臨床整形外科 51巻10号 (2016年10月)

誌上シンポジウム 高気圧酸素治療の現状と可能性

緒言 川嶌 眞人
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 1834年,フランスのジュノーは銅製高気圧酸素治療装置を作製し,さまざまな疾患に対して高気圧酸素治療法を初めて行ったという報告がある.その後,この治療法はフランスを中心に発展し,1861年,オランダのブルンメルカンプによるガス壊疽治療への応用によって初めて本格的な治療法が開始された.

 1963年にはアムステルダムで国際高気圧酸素治療学会が開催され,日本でも1966年に第1回日本高気圧環境医学会が開催された.

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 高気圧酸素治療(HBO2)は,溶解型酸素の増大効果によって低酸素組織を酸素化する,比較的安全性の高い治療法である.コンパートメント症候群は,内圧上昇により局所循環不全や神経・筋障害を発症し,局所は低酸素環境に陥るが,HBO2により局所低酸素環境の改善,腫脹軽減,末梢循環動態により病態を改善できる.このため,国際的にも適応疾患として認められている.スポーツ外傷でも同様に局所が腫脹し微小循環が傷害されるが,HBO2により病態の改善が図られる.基礎研究では,骨格筋や靱帯損傷における再生過程の促進が報告されている.

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 高気圧酸素治療(HBO)には細菌に対する直接的な抗菌作用,白血球の殺菌作用の亢進,抗菌薬の作用増強,虚血性軟部組織の創治癒促進,骨吸収・形成能の促進などが報告されており,われわれは骨髄炎の治療において抗菌薬に加えHBOを併用してきた.軽症例ではHBOなどによる保存的治療で感染が鎮静化することもあるが,重症例では外科的治療を必要とし,われわれは病巣の搔爬と閉塞式局所持続洗浄療法を行っている.近年は創処置や持続洗浄療法の洗浄液にオゾンナノバブル水を使用する試みを行っている.今後,症例を重ねて,その有用性の検討を行っていきたいと考えている.

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 糖尿病性足病変に対するhyperbaric oxygen therapy(HBO)の効果は,2015年に発表されたCochrane Database Systematic Reviewでもrandomized control trial(RCT)で下腿潰瘍の顕著な改善効果が認められており,現行の保険診療における適応疾患として実臨床において実施可能である.

 この有効性メカニズムとして,酸素の細菌に対する直接的な殺菌・静菌効果,白血球の貪食能改善効果と抗菌薬作用増強効果,さらに創傷治癒促進効果,疼痛軽減効果,浮腫軽減効果,骨髄炎治療効果と多面的に複合的な効果をもたらすことがわかっている.保険診療下に低い点数で,医療機関として高気圧酸素治療装置を維持するのは大変困難であるが,第1種および第2種高気圧酸素治療装置を有する治療施設では糖尿病性足病変に対して,早期からの積極的な活用が望まれる.

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 脊髄神経疾患の多くは脊髄神経や馬尾・神経根に対する機械的圧迫や循環障害が引き起こされることによる炎症状態,疎血状態が本態であり,高気圧酸素治療(HBO)が傷害組織への酸素供給や浮腫の軽減,脈管新生などの血流改善をもたらすことから脊髄神経疾患に対する保存療法としても有用であろうと考え,われわれは臨床研究を進めてきた.

 本研究により,とくに腰部脊柱管狭窄症,神経根症に対するHBOの有効性が示唆された.HBOが脊髄神経疾患に対する保存療法のスタンダードとなるには,大規模な多施設研究を要し,またハード面の整備,世間への啓蒙など,数多くの課題があるが,症例によっては非常に有効な治療法になり得るので,今後,世間に広めていければと考えている.

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 壊死性軟部組織感染症は,適切に治療されなければ死亡率30〜70%の致死性疾患である.高気圧酸素治療は,クロストリジウム性ガス壊疽に対しては,嫌気性菌の発育とα毒素の産生を抑制し,生命予後は大きく改善した.壊死性筋膜炎に対しては,白血球の抗菌作用の増強,嫌気性菌のみならず好気性菌の発育を抑制,低酸素状態の軟部組織の創治癒促進,抗菌薬の作用の増強などで,死亡率や切断率の減少につながることが報告されている.壊死性軟部組織感染症の治療において,全身集中管理のもと,早期の適切な外科的処置と抗菌薬の使用に高気圧酸素治療が併用されれば,死亡率や切断率の減少などの治療成績の向上が期待される.

