日本内視鏡外科学会雑誌 5巻5号 (2000年10月)

特集 内視鏡下手術のクリニカルパス

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 腹腔鏡下胆嚢摘出術は,手術侵襲の軽減,早期の術後回復,周術期におけるQOLの獲得を可能にする点でクリニカルパスの最も適応のある手技の1つと考えられる.当科では,在院日数の短縮化,チーム医療の確立,医療に対する患者の満足度の獲得にとって,有意義な手法として位置付けている.術前の諸検査,評価は外来で行っている.術式は循環・呼吸管理のしやすい“吊り上げ式腹腔鏡下胆嚢摘出術”を採用している.ドレーン挿入は原則として行わない.抗生物質は術後1回のみ静注.胃カテーテル,尿道バルーンは術後1日目に抜去し,早期離床をはかっている.術後1日目に飲水を開始し,その後,経口食に移行する.術後3〜4日目には退院とし.抜糸は術後1週間目に外来にて行っている.

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 腹腔鏡下胆嚢摘出術は低侵襲で合併症が少なく,術後管理期間が短く,安定した経過となり,クリニカルパス(以下,CP)に最も適した術式の1つである.インフォームド・コンセントの充実,入院期間の短縮,術後管理の均一化のために2000年からCPの導入をした.CPは診療用として術前日から,術後2日目までの検査,処置,治療をチェック式の表とした.入院期間の短縮化は有意ではないが,術後管理の均一化がはかられ,十分なICが得られ患者側の満足度は高い.

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 腹腔鏡下脾臓摘出術(LS)へのクリニカルパス(CP)導入に関して概説した.本邦においても医療の標準化と効率化への要求のなかで,CPの導入が求められている.LSの頻度は限られているものの,胆嚢摘出術とともに腹腔鏡下手術の最もよい適応の1つと考えられており,標準化しやすい術式といえる.われわれの経験からも,LSはCPを作成するうえで最大の鍵となる時間軸,すなわち術後入院期間が平均7.2日とほぼ一定で,ヴァリアンスを生じにくく,CPを運用しやすい.後出血,左肺下葉の無気肺と肺炎,膵瘻,左横隔膜下膿瘍,血栓症,腸閉塞,脾摘熱,脾摘後敗血症など合併症を予防し,また生じた場合には早期に発見して対処することにより,負のヴァリアンスを最小にとどめることができる.施設に応じたCPを作成し,修正を加えつつ,厳格に運用することにより,LSにおいても標準化と効率化が得られる.

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 クリニカルパスの効果として,在院日数短縮や医療コスト削減による病院経営の効率化,医療の質的標準化,インフォームド・コンセントの促進などが期待されている.胃粘膜癌および胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡下胃局所切除術においても,患者の多くは同じような診療経過をたどるため,クリニカルパス導入に比較的適している.術後1日目に飲水,2日目に流動食を開始し,以後三分粥,五分粥と2日ごとに上げていき,術後7日目で退院としている.病変が噴門や幽門に近接した症例で術後狭窄が疑われる場合や,幽門に近接した症例で腹腔鏡補助下手術を行う場合には,パスからの逸脱を考慮する必要がある.

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 われわれが導入した開腹幽門側胃切除術のクリニカルパスを紹介し,これをLapD1+αに導入するとすれば,どこを改良すべきかを検討した.すなわち,立位,歩行開始時期は早められるが,食事の開始時期は残胃の大きさを考慮して同じにする.退院は10日前後にしてもバリアンスは少なく,すぐに応用できる.

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 腹腔鏡下胆嚢摘出術が導入されて以来,腹腔鏡下大腸切除術をはじめとする低侵襲手術が広く普及している.本法では術創が小さいため癒着が軽微で,腸管運動の回復が早いため,経口摂取の開始が早くなり,入院日数も減少した,今まで標準と思われていたことを見直し,無駄を省いたコストパフォーマンスの高い,かつよい医療を提供することは重要である.クリニカルパスの導入は,医療側だけでなく患者側も腹腔鏡下大腸切除術の標準的な術後経過を知るよい機会であり,これが入院期間減少の一助となってくれると期待されている.

