臨床整形外科 34巻11号 (1999年11月)

シンポジウム 日本における新しい人工股関節の開発

緒言 井村 慎一
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 人工股関節置換術(THA)の成功は,人工股関節の固定性が術後早期から得られ,しかもその後も長期に亘って維持されることが必須条件となる.

 骨セメントを使用した場合,人工股関節の初期固定性は術直後から全周に亘って得られるのでセメントレスTHAに比べ優れている.しかし,人工股関節の材質・デザイン,骨セメントの毒性,生体親和性,劣化など全く問題がないわけではない.

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 セメントレス人工股関節の問題点は,各componentの移動,透明層,osteolysis,大腿部痛,loosen―ingの発生である.これらは不十分な術直後の初期固定性とcomponentと骨との界面における応力分布の不均一さ,すなわち力学的不安定性とポリエチレンの摩耗に起因する.教室では動物実験,rigid body spring modelを利用したコンピュータシミュレーション,さらには長期の臨床経験からこれら問題点を解決するものとして,オリジナルタイプであるJIAT型3本スパイク式人工股関節を改良して,Y型,次いでY2型を開発し,現在Y2型を臨床応用している.人工関節は器械であり,いずれのタイプにおいても,それぞれの問題点があるが,Y2型においても術後長期例が増加するにつれ,移動や透明層をみる症例が,わずかずつであるが増加している.これら問題点を解決するために,Y2型の臨床成績とX線所見を詳細に検討して,手術手技,componentのサイズやデザインなどの検討を開始している.

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 ハイドロキシアパタイト(HA)はbioactiveな材料で,骨と高い親和性を有している.また,チタン-6アルミ-4バナジウム(Ti-6AI-4V)は軽量で生体障害発生も少ない.こうした点からbioactiveなHAをTi製人工股関節ステムの上にプラズマスプレー法でコーティングしたセメントを使用しない人工関節として臨床に供せられている.しかし,この方法ではコーティング時におけるHAの分解,HAとTiの長期的な密着性,至適なHAの厚さが得られないなどの問題が指摘されている.事実,本ステムの抜去症例では,HAのTi表面からの剥離も多く認められている.筆者らの開発せるHA含有ガラスチタン(HA-G―Ti)複合体は,その中に含まれるガラスはTiと強固に密着接合し,HAとは溶解反応せず生体内で長期に安定である.HA-G―Ti複合体の骨への移植後のinterfaceの検討で,力学的にも生化学的にも初期固定で満足する結果を得,本材を人工股関節Ti製ステムに応用した.人工股関節を作製,臨床治験を行った62症例の半年~1年半の経過観察では良好な初期固定も得られ,結果は良好である.

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 われわれは1985年8月より1994年6月までセメントレスTHAにおいてOsteonics hip systemを用いてきた.その臨床成績から,従来のステムでは二次性股関節症に対応できないことが分かった.そこで同患者の近位大腿骨の髄腔形状を解析,FMS,FMS-anatomicステムを開発した.preclinical testとして生体力学的解析を行ったところ,その有用性が確認でき,現在臨床応用を行っている.ここではその概要について述べる.

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 チャーンレイ人工股関節の最良の適応とはならない比較的若い年齢層の患者に対して用いる目的で,日本のハイ・テク技術を駆使したセメントレス人工股関節を開発した.その臨床応用の経験が7年になったので,デザインの特長と臨床成績につき述べる.

 Stemとsocket backにはVanadiumを含まず,高温処理をしても機械的強度が低下しないTi-6 AI-2 Nb―I Taを用いた.Polyethylene socketの摩耗量を少なくするために直径22mmのジルコニア骨頭を用いた.人工関節コンポーネントと骨との早期の結合を得る目的でチタン合金表面を多孔性にし,その深部にAW glass-ceramicのbottom coatingを施した.また,stress shieldingによる大腿骨の骨萎縮を防止するため,大腿骨近位部の海綿骨をかなり温存するデザインを採用し,その海綿骨がbone ingrowthによってstemと結合するporous areaの面積を可及的に小さくした.臨床応用96例中の95%に予期したbone in―growthによる人工関節と骨との強固な結合を認めた.

