BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 70巻2号 (2018年2月)

特集 知っておきたい神経感染症

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特集の意図

重篤な神経症候を引き起こす感染症の流行は社会的な問題となり得,近年のジカ熱のように原因となるウイルスの特定やワクチン,治療法の開発が求められる。本特集では近年のトピックであるエンテロウイルス,ジカウイルス,C型肝炎ウイルスなどによって引き起こされる,まさに「知っておきたい」神経感染症について,病態や治療法,現状の課題を概説してもらった。

急性弛緩性脊髄炎 吉良 龍太郎
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急性弛緩性脊髄炎(AFM)は,脊髄前角や灰白質のMRI異常を伴い急性弛緩性麻痺を呈する,新たに提唱された疾患概念である。2014年と2015年秋にそれぞれ米国と日本において,エンテロウイルスD68(EV-D68)のアウトブレイクと同時にAFMが多発し,両者の関連が強く疑われている。既知のAFMの原因であるポリオウイルスやEV-A71を含め病原体が明らかにできない症例も多く,病因・病態の解明が望まれている。

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近年,ジカ熱の世界的な流行に伴いジカウイルスとギラン・バレー症候群(GBS)との関連が注目されるようになった。日本においてはジカ熱の流行は確認されていないものの,海外渡航からの帰国後に発症した患者が報告されている。ジカ熱に関連したGBSは脱髄型の病型を呈する場合が多く,治療は一般的なGBSに準じて行われている。発症の誘因となる自己抗体が明らかになっておらず,病態に関しては今後の研究課題である。

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エンテロウイルスA71型(EV-A71),コクサッキーウイルスA群16型(CV-A16)および近年はCV-A6が手足口病の主要な起因病原体である。これらはすべてピコルナウイルス科,エンテロウイルス属,Enterovirus A種に属し,時に無菌性髄膜炎および脳炎および麻痺を引き起こす。東アジア,東南アジアは1997〜2013年に大きなEV-A71のアウトブレイクを経験し,その間に致死例を含む重篤な脳炎症例を経験した。本論文では手足口病に関連した,中枢神経系感染症,疫学,臨床症状および治療,および手足口病研究の歴史をまとめた。重症EV-A71感染症の予防,重症度分類,診断,検体採取法,および治療に関して概説した。

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C型肝炎ウイルス(HCV)関連クリオグロブリン血管炎では過剰な免疫応答によってクリオグロブリンが血中に増加し,これがさまざまな臓器の小血管を障害することで症状が生じる。主な症状は紫斑,関節痛,末梢性神経障害,レイノー現象がある。検査所見では血中クリオグロブリン陽性,赤沈亢進,C反応性蛋白の上昇,リウマチ因子陽性,補体価の低下が認められる。治療法として抗ウイルス療法,B細胞抑制療法,免疫抑制療法,血漿交換療法がある。

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国際パーキンソン病・運動障害学会は,診断過程を体系化し,パーキンソン症状,絶対的除外基準,相対的除外基準,支持的基準から成り立つパーキンソン病(PD)診断基準を2015年に提唱した。新規観点として,非運動症状,補助的診断検査が入った。発症早期の認知症は,除外基準ではない。相対的除外基準にはPD以外の疾患を示唆するが,PD確定診断例で認め得る10項目が含まれ,支持的基準とのバランスで診断が決まる。

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超音波により脳内に熱凝固を生じさせることで,皮膚切開や穿頭なしに神経疾患を治療するというアイデアは1950年代からあったが,頭蓋内に高い精度で超音波を集束させるのは困難であった。近年のトランスデューサの開発とMRIの進歩により,MRガイド下集束超音波治療は難治性本態性振戦に対する外科的治療の選択肢の1つとなった。今後はパーキンソン病やジストニアなどの他の神経疾患への適応が期待される。

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症例は肝疾患のない77歳,右利きの女性。一過性の右不全片麻痺を主訴に入院し,第3病日に全失語と右片麻痺を発症した。脳梗塞が推定されたが頭部MRI検査と脳血管造影検査にて否定され,高アンモニア血症,頭部MRI T1強調画像にて両側淡蒼球の高信号病変,腹部造影CT検査にて脾静脈,下腸間膜静脈と左腎静脈の短絡を認めた。非肝硬変性門脈大循環性脳症(NCPSE)と診断し短絡血管閉鎖術を実施した。脳卒中様症状を示すNCPSEに留意する必要がある。