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 高気圧酸素治療(hyperbaric oxygen therapy;HBO)は,骨折,骨接合,骨移植,仮骨延長などの動物実験モデルにおいて,X線像,骨密度,骨塩量などの解析からHBOは骨量を増加させ,また骨の破断試験から骨強度を上げ,骨形態計測から骨形成を亢進させることが明らかにされている.一方,臨床では,骨折の多様性や治療法の違いなどからHBOの有効性を示すことは難しいが,仮骨延長法や骨移植などでHBOの有効性が報告されている.遷延性骨癒合などに対し電磁波や超音波による保険診療が行われているが,HBOは骨形成を初期の段階から促進し,創傷治癒を妨げる血行障害や感染にも治療効果があることから,難治性骨折などの切り札として保険適応が期待される.

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 「レントゲン撮っているのに,病名ないぞ!」と医長の先生に叱られて,私をはじめ多くの若い先生が保険診療の存在を意識していったことだと思います.しかしながら,日々の診療と学問に追われ,レセプトチェックの際に査定されない病名を登録するところまでで,多くの勤務医の保険診療に対する興味も知識も終わっているのが現状でしょう.

 かく言う私も,最近になり徐々に必要に迫られて勉強しはじめた次第です.今,この拙文をお読みいただいている先生の何割の方が“DPC(診断群分類別包括評価)は何の略?”に答えられるでしょうか.答えはDiagnosis Procedure Combinationなのですが,診断名があって,次に必要とされた手術・処置と組み合わせて包括評価部分の診療報酬を決定する仕組みで,まさに皆さんがチェックされているDPCツリー図そのものです.

Lecture

最近の鏡視下腱板修復術 大西 和友
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はじめに

 腱板断裂に対する鏡視下手術は,1988年にEschらが腱板断裂に対する鏡視下肩峰下除圧術(ASD)を報告したのを皮切りに,鏡視下+mini-open法が普及し,1997年になってGartsmanらやSnyderが初めて鏡視下腱板修復術を報告した.その後,鏡視下手術の普及に伴う手術手技や使用インプラントの向上により,近年では直視下やmini-open法と同等以上の成績も報告されている1).日本肩関節学会が行ったアンケート調査によると,2014年度に本邦で施行された8,426例の腱板障害に対する手術のうち鏡視下手術は約85%を占めており,現在に至っては,腱板修復術における関節鏡技術の習得はもはや必須なものであるといえる.

 鏡視下手術の利点は低侵襲性ばかりではなく,関節内や滑液包側いずれも良好な視野のもとに正確な病態把握と手術操作が可能であることが挙げられる.事実,これらの鏡視下手術の普及に伴い,従来少ないと考えられていた肩甲下筋腱断裂が高頻度にみられることや2),上腕二頭筋長頭腱(以下,LHB)が関節内で肥大することにより結節間溝部で滑走障害を生じる新たな病態が確認されるようになっている3).したがって,鏡視下腱板修復術を行う際には棘上筋・棘下筋のみではなく肩甲下筋腱断裂やLHB病変を的確に診断し,それぞれに適切な修復や処置を行うことが重要である.本稿では,筆者らの術式の変遷および現行の術式を紹介する.

整形外科/知ってるつもり

骨粗鬆症に伴う疼痛 射場 浩介
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はじめに

 骨粗鬆症の最も重大な臨床症候は,骨折とそれに伴う疼痛,骨格変形である1).また,骨粗鬆症患者における腰背部痛は,日常生活動作レベルを決定する重要な因子である2).骨粗鬆症財団のアンケート調査結果3)によると,33%の骨粗鬆症患者に腰背部痛を毎日認め,70%に週に1回以上の腰背部痛の発症を認めていた.さらに,腰背部痛を有する患者の80%が日常生活の制限を自覚しており,90%以上が「日常生活で困っている」と回答していた.このことは骨粗鬆症患者の診療において,腰背部痛の治療が重要であることを示している.

