耳鼻咽喉科・頭頸部外科 87巻13号 (2015年12月)

特集 漢方薬を使いこなす

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POINT

●虚実は副作用を予防するために重要な診断概念である。

●服用後の反応は,副作用も含めて,より適切な処方を選択していくためにも重要である。

●虚実を判別し難い場合は,より虚証の方剤から用いる。

●最初から1日3包を処方しない。1〜2包で開始する。

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POINT

●小児でも証はとる努力をする。実虚証・陰陽・寒熱は観察でもおおよそ判断できる。

●小児疾患には,漢方が飲めれば効く症状が多いので試す価値はある。

●薬を飲ませるコツ・混ぜるものなどの助言を保護者に説明すると内服率が上がる。

●急性期投与量はやや多く出してもよいが,継続期は年齢体格を意識し約0.1〜0.2g/kg/日で出す。エキス剤はアルミ外包でないと,湿気る内容もあるので保存指導が必要になる。

●耳鼻咽喉科の分野を意識するだけの「標治」だけではなく,望・聞・問・切診・舌診で五行=五臓の陰陽・状態が寒熱どちらか,気・血・水の不足・過剰も,ざっと把握し,体質の調整する「本治」もすると,「ほかの症状も軽快」することが漢方では期待できる。

漢方薬の副作用 萬谷 直樹
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POINT

●漢方薬の副作用は,瞑眩,誤治の概念やDLST偽陽性などによって理解が難しくなっていた。

●肝障害や肺障害はアレルギー性機序により用量に依存せず起こり,黄芩の関与が大きい。

●麻黄,附子,大黄,甘草,乳糖の副作用は1回量または1日量に依存する。

●特発性腸間膜静脈硬化症は山梔子での報告が多く,投与期間または総投与量に依存する。

《疾患・症候への処方の実際》

中耳炎 伊藤 真人
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POINT

●中耳炎には,急性中耳炎,滲出性中耳炎,慢性中耳炎があり,それぞれ異なる病態であることから,治療の考え方も異なる。

●急性中耳炎における漢方薬治療は,併用薬としての位置づけである。急性中耳炎の誘因である上気道炎をターゲットとして,初期には葛根湯または葛根湯加川芎辛夷が処方される。

●抗菌化学療法の限界ともいえる反復性中耳炎においては,抗菌薬治療を補完する治療として,十全大補湯などの補剤が有用である。合併する鼻副鼻腔炎の治療をターゲットとして,葛根湯加川芎辛夷や辛夷清肺湯,越婢加朮湯が用いられる場合もある。

●滲出性中耳炎に対する漢方薬治療では,病態を水毒と考えて利水作用のある処方を基本とする。鼓膜換気チューブ留置術というきわめて有効な治療法があることから,いたずらに漢方薬を含む保存的加療で病変を長引かせることは控えるべきである。

●小児滲出性中耳炎では繰り返す鼻副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の関与がある場合には,慢性炎症の治療目的に柴胡剤が用いられることがある。鼻副鼻腔炎に対して,葛根湯加川芎辛夷や辛夷清肺湯,荊芥連翹湯が用いられ,アレルギー性鼻炎に対しては小青竜湯などが用いられる。

●慢性化膿性中耳炎の急性増悪期は抗菌薬治療の適応である。しかし,頻繁に繰り返す場合や抗菌薬では有効性が乏しいときには,葛根湯加川芎辛夷,十味敗毒湯,排膿散及湯が用いられる。

●慢性中耳炎に対する保存的加療の原則は,あくまで手術加療を前提とした消炎治療であり,特に真珠腫性中耳炎では手術治療が第一選択である。いったん炎症が治まり中耳,鼓膜の乾燥化が得られれば,速やかに手術治療にて根治をめざすべきである。

耳鳴・難聴 小川 郁
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POINT

●耳鳴・難聴の診療では第一に正確な診断を行い,適切な治療法を選択することが重要である。

●耳鳴に対しては患者が抱えている心理的要因,苦痛度を把握し,患者それぞれに対応したテーラーメイド医療の一環として漢方薬を選択する。

●難聴,特に急性低音障害型感音難聴は漢方治療のよい適応であり,五苓散を中心とした利水剤を応用する。

●急性感音難聴に汎用されている副腎皮質ステロイドの補助役としての柴胡剤の利用を考える。

めまい 齋藤 晶 , 樋下田 香織
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POINT

●漢方薬は心と身体を一緒に整えるので,めまいに対する有効な治療手段である。

●危険なめまいを見落とさないために西洋医学的な診断は必要である。

●処方に迷ったら,半夏白朮天麻湯か苓桂朮甘湯を投与する。

●メニエール病に対する柴苓湯の投与は本質的な治療である。

●良性発作性頭位めまい症に対する特効薬はないが,漢方薬の効果は期待できる。

嗅覚障害 藤尾 久美 , 丹生 健一
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●当帰芍薬散の使用により感冒後嗅覚障害の治癒率が向上した。

