臨床整形外科 25巻6号 (1990年6月)

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 癌に対する温熱療法は,古くて新しい治療法といわれている.すでに紀元前に行われた,癌の焼却法などに端を発するが,加温が体表面から行われたため,熱さに対する患者の苦痛が強いことなど,満足すべき成果は得られなかった.さらに手術療法,放射線治療,抗癌剤の進歩などにより,一時期ほとんど顧みられない治療法であった.しかし近年,組織培養の進歩や癌の基礎的研究の進歩などにより,腫瘍細胞に対する熱の生物学的効果が定量的に分析されるようになったこと,さらに癌細胞に対し,放射線や抗癌剤に温熱療法の併用により相乗的効果が得られることが基礎的研究により裏付けられたこと,また加温装置が開発,改良されたことにより,悪性腫瘍に対する温熱療法がにわかに広く臨床応用されるに至った.

 現在,温熱療法が臨床応用されている科としては,体表腫瘍に対し皮膚科,脳腫瘍に脳外科,消化器や肺癌などに内科,外科,子宮癌に婦人科,膀胱癌に泌尿器科,放射線療法との併用として放射線科などがあげられる.しかし整形外科領域では,1988年京都において第5回国際温熱療法学会が菅原務会長のもとで行われたが,国内外においても未だほとんど温熱療法に関する基礎的研究,臨床応用も行われていないのが現状である.ことに骨悪性腫瘍に対する温熱療法は皆無といえる.

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 抄録:clear cell sarcoma 8例の臨床経験を報告する.年齢は14~80歳,男性4例,女性4例,原発巣は足部が4例,前腕,臀部,膝,手指がそれぞれ1例であった.全例,他院にて初回治療として単純摘出術を受けており,当科初診時,6例に局所再発,2例に遠隔転移が認められた.当科にての治療は,局所再発の明らかな6例中5例に,術前動注化学療法を施行,7例に根治的広汎切除術を施行した.平均5年3カ月の経過観察中,局所再発はなかったが新たに3例に転移が発生した.clear cell sarcomaは,その緩徐な発育ゆえ良性腫瘍として処置されることが多く,高率に局所再発,遠隔転移が発生し治療が困難である.当科症例にては動注療法等の,適切な化学療法と根治手術により明らかに治療成績の向上が認められた.動注療法は局所には非常に効果的で2例に100%,3例に90%以上の壊死率を得た.

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 抄録:筋性斜頸は,大半が自然治癒する疾患であるが,放置されたり,軽快していたものが成長とともに顕著となったりして,年長児になって手術せざるを得ないような症例に遭遇することがある.手術適応は,美容的および機能的障害の程度により決定されるが,われわれは,胸鎖乳突筋下端部分切除術を施行している.今回,1年以上経過観察できた学童期以降の19症例の手術成績を検討した.術後,斜頸位は全例改善し,可動域制限は軽度の側屈制限を残すのみとなった.外側索状物は頭部の最大側屈時に目立つことは多いが,中間位で目立つのは1例のみであった.全症例で満足感が得られ,20歳以上の症例でも手術適応はあると考えられた.また,斜頸による2次的変形と考えられる脊椎の代償性側彎は,X線上,16例に胸椎以下の側彎を認め,男児の側彎は軽度であり,術後は軽快していたが,女児の側彎はときとして高度となり,術後もさほど軽快していなかった.

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 抄録:いわゆるobservation hipといわれるものの中に明らかに発育期痛と思われる一群のものがあるのではないかと考えられ検討した.1983年から1987年までの5年間に当科を訪れ,observation hipと診断し経過をみた症例は131例あり,そのうち初診時X-Pのある121例を検討の対象とした.方法は,先行疾病,発症時間帯及び症状持続期間,局所所見,発熱,血液検査,単純X線像の6項目について121例全例調査し,その中で特に誘因が無く,夜間または朝起床後に疼痛を訴え無処置でも1~2日以内に症状が消失し,局所所見が極めて乏しく,平熱であり,血液検査にも単純X線像にも異常が無いというすべての特徴を満たす一群を抽出してみた.その結果,16例(13.2%)が相当した.これらが発育期痛(grow―ing pain)に属するものと思われるものであり,さらにこの群は平均年齢がより年少で,女児に多く,発症月に偏りが無い,などの特徴があった.

