理学療法ジャーナル 52巻3号 (2018年3月)

特集 理学療法における動作のアセスメント

EOI(essences of the issue)
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 動作のアセスメントは,観察や分析結果をもとに,機能評価による裏づけを考え,動作を論理的に解釈し,検討することまでが含まれる.アセスメント対象となる動作は無数にあり,対象者の病態・年齢層も多様である.健常動作との比較だけではアセスメントは成立しない.動作のアセスメントは何に着目しどのように進めるのか,を命題に,高齢者・日常生活活動・速度因子の重要性・見えない阻害因子「痛み・心理要因」を取り上げ,「動作」の成因とともに多面的に考え,解説していただいた.

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はじめに

 本邦で昭和40(1965)年に制定された「理学療法士及び作業療法士法」には,「『理学療法』とは,身体に障害のある者に対し,主としてその基本的動作能力の回復を図るため,治療体操その他の運動を行なわせ,及び電気刺激,マッサージ,温熱その他の物理的手段を加えることをいう」と記載されている.この法律に定義された「理学療法士」とは,「厚生労働大臣の免許を受けて,理学療法士の名称を用いて,医師の指示の下に,理学療法を行なうことを業とする者」である.

 「治療体操その他の運動」を行うために機能・動作評価は不可欠である.本邦の1960年代のリハビリテーション関連雑誌には,脳卒中,脳性麻痺,脊髄損傷など,疾患別の病態,評価,動作練習ポイントを特集テーマに取り上げたものが多くみられた.徐々に疾患を特定しないテーマも取り上げられるようになり,臨床現場で動作時筋活動が分析の対象となったのは1960年代後半,動作分析・歩行分析が注目され,臨床応用・臨床研究が盛んになったのは1980年代である1,2).現在,理学療法の臨床あるいは臨床実習で動作観察や分析を行うこと,さまざまな手法があることはもはや常識である.

 「理学療法における動作のアセスメント」を特集するにあたり,その基本的な成り立ち,誰が何をアセスメントするのか,理学療法士がアセスメントする動作自体の意味も含め,あらためて考えてみたい.

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はじめに

 現在,高齢者に対するリハビリテーションは整形外科疾患をはじめ,さまざまな病態を対象としている.特筆すべきは,いずれの疾患に罹患した場合も在宅復帰率が改善され,最大80%以上まで復帰する医療施設もある.また,既往歴に着目すると,大腿骨頸部骨折と脳梗塞を異なる時期に罹患するなど,病態の異なる疾患を重複しながら日常生活を獲得している場合もあり,動作特性を分析するうえで動作分析やアセスメントとして判断することがさらに重要となっており,本稿では高齢者であるがゆえの動作特性をテーマに解説する.

 立位保持時間を例にすると,ロンベルグ試験の条件では若年者との違いは生じないものの,床面の形状がフォーム状で実施した場合,若年者よりも最大30%程度立位保持時間が減少してしまうことが報告されており1),動作環境の適応においても考慮する必要がある(図1).そこで本稿では,高齢者特有の動作特性や姿勢制御に関する特徴をいくつか整理し,対象者の個体差を精査するのに必要なポイントや環境設定での配慮について,実例を踏まえて解説する.

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はじめに

 日常生活動作のアセスメントでは,姿勢制御を背景にした動きの連続性,順序性,効率性,多様性など,「課題遂行時の質」を観察・分析することが重要である.アセスメントは,各課題における姿勢・運動の構成要素を把握し,環境との相互作用を考慮しながら実用的機能の獲得と対象者の潜在性を導き出すことが本質であると考える.具体的には機能的活動にかかわる筋・骨格系のアライメント,支持基底面,姿勢制御システムと運動パターンにおける関連性を観察・分析し,介入していくための重要なヒントを探ることである.

 課題分析においては,対象者の訴えや症状から病態を推測し,仮説に基づいて適切な課題・環境を選択し,最も効率のよい介入を決定していく臨床推論が重要となる.目標とする課題を全体的に捉えるだけではなく,各相に分けるなど部分的にも捉えて観察・分析していくことも大切である.