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 新緑滴る五月中旬,某大学の教授昇任の祝賀会が行われた.その時,以下のような祝辞を述べられた方があった.そのお言葉に小生は目から鱗が落ちるような感銘を受けた.

 まず大要を紹介すると,教授というポジションは,医科大学で治療・研究・教育に携わっている者の一応は今までの目標であったに違いないが,決してそれが最終点ではない.教授になってから,それまでの仕事をいかに伸ばし,さらに新しい仕事を進めていくかが重要である.さらに氏は,本田技研の創始者,本田宗一郎氏の言葉を引用され,「課長・部長・社長も包丁・盲腸・脱腸と同じように,符丁に過ぎない.人間の価値とは全く関係ない」と言われ,よき片腕であられた藤沢武夫氏にも「社長とは一つの職名であって,決して人間のランキングではない.にもかかわらず社長になると,元帥にでもなったつもりで威張りたがる人がいる.社長は世の中でもっとも危険な商売だ」と言われたというのである.そして,祝辞を述べられた方が,御自分の言葉として言われたことは,「社長を教授に置き換えてみると,教授とは一つの職名であって決して人間のランキングではない.にもかかわらず教授になると,元帥にでもなったつもりで威張りたがる人がいる.教授とは世の中でもっとも危険な商売だということになる」と言うのである.

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抄録: 本研究の目的は,人工膝関節全置換術後におけるクライオセラピーの有用性および有効連続冷却時間を明らかにすることである.調査対象15例15膝を無作為に3群に分け,非冷却群,24h冷却群,および48h冷却群とした.24hおよび48h冷却群では手術直後から各々24および48時間連続冷却した後,ともに術後5日目まで1日3時間ずつ冷却した.調査項目は術後出血量,膝関節腫脹量および疼痛程度の測定である.出血量および疼痛程度の測定結果では3群間に統計学的有意差は認められなかったが,冷却群の方が比較的軽度であった.一方,24h冷却群と48h冷却群はほぼ同程度であった.腫脹量は非冷却群に比べ冷却群の方が有意に小さく(p<0.05),また術後5日間を通して24h冷却群と48h冷却群の間に有意差はなかった.以上より,人工膝関節全置換術後のクライオセラピーは有用であり,その連続使用時間は術後24時間で十分であると結論した.

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抄録: 頚椎症性脊髄症に対し,平林式脊柱管拡大術を施行した.頚椎単純X線側面像動態撮影にて椎体すべり距離3mm以上変化するもの,または椎間可動域が1椎間で15°以上動く場合を椎間不安定性ありと定義し,頚椎不安定性が術後成績に及ぼす影響について検討した.対象は頚椎症性脊髄症86例(男性64例,女性22例)で,経過観察期間は平均2.9年(1~8.4年)であった.86例中,17例18椎間で術前不安定性を認めたが,術後不安定性の進行はなく,術後成績に及ぼす影響は少なかった.術前安定群であった69例中4例に,術後に不安定性の進行があり,われわれの定義で不安定群となった.しかし,椎体すべり距離の変化は4mmまでで大きな問題とはならなかった.本術式は不安定性を有する頚椎症性脊髄症例に対しても有効な術式であった.

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抄録: 解剖実習用の遺体標本65体119側を用いて外側大腿皮神経の走行を観察し,従来行われている腸骨からの移植骨採取における安全性を検討した.開腹後,内臓,後腹膜を除去して外側大腿皮神経を剖出し,外側大腿皮神経の走行を観察した.検討項目は,①外側大腿皮神経が腸骨稜を通過する点と上前腸骨棘との距離,②腸骨筋前方での外側大腿皮神経の走行位置とした.その結果,11%は上前腸骨棘よりも後上方の腸骨稜を通過し,さらに2%が上前腸骨棘より20mm以上後上方を通過していた.また,腸骨稜に沿い,上に凸のカーブを描いて走行するタイプが11%存在した.今回の調査結果から,十分注意して採骨の位置を決めて,腱膜切離,牽引操作を行っても,術後約10%に外側大腿皮神経障害が生じうる可能性があることが示唆された.

