臨床整形外科 51巻9号 (2016年9月)

誌上シンポジウム THAのアプローチ

緒言 尾﨑 誠
  • 文献概要を表示

 人工股関節置換術(THA)は,近代整形外科で最も成功した手術の1つである.Charnleyの人工股関節から50年以上が経過したが,デザインや材質の進歩,特にクロスリンクポリエチレンの登場は,摺動面の摩耗と人工股関節のゆるみを減少させ,近年の人工股関節の成績を劇的に向上させた.人工股関節の成績の向上は,比較的若年者を含めた人工股関節の適応拡大につながり,人工股関節の手術件数は年々増加している.一方で,ゆるみ以外の,脱臼,感染,骨折,痛みによる人工股関節の再置換頻度は,海外のレジストリーをみても以前とそれほど大きな差がなく,これらはさらなる人工股関節のデザインや材質,アプローチを含めた手術手技の改良により,今後克服すべき課題である.

 人工股関節のアプローチに関する論争は,これまでも定期的に国内外の学会でトピックスとして取り上げられてきた.結局のところ,複数の術式に精通したうえで,それぞれの術者が最もストレスなく,患者の状態に合わせて最も安全,確実に手術が行えるアプローチを選択すればよい,という結論でこれまで決着がついてきたように思う.最近の約10年間では,より早い回復をめざした低侵襲手術,最小侵襲手術(MIS)に患者と医師の関心が集まり,皮切のサイズや位置,専用レトラクターの開発,軟部組織の展開や補強修復方法といったさまざまな改良が人工股関節のアプローチに加えられた.さらに股関節周囲の解剖学的な知見にも裏打ちされ,人工股関節のデザインや材質の進歩と同様に,人工股関節のアプローチもまた飛躍的に進歩している.

  • 文献概要を表示

 人工股関節全置換術(以下,THA)におけるアプローチは,単に股関節に到達するための“アプローチ”というよりも,むしろ術式の主要部分の1つである.どのようなアプローチを行うかによって人工股関節の安定性や機能が影響される.良好なTHA後成績を得るにはアプローチに対する理解が重要である.THAにはさまざまなオプションがあるが,アプローチ方法の選択により人工股関節の種類が制限される場合もある.この中で,後方アプローチは汎用性に優れており,さまざまなTHAでも対応可能である.また操作性も高く,これまで最も多く使われてきた.しかしながら,前方系のアプローチと比較すると術後後方安定性に劣り,閉創時の後方軟部組織修復が重要である.

  • 文献概要を表示

 前方進入法は,後方進入法より股関節機能の回復が早いとされる唯一の最小侵襲手術であり,現在でも,世界各国で広がりつつある.手技的には,大腿神経に接近する臼蓋前壁へのレトラクター挿入に注意すること,股関節包内下方の血管処理を忘れないこと,カップやステムの過前捻設置に注意することなどが重要である.さらに,この進入法の導入時には,やせ形の女性で,軽度の臼蓋形成不全を有する,可動域のよい症例を選択することが大切である.特に,前方からの挿入には,扁平楔状型のステムが適している.

  • 文献概要を表示

 Anterolateral modified Watson-Jones approach(MIS前側方進入法;OCM)は,Birtin,Röttingerらにより提唱された前側方進入による筋非切離小侵襲人工股関節置換術である.この外科進入法の特徴は,前外側,すなわち大腿筋膜張筋と中殿筋の間から進入する筋間進入法であり,少なくとも背側の短外旋筋群を傷害しないために,術後の人工股関節(後方)脱臼をかなり低減することが可能となる.手技の習得には習熟曲線が存在するとされるものの,いったん手技を取得すれば,ほぼすべての初回人工股関節置換術,再置換術に適応できるためその有用性は高いものである.