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 われわれの大腸癌に対する腹腔鏡下大腸切除術(以下,LAC)クリニカルパス(以下,CP)運用の現状を示す.入院時に患者用CPを十分に説明する.術後に疼痛が軽いことはLACの大きな長所である.術当日,NGチューブ抜去,第1病日,歩行を開始.術後合併症の頻度は開腹と遜色ない.第2病日,水分摂取を開始.病棟内での活動制限はない.第3病日,食事摂取を開始.第10〜14病日,退院.バリアンスが生じた場合,CPに固執せず適宜対応する.CP運用症例はおおむね完遂可能であった.今後,より良質な医療に向けてCPの定期的な見直し,再評価を行うことが必要である.また,これを安全,有効に運用するためには医療スタッフ個々の手腕にかかっていることも再認識することが大切である.

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 自然気胸は年齢,性別により原因が異なる疾患である.今回呈示したものは若年者を対象としている.気胸の患者は精神面の訴えが多い傾向にあるので,これを考慮に入れたクリニカルパスを作ることが重要である.当院のクリニカルパスの特徴を以下に挙げた.ドレーンは自己管理としているので,医療側のドレーン状況の把握は重要な項目として扱っている.書き込みができるようにスペースを十分にとることで,柔軟性を持たせている.さらに“いたわりの言葉”が毎日のチェック項目として挙げられている.QOLを重視した内視鏡治療では患者の精神面でのケアも考慮したためである,言葉によるQOLの向上を目的としたものである.

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 当科における原発性自然気胸手術治療の標準手技は,ブラを含む肺部分切除に第4肋間から頭側の壁側胸膜切除術を追加することである.この癒着が成立するためには術後に肺が完全に膨張し,胸壁と接していることが前提になる.そのため,術後4日間はドレーンを−15cmH2Oで持続吸引し,肺の完全な膨張を企てることを原則としている.

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 胸部交感神経切除術は原発性手掌多汗症,バージャー病に対する手術術式としてその有効性が確立している.われわれは多汗症200例(399肢)に胸腔鏡下胸部交感神経切除術を施行し,良好な結果を得た.本術式における合併症はホルネル症候群,出血などである.術後の生理的変化として,代償性発汗はほぼ必発であり,術前の十分なインフォームド・コンセントが重要である.クリニカルパスは2泊3日または1泊2日で設定し,術後の代償性発汗に対する認識が重要なポイントとなる.それぞれの病院に適したクリニカルパスを各疾患ごとに作成し実践することが重要である.本稿では,多汗症のクリニカルパスについて述べる.

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 腹腔鏡下腎摘除術は腎癌,腎盂尿管腫瘍などの悪性疾患と萎縮腎,水腎症などの良性腎疾患に行われている.また,この術式は皮膚,筋肉の損傷が少なく,術後の疼痛が緩和されること,また消化管機能の回復が早いことから手術後の患者の回復が早いことが報告されている.そのため従来の開腹による腎摘除術と比較し,術後早期から患者に積極的に離床するよう,また経口摂取を開始するように指導することは,術後早期の社会復帰につながるため重要である.また一方で腹腔鏡下の手術であるため,術後の呼吸状態,全身理学所見,創部の状態などのチェックを行い,重大な術後合併症を見逃さないようにすることも重要になってくる.今回このような観点から,現在私どもが行っている腹腔鏡下腎摘除術のクリニカルパスについて述べた.