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抄録: 股関節疾患の臨床的評価として,日整会股関節機能判定基準表がよく用いられる.この評価表にAbduction Against Gravity (以下,AAG)があるが,その一般値は明らかにされておらず,またその測定方法も十分に確立していない.今回,健常人におけるAAGの一般値とAAGに関係があると思われる年齢・身長・体重・下肢長・肥満度(BMI)の5つの因子について,関連性を見出せるかどうかを検討した.測定は,骨盤を固定した状態と固定しない状態との2通りについて行った.これは働筋の違いにより,AAGの値および骨盤傾斜が変化すると考えたためであり,合わせて検討した.

 対象は下肢機能に問題のない健常人とし,測定肢は跳躍時に踏み切る側とした.

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 抄録:骨粗鬆症の椎体骨折で入院加療した48例(平均74.7歳)の患者を対象に予後調査を行った.平均約56カ月の追跡調査で,約1/3の患者がすでに死亡していた.調査時に生存していた群は,死亡群より退院時の歩行能が有意に高かった.退院時に介護不要であった群は,要介護群と比べて有意に調査時のADL点数が高かった.また,単椎体骨折群は多椎体骨折群より,有意に退院時の歩行能力が高く,追跡調査時のADL点数も高かった.退院後の骨折増加群と不変群を比較すると,増加群では腰痛点数が有意に高かった.しかし,日常的な運動,飲酒,喫煙などの生活習慣は今回の調査では予後に関与していなかった.

 以上の結果から,骨粗鬆症による脊椎椎体骨折後の患者では,受傷後の歩行能力の低下と椎体骨折数の増加がその予後を悪化させる因子と考えられ,その予防が重要と思われた.

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 抄録:本論文の目的は腰椎辷り症の新しい手術整復操作法を述べて,lordosisization法として報告してきた従来の整復法3)と比較検討して,その整復機序について考察することにある.従来法とはspinal instrumentationを用いてlordosisizationを行う方法であり,改良法とは一層spinal instrumentationを利用してdistraction forceと梃子の作用を利用してlordosisizationを行う方法である.比較検討の対象はすべり率30%以上の第4および第5腰椎の形成不全型または分離・変性辷り症で,従来法で治療された7例と改良法で治療された4例である.結果は,すべり矯正率は従来法で52.4%,改良法は77.4%であり,すべり矯正角度は前者で17.1°,後者は23.2°であった.手術台上腹臥位での辷り症整復の作用機序として,すべり椎体への後方回転―後方転位を起こすような引き上げる力の作用が必要と考えられているのが一般的であるが,実際に作用している力は辷り椎体遠位部の前方転位と骨盤―仙骨の前方回転を起こすような力である.われわれの辷り症整復機序の考え方と改良法は,spinal instrumentationを用いた辷り率30%以上の整復に抵抗する腰椎辷り症の整復に有用であると考える.

整形外科英語ア・ラ・カルト・82

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 今回から“Q”の項であるが,その前に最近医学雑誌によく登場する“パラダイム”という言葉について,順不同であるが簡単に述べる.

ついである記・40

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 蒙古といえば,多くの人が直ちに成吉思汗(チンギス・ハーン)を連想するであろう.12世紀の中葉に蒙古の大平原に生まれた風雲児テムジンは60余歳で死去するまでの一代で中央アジアに大帝国を築き上げ,大ハーンに推戴された.これがチンギス・ハーンである.その後,100年近くに亘って彼の子孫は帝国の拡張を続け,「元」の世祖となったフビライ・ハーンの時代には東は朝鮮半島から西は中部ヨーロッパ,北はシベリアから南は北インドにまで及ぶ史上空前絶後の超大帝国を造り上げた.強大な騎馬軍団が世界を席捲していった様は想像するだに痛快であるが,侵略された側からみれば世にも恐ろしい軍団であったことだろう.

