日本内視鏡外科学会雑誌 9巻6号 (2004年12月)

  • 文献概要を表示

 従来法による胸腰椎病変に対するアプローチは,手術展開による術後の疼痛と回復に時間を要することがしばしばであった.胸腔鏡視下胸腰椎除圧固定手技は術後のドレーンの挿入による臥床期間と術後の疼痛が問題であった.胸腰椎椎体の病変に対し横隔膜切開をせずretroperitoneal extrapleuralに横隔膜の外側(extra-diaphragmatic)から椎体に到達するアプローチと,その手技に対応した内視鏡視下開窓器具を開発した.横隔膜を展開しても縫合も再建も必要ない.また横隔膜の脚の切開もしないで椎体の外側に到達が可能となった.また従来法と胸腔鏡視下椎体固定と比較して,この内視鏡補助下横隔膜外アプローチは肺合併症も回避され,早期の離床と疼痛の軽減がはかられて良好な臨床成績が獲得された.

  • 文献概要を表示

 われわれは2000年12月より2003年12月までに13例の特発性側彎症の内視鏡下前方矯正手術を施行した.全例女性で,手術時平均年齢は17.1歳,術前のCobb角は64.5±15.5度であった.器具はEclipse®を使用した.胸腰椎カーブではDual rodsを使用し,腰椎部はmini-open approachで行った.手術時間,出血量,術前・術後のCobb角,合併症などを調査した.術後の経過観察期間は平均15.2か月であった.手術時間は平均8時間42分,出血量は平均394±112ml,Cobb角は術前平均64.5度から,調査時には22.5度に改善した.特発性側彎症の内視鏡下前方矯正手術は美容上のメリットが大きく低侵襲であるので,将来性の高い治療法であると思われた.

胸椎に対する内視鏡下手術 平泉 裕
  • 文献概要を表示

 胸椎に対する内視鏡下手術は1990年にビデオモニターシステムが応用されて以来急速に進歩し,1993年に最初の胸腔鏡下脊椎手術が報告されている.胸腔鏡下脊椎手術は肋骨切除や横隔膜切開が不要なため高齢者や軽度換気障害にも適応を拡大でき,術後の安静と後療法を簡略化できる利点がある.本手術実施に際しての手術室での器械配置,患者体位,胸椎までのアプローチ法,基本的手術手技について代表的症例を供覧することにより解説した.

  • 文献概要を表示

 内視鏡下に側彎症に対する前方矯正固定術を行えないかと考え,1994年より研究開発を開始した.アウトリガーを応用したシステムとして,1995年から日本の医療器械メーカーと共同で開発を進めた.胸壁付きの豚屍体胸椎を用いての手術を行い,続いて胸腔鏡視下に麻酔下の豚の手術を繰り返し行い,システムの開発・改良を行った.その結果,1999年より臨床応用を開始した(体外矯正・体内固定術:external correction & internal fixation system,ECIFシステム).本法を用いた場合,初期平均側彎矯正率は80%以上と強力であり,腋窩線上の少数の15〜20 mmのポート創のみで手術が行え,術後疼痛の軽減,術後回復が早いなどの利点がある.

  • 文献概要を表示

 第12胸椎破裂骨折には後腹膜腔アプローチ,第1腰椎破裂骨折には胸腔鏡・後腹膜腔鏡を併用したアプローチまたは胸膜外腔・後腹膜外腔アプローチ,第2腰椎破裂骨折には後腹膜腔アプローチで手術を行っている.胸腔鏡と後腹膜腔鏡を併用したアプローチは,本術式の訓練を十分に行った術者が行う必要がある.破裂骨折に対する内視鏡手術が生体にとって真に低侵襲なのか否かは,現時点では不明である.従来法との比較を正確に行うには,今後,手術成績だけではなく,手術による生体への侵襲の程度についてprospective randomized studyを行い,評価する必要がある.