連載 慢性疼痛の治療戦略—治療法確立を目指して・1【新連載】

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はじめに

 慢性疼痛に対して再び痛みが出るという恐怖心から破局的思考が発生すると,これが活動低下や不動に繋がる.このような痛みに対する過剰な回避行動は,筋力低下・筋萎縮,骨密度低下,関節拘縮などの廃用性変化を来し,これによって痛みが増悪して,痛みにさらに過敏になるという痛みの悪循環が生じる(図1)1)

 廃用症候群は,安静臥床や不活動状態が持続することにより生じ,運動器系では,筋萎縮,関節拘縮,骨萎縮が発生する.廃用症候群はこのような運動器系の他に,循環器系,呼吸器系,内分泌系,泌尿器系,消化器系,皮膚系,そして感覚障害,抑うつなど精神・神経系と全身に起こり,しかもこれらは,相互に関係し悪循環する2)

 本稿では,運動器,とくに筋と骨の廃用萎縮とその予防について述べる.

連載 「勘違い」から始める臨床研究—研究の旅で遭難しないために・13

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 連載第9回(50巻10号)では,患者の視点に立脚したアウトカム指標としての健康関連QOLの重要性について,定量的な研究にも活用できること,主観的で曖昧な指標として科学的ではないととらえられがちな点について解説しました.また,超高齢者が抱える慢性疾患は根治しないことが多く,医療の目標が,根治からQOLの改善へと変化している時代的な背景についても解説しました1,2)

 さて,今回は実際にこのQOL指標を活用して行った研究を例にして解説します.

連載 東アフリカ見聞録・10

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 日本の四季は世界遺産ものだ.10月のこの時期,山あいや高原が紅香る黄金に包まれてくる.夏のひと時,強い陽射しを受けていた木々は,中秋の柔らかな日光に包まれ黄金に輝き,やがて紅の葉は自然に還る.遠く白山の頂もそろそろ雪化粧をはじめる.自宅脇にあるポタジェの蜜柑の木は今年も橙色の実をたくさんつけている.朝夕冷え込むこの時期,天空の城という幻想的な景色が話題になる.“バビロンの空中庭園”のような雲海に浮かぶ都市は,実は山岳国家ルワンダにもあった(“キガリの朝霧”[拙著「東アフリカ事情・中巻」].

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背景:手根管症候群(CTS)における電気生理学的重症度の役割を調査した.

対象と方法:外来でCTSと診断された1,082手の重症度(Stage 1〜5)の分布状態と,各Stageでの手術/非手術選択率を検討した.

結果:最多はStage 4(34%)で,Stage 1→5と重症度に並行して手術選択率が増加し,Stage 5で有意に高かった(p<0.0001).

まとめ:電気生理学的重症度評価は治療法選択の目安になりうる.

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目的:人工股関節全置換術(THA)後において共通の退院基準を満たして退院した患者の術後成績に,入院期間による差があるかを検討した.

対象:THA後3日間で退院した変形性股関節症(股OA)女性患者33名(3日パス群)とTHA後5日間で退院した股OA女性患者33名(5日パス群)とした.

結果:両群間の術前,退院時および術後2カ月の成績には,有意な差が認められなかった.

まとめ:THA後3日パス群においても5日パス群と同様の機能回復となり,さらに術後合併症も増加せず安全な退院が可能と考えた.

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背景:片開き式頚椎椎弓形成術(ELAP)術後後弯発生と術前全脊椎アライメントとの関係は不明な点が多い.

対象と方法:術前頚椎後弯のない頚髄症患者でELAPを施行した23例を対象とした.術後後弯群,非後弯群に分類して術前術後の全脊椎アライメントを比較検討した.

結果:後弯群は,C7 plumb lineから仙骨後方隅角までの距離(SVA)は小さく,C2 plumb lineからC7椎体中央までの距離(C-SVA)は大きく,骨盤形態角(PI)が小さいにも関わらず大きな腰椎前弯角(LL)を呈していた.また,後弯群は,術後に第1胸椎傾斜角(T1-slope)と胸椎後弯角(TK)が増大し頚椎は後弯化していた.

まとめ:頚椎後弯発生例では術前SVA,PI-LLが小さく,C-SVAが大きかった.

