胃と腸 9巻6号 (1974年6月)

今月の主題 胃を除く上腹部腫瘤の診断

主題

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 ある種の腹部愁訴,特に上腹部のそれをもって患者が来院した場合,まず胃のX線検査は欠くことのできない検査法であることはいまさら言うまでもない.何らかの局在病変が胃に存在する場合は,少くとも本邦においては,胃X線,内視鏡,さらに,必要に応じて直視下生検と,そのsystem化がほぼ完成し,かつきわめて進歩した診断技術により,その病変の発見および性状診断が多くの専門家により,広く日常の診療として行なわれているのが現状である.直径10mm前後の悪性病変でさえ,そう稀でなく発見され,かつ正確な直視下生検によって術前の組織診断が可能な時代となっている.

 しかし一方,悪性腫瘍が胃以外の臓器から発生した場合,ほとんどその早期発見は不可能なのが又一面の現状であり,根治手術可能な時期に発見されてさらに術前の性状診断が確実になされる症例はまことに寥々たるものである.肝,胆道をはじめ膵臓,さらに大腸など近年必らずしも少なくない悪性腫瘍はそのほとんどが既に触診可能,ないし根治不能となって医師の診断を請うものが大多数を占めるのが現状であり,いかにしてこれら臓器悪性腫瘍の早期発見を行なうべきかが今後の大きな問題である.

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 触知可能な腹部腫瘤には腫瘍性腫瘤および非腫瘍性または炎症性腫瘤がある.腫瘍性腫瘤には問題はないが,非腫瘍性腫瘤では,文字どおり腫瘤として触知されるものはよいとしても,肝炎または肝硬変の際の肝腫,あるいは諸種感染症の際の伝染脾または肝硬変の際の脾腫を腹部腫瘤にいれるか否かが問題である.さらに内臓下垂症(Glénard病)の際の触知可能な右腎を腹部腫瘤に数えるか否かが問題である.

 このような肝腫あるいは脾腫,触的可能な右腎は,厳密な意味では触知可能な腹部腫瘤にはいるかもしれない.しかし通常はこれらは腹部腫瘤から除外されている.しかし慢性白血病あるいはカラアザールなどの際の大きい脾腫は腹部腫瘤にいれるのが普通である.また肝硬変の脾腫でも著しく大きければ,Banti症候群として腹部腫瘤に数えられることがある.さらに遊走脾および遊走腎は腹部腫瘤に入れられることが少なくない.したがって触知可能な腹部腫瘤の条件として,表面の性状,ことに凹凸の有無あるいは病的変化の有無,腫瘤の大きさなどをあげることもできない.このようなわけで,触知可能な腹部腫瘤の定義には,なおあいまいな点があるのは否定できず,学者によって多少異なるのはやむをえないであろう.

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 腹部腫瘤の診断には,今日種々の検査法が行なわれている.腹腔鏡検査もその1つである.これは検査法としては歴史の比較的古いものであるが,今日においてもその診断的役割は大きい.とくに最近の内視鏡診断の進歩に伴い,この分野でもいろいろな工夫がなされ,昔に比べよりきめの細かい診断,また治療への応用などかなりの威力を発揮している.

 今回のテーマは,胃を除く上腹部腫瘤の診断に限られているが,話をこれに限定したとしても,本検査法の有用性はなんら変るものではない.

上腹部腫瘤と血管造影 高橋 睦正
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 上腹部腫瘤の放射線学的診断法には,従来から腹部単純撮影,上部消化管検査,胆囊造影,後腹膜気体造影,気腹造影,腎孟造影などが副作用が少なく,実施手技が容易な検査法として用いられてきた.最近になって,これらの検査法に加えて放射性同位元素を用いたスキャンニング,超音波診断法,経皮胆管造影法,膵管造影法,血管造影法が開発され臨床に広く応用されてきている.

 血管造影法の腹部腫瘤診断における特徴は,病巣内の血管のパターンから腫瘤内部の状態を知り得ることである31)34).従来の放射線学的検査法は,腫瘤周囲の状態,周囲臓器との関係から診断に至る,いわば間接的診断法であるが,血管造影法は腫瘤の内部の状態まで観察できる直接的診断法であり,質的診断,鑑別診断が可能という長所を有している.本稿ではわれわれが実施した約3000例の腹部血管造影法の経験をもとにして,上腹部腫瘍に対する意義,読影法などについて解説する.