  • 文献概要を表示

 Anterolateral(AL)-Supine approachによる人工股関節全置換術(THA)112関節を対象とした.手術時平均年齢:64.4歳,女性91例/男性12例,BMI:23.0kg/m2,原疾患:全例二次性変形性股関節症,平均追跡期間:37カ月であった.インプラント設置精度と安全性,脚長補正と関節安定性の獲得に関する手術手技の是非について検討した.カップ安全域内設置(Lewinnek):98.2%,カップ外転角40±5°設置:76.8%,前稔角15±5°設置:69.7%,ステム前捻角:32.2°であった.術後脚長差(10mm未満):92.1%,術後脱臼は認めなかった.AL-Supine approachにおいて,綿密な3D術前計画,正確なインプラント設置,術中脚長差の確認,筋間進入と適切なオフセットの選択による軟部組織緊張の保持により,過度な脚延長なく適切に脚長補正がなされ関節安定性も獲得された.

  • 文献概要を表示

 当院では人工股関節置換術(THA)手術にあたって,患者の体型,変形の程度,骨盤の形態,術前の脚長差などを考慮して,Mini-One,Hardinge,OCM(Orthopädische Chirurgie München)の3つのアプローチを使い分けている.

 アプローチはすべて側臥位の前外側アプローチで共通しており,Mini-Oneアプローチで十分に経験を積むことができれば,muscle sparingで行うOCMアプローチへ円滑に移行できると考えている.また再置換まで対応可能なHardigeアプローチにも対応できる.全例muscle sparingで手術を行うことは理想的であるが,幅広い症例に対応可能な基本的なアプローチとして,Mini-OneおよびHardingeは確実に習得すべきアプローチ法と考えている.

  • 文献概要を表示

 人工股関節置換術に対する側方アプローチの代表である“Dall approach”について説明する.股関節の展開は良好で,どのような症例(初回,再置換にかかわらず)にも適応できる.また,後方の軟部組織が温存できるため,後方脱臼に対して抵抗性を示すと考えられる.しかし,中小殿筋を展開するため一過性の外転筋力低下が起こるという欠点もある.とはいうものの,再置換術などにおいて本アプローチから,extended trochanteric osteotomyなどに移行することも可能であり,非常に有能なアプローチと考える.

  • 文献概要を表示

 人工股関節置換術(THA)の仰臥位外側アプローチには,ソケットを正確に設置できる長所がある.大転子を切離するCharnleyアプローチは,特に大腿骨側の展開に優れているが,大転子癒合不全例が数%あることが欠点で,特に骨接合部の条件が悪い再置換術では不利である.そこで,MISから再置換術まで応用可能な大転子非切離仰臥位外側アプローチを行っている.大転子非切離でのCharnley THAは耐用性が劣るので,大転子非切離でも良好な耐用性が報告されているExeter THAを用いている.大転子非切離とインプラントが異なること以外は,Charnleyの基本原理に準拠している.

大転子切離アプローチ 田中 千晶
  • 文献概要を表示

 大転子切離アプローチは,初回人工股関節全置換術と再置換術も含めて広い術野で正確なimplantの設置を可能にする汎用性の高いアプローチである.とりわけ難易度の高い複雑な原臼位再建術や大腿側再建術には有用である.局所解剖を理解して大転子の切離と固定を行えば,22mm骨頭を使用しても術後の脱臼率は低い.大転子の固定には必ずモノフィラメントステンレスワイヤーを使用し,マルチフィラメントワイヤーやリングピンは使用しないことと,再置換術の場合には大転子フックなどの追加固定を行うことが重要である.

  • 文献概要を表示

 転子下骨切り術は,脚長や前捻調整,大腿骨の変形矯正が必要な人工股関節全置換術には,習得しておくべき手術法である.脱臼性股関節症で3cm以上骨延長となる症例や,扁平骨頭に伴う大転子高位例,小児期の手術後変形や長期股関節拘縮例において,軟部組織緊張が高く3cm未満の脚延長でも整復できない場合に適応されることが多い.ステムはセメントレスの場合,遠位がフルートなどで回旋固定性に優れ,5cm以上遠位大腿骨に接触できるものを選択する.遠位髄腔が拡大してセメントレスで固定が得られない場合は,セメント固定を選択する.