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 1996年1月から1999年2月までに施行された75歳以上の大腸癌切除症例49例(うち腹腔鏡下手術施行例〔以下,LC〕15例,開腹手術施行例〔以下,OC〕34例)を対象に,術中経過,術後早期結果,術後合併症に関しretrospectiveに検討した.【成績】LCはOCと比べ手術時間は長いが,術中出血量は少なく,排ガス・排便の出現,歩行開始,飲水および流動食の経口摂取開始は早く,術後在院日数も短かった.また,解熱や白血球数の正常値への回復に要した期間については有意差は認められないものの,LCが早い傾向がみられた.術後合併症の発生率には差を認めなかった.【結論】LCはOCと比較し術後の回復が早く,高齢者に対しても積極的に腹腔鏡下手術を施行することで早期経口摂取,早期退院が得られ,術後のQOLの向上が可能である.

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 十二指腸球部前壁カルチノイドに対し,内視鏡補助下腹腔鏡下十二指腸球部前壁楔状切除を施行し得た症例を経験した.症例は82歳,女性.心窩部痛を訴えて来院した.上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部前壁に径5mm大のカルチノイドを認め入院した.手術は内視鏡補助下に腹腔鏡下球部前壁楔状切除を施行した.病理所見では粘膜下層までにとどまるカルチノイドで,切除断端は陰性であった.術後2年経過した現在も再発兆候は認めない.本症例のような前壁側に限局した腫瘍では,内視鏡補助下腹腔鏡下十二指腸楔状切除は低侵襲,根治性を両立し得た治療法であると考えられた.

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 内視鏡下良性乳腺腫瘍摘出術は,美容的に優れた術式であると同時に手術侵襲が小さく,手技が容易で,安全に行えることも重要である.われわれは23歳の女性,線維腺腫の症例に対し内視鏡下手術を施行した.その際,乳腺実質後面の浅在筋膜深葉を指標とし,乳腺後隙で浅在筋膜深葉のすぐ後面の剥離層より腫瘍に到達した.この到達経路は剥離が容易で,出血も少なく簡便に術野の確保が可能であった.手術時間は120分,出血量は5mlであった.術前検査にて,腫瘍が乳腺実質後面に存在する場合,この到達経路は侵襲も小さく有用であると思われた.

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 われわれは尿膜管臍瘻に対し,腹腔鏡下にて摘出術を施行したので報告する.症例は25歳の女性,主訴は臍よりの膿汁分泌であった.腹部CTにて尿膜管臍瘻と診断され,腹腔鏡下摘出術を施行した.トロッカーは右下腹部,臍下部やや右側,右側腹部にそれぞれ挿入した.腹腔鏡にて臍直下より正中尾側に長さ約4cmの嚢胞性病変を認めた.嚢胞頭側は臍直下にて結紮,尿膜管尾側断端は吸収クリップにて二重に結紮し,嚢胞を剥離・切離し腹腔内から摘出した.術後,順調に経過し再発や臍部の変形などを認めていない.本術式は従来の術式と比べて,患者への侵襲・美容上の問題といった点で優れており,尿膜管疾患に対する有用な術式であると考えられる.

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 症例は,中下腹部に計4回の開腹既往歴を持つ54歳の女性.結節集簇型,深達度mの早期盲腸癌に対して,腹腔鏡下盲腸切除術を施行した.最初の気腹および腹腔鏡用トロッカーは,腸管の腹壁癒着の可能性が最も少ないと考えられた右季肋下鎖骨中線上を小切開して挿入した.腸管と大網は腹壁正中創に広範囲に癒着しており,これらの剥離および盲腸〜下行結腸の授動には電気メスと超音波メス(AutoSonix®:オートスーチャー社)を使用した.盲腸はENDOGIA®を用いて切除したが,その際,Bauhin弁から回腸末端にかけての狭窄を未然に防ぐ目的で,大腸ファイバースコープをステントとして挿入した.術後,腸管の通過性は良好で,術後4日目に経口を開始し,12日目に退院した.

