脊椎脊髄ジャーナル 28巻10号 (2015年10月)

特集 脊髄囊胞性疾患に対する外科治療

特集にあたって 飛驒 一利
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 脊椎脊髄の囊胞性疾患は,外傷,炎症,先天奇形など,さまざまな原因によって形成されるが,比較的まれな疾患であるもののMRIの普及により日常診療で遭遇することが多くなってきている.髄液との関係が深い疾患があるものの,ときに画像上,診断にまごつくものもあり,その症状もさまざまである.今回,囊胞性疾患の代表的なものを取り上げ,病態および治療法について,それぞれのエキスパートより各々の工夫を含めて取り上げていただいた.

 山口 智先生の脊髄くも膜囊胞は,くも膜囊胞自体がMRIで直接見えないことから,画像診断の難しさ,開創・切除範囲の決定,色素を使った術中診断,術後の画像と臨床所見の解離について述べている.

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はじめに

 脊髄くも膜囊胞は,その局在(硬膜内か硬膜外か),囊胞内神経組織の有無に基づいて3型に分類したNabors分類が広く受け入れられている4).このNabors分類によると,脊髄硬膜内くも膜囊胞は,type Ⅲ spinal intradural meningeal cyst(“intradural arachnoid cyst”)に分類される.また,原著によれば,「spinal meningeal cystは,脊髄髄膜の憩室であるが,命名法の混乱を避けるために,これらの憩室をcyst(囊胞)と呼ぶことにする」とある4).つまり,脊髄くも膜囊胞は,必ずしも全周が髄膜で取り囲まれた真の囊胞構造でなくとも,くも膜の隔壁病変や,憩室状病変であってもtype Ⅲ spinal intradural meningeal cystに含まれると解釈できる.一方,近年では脊髄背側の特発性隔壁状くも膜病変をdorsal arachnoid web(DAW)として独立疾患のように報告するものがみかけられる.しかし,DAW自体がくも膜囊胞の不全型である可能性も指摘されており5),おそらく過去の脊髄くも膜囊胞のシリーズにもDAWが含まれていた可能性が高い6,7)

 本稿では,Naborsのtype Ⅰ〜Ⅱに該当する硬膜外くも膜囊胞についての記載は他稿に譲り,DAWや局所性の特発性癒着性くも膜炎も含めた,局所性くも膜肥厚性病変を一括して,くも膜囊胞として扱い,診断や治療の問題点について検討する.

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はじめに

 脊髄硬膜外くも膜囊胞(spinal extradural arachnoid cyst:SEAC)は,先天的な硬膜欠損部からくも膜が脱出し,拡大することで硬膜外に囊胞を形成する疾患である2).SEACは,発生する脊髄高位によって異なるが,脊髄,神経根を圧迫することで,緩徐進行性の非特異的な神経症状を呈する.本稿では,SEACに関する基本的知識を概説した後,自験例を提示する.

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はじめに

 神経腸管囊胞(neurenteric cyst)は,胎生第3週頃の外胚葉(脊索)と内胚葉(前腸)の分離不全により生じる囊胞性病変である.Endodermal cyst,enterogenous cystとも呼ばれている.この病態を最初に報告したのはKubieとFultonで,1928年にさかのぼる16).全脊髄腫瘍の0.7〜1.3%にあたり,ほぼ90%は硬膜内髄外の囊胞性病変の形態をとり,残りの10%は髄内病変の形態をとる7).下位頸髄から上位胸髄レベルに好発し,脊髄披裂や椎体癒合などの脊髄脊椎奇形を伴うこともある.

 脊髄の腹側,正中部に存在することが多く,アプローチルートなど治療戦略については一定の見解がない.この稿では,自験例,過去の報告例をもとに,neurenteric cystの外科的治療法について考える.

Perineural(Tarlov)cyst 栃木 悟 , 谷 諭
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はじめに

 Perineural cystは,1938年に初めて報告したIsadore M. Tarlovにちなんで“Tarlov cyst”とも称される,後根から神経節にかけてのendoneurium(軟膜)とperineurium(くも膜)の間に形成される脊髄囊胞性病変である19).Meningeal cystはさまざまな観点から分類されていたが,Naborsら11)により整理され,extradural cysts without spinal nerve root fibers(Type Ⅰ),extradural cysts with spinal nerve root fibers(Type Ⅱ),intradural cysts(Type Ⅲ)に分けられ,今日の標準となった.Perineural cystは神経線維を含んでおり,Type Ⅱ cystに分類される.肉眼的には神経根鞘の拡張に見えるものであり,Tarlov cystのほか,“spinal nerve root diverticula”とも称されていた.多くの場合は偶然発見され,手術加療を必要としない病変であり,controversial lesionといわれる通り,その治療法に関して一定の見解は得られていない7)

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はじめに

 脊柱管内に生じる囊腫性疾患は,神経組織である髄膜由来のものと,髄膜以外の脊柱構造物より発生するものに大別され,後者では靭帯,椎間板,椎間関節包などが関連する.特に,椎間関節近傍に生じる硬膜外囊腫性病変は,これらの中でも頻度が高く,椎間関節の加齢変化を随伴し滑膜組織も含まれるため,synovial cystとして報告されているものが多い.しかしながら,同部位の病変はganglion cyst,pseudocyst,juxtafacet cyst,facet cystなどのさまざまな呼称もあり,椎間関節造影を含む画像診断法の種類や質,病理診断の有無と摘出標本の温存性,術中所見の観察状況など報告によって診断定義の差異も大きい.したがって,現在でも明確な分類や名称の統一化はされていないため,本稿では上記呼称を含めた椎間関節近傍の硬膜外囊腫性病変を,椎間関節囊腫(facet cyst)としてまとめ,外科治療法の選択や治療成績を含め概説する.また,本文中の解説ではできるだけ引用文献の呼称を使用させていただいたので留意願いたい.