  • 文献概要を表示

 内視鏡下腰椎前方固定術が,真に低侵襲な手術手技になるには解決すべき問題点がある.本稿では,現在行われている内視鏡下腰椎前方固定術の術式の長期成績について報告し,またこの術式の問題点を示した.術前JOAスコアが平均14.4点であったものが術後平均27.6点,平均改善率88.8%と著明に改善していた.術後5年以上の経過をみた症例でも十分に満足できる成績を示したと判断できる.ただし固定法により経過に差が認められる.椎体間固定のためにはケージを2個使用するか,従来法と同じく腸骨を利用した骨移植を行うべきで,脊椎ケージ1個のみの使用法は慎重に行うべきである.今後さらに固定性のよい脊椎インプラントが開発されれば,除圧とともに即時的な固定性を獲得できる術式が完成するであろう.

  • 文献概要を表示

 われわれは腰椎変性疾患,特に腰椎変性すべり症に対して後腹膜鏡下に前方固定術を施行してきた.右下側臥位にて,左側腹壁に4つのポートを作製し,後腹膜腔を気腹法にて拡大・保持しながら腰椎左側面にアプローチする.つぎに大腰筋を血管テープにて間欠的に圧排し,当該椎間板の切除,ケージの椎間への挿入を施行する.これまでに28例の変性すべり症に本方法を施行しているが,後方法に比べて侵襲も小さく手技への習熟に伴い手術時間の短縮がみられた.大血管の処理が必要でなく,前縦靭帯,後縦靭帯,椎間関節など腰椎の安定性にかかわる構築要素を温存できるため,有用な用法であると考えた.

  • 文献概要を表示

 思春期特発性側彎症に対して施行した開胸前方法(open群,n=10)と胸腔鏡下前方法(VATS群,n=10)において,手術時間,術中出血量,術後胸腔ドレーン抜去および起立歩行開始までの日数,入院期間,X線計測,CRPの推移,創部,周術期合併症,および呼吸機能を比較した.手術時間および出血量では差はなかったが,VATS群のほうが創は明らかに小さく,胸腔ドレーン抜去時期,歩行開始時期,および入院期間でも有意に短期間であった.また,術直後のCRPはVATS群が有意に低値であり,呼吸機能への影響は少なく呼吸器合併症も少なかった.したがって,軽度な特発性側彎症に対しては,VATSは有効な低侵襲手術となりうる.

  • 文献概要を表示

 直腸神経鞘腫に対し腹腔補助下低位前方切除術を施行した1例を経験したので報告する.症例は67歳男性.腹痛と下痢にて近医を受診し,注腸検査で異常所見を認め当科に紹介された.注腸造影,大腸内視鏡,超音波内視鏡,CT所見から直腸カルチノイドまたはgastrointestinal stromal tumor(GIST)との診断のもと腹腔鏡補助下低位前方切除術およびD2リンパ節郭清を行った.腫瘍はHE染色で多形性な細胞が束状に錯綜配列し線維の増殖を伴っており,細胞分裂像は認めなかった.免疫染色でS−100蛋白陽性,vimentin陽性,CD 34,c-kit,α—SMA,desminは陰性であった.以上より直腸原発良性神経鞘腫と診断した.

  • 文献概要を表示

 患者は63歳,男性.上腹部痛を主訴に来院した.胸部X線写真,胸部CTで遊離ガス像を認めた.上部消化管内視鏡を施行し,十二指腸球部前壁に潰瘍を認めたが狭窄はなかった.十二指腸潰瘍穿孔性腹膜炎と診断し,腹腔鏡下大網被覆術を予定し手術を行った.しかし大網が炎症で短縮していたため使用できず,肝円索を用い,穿孔部を充塡被覆した.手術時間は152分,出血量は少量であった.術後経過は順調で,術後20日目に退院した.腹腔鏡下十二指腸潰瘍穿孔閉鎖術において大網が使用できない場合,肝円索を利用することは有用な方法と考えられた.