 着目するポイントとしては,効率的であるかどうかを考えることである.効率的なスキル(技能)の学習過程を積み重ねていくことが日常生活動作の改善につながると考える.

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はじめに

 歩行能力を再獲得することは,患者の社会参加や自宅での生活を支援するために重要な課題である.歩行は転倒のリスクを伴う動作課題であり,安全性を最優先に目標設定されることが多い.しかし一方で,「歩行練習の場面では50m歩けるのに,病棟での日常生活に歩行が活かされず,トイレへの移動には車椅子を使っている」,「家のなかでは歩いて生活をしているのに,屋外で歩くことが難しい」,「歩行が可能なのに,家ではほとんど歩かない」など,臨床では,このような患者を経験することが少なくない.いずれの場合も,動作能力としての歩行は可能であっても,その歩行が実用的な移動手段として用いられていないことを意味している.なぜ「動作能力としての歩行」と「実用的な歩行」との間に,このような乖離が生じるのだろう.

 「実用的な歩行」には,「歩くことができる」という動作能力以外に必要とされる能力が存在する.実用的な歩行に必要とされる能力には,凸凹や傾斜のある路面でも転ばずに歩くための「安定性」や,目的地まで連続して歩くための「持久性」,さらには,歩行の停止や開始,方向転換,歩行速度やステップ長の変更など,環境や動作課題からの変更要求に従い,いかなる瞬間からでも,連続的かつ自在に歩き方を変更するための「可変性」が必要となる.これらの能力を獲得しなければ,歩行動作が自力で可能になったからと言って,生活場面で実用的な歩行が可能になるとは限らない.

 このように,歩行の実用化には,クリアしなくてはならない課題がたくさんあることを理解しておく必要がある.そこで本稿では,実用的な歩行を獲得するために必要な能力について解説をする.

痛みと動作アセスメント 大住 倫弘
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はじめに

 痛みは直接的に運動を阻害する要因になるため,動作パフォーマンスを低下させてしまう.そのため,臨床現場で腰を曲げられない症例を観察した際に「単なる腰部の筋の短縮だけでなく,腰に痛みが出現するのが恐くて曲げられないだけでは?」という迷いが生じてしまう.

 加えて,長期的な痛みシグナルは中枢神経システムでの体性感覚処理プロセスを歪めるため,痛みや恐怖心とは異なるメカニズムで協調運動障害が生じる.本稿では,疼痛患者が有する“痛み”“恐怖心”“体性感覚システム障害”が動作をどのように阻害するのかについて概説し,上記のような動作アセスメントの迷いが少しでも解消されることを目的としている.

とびら

感謝! 上杉 雅之
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 筆者が大学の教員になってもうすぐ10年目となり,それまで勤務していた肢体不自由児施設の約半分の年月が過ぎようとしています.最初は不安に思っていましたが,いろんな方に助けていただいて何とかここまでやってきました.

 大学教員になるまでは,「症例研究」の論文などを本誌はもとより,「理学療法学」,「総合リハビリテーション」などにも掲載していただきました.また,名誉なことに本誌からは第15回「理学療法ジャーナル」賞の奨励賞をいただき,編集委員の方々と一緒にお食事をさせていただいたことを覚えています.論文採用までは査読者と何度もやりとりすることが必要ですが,そのおかげで文章能力などがスキルアップしました.査読者の方々に感謝!

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

割合と比,率 森下 元賀
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 疫学は「人間集団における疾病とそれに関連する要因の分布を明らかにする学問」と定義されている1).疫学で必要となるのは,集団における頻度の計算である.頻度は割合(proportion),比(ratio),率(rate)のいずれかで表されるが,日常で使用されている用語と疫学的な意味には乖離がある場合も多い.したがって,記述されている頻度が割合,比,率のいずれであるのかは意識して解釈する必要がある.

