耳鼻咽喉科・頭頸部外科 83巻13号 (2011年12月)

特集 治りにくい症状への対応

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Ⅰ.はじめに

 治りにくい耳閉感や耳鳴りの原因は,その大部分を感音難聴が占めるが,耳管開放症は,物理的な原因でありながら,治りくい耳閉感,自声強調,自己呼吸音聴取などが続き,治療に難渋する疾患の一つである。

 耳閉感,耳鳴の苦痛は,①難聴が進行するのではないか? 耳閉感(または耳鳴)があるために聞こえにくいのではないか? (聴器病変不安型),②頭に悪影響を及ぼすのではないか? 脳に病気があるのではないか? (頭蓋内病変不安型),③耳閉感(または耳鳴)そのものがうっとうしい(感覚苦痛型)の3パターンに分けられる。まずはじめに,治療可能な疾患であればそれに対する治療を行う。その後は,不安の原因となる器質的疾患の除外診断,疾患に対する間違った概念の修正を行っていく。患者の苦痛を和らげるためには,心身医学的アプローチも効果的である1)

治りにくい浮動感・めまい 肥塚 泉
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Ⅰ.はじめに

 末しょう性めまい疾患の予後は比較的良好であることが知られている。特に一側性の末しょう性めまい疾患においては,中枢前庭系が有する強力な代償機能(前庭代償)によって左右の前庭系に生じた不均衡が修復されるからである。しかしながら,さまざまな薬物療法に対して抵抗性を示してめまい発作を繰り返したり,程度の差はあれ,めまいやふらつきが持続する症例が少なからず存在する。また末しょう性めまい疾患であっても,両側障害例では前庭代償による修復が不完全なため,ふらつきや平衡障害が持続しやすいことが知られている。これらのいわゆる“慢性めまい”はその発症パターンから,間歇期を有しながら症状を繰り返す反復型1)と常時めまいやふらつきを感じる持続型2)とに分類される。さらに持続型は,症状が改善傾向を示す改善消失型,変化がない不変一定型,症状が進行する悪化進行型,改善と悪化を繰り返す寛解増悪型に分けられる3)。反復型にはメニエール病や良性発作性頭位めまい症などが相当し,持続型には前庭神経炎の代償障害例などが当てはまる。本稿では主に,末しょう性めまい疾患を原因とする慢性めまいへの対応について述べる。

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Ⅰ.はじめに

 咳嗽にしろ,咽喉頭異常感にしろ,いずれも慢性の状態になると治りにくい要因はいくつかあるが,そのなかで最も注意しないといけないのは持続する症状が生命予後にかかわる重篤な疾患が原因でないかを念頭に置くことである。すなわち耳鼻咽喉科領域では咽頭癌,喉頭癌,喉頭結核などを,他科の疾患として咳では肺癌,肺結核,肺線維症など呼吸器疾患を,異常感では食道癌,胃癌など消化器疾患を見逃さないことである。特に咽喉頭異常感を訴える患者の約7割が癌不安を抱いている1)。そうした関係から,いずれの受診患者も少なからず癌恐怖にとらわれていることを認識しておく必要がある。

 また,咳にしろ,異常感にしろ,局所に明確な所見がなく慢性化する特有の疾患がそれぞれあるので,それらを熟知しておくことは治療効果を高めるうえで有力な支援となる。

 いずれの症状においても次に問題となるのが,心因性など精神疾患である。これらの原因では症状がこじれると患者との人間関係が損なわれ診療に支障をきたすことがあるので要注意である2)

 これら2症状について耳鼻咽喉科臨床において有益な要点をまとめて示す。

治りにくい後鼻漏 三輪 高喜
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Ⅰ.はじめに

 後鼻漏とは鼻汁が上咽頭に流れ落ちる状態を指すが,鼻汁は通常,1日に1~1.5リットル分泌されており,それを自覚することはあまりない。患者が自覚症状として後鼻漏を訴える場合,「鼻がのどに降りる」,「のどに鼻(痰)が引っ掛かる」と表現することが多い。また,鼻副鼻腔や咽喉頭に後鼻漏の原因となる明らかな疾患が存在する場合と,存在しない場合とがある。このように厄介な症状で,一見,複雑にみえる症状であるが,できるだけシンプルに分類して考えることにより,治りにくい後鼻漏と,治すことが可能な後鼻漏とに分けられることに気付く。本稿では,まず原因別にその病態と対応を述べ,最後に診断の手順について考察する。

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Ⅰ.はじめに

 日常診療において唾液分泌異常を訴える患者は少なくないが,その原因の究明・治療に際し,しばしばその対応に苦慮する。最も多い症状は口腔乾燥症状で,次いで唾液分泌過剰(流涎症)を訴える例,唾液自体に違和感を感じる例などさまざまである。口腔乾燥症状の内訳は,実際に唾液分泌低下を認める例,乾燥症状はあるが唾液分泌機能は保持されている例,また不定愁訴としての「のどの渇き感」,唾液の粘稠度や成分の変化によるもの,全身的な疾患の一症状としての乾燥感が挙げられる。一方,唾液分泌過多を訴えて受診する場合は,ストレスなど心因的な背景を有する例が多い。