 そのモンゴル帝国の第2代皇帝オゴデイはモンゴル大平原のほぼ中央に当たるカラコルムに都を建設した.1235年のことであった.マルコ・ポーロの「東方見聞録」によれば,当時のカラコルムは壮麗な宮殿が軒を連ね,東西の文物や民族が集散する一大国際都市であったという.しかし,第5代皇帝フビライ・ハーンが都を大都(現在の北京)に遷して以来,カラコルムは急速に衰退し,今では当時のものは殆んど何も残っていない大草原と化している.私達は昨日からそのカラコルムを目指してきたのである.

整形外科Philosophy

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 私が整形外科医を志したルーツは父親にある.父親が19歳の時に,列車の遮断事故で右下腿切断者となった.断端は,7cmの短断端でギロチン切断であったため,皺の多い薄い表皮に被われ,きわめて不良な断端であった.当時はアルミニウム板をたたいてソケットを作り,そこにフェルトをあて,断端袋と包帯を適当に巻いて装着するものであった.勿論,下腿義足は,膝継手,大腿コルセットつきであり,毎日のように数カ所の傷をつくり,特に膝窩部に傷が多く,父にはその傷が見えないために,マーキロクロームを塗るのが小学生であった私の仕事であった.

専門分野/この1年の進歩

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 第24回日本足の外科学会は,1999(平成11)年6月18日(金),19日(土)の両日,東京・品川のコクヨホールで行われた.今回は初めての試みとして,毎年秋に行われている日本靴医学会(第13回)を,前日の17日(木)に同じコクヨホールで開催した.関連の深い両学会の会員の交流を図るとともに,学会に費やす時間の節約を試み,一応の成果を得ることができた.

整形外科/知ってるつもり

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I.impaction bone grafting (IBG)とは

 Impaction bone graftingまたは―grafts (以下,IBG)に用いられているimpactという表現は,Slooffらのmoulded and impacted27)を初め,tightpacked20),compressed1,5)およびcompacted31)などが同義的に用いられている.従って,IBGのイメージは,移植骨を隙間なく,ぎっしり詰め込み,圧縮して固め合わせ,型どおりに形成するといったものである.移植骨の性状は,薄片状(chips)16),微粒状(particulate)または小片状(morsellised)5,20,24,30,31)で,主として海綿骨からなるものといえる.

 また,IBGが時とともに人工股関節置換術(以下,置換術)や再置換術における骨欠損の修復を目的として,PMMA骨セメント(以下,セメント)による固定とともに用いられるようになり,それが次第に,主要な適応となってきた.この場合,小片状海綿骨は圧縮充填により著しく容積を減少し,自家骨による供給量には限界のあるところから,冷凍保存同種骨(以下,同種骨)の利用が必然となった.

境界領域/知っておきたい

SCEP,SSEP,SEP,MEP 玉置 哲也
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 術中の脊髄機能の観察,すなわち脊髄機能モニタリングは,危険にさらされる脊髄を経由して伝達される電気的信号(インパルス)を観察する電気生理学的方法が主流を占めるようになっている.その理由としては,連続して脊髄機能を観察し,脊髄に加わる障害が恒常的にならないうちに予防的処置がとれること,手術の流れを止めることなく実施できること,感覚路のみならず運動路の観察も可能なことなどが挙げられる.その目的のために,数種類の脊髄誘発電位,すなわち中枢神経あるいは末梢神経の刺激によって発生した神経活動電位(インパルス)を脊髄で記録したものが指標として用いられている.さらには,高位中枢を刺激して末梢の筋の活動電位を記録観察する方法などが応用されるようになっている.