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 近年,腹腔鏡下手術においても総胆管直接縫合閉鎖術が施行されるようになったが,高度の手技を要することなどから,いまだに普及しているとは言い難い.今回われわれは,本来血管吻合用でクリップが内腔に露出しない特徴をもつVascular Closure Staple(VCS)を用いて腹腔鏡下総胆管直接閉鎖術を試みたので,その手技に関し報告する.これまで計8例において本法を施行したが,VCSによる腹腔鏡下の総胆管閉鎖は,今後,腹腔鏡下用の器具の改良や再発結石への関与などの検討が必要と思われるが,手技も容易で手術時間の短縮や合併症の軽減に有効となり得る可能性があると思われた.

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 手術器具の細径化に伴い腹腔鏡下胆嚢摘出術もneedlescopic surgeryの時代を迎えるに至った.しかし胆嚢を取り出す際には,依然として創を開大する必要がある.今回の試みは,細径鉗子下に切除した胆嚢を腹部の創を開大せず経膣的に取り出すものである.手術は砕石位で行い,ポートは臍上部3mm,心窩部5mm,側腹部2mm(2本)を用いた.内視鏡下に胆嚢摘出術を行ったあと,子宮を圧排し直腸子宮窩を視野に確保する.腟から後腟円蓋を経由し12mm径のポートを挿入し,ここからエンドキャッチを腹腔内へ持ち込み胆嚢を回収し,エンドキャッチごと体外へ引き出すものである.本法は腟壁の伸展が必要であるため,閉経前の経産婦がよい適応である.また,手技的にも容易で,筋膜や創部の縫合が不要であるため手術時間も短く,美容面でも優れ,疼痛も一段と軽い.適応は限定せざるを得ないが,細径鉗子の利点を活かせる新しい手技として広く認知されるべきと考えられた.

アンケート報告

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 長崎内視鏡外科研究会の関連13施設において,1994年1月から1995年12月の2年間に,胆嚢結石症に対して,腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下,LC)723例,開腹胆嚢摘出術(以下,OC)199例が施行された.LCとOCの合併症率に差はなかった.このうち,1998年11月,往復ハガキによる直接アンケートの回答が計67.8%得られ,LC群476例,OC群149例として解析した.OC群の平均年齢が有意に高いほか,炎症の程度など両群問にバイアスがあり,単純な比較はできないが,QOLは術後3〜4年経過した時点ではLC群で良好な傾向であるが,明らかな差ではなかった.一方,特に手術に対する満足度は,LC群で良好であった.総合的に,LCは推奨できる方法と考えられる.

基本手技シリーズ・15

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はじめに

 後腹膜腔は脊椎脊髄神経根が位置すると同時に,大血管,腎臓,空腸などを含む本来は大きな腔である.しかし一般には,後腹膜腔には経腹膜より背側の腹膜を切開してこれらの器官へ到達することが多い.その理由とは,視野の問題と自然腔でないために剥離操作が必要なためである.しかし脊椎の手術操作は,多くは非常に狭い腔で何度も同じ操作を繰り返すことが多いために,腔がつくられて維持されると小さな腔で十分に処置が可能である.それにより容易に後腹膜鏡視下手術が可能となり,術後の回復も従来法より早く,術後管理もしやすい.

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編集後記 北島 政樹
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 クリティカル・パス(CP)は1985年頃,ナースのKarenとZander(New England Medical Center)により開発されたものであり,これは米国の社会的医療背景の産物である.すなわち,1983年にDRG/PPSが導入され,医療ケアを標準化し,在院日数を少しでも短縮するために開発されたものである.今日では名称の混乱を招く恐れがあるので,あえて述べておくが,クリニカル・パスウェイが語源となるクリニカル・パスが頻用されている.

 ナースから始まったこのようなCPを医師はどのように捉えているのだろうか.CPを成功に導くためには医師をいかに取り込むかがポイントであると数多くのナースの専門書に記載されている.本邦ではCPの知名度および認識は未だ低く,実効性のあるCPの作成,実践には医師の積極的な参加が必須条件であるが,現時点では認識度は十分とはいえない.

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
5巻5号 (2000年10月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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