 本稿では,唾液分泌異常の実際と診断,治療について耳鼻咽喉科の立場から当科での経験をふまえ解説したい。

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Ⅰ.はじめに

 従来,嗅覚・味覚障害は他の感覚障害と比較して重要視されず,基礎・臨床研究に遅れが否めない領域であった。近年,quality of life(QOL)への要求が増すにつれて嗅覚・味覚異常で医療機関を受診する患者が増加してきた。それとともに基礎研究は飛躍的に進んできている。しかし,いまだ臨床に関しては治療法の選択肢は少なく,基本的な治療に抵抗する症例では対応に苦渋することが多い。

 嗅覚・味覚障害はさまざまな要因によって改善率や予後は異なる。近年,症例が集積してきたことで予後因子や改善率についての臨床報告も増加し,明らかにされつつある。

 通常,嗅覚・味覚障害の治療期間は6か月間を目安にすることが多いが,転帰をいつ決定するか判断は難しい。治療直後には改善せず,嗅覚・味覚脱失で,その後,無治療のまま経過したにもかかわらず,数年後には改善した例も経験することから「もう治らない」と決めつけてしまうのも問題である。

 今回は嗅覚・味覚障害の予後を予測する因子を列挙し,治療や対応について言及していきたい。

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Ⅰ はじめに

 放線菌症は微好気性ないし嫌気性グラム陽性菌であるActinomyces islaelliが原因の慢性化膿性肉芽腫性疾患である。耳鼻咽喉科領域では咽喉頭および頭頸部領域に好発する。しかし,頭頸部領域の中で鼻副鼻腔領域に限局する放線菌症は稀である。今回われわれは上顎洞に限局した放線菌症を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

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Ⅰ はじめに

 コレステリン肉芽腫は,その発生部位より乳突腔を母地とする中耳コレステリン肉芽腫と錐体部に発生する錐体部コレステリン肉芽腫に大別される。中耳コレステリン肉芽腫はしばしば遭遇する疾患であるが,頭蓋内に進展することは稀である。今回われわれは,左乳突腔から発生し,頭蓋内に進展,2次的に脳膿瘍を形成した1症例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する。

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Ⅰ はじめに

 扁桃周囲膿瘍は,口蓋扁桃周囲に生ずる膿瘍であり,急性扁桃炎,扁桃周囲炎が進行して生じる。降下性壊死性縦隔炎や縦隔膿瘍,敗血症などの致死的な疾患を続発することもあり1),早期に適切な治療を行う必要がある。扁桃周囲膿瘍の治療としては,排膿処置,抗菌薬による化学療法が必要であるが,これらの選択に関するガイドラインはわが国では存在しない。抗菌薬の選択に関しては海外のガイドラインに則って治療をしても支障がないことが示されている2)。排膿処置に関しては,近年,穿刺排膿の有用性が報告されている3)。当科では原則として穿刺排膿を選択しており,限られた症例のみ切開排膿を行っている。そこで,今回われわれは,穿刺排膿による治療の有効性を検討した。

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Ⅰ はじめに

 甲状腺疾患において,前頸部の皮膚瘻孔をきたしうるものとして,悪性腫瘍や結核1,2)によるものがあるが,通常,皮膚瘻孔は治療することなく改善することはない。今回,われわれは前頸部皮膚の発赤・瘻孔を主訴に来院し,甲状腺癌が疑われた症例で,本人の強い希望で経過観察したところ,自然経過により皮膚の発赤・瘻孔が改善した稀な症例を経験したので報告する。

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Ⅰ はじめに

 顔面神経麻痺は臨床の場においてしばしば経験する疾患である。一般に原因不明であるベル麻痺,ウイルス感染を原因とするラムゼイ・ハント症候群が多く認められるが,いずれの場合も良性の疾患であり,副腎皮質ステロイド,抗ウイルス薬を含む治療法がある程度確立されている。しかしながら,治癒率は必ずしも高くはなく,外来において長期にわたる経過観察が必要となる場合も少なくない1,2)。一方,稀に悪性腫瘍を原因とした顔面神経麻痺が認められる。耳下腺癌などの頭頸部領域の癌では,腫瘤や痛みなどによる自・他覚的所見が得られやすいこと,顔面神経に近接した部位に原因疾患が存在する場合は,画像検査で診断することが可能である。しかし,原発巣が頭頸部領域外である場合,PETなどの全身検索が必要となり,しばしば診断が困難である。また,原発巣が不明の場合,良性疾患であるベル麻痺と診断され,長期にわたり悪性腫瘍が無治療のまま放置される危険性がある。今回われわれは顔面神経麻痺を初発症状とし,側頭部腫瘤手術の術前検査において偶然に肺の原発巣が発見された症例を経験した。顔面神経麻痺の原因に悪性腫瘍を念頭におくことの重要性を示すために本症例の経過を報告する。

