胃と腸 9巻7号 (1974年7月)

今月の主題 盲腸・上行結腸の診断

主題

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 Colonofiberscope1)~7)の開発により,盲腸・上行結腸の内視鏡的観察が可能となり,この部の疾患の診断は飛躍的な進歩をとげた.換言すると,この部の診断のポイントは,いかにしてscopeを挿入させるかということにあるといっても過言ではなかろう.Colonofiberscopeの深部挿入法については,すでに多くの機会に述べてきたので省略するが,著者らの考案した逆「の」字法1)と牧石らのsliding tube法8)を用いることにより,2,3の例外を除いて回盲部までの挿入は非常に容易であり,外来でもroutineに行ない得るということを強調したい.

 本稿では,盲腸・上行結腸の癌とその鑑別診断について,Colonofiberscopyによる診断を中心に論ずる.

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 大腸憩室病は,本邦では従来,比較的まれだといわれてきた.しかし,現在では,右側大腸の憩室病が高頻度に発見されていて,欧米とは異なり,右側大腸の憩室炎がかなりの頻度であることが周知になっている.

憩室病の定義と分類

 元来,憩室diverticulumは単発性憩室single diverticulumを意味し,通常,2個以上の非炎症性・多発性憩室は憩室症diverticulosisとよばれている.炎症症状の明らかなものは,数の如何を問わず,憩室炎diverticulitisである.しかし,実際には,憩室(症)と憩室炎との鑑別がかなりむずかしいため憩室(症)と憩室炎を含んだ憩室病diverticular diseaseという名称がしばしば用いられている.憩室病という取り扱いならそう神経質になることはいらない.

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 回盲部結核症は,本邦においては現在においてもまれな疾患ではなく,相当数の症例が報告されているが21)24)31)37)38)43)48)52),臨床診断の段階で腸結核であるとの確診が得られる症例はわずかである.一方,腸結核症は,クローン病,ときには潰瘍性大腸炎などとの鑑別診断がむずかしい場合もあるといわれている.また,臨床的に腸結核の可能性がもっとも高いと診断した時点においても,今度は治療法の選択ということになると,明確な結論がだせない場合がよくある.

 そこで,われわれは,回盲部結核の診断をより正確なものにするために,最終的に回盲部結核と診断されている手術例12例を用いて,①X線検査,②内視鏡検査(生検),③糞便の細菌学的検査,④切除標本上の細菌学的検査,⑤切除標本の病理組織学的検査,の5項目を中心に再検討し,これらの症例について,①結核と診断する根拠を考察し,つぎに,その結果をふまえて,②回盲部結核の臨床的診断の可能性を検討してみた.

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 大腸に非特異性潰瘍を発生する疾患にはさまざまなものがあるが,このうち臨床的に問題となるのは主として原因不明のものである.ここでは,原因不明のもののうち主に盲腸・上行結腸をおかす肉芽腫性大腸炎granulomatous colitis(大腸Crohn病,Crohn's disease of the colon,全層性大腸炎transmural colitis)を中心に述べることにしたいと思う.

 すなわち,大腸に原因不明の非特異性潰瘍性病変を発生する疾患には潰瘍性大腸炎ulcerative colitisのほか肉芽腫性大腸炎,非特異性結腸潰瘍nonspecific ulcer of the colon,孤立性直腸潰瘍solitary ulcer of the rectumがある.しかし,これらの原因はいずれも不明であり,本態の異同については未解明の点が多く,潰瘍性大腸炎を除いては正確な診断は切除手術施行以前には一般に困難と考えられている.しかるに,最近結腸ファイバースコープが実用化された結果,右側結腸に発生した病変の診断は比較的容易となってきているので,ここでは,手術や剖検を行なったのちすべての情報にもとづいて最終診断を決定した潰瘍性大腸炎23例と肉芽腫性大腸炎12例についてその所見を比較検討するとともに,結腸ファイバースコープ検査とその直視下生検の,両疾患の鑑別に対する意義について考察を加えた.同時に,両疾患との鑑別を要する非特異性結腸潰瘍,intestinal Behçet,および腸結核の診断についても併せて考察を加えた.

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 大腸ポリープとは大腸内腔へ突出した限局性の上皮性隆起一般に対する形態上の名称である,組織形がわからないときは便利な術語である.本文中ではとくに断わらないかぎり,ポリープと腺腫とほぼ同義語として用いた.

