保健師ジャーナル 68巻7号 (2012年7月)

特集 「あきらめる」「もえつきる」その前に―ジレンマから学ぶ保健師の倫理的課題

  • 文献概要を表示

保健師は日常的に倫理的課題に直面する立場にいるが,そのジレンマを解決できずに苦しむか,あるいは倫理的課題として認識できずにいる。その一方で,看護の他領域に比べると,地域看護の分野では倫理に関する認識や教育,研究が少ないとの声もある。本特集では,保健師に特有な倫理的課題と,それに対処する際の方法論について解説するとともに,日常で直面することの多い事例から,解決策を考えるために有用な知識と方法について考える。

  • 文献概要を表示

保健師が,倫理的問題に直面しつつも問題として認識できずにいる現状と,その理由を考察するとともに,個人的・組織的・制度的な課題を提示する。

  • 文献概要を表示

倫理的課題につながる保健師活動の特徴を,とくに地方自治体で働く保健師の役割から考察し,その特徴ゆえに生まれる,意向の食い違いや公平なサービスの分配など,保健師特有の倫理的課題を提示する。

  • 文献概要を表示

では実際にジレンマを感じたときにどうすればよいのだろうか。解決策を考えるために有用な「枠組み」の必要性と,4ステップモデルの活用法を解説する。

  • 文献概要を表示

本人(療養者)が自己決定できない状況から生じるさまざまな倫理的課題がある。事例1では,統合失調症・認知症の妻とその家族の意向と,保健師としての責任との間で悩むケースを取り上げる。

  • 文献概要を表示

事例2では,ネグレクト事例と判断された母子への関わりから,母親との関係維持と子どもの適切な療育環境との間で悩んだケースについて考える。

  • 文献概要を表示

事例3では,参加者が固定化した健康教室を継続していくことの意味について悩む保健師の事例から,住民全体への公平なサービス分配について考える。

  • 文献概要を表示

事例4では,組織内での葛藤の例として,新規事業に関する他部局との意向が異なるなかで,どう行動すべきか苦慮しているケースを取り上げる。

  • 文献概要を表示

ジレンマに直面している保健師にとって,同僚や上司のアドバイスが救いになることは少なくない。悩んでいる保健師への対応や支援的な組織風土づくりのヒントを探る。

  • 文献概要を表示

大津市の概要

 大津市は,本州のほぼ中央,滋賀県の西南端に位置し,前面を琵琶湖,背後を山々に囲まれた,南北45.6km,東西20.6kmの自然に恵まれた細長い都市で(図),人口は2012(平成24)年4月現在34万339人です。京阪神地区への通勤圏であることから,ベッドタウンとして転入者が多く,人口増加が続いています。高齢化率は20.9%,出生率は8.7%です。

滋賀県では,1959(昭和34)年,地域の健康づくりのパートナーとして健康推進員を養成する制度を発足させました。同県の大津市ではその後,地域保健活動を展開する拠点として「すこやか相談所」を設置。保健・福祉・医療の関係機関とネットワークを結び,地域の健康課題の解決に向けて,担当保健師が健康推進員とともに,地域住民の主体的な活動を支援しています。

  • 文献概要を表示

日本看護協会では,保健師活動の強化のためには保健師の人材育成が重要と認識し,この2年間,中堅期保健師のための現任教育として,行政分野と産業分野におけるコンサルテーションプログラムを構築してきた。この結果と今後の課題について紹介する。

  • 文献概要を表示

■要旨

【背景】京都市では2008(平成20)年度より乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)による家庭訪問を実施し,訪問時に母親の産後うつ傾向の評価を行っている。一方,精神保健業務は精神的ストレスを抱えやすいことから,担当者のメンタルヘルスに対する配慮の必要性が報告されている。そこで今回,産後うつ病スクリーニングにおける訪問員の精神的ストレスの有無とその要因について調査を行った。

【方法】2009(平成21)年度のこんにちは赤ちゃん事業の訪問員(保健師,助産師,看護師)149名を対象とし,無記名の質問紙調査を2010(平成22)年2月26日から4月30日の期間で行った。調査内容は,うつ傾向のある母親に対応する際の訪問員のストレスの有無とその要因,母児の面接に要する時間(分),回答者の特性(年齢や職種など)である。

【結果】回答者は70名(回答率47%),母児の面接に要する時間は平均72分(range:40-120)であった。12%がうつ傾向のある母親への対応に「とてもストレスを感じる」と回答し,58%が「少しストレスを感じる」と回答した。ストレスの要因として回答が多かった上位3項目は,「うつ傾向に対処するための知識,技術に自信がない」「フォローアップ経路への不安」「重症度の判定が困難」であった。