オリパラ関連企画 理学療法士が知っておきたい重要なスポーツ動作・3

頸椎捻挫と受け身 岡田 隆
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柔道における頸椎捻挫

 柔道では,発生した外傷6,572件中,頭頸部外傷はほぼみられなかったとする報告1)や,中高校生における頸椎捻挫の発生率は2.4%であったとする報告2)がある.このように,柔道において頸椎捻挫はその発生率こそ低いが,柔道が全身に大きな負荷のかかる格闘技であることや,頸椎捻挫が重篤な後遺障害につながる危険性を持つ外傷であることから,その予防策や発生時の対応策を準備しておく必要がある.

入門講座 歩行・3

脳卒中者の歩行の経過 増田 知子
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はじめに

 脳卒中者を対象とした理学療法において,歩行再建は最も大きな課題の一つである.しかし,同じ脳卒中であっても,損傷部位,障害巣の大きさ,発症からの時期によって呈する病態は大きく異なる.そのため,歩行再建という共通の目標に対しても,それぞれの病期に応じた介入が必要となる.

 本稿では,脳卒中者の各病期における歩行に関する問題点,およびその問題点に対する介入に必要な視点について述べる.

講座 知的財産権を知る・3

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はじめに

 本稿では,主にリハビリテーション分野における知的財産と,これに付随する知的財産権について,その概要,特に特許権・意匠権・商標権の権利化における注意事項,医療現場のアイデアに基づいた特許を取得し,これを具体的な製品とし,普及させるにあたって必要と追われる事項等を述べる.

 なお,昨今の福祉機器は,機械的な構成物だけでなく電気電子といった技術をも含むものも多く,さまざまな技術分野にまたがったものとなっていると考えられる.そこで本稿においては,技術分野全般に係る知的財産権の諸事項について多くの文字数を割くことをご容赦いただきたい.

臨床実習サブノート 歩行のみかた・12

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はじめに

 膝継手とは人工の膝関節にあたるものであり,切断者のコントロール下でその機能を代行しています.大腿切断者における歩行獲得には義足側での立脚の安定性が重要となります.安心して義足に荷重するには膝継手をいかにコントロールできるかが鍵となります.

 義足歩行の練習,特に初期における膝折れは,恐怖感を与え,義足への信頼が失われてしまう危険性が高く,不安感が強いと上手な義足歩行の獲得は困難となります.また近年,切断原因が末梢循環障害に起因している症例が増加,また高齢化も進んでおり低活動者に向けた安全性の高い膝継手が開発され実用化が進んでいます.

 立脚相での安定を図る膝継手を使うことで,随意コントロール能力が低い切断者でも膝折れを起こさずに歩行が可能となってきました.この安定を図る機構にはブレーキ構造,多軸構造等の種類があります.これらの機構を有効に発揮するには,その特性を十分に理解する必要があります.

甃のうへ・第56回

走る 佐藤 春美
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 2017年9月,4年ぶりにマラソン大会に参戦しました.3回の膝関節手術で,もう走れないとあきらめかけましたが,また走れたことに感動したゴールでした.その瞬間,人の身体は壊れるけれど,しぶとく回復する可能性を持っている“素晴らしさ”を強く感じました.それは自分自身の身体の可能性や,そこに至るリハビリテーションの過程を思い出させたのでした.そして,これこそが自分が理学療法士をめざした根源であることを思い出しました.人の身体動作の探究が理学療法士をめざす動機であり,今も理学療法士としての原動力です.

 そんな理学療法士人生もはや32年.持ち続けている身体動作への探究心ですが,2度ほど失いかけたときがありました.しかし,そのたび,さらに理学療法士人生への思いを強くしたように感じています.