 さて盲腸上行結腸の診断という主題のポリープを担当することになったが,盲腸上行結腸のポリープといっても大腸の他部位に比べて,診断上とくに問題があると思えないし,自験例も残念ながら少いので困る.内視鏡的にも問題点があるとすればスコープが盲腸まで入るか否かのポリープ以前の問題につきてしまうが,ここで挿入の問題に立入る気もない.そこで少し角度をかえて盲腸上行結腸のポリープに取くんでみた.

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 石川(司会) 今目は盲腸及び上行結腸の診断ということで,各パートのご専門の先生方にお集まりいただいて,それぞれのお立場から診断のポイントとか,コツといったようなものを中心に,忌憚のないお話を承りたいと思います,

 盲腸というのは,そういう意味ではないんでしょうが,盲点の盲という字を使っています.従来は疾患数もMagenと比べてDarm全体は少ないわけです.もちろんレントゲンは従来からありましたが,わが国の内視鏡の非常な世界的に誇るべき進歩によりまして,このへんも,いわゆるblindなDarmでなくなったということになったわけなんです.Magenはもう行きつくところまで行きついたという感じで,今後はDarmのほうにどうしても焦点が移る趨勢にありますし,そういう意味においても大いにこれから検討しなければならない領域だと思います.

胃と腸ノート

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 図1は症例2(Ⅱc)の背臥位二重造影像である.胃角上部小彎(矢印)を中心に扁平なNischeがある.その小彎線は硬く,周囲には潰瘍瘢痕を思わせる小隆起が存在する.また細い線としてあらわれている多数のチリメン状皺襞は扁平なNischeに向ってあつまっており,Ⅱcの輪廓をかたちづくっている.

 図2は胃角を中心に描写した軽度第1斜位の背臥位二重造影像である.矢印の部にNischeがあり,その胃角付近の小彎線は浅い陥凹を示し,その部に向って多数の細くなった粘膜皺襞が四方から入り組んであつまっている.ここにあらわれているNischeは小さいが,まわりはかなりひろい範囲に不規則な陥凹を呈し,所々にぬけた像(透亮像),すなわち小さな隆起のあることを示している.この写真は切除胃の所見にかなり近い像をあらわしているがなに分にもSchummerungが強く,相当見にくく,条件としては悪い写真である(このような場合には通常比較的多量の造影剤をのませて背臥位でスピードのあるローリングをさせることによってSchummerungや気泡をとりのぞくことができる.

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 Antrumgastritisをはじめて取上げたのはKonjetzny1)である.彼は急性胃炎の典型例として,幽門洞に著明にびらん性変化(Puhlのびらん)がみられる例などをあげ,“Antrumgastritis”という言葉を使用しているが,正確に言えば幽門洞という部位ではなく幽門腺領域を重視していた.慢性胃炎においても大体は幽門洞によくおこるとのべ,胃上半部に限局するものはまれで,本来の意味でのびまん性胃炎もAntrumgastritisにくらべて比較的めずらしいとのべている.Konjetzny2)は胃・十二指腸潰瘍の標本を検索し,全例に幽門腺領域に炎症性変化を認めたが胃底腺領域ではみられなかったことなどから,十二指腸と幽門洞とは機能的に一致しているとの考えを持っていたようである.

 したがって,Antrumgastritisという表現は普通胃炎性変化が幽門洞または幽門腺領域に限局している場合に使用されると考えられる.しかし,その後Antrumgastritisについての評価はあまりなされなかったといえよう.それは,生検が本格的に内視鏡検査に取入れられるまでは,主に透視下で生検を行っていたために幽門洞からの生検が困難であったこと,内視鏡検査も幽門洞を充分に観察することが容易でなく臨床的に把握することがむずかしかったこと,さらに胃底腺から分泌される酸,ペプシン,内因子のような分泌機能について幽門腺では不明で機能的検査法がなかったことなどによる3)

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 胃分泌能を知ることは胃疾患の病態生理を解明する上に大切である.臨床的に胃液酸度を測定するにはKatsch-Kalk法やHistamine法などがあったが,Katsch-Kalk法は正確に酸分泌能を反映しない欠点があり,一方Histamine法はHistamineが循環器系をはじめ,その他に対する副作用があり安全性に欠けるためRoutineの胃液検査の刺激剤としては問題が多く適当でなかった.しかし1964年GregoryとTracyにより胃酸分泌刺激HormoneであるGastrinの構造が決定され,さらに,その合成が成功するに及び,胃分泌機能に関する研究は,いっそう盛んとなった.GastrinはHistamineに比し,より生理的な物質であり,副作用が殆んど無いので胃液分泌刺激剤として優れており,わが国でも日本消化器病学会胃液測定法検討委員会で種々検討の結果,合成TetraまたはPenta Gastrinが胃分泌刺激剤として用いられることとなった.以下Gastrin法による胃液酸度測定法についてのべる.