●嗅粘膜性,末梢神経性,中枢性の嗅覚障害に有効である。

鼻アレルギーと副鼻腔炎 稲葉 博司
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POINT

●中等症以下の花粉症には小青竜湯から使用してみる。抗アレルギー薬との併用も可能である。

●くしゃみ,鼻漏型の花粉症には麻黄附子細辛湯を試みる。痒みを伴う中等症以上の花粉症には越婢加朮湯を優先する。

●急性〜慢性の副鼻腔炎には葛根湯加川芎辛夷から始める。膿性鼻漏が多い場合は辛夷清肺湯がよい。

●遷延する化膿性炎症の体質改善には荊芥連翹湯が有効な場合がある。この処方は慢性中耳炎や慢性扁桃炎にも応用できる。

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POINT

●漢方薬は口腔領域疾患のうち特に口腔乾燥症,口内炎,心身医学的要因による顎関節症,舌痛症や広義の口腔内不定愁訴に有用とされる。

●口腔乾燥症には白虎加人参湯,麦門冬湯が汎用される。

●口内炎には立効散,半夏瀉心湯,黄連湯,茵陳蒿湯などが用いられる。半夏瀉心湯は化学療法に伴う口内炎の治癒を促進させるとのエビデンスがある。

●味覚障害に対しての漢方薬の適応は確立されていないが,小柴胡湯,補中益気湯,半夏瀉心湯や黄連解毒湯などが用いられる。

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POINT

●咽頭炎・扁桃炎の診療の中心となる六病位は主に,表〜半表半裏の症状が関連する太陽病期・少陽病期・少陰病期である。

●急性咽頭炎・急性扁桃炎では小柴胡加桔梗石膏や桔梗湯がカバーする証が広く使いやすい。

●感冒による咽頭炎の初期治療に漢方を用いる際は,太陽病期か少陰病期を見極め,前者ならば葛根湯,後者ならば麻黄附子細辛湯を用いることが多い。

●習慣性扁桃炎の発作予防には柴胡清肝湯が使いやすく,PFAPA症候群などの周期性発熱を呈する自己炎症性疾患にも効果がある可能性がある。

頭頸部癌 山下 拓
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POINT

●頭頸部癌に対する漢方治療は,あくまで補完的な支持療法であり直接の抗腫瘍効果を期待するものではない。

●化学療法に伴う急性期の嘔気・嘔吐や急性期の骨髄抑制などは,漢方薬の前に西洋薬を第一選択とする。

●頭頸部癌患者の基本処方として三大補剤の投与は,さまざまな症状の改善に有効で治療意欲の向上にも寄与する。

●口内炎に対する半夏瀉心湯治療は局所効果が主体となるため,含嗽することが重要である。

●六君子湯,大建中湯,半夏瀉心湯などは,効果発現のメカニズムがかなり詳細に判明しており,臨床でのエビデンスも蓄積されてきている。

咽喉頭異常感 三枝 英人
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POINT

●咽喉頭は,呼吸・消化管の道であり,下顎骨とともに脳頭蓋から吊り下げられる自由度をもった器官である。

●呼吸,消化管運動,姿勢制御は互いに影響し合いながら機能的にもさまざまな咽喉頭症状を呈しうる。

●咽喉頭異常感に対する漢方処方を行う前に,咽喉頭異常感の誘因となった機能的な病態を可能な限り検討することが重要である。

●数回の診療で効果が得られなくとも,繰り返し診察,問診を行うことにより,真の病態へ近づかんとすることが重要である。

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書籍本体とDVD(動画)によりESSの基本から応用までがよくわかる

 このたび医学書院より,『内視鏡下鼻内副鼻腔手術—副鼻腔疾患から頭蓋底疾患まで』が刊行された。鼻の慈恵と言われた伝統を受け継ぐ,東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科森山教室の総力を挙げた鼻の内視鏡下手術の集大成である。鼻副鼻腔手術で鼻外手術から鼻内手術,そして内視鏡下の手術へと至る,歴史を踏まえた,内視鏡手術の全てがわかりやすく解説されている。