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要旨 【目的】本研究の目的は電気刺激下での大腿四頭筋トレーニングが人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)術後早期の膝伸展筋力と歩行能力に与える影響を明らかにすることとした.【方法】TKA患者47名を対照群23名と介入群24名に無作為に分け,介入群には入院中のメニューに加え,電気刺激下での大腿四頭筋トレーニングを追加した.膝伸展筋力の評価には,術前後の徒手筋力計の数値に加え,術後の自動下肢挙上(straight leg raising:SLR)可能日を用いた.手術1か月前,術後4日目に膝伸展筋力,可動域,歩行速度,歩行時痛を評価し,さらに術後に杖歩行自立までに要した日数を調べた.【結果】2群間で基本属性や術前の膝機能および歩行能力に有意な差は認められなかった.一方で,膝伸展筋力術前比,SLR可能日,歩行時痛術前差,杖自立日には有意な差を認め,介入群では膝伸展筋力の向上と歩行時痛の軽減が得られ,杖自立までの日数も短縮した.【結論】電気刺激下での大腿四頭筋トレーニングは,膝伸展筋力を向上させ,早期の杖歩行自立につながる可能性が示唆された.

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要旨 【目的】足部回内外可動域および筋力と歩行時の下肢運動との関係を明らかにすることである.【対象】健常若年者18名とした.【方法】角度計と徒手筋力計を用いて足部回内外可動域・筋力を計測し,三次元動作解析装置と床反力計を用いて歩行時の下肢関節角度・内部モーメントを計測した.【結果】足部回内可動域が大きいほど,立脚期に股関節は伸展モーメントが大きく,膝関節は伸展位かつ伸展モーメントが小さく,足関節は回外位かつ底屈モーメントが大きかった.回内・回外筋力が大きいほど,足関節は回内位にあった.【考察】回内可動域が大きい足部は剛性が低いため,補完的に下肢関節を締まりの肢位にしており,回内外筋力が大きい足部は筋により安定性を保てるため,足部を緩みの肢位にして立脚していると推察した.すなわち,足部の安定性を補償するように歩行時の下肢関節運動が生じることが示唆された.

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文献抄録

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 本書を初めて手に取りページをめくるたびに笑みを浮かべる自分に気づいた.「そうそう,こんな本を待っていたのだ!」という嬉しさが思わずこぼれたのだ.

 シャウカステンに吊り下げられたX線写真にトレーシングペーパーで透写をさせられ,その行為に疑問を感じたことがある御仁は決して少なくないと思う.骨折線や臼蓋形成不全の部位を透写することに意味を見出せないなかで,その行為への適切な指導も示唆もなかった.医師の真似事をして何の意味があるのだという思いを持ちながら何年間も自己学習を進めるなかで,運動器障害の理学療法に必要な多くの情報が得られることがわかり,画像は今では欠かせない情報源の一つとなっている.医師が画像診断を行うのとは違い,私たちが画像を見る意味は,画像から損傷組織を推察し,運動療法を行ううえでの適応や禁忌(リスク)を考えるための重要な情報源であるからである.私たちが若かりしときに本書があれば,無駄なことを繰り返すような遠回りをせずに患者診療に画像情報が活かせたと思うと実に口惜しい限りだ.

目次

次号予告

編集後記 永冨 史子
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 はやいものでもう3月です.年々時の経つのを早く感じるのは,年をとったからだけではなくて日々の新鮮体験,ワクワクドキドキ感が子供のころほどないからだ,1日,1か月,1年の濃度が薄くなっているからだと何かで読んだことがあります.

 本誌編集委員会の企画会議は,個々の委員の理学療法士としての知識と経験,哲学をもとに繰り広げられる活発な意見交換がワクワクドキドキのすてきな時間です.本特集,「理学療法における動作のアセスメント」も熱いやりとりを経て,魅力的な内容となりました.理学療法における動作のアセスメントの成り立ちとは? そもそも動作とはどこまでを含むのか? その関連要因は?……その結果,アセスメントの対象を単一の動作や疾患に絞らず設定したタイトルに沿って,金子純一朗氏,北山哲也氏,石井慎一郎氏,大住倫弘氏に幅広く解説していただきました.「動作を評価して治療する,治療手段に動作課題を用いる」専門職として,動作遂行に関与し阻害する諸因子の幅広さ,見えないところまで考察するアセスメントの奥深さ,そして動作にとって大切なことは何か,読み取っていただきたいと思います.

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基本情報

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理学療法ジャーナル
52巻3号 (2018年3月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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