  • 文献概要を表示

 Morgagni孔ヘルニアは,胸骨後部より腹腔内臓器が胸腔内に逸脱する比較的まれな疾患である.無症状に経過することが多く,検診などにより胸部異常陰影を指摘され,発見されることが多い.術前のCT診断を応用し,胸腔鏡下にMorgagni孔ヘルニアを修復したので報告する.患者は43歳の女性で,4年前より右胸部異常陰影を指摘されており,陰影の増大にて当科に紹介された.胸腹部CT撮影後,MPR画像を作成し,Morgagni孔ヘルニアと診断した.ヘルニア門は右側のみで,ヘルニア内容は脂肪組織(大網)であることが確認され,胸腔鏡下手術を施行した.胸腔鏡により,胸腔内の癒着?離,ザックの処理が可能であった.

  • 文献概要を表示

 患者は44歳の女性.腹痛にて当院受診,精査にて膵体尾部の粘液性嚢胞腺腫と診断され,腫瘍の増大のため入院となった.手術は腹腔鏡補助下脾温存膵体尾部切除を施行した.すなわち腹腔鏡下にて膵脾を十分に脱転,その後小切開を加え体外にて膵体尾部切除ならびに脾動・静脈の?離,脾温存を施行した.手術時間は3時間10分,出血量は110mlであった.術後経過は良好で術後10日目に退院した.病理組織学的には卵巣様間質が認められ,粘液性嚢胞腺腫と診断された.膵体尾部の良性腫瘍あるいは良・悪性境界病変に対する腹腔鏡補助下脾温存膵体尾部切除は低侵襲であり,手技も比較的容易であると考えられた.

  • 文献概要を表示

 大腸癌に対する腹腔鏡下手術は各施設で適応や手術方法に差があり,標準術式が確立されていないのが現状である.そこで進行S状結腸・直腸S状部癌に対する,当教室の標準術式であるIMA根部・LCA・自律神経温存D3郭清の手術手技と成績を報告する.3D-CT血管画像で術前にシミュレーションを行うことによってIMA根部の高さ,LCAの分岐位置が予想でき,安全に郭清操作を行うことができた.手術成績,臨床経過,性機能も良好で,低侵襲でしかもQOLの向上が得られたと考えている.術後観察期間中央値14.5か月の成績は肝転移1例であり,全症例生存中である.IMA根部・LCA・自律神経温存D3郭清は,長期成績に関しては術後観察期間もまだ短く慎重な観察が必要であるが,短期成績および機能温存に関しては満足できる結果であった.

  • 文献概要を表示

 内視鏡補助下甲状腺手術にバイポーラー型血管閉鎖装置であるLigaSureTM(タイコヘルスケアグループ米国バリーラブ社)を使用した.LigaSureTMの利点として,キャビテーションやアクティブブレードによる損傷の心配がない,シールに要する時間が短いといった点が考えられた.LigaSureTMのみで甲状腺周囲の脈管,甲状腺実質の切離を行うことも可能であり,内視鏡補助下甲状腺手術の安全性の向上,簡素化に有用であると思われた.

--------------------

編集後記 北島 政樹
  • 文献概要を表示

 本誌12月号の特集は「内視鏡下脊椎手術の進歩」であるが,内視鏡下手術もここまで来たかという感は否定し得ない.1987年,フランス人モーレが胆嚢摘出手術に成功して以来,わずか17年の歴史であり,その間,医工連携により,テクノロジーの導入が速やかに行われ,手術ロボット・ダヴィンチによる手術が2000年4月にアジアで初めて本邦で行われた.その後,combined manipulatorの触覚の研究,遠隔手術,特にわが親友のマレスコ先生とギャグニエル先生のリンドバーグ手術(transatlantic surgery)の成功など内視鏡下手術は話題性に事欠かない.

 このような内視鏡下手術の技術や機器開発に人一倍興味を持ち,取り組んできた私であるが,それには歴然とした背景がある.1975年,30歳代前半に米国の古都ボストンのMGHで研究生活に入ったことに始まる.私の恩師,バーク先生は優れたacademic surgeon(日本外科学会名誉会員)であり,先生の研究の姿勢や研究成績の評価と将来の展望を知らず知らずのうちに学ぶことができた.

基本情報

13446703.9.6.jpg
日本内視鏡外科学会雑誌
9巻6号 (2004年12月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

文献閲覧数ランキング(
7月27日~8月2日
)