNS Meetingは,1994年にPNSが現在の形になってから,おおむね2年に1度,主に西暦の奇数年に開催されてきました(したがってこれまではBiennial Meeting)。また,ここ10年ほどはPNS Meetingのほかに,炎症性(免疫性)ニューロパチーを中心としたINC(Inflammatory Neuropathy Consortium)とシャルコー・マリー・トゥース病を中心としたCMTR(Charcot-Marie-Tooth and Related Neuropathy Consortium)の2つの分科会が,主にPNS Meetingが開催されない年に開催されていました。

 開催地のシッチェス(Sitges)はバルセロナの南西約30kmに位置する,地中海沿いの保養地です。「バルセロナ開催」とされる学会の開催地となることも少なくないようで,2012年のInternational Congress of Neuroimmunologyもここで催されました。共に会場となったメリア・シッチェスホテルは,ヨットハーバー上の海に望む高台に立ち(写真1),今回は季節も相まってさらにリゾート感を増していました。真夏の地中海地方と聞くと,暑さはどれほどのものぞと思っていましたが,日中の日差しは強いものの湿度は日本よりもはるかに低く,空調の効いた会場はむしろ肌寒さを覚えるぐらいでした。

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 この書評は京都で開催中の世界神経学会のロビーで書いています。世界中から専門家が集まる国際学会の中にいますと,臨床神経学のバックグラウンドにある神経科学,遺伝学,分子生物学が目覚ましい進歩を遂げていること,疾患の概念,考え方や治療へのアプローチが刻々と変わっていることが身を持って実感できます。

 評者は9年前に研修医・医学生に向けての教科書を単著で上梓しました。5年前に大幅に内容を改訂して第2版を出版,今,第3版の準備をしています。なぜって? このすさまじい進歩のせいです,というしかないのですが,このたび,わが敬愛する福武敏夫先生が『神経症状の診かた・考えかた』の第2版を出されました。初版は福武先生の考え方がストレートに伝わってくる私の愛読書で,とても臨床のよくできる同僚が(失礼)隣にいてくれる気分で読ませていただいていましたが,わずか3年余のスピード改訂となりました。神経診察学・症候学は既に完成された体系です。大きな変化が(たぶん)ないこの分野で,どうしてこんな急な改訂が必要か? 答えはこの本の中に書いてあります。福武先生が伝えたい神経学のエッセンスがこの3年間でどんどん増えてきたこと,しっかり伝えるためにはどうしたらいいかという親切心がさらにパワーアップしたこと,別の言葉で言えば,福武先生の臨床が今なお日々進歩していることの証しだろうと思います。

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 ここにご紹介するのは通常の書籍でなく,雑誌の増大特集号だが,脳に関心ある人にはぜひお勧めしたい実にユニークな号である。これだけで完結した書物になっている。

 ブロードマンの領野と聞けば,医学や心理学や脳科学を勉強した人なら,たぶん誰もが,「あ,あれか」とピンと来るのではなかろうか。脳の表面図に解剖部位名の代わりに番号が打ってある,あれである。ブロードマンは,ヒトを含めて全部で8種の哺乳動物の大脳皮質神経細胞の分布状態を調べあげ,その6層構造の違いによって大脳皮質を52の領野に分け,それぞれに1から52までの番号を振った。細胞構築の違いに基づいたこの領野番号は,その後,脳科学の共通語となって今日に至っている。ブロードマンは,ヒトおよび他の哺乳類で,皮質層構造が共通する部位に共通の番号を振っているので,ヒトと哺乳類の比較研究には,今も欠かせない便利な地図なのである。筆者も現役時代,机の引き出しにいつもブロードマン脳地図をしのばせて,1日に何度も引っ張り出しては,参照していたのを思い出す。

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 この写真をみて,なんの疾患か言い当てられる人はよほど神経学に精通した人であると思います。筆者は,恩師がよくこの疾患について話していたため,ピンとくるものがありました。

 写真が掲載されている論文のタイトルは「両側外転神経麻痺を合併した梅毒性頸髄硬膜炎」1)と言います。肥厚性硬膜炎と言うと,現在ではまず脳硬膜炎を思い浮かべる人が多いですが,歴史的にみると頸髄硬膜炎のほうがずっと古くから記述されており,その最初の記述はシャルコー(Jean Martin Charcot;1825-1893)2)とジョフロワ(Alix Joffroy;1844-1908)3)にまで遡ります。一方,肥厚性脳硬膜炎はCT,MRIなどの画像検査が普及してくる20世紀末以降に報告されるようになりました。

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あとがき 河村 満
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 このあとがきの依頼メールをスマートフォンで確認したのは,金沢駅のそばの魚料理屋のカウンター席に座った直後でした。依頼には,泰羅先生についても少し触れてください,とありました。「わかりました」とすぐにお返事しました。

 秋が深まった北陸の街で,人の死,存在と不在について少し考えたいと思いました。例えば,人は誰かが「いる」ことと同じくらい「いない」ことにも影響を受けます。昨日まで会話していた人が,今日突然いなくなる。はじめはその事実に耐えきれないのは当然です。そして,「いない」ことにずっと思いを巡らせ続けます。このように,残された人は不在を知りながらその存在を感じ,さらに生きていこうとするわけですが,その意志の背景には一体,どんな脳内機構があるのかなどと考えを巡らせているうちに,涙が止まらなくなりました。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
70巻1号 (2018年1月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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