日本内視鏡外科学会雑誌 10巻1号 (2005年2月)

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 卵巣嚢腫は産婦人科疾患のなかでも比較的頻度が高く,腹部救急疾患として他科で腹腔鏡下に対処される場合もある.術前検査でのUSGやMRI画像と腫瘍マーカー値などから良性の卵巣嚢腫と判断されれば,大半が腹腔鏡下手術の対象となる.しかし,小児や生殖年齢の女性に対しては妊孕能温存(妊娠可能な状態)を,妊娠を伴っている場合には妊娠継続を心がけた手術内容が求められる.手術の選択肢としては,腹腔鏡による体内法,体外法,混合法,必要な場合には開腹手術への移行となる.まず,腹腔鏡下に腹腔内の状態を確認したうえで手術の可否を判断し,少しでも低侵襲で有効な手法を選択し提供することが大切と考える.本稿では,腹腔鏡が整備されておれば比較的簡便にできる体外法の器具類と手術手順を中心に,また体内での縫合操作を要する体内法やfinger assist technique,留意点などについても紹介する.

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 妊孕能温存のために行われる子宮筋腫に対する手術は子宮筋腫核出術である.腹腔鏡下の子宮筋腫核出術にはすべての手術操作を腹腔鏡下に行うtotal laparoscopic myomectomy(TLM)と,腹腔鏡の補助により小開腹下に手術を行うlaparoscopically assisted myomectomy(LAM)があり,筋腫核の大きさ,数,位置および術者の技量などにより術式が選択される.子宮筋腫核出術の主な手術操作は,子宮筋層の切開,筋腫核の核出,子宮壁の縫合,筋腫核の搬出である.TLMではこれらすべての操作が腹腔鏡下に行われ,LAMでは腹壁小切開部を利用して筋腫核の核出・搬出と子宮壁の縫合を行うものである.すべての操作が順調に遂行されることで,腹腔鏡下子宮筋腫核出術は安全に行うことができるが,手術の難易度が高い術式である.今後,手術操作の改良,創意工夫により,さらに安全で容易な手術になると考えられる.

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 子宮内腔以外に子宮内膜組織が存在する病態が子宮内膜症または子宮腺筋症である.間質を伴う子宮内膜腺組織が子宮筋層に存在する場合が子宮腺筋症,子宮外の主に骨盤内に存在するのが子宮内膜症である.子宮腺筋症,子宮内膜症はともにエストロゲン依存性の良性疾患であり,疼痛と不妊を主徴とする再発性の疾患である.妊孕能を温存しつつ,これらの疾患を除去するためには手術療法が行われており,最近では手術侵襲の小さな腹腔鏡手術が主流となりつつある.

 卵巣チョコレート嚢胞は,子宮内膜症の最も代表的な病態であり,卵巣に発生した子宮内膜症からの周期的な出血が卵巣内に貯留した疾患である.腹腔鏡手術では,嚢胞内容液を吸引除去して,嚢胞壁を卵巣被膜から分離・摘出する.卵巣被膜は縫合またはフィブリン糊により形成する.正常筋層との境界が不明瞭な子宮腺筋症は子宮筋腫と異なり,病巣の核出が困難な病態である,これまで子宮腺筋症に対する妊孕能温存手術の報告は少なかったが,開腹手術で開発された手術方法を応用することによって,腹腔鏡下腺筋症摘出術も可能となってきている.現在,当科で行っている新しい手術方法を紹介する.

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 卵管形成術は体外受精の普及に反し古典的な治療になりがちであるが,近年の腹腔鏡下手術の進歩によって腹腔鏡下卵管形成術が可能になったことから新たな展開が期待される.卵管形成術には子宮卵管移植術,癒着剥離術,卵管端々吻合術,卵管開口術卵管采形成術の5型がある.腹腔鏡下卵管形成術は,開腹術による卵管形成術に比べ手術侵襲が小さく,患者に負担が少ないことばかりでなく,多くの利点があることから患者に受け入れられやすい治療法である.

 卵管性不妊のなかで卵管留症と卵管閉塞は最も頻度の高い不妊原因である.しかし,これらを無視して体外受精を行っても必ずしもよい結果が得られるとは限らない.ここでは,これらの対処法について述べる.

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 出産年齢の高齢化,STDの蔓延により未産婦の子宮頸癌の増加が予想され,浸潤子宮頸癌であってもlow riskの場合には,妊孕能温存を考慮した手術が求められる場合がある.フランスのDargentが1987年に開始したlaparoscopic radical vaginal trachelectomyは,海外で300例以上施行されており,そのうち99例が生児を得ている.しかし,この術式は腟が狭く腟式操作が困難な症例に対しては施行不能であり,基靭帯の切除は準広汎術式に相当(Piver class Ⅱ)し根治性に不安がある.このためわれわれは術式をPiver class Ⅲに拡大し,12例のⅠb1期子宮頸癌症例に施行した.腟からのアクセスが困難な症例に対しては,全腹腔鏡下に行う術式を開発し対処した.本術式は今後,治療法の選択肢の一つとなり得るものと考えている.

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 子宮外妊娠に対する妊孕能温存手術としては,腹腔鏡下線状切開(laparoscopic salpingotomy)が標準術式として挙げられる.その適応基準としては,挙児希望例が絶対条件であり,その他,卵管の部位や大きさ,術前の血中hCG値,破裂あるいは胎児心拍の有無などにより選択されるが,必ずしも統一した基準が示されているわけではない.保存手術が成功した場合に,卵管疎通率は80%程度,術後妊娠も60〜70%程度と報告されており,妊孕能保存の手術として試みてよい術式と思われる.しかし,外妊存続症あるいは反復外妊といった副障害もみられることから,患者や家族への十分なインフォームド・コンセントは必須である.