【結論】約7割の訪問員が母親のうつ傾向への対応に精神的ストレスを抱えていることが示唆された。ストレスの要因から,面接技術の向上や母親のフォローアップ経路の確立などが重要と思われた。

  • 文献概要を表示

和泉市の概要

 和泉市は,大阪府南部の泉州地域に位置し,面積は84.9km2,東西6.9km,南北18.8kmという細長い地形である。市の中央丘陵部では大規模な新住宅市街地の開発が進行中であり,子育て世代を中心とした人口が年々増加傾向にある。2011(平成23)年6月現在で,人口は18万7060人,7万2845世帯で,高齢化率は18.3%である。

 和泉市では,2003(平成15)年3月に「健康都市いずみ21」計画を策定し,ヘルスプロモーションの理念に沿い,健康づくり活動を同じ市民の目線で啓発する市民ボランティア「ヘルスアップサポーターいずみ」(以下,ヘルサポ)を養成している1)。ヘルサポ養成のねらいは,「健康都市いずみ21」計画の理念と和泉市の健康課題を踏まえ,草の根レベルで地域での健康づくり行動を地域・行政とともに展開できる人材を育成し,その人材と地域住民が一体となり,各地域で健康づくり活動が巻き起こることである。同時に,本活動をとおして,保健師が地域住民とともに地区活動を展開するスキルを身につけ,保健師自身のエンパワメントになることも目標としている。

連載 「育児幸福感」を高める 母親支援の新しい形・4

  • 文献概要を表示

 子育てしているお母さんの心理的状況を知って,支援につなげていくことは大切です。そこで私たちは,母親が自覚している「育児幸福感」を捉えるための尺度を作成しました。今回は,「母親の育児幸福感―尺度の開発と妥当性の検討」1)の研究から,主観的な育児幸福感を8つの視点でとらえることのできるツールを紹介します。

連載 水俣からのレイト・レッスン・2

水俣病事件史から学ぶ 原田 正純
  • 文献概要を表示

奇病の発生

 1956(昭和31)年4月23日,水俣市の海岸沿いの集落の5歳11か月の女児が脳炎様の症状でチッソの付属病院に入院してきた。次いで2歳11か月の妹が発病して,29日に入院してきた。その母親の話によって隣家にも5歳4か月の女児が同様の症状で発病していることを聞かされ,医師たちは驚いて調査を開始した。その結果,8人の同様な患者を発見したので,5月1日,「水俣市の漁村地区に原因不明の中枢神経疾患が多発している」と水俣保健所に届け出た。これが水俣病発生の公式確認であった。

 その後,チッソ付属病院,水俣市立病院,医師会,保健所などが「奇病対策委員会」を組織し,調査を開始した。その結果,8月までに30人,暮れまでに54人の同様患者が確認された。すなわち,水俣病の発見は幼児の患者が多発したことによって発見されたのである。それは,人において環境汚染の被害を最も早く,重篤に受けるのは胎児,幼児,老人,病人など生理的弱者であることを示している。

連載 『保健婦雑誌』に見る戦後史・4

寄生虫たちの時代 木村 哲也
  • 文献概要を表示

■寄生虫たちの1950年代

 かつて「寄生虫病予防法」という法律があった。1932(昭和7)年施行,1994(平成6)年廃止。予防の対象とされたのは,回虫,十二指腸虫,日本住血吸虫,肝ジストマである。いまとなっては,私たちの生活からすっかり縁遠くなったものばかりだ。

 こんな経験がある。民俗調査などで昔のお話をうかがっている折,なんの気なしに寄生虫の話題となり,こちらはもっと話が聞きたいのに,露骨に嫌な顔をされきっぱりとその話題を拒否されてしまったのである。すっかり過去のこととして平気で口にできる私たちと違って,おおよそ1950年代までに学齢に達していた世代にとって,寄生虫とは,身体的なリアリティをともなって思い出される忌まわしいものであるようなのだ。

連載 町で暮らし人と出会う・19

プロになるまでの修業 森 まゆみ
  • 文献概要を表示

 人がある職業につき,訓練をしてプロになっていく,それには長い修業がいる。その間には失敗も叱責もある。それを感じさせられるようなことが,このところいろいろあった。出版業界のことで,保健師さんには関係がないかもしれないが。

