BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 69巻12号 (2017年12月)

特集 運動異常症をみる—Web動画付録つき

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特集の意図

運動異常症は機序,症候ともに多様であり,その理解には文字からだけでなく実際に目でみて学ぶことが有用であるという思いから,本特集を企画した。あまり注目されてこなかったが,決して頻度の低くない運動異常症について,動画とともに理解を深めていただければ幸いである。貴重な動画をご提供いただいた各著者および患者の皆様に,心より感謝申し上げたい。

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「運動異常症」という枠組みを用いると運動過多性の古典的不随意運動だけでなく,カタレプシーや失行のような運動減少性の運動異常も含み,運動異常を責任病変に捉われずに現象面から広く捉えられる。運動異常症の理解のために,覚醒度,随意性,発作性と持続性,そして皮質下性と皮質性などの軸を設定する。これらをカタトニア/カタレプシー,抗NMDAR脳炎,発作性ジスキネジア,stiff leg症候群,大脳皮質基底核症候群,ヒステリーにおいて論じる。

*本論文中に掲載されている二次元コード部分をクリックすると,付録動画を視聴することができます(公開期間:2020年11月末まで)。

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トゥレット症候群はチック症の一型で,小児期に発症する慢性精神神経疾患である。運動・音声チック,併発症が年齢依存性に出現,増悪と寛解を繰り返し,10代後半までに軽快・消失する。病態は運動系・非運動系大脳基底核-大脳皮質サーキットにあり,線条体に投射する黒質線条体ドパミンの経年齢的減衰が加速,代償性D2受容体過感受性が発現,大脳基底核の下行性,上行性出力が脱抑制され,標的部位特異的チックが出現する。併発する強迫性障害はセロトニン神経が関与する。

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自己免疫性脳症は,臨床的および免疫学的に多様な疾患である。少なくとも20種類の自己免疫性脳炎・脳症が報告されており,最も一般的なタイプは橋本脳症と思われる。患者はしばしば機能的,心因性の運動障害または身体表現性障害を示すと誤って診断されることがわかっている。自己免疫性脳症患者は,主に運動障害,覚醒障害,感覚異常,および振戦,筋緊張亢進,または不随意運動などの不随意運動を中心に運動障害を示した。さらに,記憶喪失,心因性非てんかん性発作,解離性健忘症,てんかん,または自律神経症状を観察した。自己免疫性脳症を診断するために,われわれは,脳の障害の部位別の組合せによりびまん性脳障害を検出する方法を提案する。びまん性脳障害では文字どおり,麻痺,運動の滑らかさ障害,不随意運動,持続困難な運動症状,痛みなどの感覚異常,記憶の低下や学習能力低下などの高次脳機能障害,視覚異常などの視覚処理系の障害がみられる。これらの複合的な脳障害は自己免疫性脳症の全脳に散在性に存在する病変部位と合致する。3系統以上の脳由来の神経症候は,おおよそ「びまん性脳障害」を示し得る。はっきりと局在がわからない神経症候は,一般的な神経学的理解では,転換性障害または機能的(心因性)運動障害に分類される傾向があるので,医師は自己免疫性脳症を除外することなく,心因性神経障害と診断するべきではない。

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心因性非てんかん性発作は,なんらかの1つだけの徴候から診断をすることはできないが,いくつかのパターンがあり,このパターンごとに検討すると,診断の確度は著しく上がる。痙攣,転倒,意識障害を主軸に,いくつかのパターンを提示し,それぞれをLaFranceらの基準に従ってどの程度の確度で診断できるかを論じた。これに加えて,心因性非てんかん性発作をてんかんから分けるのに有用であるとされているさまざまの単一徴候をそれぞれ評価した。

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ジスキネジアの症候と機序 冨山 誠彦
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遅発性およびL-ドパ誘発ジスキネジアの病態解明の進歩について述べた。遅発性ジスキネジアは,非定型抗精神病薬の登場により減少している。しかし,発現機序はいまだ確定されていない。一方,L-ドパ誘発ジスキネジアは,ドパミン神経の変性により,L-ドパがセロトニン神経で変換・放出されるため,線条体のドパミン濃度が大きく変動する。そのため直接路線条体神経からGABAが大量に放出され,ジスキネジアが起こる。

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薬原性アカシジア 稲田 俊也
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アカシジアは静座不能に対する自覚的な内的不穏症状と,身体の揺り動かし,足踏み,足の組換えなどの客観的な運動亢進症状から成る病態の一群である。脳炎後やパーキンソン病などの身体疾患への併発例やムズムズ脚症候群も広義のアカシジアに含まれるが,ここでは抗精神病薬で発症する薬原性アカシジアについて述べる。治療は原因薬剤の減量・中止や他剤への変更を試みるが,対症療法薬として抗コリン薬やβ遮断薬などが使用される。