Lecture

運動器検診はじまる 古谷 正博
  • 文献概要を表示

はじめに

 学校での健康診断において2016年度から始まった「運動器検診」について,今回改訂された「児童生徒等の健康診断マニュアル」を中心に解説する.現在問題となっている子どもの運動器をめぐる二極化,すなわち「運動をし過ぎてスポーツ外傷・障害を起こす子ども」と「スポーツや外遊びをせず体力の低下を来す子ども」に対して適切な指導が行われ,子どもたちの運動器に将来への禍根が残らないように「学校健康診断における運動器検診」が十分に機能するためには,運動器の専門家である整形外科医の果たさなければならない役割は重大である.

  • 文献概要を表示

はじめに

 運動器では,静的な状態にある組織における細胞老化に加えて,機械的刺激やそれに伴う組織変性(劣化)・力学的負荷の持続により関節構造の変化や関節支持組織に変性が生じる.腰痛症を例にとれば,X線での腰椎椎間板高の減少や骨棘形成が生じ,腰椎の変性を画像に客観的に診断することができる.外来診療において,腰痛がある患者にX線を示し,「椎骨のクッションが完全になくなっていることが痛みの原因です」と説明することはよく行われるが,これは運動器疾患に伴う痛みの客観的診断として必要十分なものではない.本稿では,運動器疼痛の客観的診断および,最近の薬物治療についても紹介したい.

連載 東アフリカ見聞録・9

  • 文献概要を表示

 ウガンダ西部のアルバート湖からエドワード湖,南に下ってタンガニーカ湖,マラウイ湖はちょうど西部大地溝帯(West Great Rift Valley)に沿う,いわば地球の“皺”あるいは“ほうれい線”のようなもので,その南,ウガンダ西部からルワンダは幾千幾万の丘陵や高原地帯となっている.熱帯雨林ではあるが,蓼科や阿蘇草千里のような山岳・丘陵も地平線まで続いているというような特殊な風景である.それでも熱帯雨林なのだ.その熱帯雨林の中にあるムバララ大学に勤務する,ムラゴ(病院)の知り合いでスーダン系ルオ族のデヨ医師を訪ねていくことにした.外傷医学教育システム・ネットワークの強化のためである.

 ウガンダ西部の主要都市・ムバララ市は人口十万人ほどであり,ヨウェリ・ムセベニ現大統領の出身地である.住民は首都では多数派のガンダ族ではなく,バンツー系ニャンコレ族が多い.彼らはかつて強大な最大部族ブガンダ王国やブニョロ王国と鼎立するアンコレ(Ankole)王国を建国した人たちである.ウガンダに加えケニア,タンザニア,東アフリカ全般に放牧されている,大きな2本の角を生やした牛をニャンコレ牛というが,この地方の原産である.

  • 文献概要を表示

背景:脊柱後弯に対する運動療法効果を評価するため,健常者による脊柱後弯モデルを作成し,腰部筋疲労を表面筋電図学的に検討した.

対象と方法:健常成人男性12名を対象に通常立位,後弯立位,後弯立位で重錘を把持(後弯5kg)の3条件でL1/2,L4/5高位の腰部筋活動を比較した.

結果:% maximum voluntary contraction(%MVC)は両高位で後弯5kgが他の条件に比べ有意に高かった.Median frequency(MF)変化率は,L4/5高位で後弯5kgが他の条件に比べ有意に低かった.

まとめ:筋疲労の定量的評価が可能な本モデルは,脊柱後弯に対する運動療法考案に有用と考える.

  • 文献概要を表示

背景:頚椎症性脊髄症(以下CSM)の治療で用いる椎弓形成術は安定した長期成績を得られるが,術式間での手術成績とその費用について検討された報告は少ない.

対象と方法:CSMに手術を行い,術式を前向きランダム化し観音開き式椎弓形成術:18例,棘突起還納式椎弓形成術:13例の31名を対象とした.成績は日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(JOAスコア)を用い術後2年で検討を行った.手術費用についても検討を行った.

結果:術前後のJOAスコア,改善率に有意差はなかった.手術費用は観音開き式のほうが有意に低かった.