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はじめに

 腰椎椎間板囊腫は,1997年に戸山らが,腰椎椎間板ヘルニアと類似する臨床症状と画像所見を呈し,椎間板造影で椎間板との明らかな交通がみられ,術中に囊腫による神経根圧迫を確認し得た7症例に関する詳細な報告を行った際に,新しい疾患概念として「椎間板囊腫(discal cyst)」という名称を提唱した2,15).本稿では,本症の病態,臨床的,放射線学的,病理学的特徴につき概説する.

Nomade

真摯に向き合うこと 下川 宣幸
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 現在,国内外のSpine関係の学会は数多く開催されている.学会に参加することで,その分野で活躍されている医師たちとの交流を図ることができ,また多くの新たな知識や最新の治療法などを見聞きすることができる.私個人は,この事実を頭ではわかっていたけれど,なかなか体感できずにいた.

 私は平成3(1991)年に大阪市立大学医学部を卒業し,同大学脳神経外科教室に入局した現在25年目の臨床医である.今振り返ると,医師になりたての頃は,学会参加および発表は苦痛でしかなかった.上級医師にスライド内容を何度も指導してもらい,医局会の予行演習でようやく教授の了承を得られた時点ですでに疲労困憊の状態であった.“いわれるがまま”の状態でいざ本番を迎え,会場からの質問に対し返答できずに,茫然と檀上に立ち尽くすといった失態を演じた経験がある.つまり能動的にその演題に向き合っていなかったのである.ある疾患(群)のその当時の標準的な病態学・診断学および治療を深く理解せず,発表をする意味・目的を明確に理解していなかったからである.学会発表という作業をしていたに過ぎない.会場にいても,勉強不足のため,ほかの医師たちの発表内容を理解できずに,ただ会場後方の席にぽつんと座っていただけであった.国際学会ではなおさらのことである.

イラストレイテッド・サージェリー 手術編Ⅱ-82

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手術適応

 頸椎後縦靭帯骨化症手術は,後方からの椎弓形成術が一般的であるが,骨化占拠率が50%または60%を超える大きな骨化の場合に,前方除圧固定術が適応される3).頸椎の側面alignmentが後弯を呈している例においても,椎弓形成術とは異なり中長期での成績低下が少ないのでよい適応である2)

Case Study 脊椎脊髄疾患—神経内科医の眼・2

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はじめに

 かゆみは「掻かずにはおられない行動を引き起こす不快な感覚」とされ,日常臨床においてしばしば訴えられる症状であり,通常,皮膚疾患や代謝性・内分泌性などの内科疾患が原因となる2,6)(表1).神経疾患ではあまり前景に立つ症状ではなく,原因として見逃されやすい.しかし,前回取り上げた帯状疱疹では痛みが注目されるが,持続性のかゆみが訴えられることがある7).さらに,多発性硬化症や視神経脊髄炎では一時的反復性のかゆみが訴えられることがしばしばあるし,その他の脊髄炎や脊髄腫瘍による症例報告も散見される8)

 一方,これとは別に,かゆみが脊椎脊髄疾患を悪化させる可能性がある.KiraとOchi5)はアトピーが関連した平山病について報告しており,筆者らは平山病患者が高率にアトピー性素因(と高IgE血症)を伴うことを見出した4)が,さらに,若年者においてアトピー性皮膚炎と軽度の頸椎症性変化とが関連していることも明らかにした3).これらの病態的関連は未解明であるが,アトピーに関連する病理過程が硬膜や脊椎の物理的特性を変化させるのではないかと思われるほかに,かゆみに対し頻回に引っ掻く動作をする際の首の前屈動作が影響しているのではないかとの仮説も立てている1).平山病における臨床情報の積み重ねからは,患者がギター愛好家で首を繰り返し前屈しているとか,サッカーのヘディングを頻回に行ったとか,頸部動作が誘因の1つと考えられる症例にしばしば遭遇する1)

 本稿では,かゆみに対する首の動作が頸椎症性脊髄症を悪化させたのではないかと強く疑われる症例(症例1)と,アテトーゼ型の脳性麻痺に伴う頸椎症性脊髄症により左体幹のかゆみが出現し,かゆみに対する首の動作により脊髄症が悪化したと思われる症例(症例2)を紹介する.

症例から学ぶ:画像診断トレーニング・第31回

症例:60歳代,男性 上谷 雅孝
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症例

 60歳代,男性.

 腰痛の精査のためMRIを撮影され,L3椎体にT1・T2強調像ともに低信号を示す領域があり,骨転移を疑われた(図1).原発巣検索のためFDG-PET/CTが撮影され,L3椎体に集積を認めた(図2).

問題

 T1・T2強調像ともに低信号を示す骨髄病変として考えにくいのはどれか?

 1)血管腫

 2)骨転移

 3)多発性骨髄腫

 4)悪性リンパ腫

 5)造血髄過形成

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編集後記

基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
28巻10号 (2015年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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