耳鼻咽喉科・頭頸部外科 90巻13号 (2018年12月)

特集 扁桃診療最前線—扁桃を取り巻く諸問題

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POINT

●口蓋扁桃は外来抗原を認識する場であると同時に,病原体侵入を許す「感染臓器」の側面をもつ。

●急性咽頭・扁桃炎の重要な起炎菌であるA群β溶連菌感染の有無について,臨床的スコアと溶連菌迅速検査を組み合わせて判断し,過不足のない抗菌薬治療を行う。

●急性咽頭・扁桃炎の重症度スコアリングシステムにて重症度を分類し,適切な初期治療を行うとともに3〜5日程度経過観察し,改善がなければ治療をステップアップさせる。

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POINT

●扁桃周囲膿瘍に対する治療は,適切な抗菌薬投与とともに穿刺排膿,切開排膿,即時扁摘のいずれかを行う。ドレナージ法はいずれを用いてもよい。

●扁桃周囲膿瘍から深頸部膿瘍へ移行した場合,口腔内からドレナージできる可能性があるのは傍咽頭間隙(茎突前隙)あるいは咽頭後間隙までである。ただし,下極型扁桃周囲膿瘍に由来する場合には,口腔内から穿刺あるいは切開排膿できる割合は高くない。

●外科的ドレナージの適応があるにもかかわらず,保存的加療のみで経過をみることは,縦隔炎,敗血症などの重篤な合併症を引き起こしかねないため,切開排膿の適応であれば積極的にドレナージを行う必要がある。

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POINT

●梅毒は現在患者数が急増中で,扁桃には梅毒特有の病変である初期硬結・硬性下疳・粘膜斑が生じるが,抗菌薬の投与や自然経過によって病変が消退し,潜伏梅毒に移行する場合がある。

●淋菌感染症による扁桃炎とクラミジア感染症による上咽頭炎には特徴的な所見が乏しく,診断には核酸増幅法を用いる。

●単純ヘルペスウイルス性扁桃炎の特徴的な臨床所見は,抗ヘルペスウイルス薬による治療を早期より開始するための手がかりとなる。

●ヒトパピローマウイルス陽性中咽頭癌の大半は口蓋扁桃が原発で,比較的低年齢者で増加傾向にあり,性行動の多様化による咽頭へのHPV感染が原因と考えられている。

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POINT

●扁桃病巣疾患は単純な感染症ではなく,扁桃を病巣とした自己免疫的機序が原因となっている。

●本疾患の代表であるIgA腎症,掌蹠膿疱症,胸肋鎖骨過形成症の病態と,扁桃摘出術の適応について概説する。

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POINT

●小児の閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)は,アデノイド肥大と口蓋扁桃肥大が原因となることが多く,治療の第一選択はアデノイド切除術と口蓋扁桃摘出術である。

●小児のOSAは,身体発育や学習能力,代謝や心血管系にも影響を及ぼすことがあり,手術適応があれば積極的に治療すべきである。

●成人のOSAは,病態を理解し,確実な閉塞部位診断を行うことができれば口蓋扁桃摘出術も治療の選択肢となりうる。

●閉塞部位は1部位とは限らず複数部位にみられることもある。よって,手術の際は手術方法は当然であるが,術前から周術期管理までのプランを十分に考えて行うべきである。

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POINT

●口蓋扁桃摘出術は大正から続く古典的手術であるが,初期のうちに指導されて以来自己流となることが多く,その方法は医師によって違う。

●今回は,筆者が思う安全で術後後出血を起こしにくい手術法について述べた。

●術後後出血は誰もが経験することであり,そのときの基本的な対応を示した。

●術後後出血の危険因子を見極め,術前,術後の対応に活かすべきである。

扁桃癌の病態と治療戦略 杉本 太郎
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POINT

●日本において,中咽頭癌は側壁に1/2,前壁に1/4が発症し,男女比は約5:1,好発年齢は60歳台で,扁平上皮癌が大部分を占め,2010年前後ではHPV関連癌(約90%はHPV 16型)が約半数を占めた。