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 抄録:骨髄腫は整形外科でも比較的よく遭遇する悪性腫瘍である.近年の化学療法の進歩により平均生存年数が延長するにつれ,骨痛・病的骨折・脊髄神経麻痺など以前にも増して整形外科的治療の必要性も高まっている.そこで私たちは当科における骨髄腫の治療例を検討し整形外科的観血的治療の問題点を中心に考察した.

 1978年以降当科を受診した骨髄腫患者は22人おり,初診時主訴は腰背部痛が13人と最も多かった.手術治療を行った患者は6人で,骨折に対し保存的治療を行った者は4人であった.

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 抄録:頸部脊髄症で歩行障害をきたすことは少なくない.昭和50年から平成元年4月までの15年間に,頸部脊髄症と腰部脊柱管狭窄症の複合病変を有した9例を経験した.男8例女1例で,初回手術時年齢は平均53.6歳であった.全例で頸椎と腰椎の除圧術を受けていたが,複合病変と診断するには下肢のtension sign,間歇性跛行の有無,歩行負荷試験,選択的神経根ブロックが有効であった.9例のうち8例について調査を行った.術後追跡期間は平均7年8カ月であった.日整会頸髄症判定基準(JOA score)の評価では平均10.8点であったが,13点以上を獲得していたのは3例にすぎなかった.上肢機能と下肢機能の比較では,上肢のJOA scoreが平均2.9点に対し,下肢機能は2.3点と低くなっていた.頸髄症・腰部脊柱管狭窄症の複合病変と診断して早期に除圧術を行った例で,臨床的に良好な改善が得られた.

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 抄録:pseudomalignant osseous tumor of soft tissue3例を臨床病理学的に観察した.年齢は5,16,26歳でいずれも女性であった.発生部位は大腿2例恥骨部1例であった.発症初期の臨床症状は発熱,局所の疼痛及び近傍関節の可動域制限が共通し,血清学的には白血球増多,CRP上昇,ESR亢進など炎症を思わせた.発症から約1カ月経過したX線所見では骨化はほぼ完成し,炎症所見と併せてpseudomalignant osseous tumor of soft tissueの診断が可能であった.骨化の出現前の未熟な時期は膿瘍,悪性腫瘍が鑑別診断に挙がる.病理学的には骨肉腫との鑑別が強調されるが,臨床的には炎症症状が強く,むしろEwing肉腫や横紋筋肉腫など円形細胞肉腫が鑑別診断に挙がる.仮に病理学的に骨肉腫と診断されれば,鑑別診断と病理診断の隔たりの大きさから診断を再検討すべきである.

認定医講座

骨系統疾患 水島 哲也
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I.定義,疾患の種類と特徴

 先天的あるいは後天的な骨・軟骨の形成・発育異常による全身骨格の形態的・構造的異常が骨系統疾患である.これには主病変が骨・軟骨に存在するか,主要な症状の一つ以上が骨病変である疾患が含まれている.従って,奇形症候群,代謝病,内分泌疾患などもこれに含まれることになる.

 先天性疾患には,骨系統疾患の代表的疾患である骨軟骨異形成症,骨の奇形が主症状である異骨症,先天性代謝異常(カルシウム・燐,炭水化物,脂質,核酸,アミノ酸,金属などの代謝異常),特発性骨溶解症,染色体異常,その他のものがある.この先天性疾患にも早発型と遅発型があり,後述の診断の際に手掛りとなる.

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はじめに

 電気生理学的検査の扱う範囲は,いわゆる運動単位を中心とした,末梢神経・筋肉・神経筋接合部に限られていたが1),最近の医用工学の進歩に伴い,誘発電位検査も積極的に臨床応用されるようになり,その守備範囲は脊髄・大脳へと広がっている.特に整形外科領域では脊髄誘発電位・体性感覚誘発電位4,5)が有用な検査であるが,今回は紙面の制約もあり,従来より運動単位の検査の柱となっている筋電図と神経伝導検査を中心に解説したい.

整形外科を育てた人達 第82回

Peter Camper(1722-1789) 天児 民和
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 Peter Camperの名は日本の整形外科ではあまり良く知られていないが,医学史では靴の難問題の研究をした最初の医学者である.この人の伝記の資料があったのでこれを整理して紹介することにした.