 Ⅰ.胃液検査法:

 i)胃液採取は左側臥位とする.

 ii)採液は10分ごとに行ない(持続吸引が望ましいが分割採取でもよい),分泌刺激剤投与前30~60分間の分泌を基礎分泌とする.

 iii)次に分泌刺激剤としてTetragastrin 4γ/kgまたはPentagastrin 6γ/kgを筋注する.

 iv)Gastrin刺激後は60~120分にわたり10分ごとに分割採取し胃液分泌の動態を観察する.

 v)採取された胃液のVolume,pH,Acid Concentration(mEq/hr.)を測定し,殊に刺剤剤投与後はHour Acid Output(mEq/hr.)で胃酸分泌能を表現する.

 vi)胃液酸度の測定にはpH meterまたはpH Statを用い,1/10~1/50規定NaOH溶液によりpH7.0まで中和する.

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 上部消化管疾患診断における内視鏡と同様に,大腸においても内視鏡検査の役割は甚だ大である.この分野でも長く硬性鏡が使用されてきた.消化管内視鏡検査の主目的が,病変の良悪性の鑑別であることに鑑ると,大腸の癌は直腸にその3分の2が存在するので,硬性鏡の役割は実に大きい.大腸ファイバースコープが出現した今日でさえも,大腸内視鏡検査で最も重要な位置を占めている.上部消化管内視鏡から硬性鏡が消えてファイバースコープにすべて置換ったことと大きな相異である.硬性鏡は肛門より20~25cm位まで検査出来るが,これより上は大腸ファイバースコープが登場するまで全く未踏地であった.現在では世界中到るところで大腸ファイバースコープが,診断そして治療(Polypectomy)に用いられている.筆者も3年来大腸内視鏡検査を担当しているが,とにかく大腸は壁が薄く,屈曲がはげしいので,常に穿孔の危険を感じながら施行せねばならないのを痛感している,大腸内視鏡,殊にファイバースコピーが流行期を迎え,一般病院でも行われようとしているとき,この検査の適応と禁忌を十分認識しておきたいものである.

 直達鏡による検査は,真直な金属棒を20~25cm挿入するだけで技術的には難かしくない.私共の場合,直腸出血或は粘液排出等を適応症としている.熟達者が行えば極めて簡単に出来るので,下部消化管のルチン検査として行う人達もある.あたかも私共が胃カメラを集検で用いる如く,集検的な使い方が直腸の早期癌発見に寄与するかも知れない.従って大腸X線検査が先行しなくてもやれる.X線検査が先行して,直腸S状結腸接合部までに病変を認める場合,直達鏡を用う.私共の臨床の実際では,直腸癌の診断確認と,出血の様相が痔疾患を疑わせるとき直腸粘膜に異常のないことを知りたい.この検査の対象となる主な疾患は,直腸癌,ポリープ,直腸炎,放射線直腸炎等であるが,全症例の約60%は異常を認めない.私共の検査室では,週に1回,4~5例に施行するが,筆者のいたシカゴ大学消化器科では,毎日15例以上を数える.大腸疾患の多いアメリカでは,日本の胃内視鏡並である.

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 カルチノイドはセロトニン分泌腫瘍として知られ,近年その報告例は増加しているが,消化管カルチノイドのうち胃原発カルチノイドの報告例は少ない.われわれは胃集団検診にて胃底部の巨大な腫瘤を発見し,手術後胃カルチノイドと判明した1例を経験したので報告し,若干の文献的考察を加えたい.

症例

 患 者:佐○木○郎 49歳 男子(大工)

 家族歴:父親が胃癌て死亡(69歳).母親は健在.心筋硬塞の既往がある.

 既往歴:21歳の時黄疸,40歳て脳塞栓といわれ入院加療.

 現病歴:昭和47年8月に心窩部不快感が出現し,9月には空腹時の心窩部痛があり,近医にて投薬をうけ軽快している,10月頃より易疲労感と食欲減退があるのて,10月27日職場て実施された胃集団検診を受け異常を指摘された.11月1日胃精密検査にて胃底部腫瘤を発見され11月10日入院した.入院時三くに自覚症状はなく,顔面潮紅,flushing,喘息様発作などのカルチノイド症候群を思わせる症状はなにもなかった.