●HPV関連癌は非関連癌と比べ予後がよく,最新の「頭頸部癌取扱い規約第6版」ではp16陽・陰性(HPV関連の有無)で中咽頭癌を分類するようになった。

●HPV関連癌のほとんどは扁桃癌であり,扁桃陰窩から発症して扁桃被膜の内部で静かに進行するため早期診断が難しい。頸部リンパ節転移は嚢胞変性をきたすことが多く,側頸嚢胞との鑑別が問題となる。

●HPV関連癌の他の特徴としては,①若年者に多い,②性行為との関係が深い,③病理は非角化型・basaloid・低分化型,④T分類は早期かつN分類は進行,⑤重複癌が少ない,⑥TP53は野生型,⑦EGFRの過剰発現がない,などが挙げられる。

●扁桃癌の治療は,将来的には臨床試験の結果に基づきHPV関連の有無で差別化して行われることになると考えられるが,現状ではこれらを区別せず,個々の症例の状態に応じて治療法を考慮することとなる。

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POINT

●悪性リンパ腫はリンパ組織・リンパ装置に発生することが多く,なかでも扁桃に病変が出現することはしばしば経験される。

●悪性リンパ腫と一言でいっても病理組織学的分類は多岐にわたる。治療は化学療法が中心となるが,組織型に応じて臨床経過・治療レジメンが大きく異なるため,生検検体による正確な組織診断を得ることが大切である。

●扁桃の腫大は良性疾患との鑑別が困難であることがしばしばある。悪性リンパ腫など悪性腫瘍による腫大が否定できない場合で,比較的増大速度が速い際は,診断を確定するために積極的に生検を検討すべきである。生検による確定診断が得られた際は,速やかに血液内科医に相談する必要がある。

Review Article

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Summary

●上顎洞癌は主に顎動脈から栄養されており,腫瘍に選択的に動注を行いやすいため,以前から動注化学療法が行われてきた。

●超選択的動注化学療法は,カテーテルを選択的に腫瘍の栄養血管に挿入し,そこから抗癌薬を動注する方法である。そのシスプラチンをチオ硫酸ナトリウムにて中和し,副作用を軽減することにより毎週動注を行い,同時に放射線治療を併用するRADPLATと呼ばれる治療の多施設共同臨床試験が進行中である。

●RADPLATは大量の抗癌薬の動注と根治線量の放射線照射を併用し殺細胞効果を期待する治療で,“三者併用療法”が少線量の照射により細胞性免疫能を賦活化ないし維持することを目的とするのとは異なるコンセプトである。

●RADPLATはIVR医の協力が得られれば導入可能であるが,細かなノウハウが多く,経験豊富な施設を見学するなど,十分に準備をしてから導入することが望ましい。

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はじめに

 脂肪肉腫は軟部組織に発生する悪性腫瘍である。その好発部位は四肢や後腹膜であり,頸部や縦隔が原発の脂肪肉腫は稀である。今回われわれは,頸部から縦隔まで進展した巨大脂肪肉腫の1例を経験したので報告する。

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はじめに

 椎骨脳底動脈循環不全(vertebrobasilar insufficiency:VBI)は,椎骨動脈系の一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)とほぼ同様の病態である。めまいを主症状とし,めまい以外の神経症状を伴うことがある。椎骨脳底動脈系の動脈硬化などによる狭窄・閉塞,血圧変動による血行力学的な異常,頸部の回旋による環椎・軸椎レベルでの椎骨動脈の圧迫,椎骨動脈起始部の奇形などによる椎骨脳底動脈系血流量の一過性減少,が原因と想定される病態1)を総称していると考えられている。治療薬は前庭機能改善薬としてのビタミンB12,アデノシン三リン酸(ATP),脳神経保護薬としてのエダラボン,脳循環代謝改善薬としてのイブジラスト(抗血小板作用も有する),ニセルゴリン,抗血小板薬としてのアスピリン,塩酸ジラゼプ,自律神経調整薬としてのトフィソパムなどが報告されている。耳鼻咽喉科診療所においては,MRI,MR血管造影(MRA),頸部血管超音波検査などの画像診断を即時に行いにくいため,初診時での確定診断が困難であり,治療方針も確立されていないのが現状である。

