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最近,環太平洋連携協定(Trans-Pacific Partnership:TPP)についての国を2分する議論が沸騰しています。学術雑誌の「あとがき」に政治的話題はそぐわないとは思いますが,ちょっとだけ話題にさせていただきます。TPPとは加盟国の間で工業品や農業品を含む全品目の関税を撤廃し,政府調達,知的財産権,労働規制,金融,医療サービスなどにおけるすべての非関税障壁を撤廃し自由化する協定です。単に貿易での関税撤廃だけではなく医療サービスにおける障壁も撤廃しようとするもので,日本医師会としては「医療分野については,TPPへの参加によって日本の医療に市場原理主義が持ち込まれ,最終的には国民皆保険の崩壊につながりかねない面もあることが懸念される」,「混合診療の全面解禁により公的医療保険の給付範囲が縮小する,ひいては患者の支払い能力による治療の格差を生みだすもの」と指摘し,国民皆保険を一律の「自由化」にさらすことのないよう強く求めると述べています。原則的にはTPP加盟には反対の立場です。しかし,超高齢社会を迎えて世界に冠たる日本の国民皆保険をどのように維持すべきか,従来の制度を守ることだけを考えていいのか,TPP加盟の是非を含めて医療の分野でも真剣に検討すべき瀬戸際にきているような気がします。
さて,今月号の特集は「治りにくい症状への対応」です。日常診療の場では頑固な症状に難渋することが多くなっており,これらの治りにくい症状の背後には抑うつや不安などの心理的要因が介在していることを念頭に診療を行う必要があることがよくわかります。原著は「上顎洞放線菌症」,「側頭骨巨大コレステリン肉芽腫」,「腺腫様甲状腺腫」,「肺腺癌の側頭骨転移」の症例報告と「穿刺排膿による扁桃周囲膿瘍」と題した扁桃周囲膿瘍に対する穿刺排膿の有用性を検証した論文です。いずれも臨床の現場で参考になる力作揃いです。鏡下囁語はオランダ・エラスムス大学における博士号審査式に審査委員として出席した小林武夫先生の回顧録です。ソクラテスの問答法を踏襲して現在も一般公開で行われている博士号審査式ですが,さすがといえる中世ヨーロッパが生み出した素晴らしい文化を感じます。ぜひ一読していただきたいと思います。
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