 現時点では,それらの電位の呼称については統一されておらず,いささかの混乱があるのも事実である.現在,脊髄電気診断研究会ならびに臨床神経生理学会(脳波筋電図学会)が中心となって各種誘発電位の呼称の統一に向けて計画が練られており,筆者らがすでにその第一案を提唱したものの,いささか改善すべき点が指摘されたことから最終案の完成には至っていない.しかし,近い将来にはまとまった案が示されて,下記の呼称あるいはabbreviationが改正されることになることを了解しておかれたい.

講座

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症例:56歳,女性(図1)

 主訴:両殿部痛

 26歳で第一子を妊娠した頃に右股関節周囲に鈍痛を認めるようになったが,その後は無理をしなければ,特に痛みを自覚することはなかった.40歳頃より,歩行後などに両殿部痛を認めるようになり,また股関節の可動域制限も出現してきた.最近,疼痛が強く,日常生活にかなり支障を来すようになったため来院した.疼痛は右側に強い.

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抄録: 下肢手術中に発症した深部静脈血栓症に対し,直ちに静脈造影を行い,血栓溶解療法を開始し,合併症もなく良好な経過をたどった症例を経験した.症例は21歳の男性で,交通事故による多発骨折で当院に救急搬送された.大腿骨開放骨折に対し,受傷6日目に観血的整復固定(髄内釘法)が行われ,さらに受傷22日目に同側の膝関節鏡検査を全身麻酔下で施行された.手術終了時,鼠径部以下の著明な腫脹,皮下出血を認め,ただちに下肢静脈造影を行い,膝窩部より遠位の静脈血栓症と診断した.ウロキナーゼによる血栓溶解療法,ワーファリンによる抗凝固療法が行われ,まもなく右下肢の腫脹は消退した.経過中肺塞栓症の合併,血栓後遺症は認めなかった.

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 抄録:われわれは圧迫優位側の反対側に神経根痛を伴った頚部椎間板ヘルニアの1例を経験し,手術により良好な結果を得たので報告する.症例は35歳男性で,主訴は右上腕痛であった.保存的治療を行うが症状が改善せず,1997(平成9)年5月に精査加療目的で入院した.入院時,左上肢に軽度の知覚障害を認めたが,筋力,腱反射は正常であり,MRIでC5/6高位の左側傍正中に椎間板ヘルニアを認めた.頚椎持続牽引を行うも症状が改善しないため,脊髄造影,椎間板造影を施行した.椎間板造影では左上腕にのみ放散痛を生じ,主訴の再現痛は起こらなかった.症状が改善しないため,同年6月にC5/6の前方除圧固定術を行った.術中,左側傍正中に浅層下ヘルニアを認めたが,右側にはヘルニアは認めなかった.術後直ちに主訴は消失し,術後1年6カ月の現在も痛みはない.圧迫優位側の反対側に神経根痛を生じた原因を,われわれは神経根へのtethering作用と考えている.

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抄録: 症例は27歳男性.仕事中,プレス機械に両手を挟まれ,当院に救急搬送された.来院時,左手は手背と手掌に開放創がみられた.単純X線上,第4,第5中手骨骨折と小菱形骨の背側への脱臼を認めた.徒手整復が困難であったため,背側より縦切開を加えて観血的に脱臼を整復し,Kirschner鋼線2本で大小菱形骨,舟状骨,第2中手骨を固定した.術後は6週でKirschner鋼線を抜去し,理学療法を開始した.術後1年6カ月の現在,MRIで小菱形骨の壊死は認めず,小菱形骨周辺に軽度の圧痛を訴えるが,不安定性は認めない.手関節,指関節の可動性は良好である.

 小菱形骨脱臼は稀であり,本邦報告例は少ない.本症例の受傷機転は,前腕軽度回内,手関節掌屈位で第2中手骨骨頭からの軸圧が加わって生じたと推測された.解剖学的には小菱形骨は楔状で背側面が掌側面より2倍大きい形状をしており,背側に脱臼しやすい原因となっていると思われた.

基本情報

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臨床整形外科
34巻11号 (1999年11月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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