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症例は50歳女性。右顔面の腫脹感と頭痛で発症,MRI拡散強調像で延髄外側の高信号を認め,延髄外側梗塞として治療開始した。3日目に右三叉神経帯状疱疹が出現し,MRI病巣は三叉神経脊髄路核と思われた。三叉神経帯状疱疹のMRI異常は延髄外側梗塞に類似することがあり,皮疹を伴わない時期には初期診断が困難な場合がある。画像上,延髄外側梗塞よりも多いスライスにわたる病巣を示すのが三叉神経帯状疱疹の特徴である。

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 表紙の2点の写真をみて,同一人物であることに気づいたでしょうか。正面からの写真をみればおわかりになると思いますが,今回の写真は進行性顔面片側萎縮の症例です1)

 本疾患はロンベルク(Moritz Heinrich Romberg;1795-1873)が1846年に出版した単行本2)が原著とされており,パリー・ロンベルク病の名でも知られています。彼の著書には神経疾患についての世界最初の成書として有名なものもありますが,この単行本はそれとは別の,彼の甥が経験した症例をロンベルクが編纂したもので,本疾患を「栄養神経障害(Trophoneurosen)」として紹介しています。本書の中には症例を正面から捉えた美麗なイラストレーションも掲載されており,今回紹介した写真と比べてみてもおもしろいと思います。

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あとがき 桑原 聡
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 2015年10月に,急性の右上肢単麻痺を呈した18歳男子が腕神経叢炎の疑いで筆者の外来に紹介されてきた。発症は8月で胃腸炎の直後に神経症候が出現しており,右C5〜6領域支配筋中心の限局性筋力低下が認められ,感覚障害がなかったことから,ウイルス感染による頸髄前角炎を考えた。日本を含む先進国ではワクチンによりポリオはほぼ絶滅していることから,以前に文献で知っていたエンテロウイルスA71による前角炎の可能性があると,陪席していた女性研修医に説明したところ,彼女はスマートフォンで「エンテロウイルス」「脊髄炎」でGoogle検索を始めた。第1にヒットしたのは,エンテロウイルスD68による弛緩性脊髄炎が2015年8月に埼玉県で集団発生したとの記事であった。D68はこの場で初めて知ったウイルスであり,やはり臨床の現場では新たな感染症の流行などが日々起こっていること,IT時代に入りその場でネット検索をしなければならないことを実感した。これが本号の特集である「知っておきたい神経感染症」の企画を考えたきっかけである。陪席の研修医からは「近いけどアルファベットがちょっと違いましたね」と皮肉を言われた。

 ちょうど時を同じくして,全国13施設で行っていたギラン・バレー症候群に対するエクリズマブ医師主導治験が終了した(34名における二重盲検・ランダム化試験)。結果は投稿中であるが,予想どおりに後遺症を軽減していた。エクリズマブは補体C5に対するモノクローナル抗体製剤で,発作性夜間ヘモグロビン尿症に対して2008年に承認されている(従来療法で難治の重症筋無力症にも2017年12月に承認)。同症は赤血球膜で補体が活性化して溶血を起こす重篤な疾患でありエクリズマブは補体活性化を著明に抑制する効果の高い薬剤であるが,重篤副作用として髄膜炎球菌による髄膜炎が問題となる。慢性疾患では投与前に髄膜炎菌ワクチンを行って予防を行うが,ギラン・バレー症候群では前もってのワクチン接種はできないので8週間の抗菌剤予防投与のプロトコールとしたが,治験期間中に34名の参加者に髄膜炎菌感染が起こらないか不安が続いていた。ちなみに英国の同剤の治験は髄膜炎を恐れて同意が得られなかった患者が多かった結果,目標症例数(30名)を達成できず,8名で中止に至った。この間は日常診療ではあまり気にしたことのない髄膜炎菌が頭を離れなかった。幸いわれわれの治験では発症者はなかった。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
70巻2号 (2018年2月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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