 本手術の基本概念は,鼻腔の形態を是正し,副鼻腔の換気と排泄の改善を図り,副鼻腔の空洞性治癒と洞内粘膜の炎症の軽減を目指すことであると,総論で述べられている(本文6ページ)。この目的を達成するためには,(1)副鼻腔の単洞化,(2)洞内粘膜の保存,(3)鼻腔形態の是正(鼻中隔彎曲の矯正を含む),(4)中鼻甲介・上鼻甲介の保存,が必要となる。本書はこの基本的な考え方をもとに,低侵襲で精度および患者満足度の高い治療を求めて術式の改良が行われた結果の書である。

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はじめに

 斜鼻は軟骨性斜鼻と骨性斜鼻,またはその両者が合併したものに大別される1)。いずれの斜鼻であっても,中等度以上の鼻中隔彎曲症を伴うことが多いため,手術に際しては整容面の整復だけでなく,鼻閉の解除という機能面の改善も同時に達成されることが望ましい。しかし,骨性斜鼻に対して鼻骨骨切り術と鼻中隔矯正術を一期的に施行することは,術後に鞍鼻を起こすなどのリスクが懸念され禁忌とされてきた2)。近年,佐久間ら3)は鼻中隔矯正時に鼻尖側を8mm,鼻背側を10mm以上の範囲で鼻中隔軟骨を温存することで,両者の一期的手術が可能であると報告した。しかし,その際に選択される鼻中隔矯正術はKillian法であるため,鼻中隔前彎が高度な場合は適応外とされている。このたび,鼻中隔前彎を伴う骨性斜鼻に対して,hemitransfixion approachを用いた鼻中隔矯正術4,5)を適用することにより,鼻骨骨切り術と鼻中隔矯正術を一期的に施行し良好な結果が得られたので,本症例の術式および臨床経過について報告する。

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はじめに

 頭頸部領域のclear cell carcinomaは稀な腫瘍で,小唾液腺に多いとされる。今回われわれは内視鏡下に経口的に摘出した口蓋小唾液腺由来のclear cell carcinomaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

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はじめに

 甲状腺癌は原発巣が一部囊胞状を呈することは稀ではないが,頸部リンパ節転移巣が囊胞所見を示すことはきわめて稀である。しかも,原発巣には囊胞性変化がなくても転移巣が囊胞を形成することがある。その際には側頸囊胞,鰓性囊胞癌やHPV感染性扁桃癌の転移などとの鑑別も必要となる。今回われわれはそのような2症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

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はじめに

 エナメル上皮腫は歯原性腫瘍の1つであり,1827年にCusackら1)によって初めて報告され,1930年にIveyら2)によって病理学的検討がなされた。良性腫瘍として位置づけられているが,局所再発率が高いことが知られており,2〜5%の症例で遠隔転移が起こることも報告されている3,4)。本腫瘍の発生母地は顎骨内の歯原性上皮であり,通常は歯牙と連続した形で発生するが,今回われわれは歯牙と離れた場所に発生した上顎エナメル上皮腫の1例を経験したので報告する。

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あとがき 小川 郁
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 10月5日,北里大学特別栄誉教授大村智博士のノーベル賞受賞が決まりました。ノーベル平和賞にもノミネートされていましたが,本道の生理学・医学賞受賞ということで,賞賛が日本中を駆け巡りました。興奮もさめやらぬ翌日の10月6日には,ニュートリノ振動の発見により東京大学の梶田隆章教授がノーベル物理学賞を受賞されました。個人的には村上春樹氏のノーベル文学賞の受賞が続かなかったことが残念でしたが,今後のわが国の科学研究推進の必要性を示す素晴らしいダブル受賞になりました。

 さて,ノーベル生理学・医学賞ですが,思い起こせば,北里研究所と慶應義塾大学医学部の創始者である北里柴三郎先生がドイツ留学中に破傷風菌の純粋培養に成功し,その血清療法を確立したことで,第1回のノーベル賞候補になりました。時代的な問題もあり,残念ながら受賞を逃しましたが,1世紀を経て大村智博士が受賞されたことは,北里柴三郎先生の学志を受け継いだ成果として,大変意義深いものがあります。

人名索引

基本情報

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科
87巻13号 (2015年12月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

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