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 従来より胃の悪性リンパ腫については,全身性系統的に発生した悪性リンパ腫の一部分症として,胃に発生したものと,胃粘膜のリンパ細網組織より発生したいわゆる胃原発性悪性リンパ腫とは一応区別して考えられてきた.

 臨床診断面では最近の医療器械の改良と診断技術の飛躍的向上にもかかわらず,胃の悪性リンパ腫は胃癌および胃潰瘍との鑑別,病理組織学的には未分化癌およびreactive lymphoreticular hyperplasia(RLH)などとの鑑別が問題とされ,発生頻度が少ないことと相まって,術前診断が困難な病変とされている,最近筆者らは胃X線,胃内視鏡,胃生検,生検細胞診,リンパ管造影などにより,胃原発性リンパ肉腫と診断しえた症例について報告する.

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 筆者らは,術前胃X線,内視鏡により早期胃癌を疑い,結局潰瘍を合併した胃角副膵であった1例を報告する.

症例

 患 者:61歳 男子 教員

 主 訴:空腹時心窩部重圧感および食後胃部膨満感.

 家族歴:特記すべきものなし.

 既往歴:特記すべきものなし.

 現病歴:数年前より,時々空腹時に心窩部重圧感を訴えていた.昭和46年5月初旬頃よりその程度が増強し,食後胃部膨満感もきたすようになったので某医を受診し胃X線にて,幽門狭窄を指摘され,昭和46年6月21日精査のため,本院へ入院した.

一冊の本

Malabsorption Syndromes 竹本 忠良
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 今回はすこしふるくなった本をとりあげて御紹介しよう.本書は1962年Munichで開催された第2回世界消化器病学会のシンポジウムの記録である.

 学生の講義の準備は自分自身の勉強のために,関連のMonographまで手をひろげて読むことにしているが,吸収不良症候群の講義のために,久方ぶりにとりだして読んだ本である.

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欧文目次

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 胃の病理学は,現在では日本の独壇場の観があるが,それは胃癌研究会をはじめとして外科学,内科学,放射線科学,病理学等の各領域の協同研究態勢が確立していることによる.これらのうち最も具体的な解析の場となる病理学の分野で,胃に重点をおいて10年の間,黙々として観察をつづけ,材料をあつめて来た畏友佐野量造博士が,その薀蓄を傾けたのが本書であるといえよう.恐らく10,000に達する材料から精選したものについて,殊に臨床家に直接役に立つ肉眼的解析に第一の重点をおき,その組織学的内容を丁寧に説明したものは,類書多しといえども正に本書に優るものはないと思われる.永年の経験者でも容易に手にし得ない貴重例も根気よく蒐集してあるのには頭が下る.

 本書は先ず胃癌の病型分類にはじまり,つぎに早期胃癌の肉眼形態及び組織学的特徴を60頁にわたって解説したのち,各病型の組織発生,背景病変を克明に述べている.佐野博士が特に造詣の深い所謂慢性胃炎,隆起状病変の二つには,特に各々60頁,50頁が宛てられていて,本書のみでかなり深い知識が得られる.最後の約50頁は肉腫及び良性腫瘍の記載や例示にあてられている.

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 Pyloric-Sphincter Dysfunction in Patients with Gastric Ulcer: R. S. Fisher, S. Cohen (New England J. Medicine 288: 273~276, 1973)

 近年,十二指腸液の内容,とくに胆汁の逆流が,胃潰瘍発生に重要な役割を果すことがわかってきた.正常人の幽門は,十二指腸内容の胃への逆流を防ぐ役割を有する.この研究では,正常人と胃潰瘍患者での幽門の生理的機能を比較検討している.

編集後記 熊倉 賢二
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 結腸ファイバースコープが容易に回盲部まで挿入できるようになった時点で,盲腸・上行結腸の診断が主題として取り上げられた.X線診断の側でも,改良され能率的になった二重造影法が普及している時期でもある.

 それとともに,編集方針も少し変っている.いままでは病理,X線,内視鏡といった編集が普通であったが,今回は疾患別に編集してある.X線も内視鏡も一体となって診断にあたるべきであって,病理の強力なバックアップも不可欠だからある.

基本情報

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胃と腸
9巻7号 (1974年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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