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 抄録:非定型抗酸菌による肺外病変の報告は稀である.我々は,抗酸菌培養にて起因菌がMycobacter―ium avium-intracellulareと同定された手指屈筋腱化膿性腱鞘炎の1例を経験した.症例は33歳の健康な女性.特に誘因なく右母指尺側の腫脹に気付き,1カ月後には右手関節掌側にも疼痛を伴う腫脹が出現し,右手指および右手関節の運動障害を来すようになった.本疾患は症状が軽度で,進行が緩徐なものが多いため確定診断がなされないまま長期にわたり誤った治療を受けていることが多い.しかしながら,我々の症例では比較的症状の進行が急速であり,病理組織学的および細菌学的検索により確定診断が得られ,手術的治療と化学療法の併用により良好な結果が得られた.

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 抄録:肩甲骨烏口突起の単独骨折は極めてまれであるが,中でも骨端線離開の報告は少ない.今回,我々は烏口突起単独骨端線離開の1手術例を経験したので報告する.症例は11歳,男子で,走っていて誤って鉄棒の支柱で左肩前面を強打.烏口突起部に圧痛を認めたため,健側・患側ともに,肩関節下垂位前後像・挙上位前後像・cephalad angulation view・axillary view撮影を行い,烏口突起基部単独骨端線離開と診断した.骨端線離開が著明であったため,観血的療法を選択した.術中,烏口肩峰靱帯・烏口鎖骨靱帯に損傷は認められず,烏口突起は上腕二頭筋短頭・烏口腕筋により引っ張られ,おじぎをするように下外側へ転位していた.これを整復し,スクリュー1本にて固定した.術後3週間デゾー固定を行い,術後5週で可動域は正常に復し,術後3カ月で抜釘.術後4カ月時,X線像においても鳥口突起の変形・成長障害も見られず,元気にスポーツに復帰している.

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 抄録:帯状疱疹は日常比較的よく見られるウイルス性疾患である.この疾患に運動神経麻痺を合併したという報告は国内外ともに数多くあるが,同時に交感神経麻痺をも合併したという既報告は,私たちが検索した範囲では本邦には存在しない.

 私たちは帯状疱疹経過中に,上肢運動麻痺に加え,交感神経麻痺をも合併した稀な症例を経験したので,臨床経過を紹介するとともに,その病態生理,治療,予後について文献的考察を加え報告する.

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 抄録:腓腹神経entrapment neuropathyと思われる4例を経験した.いずれの症例においても足背外側の知覚障害と外果周辺の圧痛・Tinel徴候を認めた.知覚神経伝導速度検査では著変を認めないものが多かった,症例1:35歳,男.両側.誘因不詳.多発性関節炎に伴う.神経剥離術にて症状軽減した.症例2:39歳,男.誘因は足関節骨折.神経剥離術にて症状消失した.症例3:33歳,女.誘因不詳.立ち仕事の職歴がある.自然治癒した.症例4:60歳,男.誘因は足関節内反の反復.ステロイド剤の局注にて症状軽快した.本疾患の診断は必ずしも困難ではないが,腰部神経根症状との鑑別を要することがある.保存療法に反応せず,ADLの著しく障害されているものについては手術の適応があるが,micro―surgeryの手技を用いて慎重に行うべきである.

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 抄録:慢性骨髄炎の瘻孔より扁平上皮癌が発生することは周知の事実であるが,日常診療においては比較的稀である.われわれは本症の2例を経験したので報告する.

 症例はともに74歳の男であり,各々58年,64年の長期骨髄炎の罹病後に当科を初診した.2例とも生検にて扁平上皮癌と診断され,大腿切断を施行した.各々3年,9ヵ月の現在,再発転移なく経過良好である.

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 抄録:第1,2胸椎部の肉眼的には結核性脊椎炎と思われる症例に対し,胸骨縦割法により侵入し,掻爬後前方固定術を施行し,著明な改善を得た症例を報告した.

 症例は50歳,男性で,背部打撲後脊髄麻痺が出現したため入院した.手術は胸骨縦割法にて侵入し,排膿後T1,T2を亜全摘し,C7~T3まで腸骨を用いた前方固定術を行った.

