特集 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の今
【特別寄稿解説】アンソニー・コマロフ教授と筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群
高橋 良輔
1
,
澤村 正典
1
,
山村 隆
2
1京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座臨床神経学(神経内科)
2国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部
pp.55-56
発行日 2018年1月1日
Published Date 2018/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416200949
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筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome:ME/CFS)に罹患する患者数は米国では80万〜250万人,英国では25万人とされる。ME/CFSはこれまで長年にわたって議論の対象になってきた疾患である。議論の焦点は「ME/CFSは果たして『本当の病気』と言えるのか」という点であった。慢性の疲労自体はがん,精神疾患,神経疾患をはじめとするさまざまな疾患の一症状として生じる。既知の疾患が除外でき診断されても,ME/CFSのバイオマーカーが存在しないために,その病因は謎に包まれていた。一方,多くの医師を含む社会がME/CFSを「本当の病気」と認知しないことは,「慢性疲労」という語感からは想像し得ない重篤な障害に苦しむ患者を偏見に曝し苦しめてきた。事実,ME/CFSに罹患して何年も寝たきりの患者が少なからず存在することは意外と知られていない。
この状況に対し,2015年米国医学研究所(Institute of Medicine:IOM)はME/CFSに関して画期的な報告書を発表した1)。この報告書は研究者と患者団体が協力して9,000以上の過去の文献を調査し,ME/CFSは生物学的基盤を有する重大で複雑な疾患であることを明らかにし,精神症状はME/CFS発症の後に現れる二次的なものであることを明言した2)。しかしこの報告書はME/CFSの原因,病態メカニズム,自然経過に関しては結論を下していない。
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