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—コラム—アカシジア 菊池 雷太
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 本誌2016年12月号の表紙でアカシジア患者の写真を掲載した(写真)1)。3枚の写真を巧みに組み合わせ,坐っていることに我慢できず苦悶の表情をみごとに表現している。この写真が掲載された論文は,レイモン(Fulgence Raymond;1844-1910)とジャネ(Pierre Janet;1859-1947)というパリの大物医師2人の共著である2)。ここでは,アカシジア創成期の歴史を整理し,蔑ろにされがちなハシュコヴェツ(Ladislav Haškovec;1866-1944)のオリジナル症例を詳細に検討する。

 アカシジアはギリシア語に由来し,1901年ハシュコヴェツにより「坐っていられない」ことを意味する用語として造られた.類似の症候の記載は,1685年のウィリス(Thomas Willis;1621-1675)にまで遡る。ウィリスは著書『The London Practice of Physick』の中で,「寝床につくと,ほどなくして腕と足が飛び跳ね,まるで拷問台にいるかのように眠ることができない」と記載したが,現代的な観点でみるとむずむず脚症候群との鑑別が問題となる。その後1861年ウィットマーク(Theodor Wittmaack;1817-1873),1880年ビアード(George Miller Beard;1839-1883)も同様の報告をし,やはりむずむず脚症候群との鑑別が問題となるが,紙幅の都合上ここでは議論しない。オリジナルであるハシュコヴェツの2症例について検討する。なお,以下の2症例は『Akathisia and Restless Legs』3)より筆者が翻訳・要約した。

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「今すれ違った人は間違いなく友人だった」「携帯が鳴ったかもしれない」という具合に,私たちは何かを知覚した際に,その知覚の「確からしさ」を日常的に推測している。本研究は,デコーディッド・ニューロフィードバック法を用いて,頭頂葉-前頭前野の活動パターンを操作することで知覚の確信度が変化することを明らかにし,知覚を振り返るメタ認知を支える神経基盤についての新たな知見をもたらした。

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症例は60歳右利き男性。左側頭葉先端部の皮質下出血で発症し,軽度の喚語困難と漢字の書字障害を呈した。精査で左前頭蓋窩と左中頭蓋窩の2カ所に多発性硬膜動静脈瘻を認め,開頭シャント離断術によって根治が得られた。漢字の書字障害が左側頭葉後下部病変に伴う漢字の失書例と近似していたことから,MRI画像を検討したところ左側頭葉下面に微小出血跡を認め責任病変と診断できた。本症例の病態理解には,詳細な神経心理学的診察による臨床症状の分析が重要であった。

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症例は24歳女性。最近発症した歩行障害を主訴に受診した。神経学的には左上下肢および体幹に軽度の小脳失調を示し,頭部MRIで左小脳半球に縞状模様を呈する腫瘤性腫大を認めたことからLhermitte-Duclos病と診断された。そのほか,前額部丘疹,甲状腺腫,食道グリコーゲンアカントーシス,足背部角化症などを認め,PTEN遺伝子変異が陽性を示したためCowden症候群と診断した。Cowden症候群は全身に過誤腫を生じる常染色体優性の遺伝性疾患である。Lhermitte-Duclos病はCowden症候群の中枢神経病変であり,それを認めた場合には全身の過誤腫を検索し,その悪性化に注意すべきである。

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 2017年6月25〜29日にカナダのバンクーバーで開催されたOHBM 2017(The 23th Annual Meeting of the Organization for Human Brain Mapping)に参加してきました。今回のOHBMは当初プエルトリコで開催予定でしたが,前年の会場視察の時期にジカ熱の問題が発生し,急遽バンクーバーへ開催地が変更となりました(写真1)。6月のバンクーバーは,昼間の最高気温は30℃に達することもありますが,湿気が少なくカラッとしており,夕方になると20℃前後まで気温が下がります。じめじめして蒸し暑い梅雨の日本からの渡航でしたので,大変過ごしやすく快適に感じました。そして日没が遅く夜の10時頃まで明るいため,1日が長く充実して過ごすことができました。

 OHBMは脳画像を用いてヒトの脳機能を理解するということを目的とした研究に関する主要な国際学会です。1995年に発足し,ヒトの機能的脳神経画像というフィールドで世界の神経科学に貢献しています。OHBMのミッションには,「ヒトの脳の解剖学的そして機能的な構成から健康と疾患の理解を深めること」が掲げられています。また,ヒトの脳に関する研究をしているさまざまなバックグラウンドを持つ科学者・研究者たちがともに集い,いろいろなアクティビティによってつながり,互いのコミュニケーションを促進し,教育の場を提供し主催していくことも目標に掲げられています。

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 興味深い所見と思いながら,論文にまとめる時間惜しさに,研究班の報告書に書きとどめただけで,35年余を過ごしながら,今も不思議に思うデータがある。

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 てんかん診療を行っていて痛感するのが,いかに多くの「てんかんのようでてんかんでない疾患」がてんかんと診断され,治療されてしまっているか,ということである。てんかんと診断されることによって患者が被る社会的損失,そして抗てんかん薬治療によって生じる身体的損失を考えるとき,常に「てんかんではない」可能性を念頭に診断することは基本的かつ極めて重要な姿勢である。しかし,てんかん専門医にとっても「てんかん」と「非てんかん」の鑑別は困難なことが多い。本書はその鑑別に重点を置き,図や表を用いてわかりやすく解説した,最新かつ唯一のガイドブックであり,本邦の神経学の第一線で活躍する訳者らが,豊富な臨床経験に基づいて的確に訳した名著である。