まとめ:観音開き式は還納式と比較し,同じ手術成績が得られ,費用を低減できる.

  • 文献概要を表示

 腰椎椎間板囊腫に対して内視鏡下摘出術を施行し,その詳細を観察し得た.症例は32歳男性で,左下肢痛を主訴に当院を受診した.MRIでL3椎体後面に,L2/3椎間板と連続したT1強調像で低信号,T2強調像で高信号,STIR画像で高信号を示す病変を認めた.保存的治療に抵抗性を示したため,内視鏡下摘出術を施行した.L3神経根直下に表面が軟らかく,暗赤色の囊腫を確認し,これを摘出した.囊腫は白色の薄い被膜を有し,椎間板尾側と明らかな連続性を有しており,内視鏡下にこれを詳細に観察できた.

  • 文献概要を表示

 症例は54歳男性で,両下肢麻痺が出現し,MRIで食道後方から胸椎にかけて腫瘤がみられ,脊髄を圧迫していた.麻痺が進行性のため,後方除圧固定術を行った.術中検体では確定診断に至らず,CTで腫瘤が左主気管支と接していたため,経気管支鏡下生検を行い,食道原発(gastrointestinal stromal tumor:GIST)の胸椎浸潤と診断した.術後放射線治療やスニチニブによる分子標的療法を行ったが,多発肺転移のため術後208日目に永眠した.

--------------------

欧文目次

INFORMATION 第47回日本人工関節学会

  • 文献概要を表示

 本書を机に置いておくと,そのカラフルな表誌が目に飛びこんでくる.思わずページをめくりたくなる色彩である.そして,その意のままに開いてゆくと,ほとんどの各項目が見開き2ページにうまく収められ,左手に解説文,右手に鮮やかなカラーイラスト(+写真)が配置され,統一性を見せている.

 さて,その内容は,体の各部位別に7つに分け記述している.それぞれが,適応と目的・手術手技・術後管理とリハビリテーション・予後・そしてアスリートが最も重要視する競技復帰の項目に沿って書かれている.なかでも,運動器の四肢を中心に書かれている項目では,最小侵襲手技—関節鏡を駆使した治療を,最も汎用性の高い膝関節・肩関節領域では最新の手術法の紹介がなされている.加えて,脊椎外科・膝/股関節の人工関節にも及び,高齢社会のスポーツ活動にも言及している.

INFORMATION 第9回THA再置換セミナー

INFORMATION 第7回関東MISt研究会

INFORMATION 第43回関東膝を語る会

次号予告

あとがき 金谷 文則
  • 文献概要を表示

 この原稿を書いている7月末の沖縄は暑いと思われる人もいるでしょうが,最高気温がニュースになる関東圏に比べると海風がある分,過ごしやすく感じます.今年は台風がまだ2つしか発生していません.観光シーズンに台風は困りますが,沖縄は夏に降雨が少なく台風が来ないと水不足になることがあり,また海水の攪拌が起こらず珊瑚の白化現象を生じるため,夏の台風はある程度必要です.高気圧の影響により7〜8月の台風は先島諸島から東に進み,10月の台風は西に進むことが多いようです.南シナ海の諸問題も台風一過で解決するとよいのですが.

 本号の誌上シンポジウム「THAのアプローチ」は長崎誠先生の素晴らしい企画です.以前であればTHAには後方アプローチが,TKAには内側傍膝蓋アプローチがスタンダードでしたが,近年,低侵襲を目的としてDAAをはじめとする各種のアプローチが報告されています.DAAやAL-supineアプローチは低侵襲ですが,視野が小さく習熟を要します.一方,後方アプローチは十分な視野が得られることから,ほとんどすべての病態に対処でき,後方支持組織の修復により,欠点であった後方脱臼が減少することが報告されています.アプローチの選択は患者の病態,手術適応そして術者の好みと習熟度によります.本シンポジウムには手術適応ばかりでなく手技も詳述されています.

基本情報

05570433.51.9.jpg
臨床整形外科
51巻9号 (2016年9月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

文献閲覧数ランキング(
7月27日~8月2日
)