 ある出版社から書き下ろしで本を出すことになった。1回,担当者が挨拶に来たが,そのあとなんの音沙汰もなく,つぎに新米の編集者を連れて挨拶に来た。担当が代わったのだという。新しい若者は感じもよく,元気そうだった。音沙汰がないうちに3・11が起こり,私は大変忙しくなったので,彼に資料集めを頼んだ。これがちっとも送ってこない。

連載 ニュースウォーク・172

  • 文献概要を表示

 神奈川県が有識者会議で1年近く検討してきた「医療のグランドデザイン」の最終報告案がまとまり,4月に公表された。向こう10年間,県がめざす医療のあり方を示すもので,黒岩祐治知事肝入りの施策である。多岐にわたる項目に理念が明示され,2013年度改定の「県保健医療計画」に反映される。

 私は報告書の前書き部分に注目していた。中間報告案(2011年12月)の際,知事が修正を求めた箇所があったからだ。超高齢社会を迎えて,終末期医療における患者の意思重視の姿勢をもっと明確に,と知事自身が異議を唱えた。最終報告書はその意を汲んで修正されていた。

  • 文献概要を表示

■History & Now

どのような機関なのでしょう?

 建学の精神であるキリスト教精神による「生命の尊厳と隣人愛」にもとづき,保健医療福祉分野の専門職業人の育成をめざしています。1992年,全国で12番目の看護系大学として聖隷クリストファー看護大学が開学,1998年に大学院看護学研究科開設,2002年には社会福祉学部開設と同時に校名を聖隷クリストファー大学と改称,2004年にリハビリテーション学部が開設されました。2008年には大学院に博士後期課程保健科学研究科が開設され,2011年には研究科の1つとして看護学研究科博士前期・後期課程に改編されました。

  • 文献概要を表示

 「マインドフルに(注意深く)生きる」と健康的な体重になる。なんと魅力的な,興味を引く言葉であろう。多くの人がダイエットに挑戦し,成功したかと思うとまたリバウンドを繰り返しているとの筆者の言葉に納得せざるをえない。実は私もその1人だからである。

 また栄養として,4つの栄養があるとの視点も斬新なとらえ方である。すなわち,「口から食べる物」「感覚からの印象」,そして「意思」「意識」という心理的構成物をも栄養ととらえている。このとらえ方は,筆者であるテック・ナット・ハン氏とリリアン・チェン氏が仏教思想を学ぶなかで学んだものであり,マインドフルな食事の仕方とは,食事をとることに集中して,食事を楽しむことであると述べている。

  • 文献概要を表示

 本書は,甚大な被害を受けた岩手県大槌町で活動した保健師の全身全霊のメッセージに端を発した実践の記録である。鈴木るり子氏(岩手県立看護短期大学,元大槌町保健師)の「被災者の健康状態の悪化,自殺が心配,津波で助かった人を避難所で命を落とさせてはいけない。そのために健康管理台帳を復活させる必要がある」,だから「全戸家庭訪問をしたい」「全戸家庭訪問すべき」とする判断と行動には,地域にはりついて住民の中で公衆衛生活動を実践してきた保健師の信念がある。これこそが保健師魂である。

 鈴木氏に呼応して全国からボランティアで集結した保健師の多くは,保健師教育に携わる保健師や現場の保健師であった。彼,彼女らが部門の壁を越え,行政の壁を越え集結して全戸家庭訪問を行ったことの意義は大きい。

--------------------

バックナンバー一覧

投稿規定

NEWS DIGEST
  • 文献概要を表示

保健・医療・福祉のこのひとつきの動き

新型インフル法案,成立へ

流行時に施設使用や催し制限

 毒性や感染力が強い新型インフルエンザの対策を定めた特別措置法案が24日,参院内閣委員会で民主,公明などの賛成多数で可決された。自民は欠席した。流行時に大勢の人が集まる施設の使用や催しを制限できる内容で,人権が過度に制約されないよう求める付帯決議をつけた。今国会で月内に成立する見通し。

 特措法案は,3年前の新型の流行を踏まえ,国や自治体の対応を法的に位置づけた。発生時には国や都道府県が対策本部を設け,首相が緊急事態を宣言する。宣言後は,都道府県知事が外出の自粛や,学校などの施設の使用,催しの制限を要請。施設が応じなければ指示もできる。

今月の3冊プラス1

次号予告・編集後記

基本情報

13488333.68.7.jpg
保健師ジャーナル
68巻7号 (2012年7月)
電子版ISSN:1882-1413 印刷版ISSN:1348-8333 医学書院

前身誌

文献閲覧数ランキング(
3月16日~3月22日
)