 本書は,神経学の父であり,てんかんを神経疾患として独立させようとしていたガワーズが100年以上も前に記した『Borderland of Epilepsy』を原型とし,神経学の黎明期から存在する「てんかんとその境界領域」を,現代医療の知見をもって「再訪する」という形で構成されている。各章のはじめにある「要約」と「はじめに」には,各疾患に対するガワーズの時代の理解と現代における理解との比較が記述してあり面白い。本文では,ビデオ脳波,筋電図,心電図,脳画像検査,超音波検査,遺伝子検査など新たなテクノロジーを得た現代の専門家によって,てんかんの境界領域である疾患の発症メカニズムと鑑別のロジックを詳細に解説していて,なるほど,とうなずいてしまう。失神,心因性発作,パニック発作,めまい,頭痛,一過性脳虚血,一過性健忘,睡眠関連の発作,アルコール関連の発作,不随意運動などのてんかんと鑑別を要する疾患に加え,自己免疫介在性てんかん,非けいれん性てんかん重積,自閉症,抑うつなど,現在のてんかん学でトピックになっている疾患にも多くのページを割いており最新の知見を得ることもできる。

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 私も経験を積み,論文や総説を書き,書籍や特集号の執筆や編集に当たるようになって,書評を依頼されることも増えてきた。その書評の書き方にはいろいろあって,淡々と内容の梗概を紹介していくものや,特徴を抽出して紹介するもの,著者との関係や執筆の背景に力点が置かれるものなどがあり,時にはちょっとだけ苦言が加えられたりしている。

 本書の書評が,幅広く・底が浅い日常診療を行っている臨床医である私に依頼されたのは,そのような診療現場で本書が役立つかどうかを述べ,この方面に関心のある臨床医が本書を手に取るきっかけを供するためだろう。その点で,本書は疾患概念や疫学,病態についての総論と診断・予後についての各論Ⅰと治療についての各論Ⅱに分けられ,全部で110に及ぶclinical questions(CQ)について回答と解説および文献が整理されており,臨床現場で疑問に思うこと,短時間に概要を得たいことにすぐに答えを見つけることができる。その内容は大規模研究を中心に(本邦からは小規模のものも含まれる)1990年から2015年3月までの文献が,多数の委員の2年間,11回(うち9回はほぼ1年間に)にも及ぶ検討で絞られて記述されている。いくつかの学会のいろいろの委員を務めた経験から言うと,この負担というか努力には頭が下がる。本書はこの方面の臨床に従事する医師にとって,ベッドサイドに常備して使いこなしたい一冊である。

今月の表紙 河村 満 , 岡本 保 , 菊池 雷太
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 一目みれば,写真に写る症例1)が翼状肩甲だということはおわかりになると思います。では,この症例の翼状肩甲が何に起因するものかわかりますか。

 翼状肩甲とは,肩甲骨の内側縁,下角が後方へ突出する徴候で,特に腕を前方に挙上するときに顕著になります。原因は,前鋸筋を中心とした肩甲骨の運動に関与する筋群の筋力低下で,これは主として前鋸筋-長胸神経-第Ⅶ頸神経根,僧帽筋-第Ⅺ脳神経の麻痺によって起こります。

投稿論文査読者

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次号予告

あとがき 森 啓
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パイプオルガン

 本号は,付録として動画が視聴できる特集である。百聞は一見にしかずとは本特集説明の一言と思いついた。実臨床で患者を診るには及ばないが,動画のパワフルさに加えて解説も要を得ている。言うまでもなく本特集は各論文著者の平素の研鑽の表れであり,診療のお手本として多くを学ばせていただいた。専門の診療領域の医師だけではなく専門外の医療者にも合点がいくこと,学ぶことが多いはずである。手足,体幹の位置,動きを理解するのは容易ではないが,運動障害により改めて正常な動作をみつめ直す機会になると信じて疑わない。

 期を一にして深秋のころ,青森弘前の地で東北随一なるパイプオルガン演奏会に誘っていただいた。かねてより右手と左手の非対称な動作による楽器演奏に関心があったこともあり,水木順子女史の演奏を聴くために東奥義塾高校の礼拝堂を訪れた。本格的なパイプオルガン演奏に触れる機会は得がたいものであり,バッハの古典曲を堪能することができた。全1時間半ほどの演奏会の最終14曲目に演奏された『プレリュード フーガ変ホ長調BWV552』は13分にも及ぶ大作で,単に長い楽曲というだけではなくパイプオルガンの持つ重低音から透き通るような高音まで強弱交えて聴衆を魅了した。演奏者の手の動きを遠目に見据えると,手足がいくつあっても足りない動きに感心する。また,打楽器ピアノと違い空気を利用したオルガン音楽であるためミリ秒差でフィンガータッチと音がずれていることがわかる。音のずれ込みには深く嚙みしめるような感触があり,外界に飛び出る協和音と成るまでの熟成時間にも感じた。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
69巻12号 (2017年12月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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