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Ⅰ.はじめに

 オランダの友人Dr. Paul Knegt(以下,K君と書く)の博士号審査取得の式典は,1987年12月4日に行われた。私は審査員として出席することを要請された。少し,古いことであるが,オランダでは,同じスタイルで現在でもこの式典が行われているので,思い出して書いてみたい。

 東大に佐藤靖雄教授(図1)がおられた頃,オランダ,ロッテルダム市のエラスムス大学からK君はやってきた。ロッテルダム市はオランダ第2の都市でヨーロッパ最大の港ユーロポートをもつ。ルネッサンスの人文学者Erasmusの故郷である。K君は,上顎癌の三者併用療法を学びたくて,ユリアナ女王研究資金を申請して許可され,東大耳鼻咽喉科に1974年12月にやってきた。私は佐藤教授から命ぜられエラスムス大学の耳鼻咽喉科主任教授からの依頼状の返書の代筆などをやったせいで,K君の教育係りとしてつきあうことになった。彼は,日本にくると,どこも見物などをせず,4か月,集中して,東大の外来,手術場で,実際に手を下して患者の治療の実施を覚えた。資料集めやその翻訳は私がお手伝いをした。来日して間もなく正月となった。困ったことに,当時正月の3箇日は東京の街中でレストランや食堂が閉じてしまう。外国人は帝国ホテルにでも行かないと食事にありつけないという変な時代だった。私は,2DKの公団住宅のわが家に彼を招待して,正月料理をふるまった。こうして,彼は4か月間がんばって,佐藤教授の三者併用療法の真髄を学びとった。

 エラスムス大学に帰ると,頭頸部腫瘍が専門のDe Jong教授のもとで,上顎癌外来を開始し,三者併用療法をはじめた。そして,Sato療法と題して,その成果を次々と発表した。Satoという名は,フランドルの地(オランダ,ベルギー,ルクセンブルグ)で有名な日本人医師としてとどろきわたった。K君は12年たったところで,その成績を博士論文にまとめたのである。私は,佐藤教授の名代として審査員の資格で,K君の栄誉ある式典に参加することになった。

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あとがき 小川 郁
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 最近,環太平洋連携協定(Trans-Pacific Partnership:TPP)についての国を2分する議論が沸騰しています。学術雑誌の「あとがき」に政治的話題はそぐわないとは思いますが,ちょっとだけ話題にさせていただきます。TPPとは加盟国の間で工業品や農業品を含む全品目の関税を撤廃し,政府調達,知的財産権,労働規制,金融,医療サービスなどにおけるすべての非関税障壁を撤廃し自由化する協定です。単に貿易での関税撤廃だけではなく医療サービスにおける障壁も撤廃しようとするもので,日本医師会としては「医療分野については,TPPへの参加によって日本の医療に市場原理主義が持ち込まれ,最終的には国民皆保険の崩壊につながりかねない面もあることが懸念される」,「混合診療の全面解禁により公的医療保険の給付範囲が縮小する,ひいては患者の支払い能力による治療の格差を生みだすもの」と指摘し,国民皆保険を一律の「自由化」にさらすことのないよう強く求めると述べています。原則的にはTPP加盟には反対の立場です。しかし,超高齢社会を迎えて世界に冠たる日本の国民皆保険をどのように維持すべきか,従来の制度を守ることだけを考えていいのか,TPP加盟の是非を含めて医療の分野でも真剣に検討すべき瀬戸際にきているような気がします。

 さて,今月号の特集は「治りにくい症状への対応」です。日常診療の場では頑固な症状に難渋することが多くなっており,これらの治りにくい症状の背後には抑うつや不安などの心理的要因が介在していることを念頭に診療を行う必要があることがよくわかります。原著は「上顎洞放線菌症」,「側頭骨巨大コレステリン肉芽腫」,「腺腫様甲状腺腫」,「肺腺癌の側頭骨転移」の症例報告と「穿刺排膿による扁桃周囲膿瘍」と題した扁桃周囲膿瘍に対する穿刺排膿の有用性を検証した論文です。いずれも臨床の現場で参考になる力作揃いです。鏡下囁語はオランダ・エラスムス大学における博士号審査式に審査委員として出席した小林武夫先生の回顧録です。ソクラテスの問答法を踏襲して現在も一般公開で行われている博士号審査式ですが,さすがといえる中世ヨーロッパが生み出した素晴らしい文化を感じます。ぜひ一読していただきたいと思います。

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基本情報

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科
83巻13号 (2011年12月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

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