 こうした背景から,日本めまい平衡医学会にて作成された「めまいの診断基準化のための資料」2)の「病歴からの診断」に基づき,問診によりVBIの診断を行うチェックリストの作成を試みた。この問診チェックリストからVBIの重症度を数値化(VBIスコア)し,このVBI診断としての妥当性を検討した。

 病歴から診断したVBI群と,頭位変換によりめまいが誘発されやすいという症状においてVBIと類似している良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)症例に仮のVBIスコアを付けて非VBI群(BPPV確実例)とし,比較した。さらに内服療法を「ATP+イブジラスト」によって行い,治療経過中のVBIスコアとめまいによる日常障害度アンケート(Dizziness Handicap Inventory:DHI)のスコア3)を比較検討した。

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 第一線の診療にすぐに役立つ,最新の総合診療事典として出版された本書は約700ページの中に322項目を収載し抜群の網羅性を誇り,実に読みやすく理解しやすい構成となっている。事典の本来の目的である調べたい項目をチェックするだけでなく,現在のこの領域での医療の状況を確認する目的で通読しても良い。まさに耳鼻咽喉科・頭頸部外科の最良の治療指針である。

 総論として,患者の診かた(1章)や基本となる検査(2章)が記述されている。診療科の特殊性,専門性が再確認され,症状に合わせてどのように診断を進めるかをよく理解することができる。この領域の専門医のみならず,他科の医師にも非常に参考になると思われる。続いて3〜8章では,本書の大部分を占める疾患の解説,治療方法,薬の使い方の具体例,予後,患者説明のポイントが領域別に,詳細かつ簡潔に記述されている。限られた紙面に,よくこれだけの情報をまとめたものだと感嘆する。著者たちの英知の結集である。要所に挿入された写真や図表も疾患の特徴,診断の要点などをまとめており,理解に役立つ。次の9章では,本領域で扱う疾患の大部分が感覚器であるがゆえの機能低下・損失に対する医療機器による機能の代償が記述されている。この分野の進歩は近年目覚ましいものがあるが,現状での最先端の機種が紹介されている。そして10章で述べられているリハビリテーションも,機能回復には重要な医療であり,超高齢化社会がもたらす問題点でもある加齢による嚥下機能低下への対策も記述されている。すなわち疾患の治療のみならず,治療後の各種機能の保持に対する対応策の現状が解説されている。最後に付録として,研修カリキュラム,用語・手引き・診断基準,公的文書作成の補助が書かれている。至れり尽くせりである。

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目次

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あとがき 丹生 健一
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 京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル医学生理学賞を受賞されました。1987年の利根川進氏,2012年の山中伸弥氏,2015年の大村智氏,2016年の大隅良典氏に続いて5人目です。体内の異物を攻撃する免疫細胞の一種であるTリンパ球の表面に発現している「PD-1」という分子とその遺伝子を発見し,その分子が免疫の働きを抑えるメカニズムを解明して,免疫チェックポイント阻害薬の開発に貢献したことが受賞理由です。ちなみに,本庶先生は2013年に文化勲章も授与されていますが,このときはウイルスや細菌などの病原体に対してBリンパ球が最も適した抗体を作る仕組み「クラススイッチ」の理論を提唱し,抗体が作られるメカニズムを明らかにしたことが評価されたものでした。どちらも免疫に関することとはいえ,全く異なるテーマで医学・生理学の教科書を書き換える大きな成果を上げられていることは驚きです。

 本庶先生は,ノーベル賞受賞後の会見で「論文に書いてあることを簡単に信じちゃいけない。ネイチャーやサイエンスに出ている論文でも9割は嘘で,10年後に残っているのは1割」と述べられています。基礎研究者を志す若者へのメッセージではありますが,臨床においても教科書に書いてあったことがのちに否定されることは沢山あります。これから耳鼻咽喉科・頭頸部外科を学んでいかれる若い先生には,教科書や先輩の言葉を鵜呑みにせず,本庶先生が優れた研究者になるための大切な要素として挙げられている6つの「C」,好奇心 (curiosity),勇気(courage),挑戦(challenge),確信(confidence),集中(concentration),継続(continuation)を胸に,臨床と研究に当たっていただきたいと思います。

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基本情報

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科
90巻13号 (2018年12月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

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