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背景:凍結肩に対するステロイドの肩甲上腕関節内注射は,疼痛,可動域を有意に改善するとの過去の報告は散見されるが,本邦での報告は少ない.

方法:2009年9月〜2014年7月に受診した凍結肩20例21肩を対象とした.肩甲上腕関節内にステロイドと局所麻酔薬を注入し,治療成績を検討した.

結果:夜間痛消失までの治療期間は平均7.7週であり,屈曲,外転,外旋は初診時と比較して1カ月で有意な改善を認め,内旋は2カ月で有意に改善した.

まとめ:ステロイドの肩甲上腕関節内注射は有効な治療法である.

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欧文目次

INFORMATION 第47回日本人工関節学会

投稿規定改定のお知らせ

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 CBT(cortical bone trajectory)法に関する,昨今ではみることが少ないモノグラフである.もちろん,CBT法がめずらしいのではない.この本の構成である.まず,少数著者の手による.章立てはCBT法の基礎から臨床(実際),そして応用となっている.基礎編では,その成立要件となる解剖とバイオメカニクスが著者らのデータに基づいて記載されている.実際編では,術前準備から始まる腰椎CBT法の手技がイラストを多用してわかりやすく説明されている.そして,著者らの治療成績が多面的に評価され示されている.多くの経験から得たパールなどが囲み記事としてあるのも読みやすい.さらに,応用編がある.仙椎や胸椎での本法の基礎と実際も多くのイラストがあり親切である.多椎間固定や外傷への応用,またsalvageとしての本法の使い方,さらには現在,大きな問題となっている骨粗鬆椎骨での工夫がそれぞれ基礎と実際に分けて記載されている.

 新しい手術手技やそのためのシステムが次々と開発される時代.これに関わる情報の伝わり方も慌ただしい.たとえば,出版,新しい術式について,多数の著者が分担執筆する雑誌の特集やムック.これらが次々に出され,その速報性は有用なものの,その実際はどうするのか,ピットフォールは,本当に成績はいいのか,といった疑問が少なからず残る.疑問を残したまま,商業主義の勢いに流されて新しい術式に飛びつくのは危うい.他方,新しい術式に従来法にある問題が解決されるのではないかとの期待を抱く.といっても,新しい術式の疑問点を突き詰めようとすると結構面倒である.また,ぴたりとした答えはなかなか得られない.

INFORMATION 第9回THA再置換セミナー

次号予告

あとがき 仁木 久照
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あとがき

 8月21日,Rioオリンピックが無事閉会しました.テロを心配しながらの大会でしたが,史上最多のメダル獲得という日本人選手の大活躍に大いに元気をいただきました.寝不足の毎日が続いたのではないでしょうか.残念ながら目標達成には至らなかった選手も含め,関係者の方々,本当にご苦労様でした.4年後はTokyoオリンピックです.資金難や準備の遅れなどの懸念材料もありますが,勤勉でまじめな日本人ですから,おそらくよい方向に向かうでしょう.また,多くの整形外科の先生方がいろいろな形でご参加,ご支援されるものと思います.ご活躍を心よりお祈りいたします.

 さて,今月の誌上シンポジウムは「高気圧酸素治療の現状と可能性」で,川嶌眞人先生が企画されました.コンパートメント症候群,スポーツ外傷,化膿性骨髄炎,糖尿病性足病変,脊髄神経疾患,クロストリジウム性ガス壊疽や壊死性筋膜炎などの壊死性軟部組織感染症(NSTI),難治性骨折に対する高気圧酸素治療(HBO)の現状と可能性について述べられています.HBOの適応となる各疾患の病態,各疾患に対するHBOの作用機序,現行の保険診療下での適応とエビデンス,さらに国内外の実情も踏まえ,HBOの現状が凝縮されています.保険診療においてHBOは決して高い点数ではありません.治療装置の設置には高額な費用を要し,また毎年の点検管理料がかかるため,医療機関が装置を維持するのは大変困難で,HBOを受けられる施設は限られます.本企画を通して,普段接する機会が少ないHBOに対する知識と認識を深めていただければと思います.

基本情報

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臨床整形外科
51巻10号 (2016年10月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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