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 抄録:足関節外側側副靱帯損傷を合併した外側性腓骨筋腱脱臼の治療経験を報告する.症例は21歳,女性で,中学時代より数回の捻挫の既往歴があり,今回単車にて走行中転倒し受傷する.来院時腓骨筋腱は外果部に脱臼しており,ストレスレントゲンにて足関節外側側副靱帯損傷を合併していることが診断された.年齢を考慮し腓骨筋腱脱臼に対してDuVries法による骨性制動を,外側側副靱帯損傷に対して陳旧性ではあるが,一次縫合を行い,短期ながらも良好な結果を得た.本症例の成因については,足関節外側側副靱帯損傷による長期間の足関節不安定性が,慢性の刺激となり腓骨筋支帯が脆弱化したため,軽度の外傷で腓骨筋腱脱臼を来したと考察した.また外側側副靱帯損傷が陳旧性といえども,一部の靱帯が残存し一次縫合が可能であれば,縫合により十分な支持性を獲得することができると考えられた.

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 抄録:juxtacortical chondromaは稀な骨腫瘍と言われ,更にその多発例は我々の渉猟し得た範囲で,本邦例を含め7例のみである.今回我々は右大腿骨及び右腓骨に発生した多発性のjuxtacortical chondromaを経験したので報告する.症例は15歳,男性で,右膝関節の捻挫にて受診し,X線検査の結果,偶然骨腫瘍が発見された.臨床検査所見では,血清アルカリフォスファターゼ値の軽度上昇のみ認められた.単純X線では,大腿骨腓骨共metaphysisに反応性の骨皮質増殖を伴った骨透亮像が見られた.血管造影では,特にPooling,hypervascularityは認められなかった.両骨腫瘍に対してen bloc切除を行ったが,両腫瘍共に骨膜より連続する被膜に覆われており,腫瘍の骨髄腔への侵入は見られなかった.病理組織学的には硝子軟骨様組織からなり,軟骨成分は分葉構造に分かれていた.核の異型性は無く,mitosisもほとんど認められなかった.

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 抄録:ガングリオンは,比較的発生頻度の高い疾患であるが,筋肉内に発見されることは非常に稀である.本症は,中年以降の男性に好発し,発育部位は,膝周辺に起始・停止をもつmuscle lengthが長く,腱様部分の短い筋肉が多い.症状は,腫瘤として認められるものが大部分で,時には,疼痛や神経麻痺を合併する場合もある.補助的診断法では,CT scanが有用であり,腫瘍の大きさや部位が明確に把握できる.さらに,CT値を用いることで,ある程度その性状も推測できるが,確定診断には病理組織診が必要である.本症は,抵抗脆弱部の筋肉内で発育成長し,筋実質損傷の原因になるため全摘出が適応となる.予後は完全に摘出すれば良好である.今回我々は,61歳の男性の半膜様筋滑液包より発生したと考えられる稀な筋肉内ガングリオンの症例を経験し,全摘出を行った.術後1年9カ月を経過した現在,再発はなく経過は良好である.

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 抄録:今回我々は,極めて稀と思われる,橈側列形成不全に合併した手舟状骨阻血性壊死の1例を経験した.症例は27歳,女性.生下時より両側母指の低形成を認めた.左手関節の損傷により当科を受診.X線上左手舟状骨は低形成と骨硬化像を呈し,大菱形骨,第一中手骨,橈骨遠位端にも低形成を認めた.左上肢血管造影にて,橈骨動脈にも低形成を認めた.治療として近位手根骨列切除術を施行.舟状骨は近位2/3が骨壊死,遠位1/3は反応性骨形成の所見であった.本症例の病態を呈するに至った病因として以下のものを考えた.舟状骨の低形成に起因する舟状骨への異常なストレス,舟状骨への血行の脆弱性,繰り返す舟状骨へのminor trauma,これらのものが組み合わさった結果であると思われる.現在術後5カ月が経過するが,左手関節可動域は改善を示し,疼痛も消失,術後経過は良好と考えられる.

距骨下脱臼の2例 吉村 一穂 , 鈴木 篤
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 抄録:距骨下脱臼は比較的稀な脱臼であり,足部の過度内がえし・外がえしにて発生するとされているが,一定のメカニズムはないと考える.治療上の問題点としては,整復そのものより固定と免荷期間が問題となり,また加療後関節症をきたしやすい.解剖学的・機能的に考えて本脱臼をperitalar dislocationと呼称するのが望ましいと考える.

基本情報

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臨床整形外科
25巻6号 (1990年6月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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