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 妊娠合併例に対する気腹の安全性は確立していない.今回,われわれは気腹法,吊り上げ法で行った症例の手術成績と予後を比較検討したが,気腹18例,吊り上げ12例の予後には差がなかった.次に5例で気腹中に経腟超音波断層法にて子宮動脈のpulsatility index(PI)を調べて子宮血管抵抗の変化を調べたが,気腹によりPIは次第に増大し,気腹を中止すると速やかに元に戻った.なお,胎児心拍数には変化は見られなかった.妊娠合併例に対する気腹は,適切な監視下で行われるならば母児に対する影響は少なく安全であると思われた.

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 無心体双胎は,一絨毛膜性双胎の1%にみられるまれな奇形で,健児が供給する血流によって無心体児は生存する.健児には心負荷がかかり,しばしば心不全をきたし,予後は不良となる.無心体への血流を消失させることが有効な治療となることから,この病態に対し種々の胎児治療が試みられている.今回われわれは,胎児鏡下に無心体の臍帯血流遮断を行い,生児を得た症例を経験したので報告する.

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 腹腔鏡下胆嚢摘出術における胆管損傷6例について原因,予防および対処法を中心に検討を行った.原因は解剖学的誤認によるものが4例(完全離断1例,部分損傷3例)と多く,剥離操作による穿孔損傷が2例であった.術中胆道造影は全例に行われていた.完全離断例に対して胆管胆管端々吻合術を施行したが,縫合不全を生じ約5か月後に吻合部狭窄のためステント留置に至った.胆管損傷の予防には胆道系の解剖を十分に把握することが重要で,特に術中胆道造影は胆管損傷の早期発見と重症化の防止に有用であると思われた.完全離断例に対する術式の選択は慎重にすべきであると考えられる.

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 患者は,50歳の女性.大腸癌検診にて便潜血陽性を指摘された.下部消化管内視鏡検査にて肛門縁より約20cmと15cmの部位に粘膜下腫瘍様腫瘤を認めた.病理組織検査にてmucosa-asso-ciated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫が疑われた.腹腔鏡補助下S状結腸切除術,D2郭清を施行した.病理組織学的所見は,centrocyte-like cellのび漫性浸潤とfollicular colonizationを認めた.免疫組織学的所見は,CD79a,Bcl−2陽性,CD5,CD10,サイクリンD1陰性であった.以上より大腸癌取扱い規約に準じて,MALT lymphoma,sm,n(−),stage Ⅰと診断した.術後第14病日に退院した.結腸MALTリンパ腫に対する腹腔鏡補助下結腸切除術は,根治性,侵襲の面から有用であると思われた.

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 患者は39歳,女性,待ち針を誤飲し来院した.腹部単純X線検査ではすでに胃内に落下しており,自覚症状がないことから経過観察となった.誤飲から2日後,右下腹部より針の移動がなく,誤飲から71日後,自然排出する可能性が低いと考えられたため腹腔鏡下に摘出手術を行った.術中X線透視を併用し腹腔内を検索すると,異物は虫垂内に存在し安全に虫垂切除にて摘出しえた.病理所見は,金属アレルギー反応に特徴的な好酸球主体の蜂窩織性虫垂炎であった.虫垂内異物(針)はきわめてまれであり,鋭利な金属性異物を腹腔鏡下に摘出する場合,術中X線透視が有用であり,かつ通常より愛護的操作が必要である.

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 吊り上げ法にて腹腔鏡下虫垂切除術を施行したので報告する.症例は22例で,平均年齢は27.9歳であった.皮下鋼線を右下腹部に2か所刺入し,吊り上げ法を施行した.臍部(5mm,scope port),右側腹部(5mm),恥骨上部(11mm)の3孔式で行った.逆行性に虫垂切除術を施行し,手術時間は平均71.5分であった.病理学的には,カタル性3例,蜂窩織炎性12例,壊疽性7例であった.術後平均入院期間は7.1日であった.術中に膀胱損傷を1例認めたが,術後合併症はなかった.腹腔鏡下胆嚢摘出術で用いられている吊り上げ法の利点は,虫垂切除術でも有効で,さらなる安全性・経済性を高めることが可能であった.

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編集後記 北野 正剛
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 最近発表された厚生労働省の人口動態統計の年間推計の結果では,2004年の出生数が1899(明治32)年の集計開始以来,最低の110万7,000人(前年比約1万7,000人減)となる見通しである.出生数の減少は4年連続で今後も続くとみられている.

 少しでも人口減少に歯止めをかける意味で,今回の特集「妊孕能温存と妊娠継続を考慮した内視鏡手術」は医師のみならず子供を望む方々,ひいては日本国のためにも大きな意義がある.もともと産科・婦人科領域は,腹腔鏡による診断や治療がいち早く行われていた領域であった.1980年代後半から始まった消化器外科領域での発展,普及に少し遅れて急速に適応の拡大がなされた.そして第7回日本内視鏡外科学会全国調査の結果では,総症例約50万例のうち,産婦人科領域が腹部外科領域についで2番目の多さで約10万例となっている.年次推移では,当初の1990年の1,940例から2003年には約13,000例へと症例数の大きな伸びがみられている.また,特筆すべきことは,日本産科婦人科内視鏡学会によりいち早く平成15年度から技術審査制度による技術認定によりすでに145名が認定され,そのうち57名が本会の技術審査に申請し全員合格していることである.

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
10巻1号 (2005年2月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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