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 患者が上腹部に腫瘤を訴えてきた場合,それに対しては従来触診や各種レ線学的検査,更には内視鏡的検査などが行なわれていた.そしてその技術の進歩もめざましく,臨床分野において高く評価されてきたことは周知のとおりである.しかし近年核医学の急速な進歩により放射性核種(R.I.)を用いた診断技術もこの上腹部腫瘤の診断に大切な役割を果すようになってきた.時にはこの方法で決定的な診断がつくこともあるほどである.ここでは胃を除く上腹部全般の診断分野における核医学的手法の有用性についての概略を述べるとともに,幾つかの症例を呈示したい.

剖検例からみた脾腫 小池 盛雄
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 脾は種々の疾患に際して腫大し,臨床的には左季肋部の切痕を有する腫瘤として触知され,また季肋下に及ばぬものでも脾濁音界の拡大として認識される,さらには腹腔鏡による直視下の観察,血管撮影および放射性同位元素(59Fe,51Crなど)を用いての脾部体表面計測などの方法により脾腫の病態を臨床的に,的確に把握することが可能となってきた.

 一言に“脾腫”といっても脾腫を来す基礎疾患は多様であり,かつおのおのの疾患に際しての脾の病理形態像は種々である.脾腫を来す基礎疾患の詳細な分類や鑑別は成書にゆずるが,多くは白血病や悪性リンパ腫のごとき種々の血液疾患,Banti症候群や門脈圧亢進を伴う肝疾患,マラリア,カラ・アザールのごとき慢性感染症,稀に種々の蓄積病や脾原発の悪性腫瘍などである.これらの脾腫に際して認められる臨床症状は,その基礎疾患によるものの他に,脾機能亢進症状としての汎血球減少,さらには巨大な脾腫による消化管の圧排,狭窄による消化管通過障害や腫瘍の消化管壁への浸潤およびその潰瘍形成による消化管内大量出血,梗塞による腹痛などの腹部症状を呈することがある.

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 従来,胃良性腫瘍のうち胃囊腫は比較的稀な疾患とされていたが,近年胃疾患の診断が容易となるとともに報告が散見されるようになり,びまん性の多発性囊腫,なかでも胃粘膜下層に多発性囊腫をもちながらその表層粘膜に癌を伴った興味ある症例が報告されるようになった.

 われわれは胃集団検診によって発見された,粘膜表面にⅡc型早期胃癌を伴なった多発性胃壁内囊腫と胃ポリープが併存していた興味ある症例を経験したので報告するとともに,いささか考察を加えてみたい.

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 胃に原発する扁平上皮癌(類表皮癌)ないし扁平上皮癌と腺癌の混在する腺類癌(類腺癌,腺棘皮細胞癌)は,比較的稀な疾患とされており,これまでに諸外国の症例を含めて115例報告されている.いずれの症例もその診断は手術または剖検により発見された進行癌であるが,今回私どもは胃内視鏡検査でⅡc型早期胃癌と診断し,生検所見ではAdenocarcinoma tubulareで明らかな扁平上皮様分化形態を示さなかったが,術後の胃組織学的検索の結果,腺類癌と診断した1症例を経験したので報告する.

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 微小な直腸膨大部癌と診断し,直腸切断術を行ない,術後の組織学的検索によって直腸カルチノイドと判明した1症例を経験したので報告する.

 患 者:63歳 男性  主 訴:特記すべきものなし  既往歴:33歳,虫垂切除術.40歳,赤痢・マラリア,15歳頃より痔疾に悩み現在に至っている.

 家族歴:特記するべきものなし  現病歴:消化器病センター定期検診部の会員で,直腸指診により隆起性病変が存在することを指摘された.直腸鏡下に生検を行ない,癌を疑われ入院,手術を勧められた.

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 今回,私どもは胃X線,内視鏡検査上興味ある所見を示した胃カルチノイドの1例を経験したので,そのX線,内視鏡所見を中心に報告する.

 患 者:加○ 昇 52歳 男性  主 訴:なし(人間ドック)  既往歴・家族歴:特になし.  経 過:昭和46年8月人間ドックで胃に異常所見なし,昭和48年3月再度の人間ドックで胃X線検査で異常所見を指摘され,胃内視鏡,生検の結果,胃癌と診断され昭和48年5月胃切除術をうける.

胃と腸ノート

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〔症例2〕N・0,56歳,(♂).

 Ⅱc型.U1-Ⅳ-Ca(sm).

 図1は切除標本,図2はそのシェーマである.不規則な輪郭を有する横に扁平な潰瘍瘢痕が胃角上部小彎を中心に存在し,それに向って硬化した数本の皺襞が前壁方向からあつまり,小彎および後壁方向からのチリメン状の小さく硬化した皺襞も瘢痕部と思われる部分に呼び込まれたような像を呈している.これらの小彎側方向からの皺襞は背が低く,かつ細いが,後壁側のそれは3~4本の皺襞がやや膨隆し,病変部に向うにしたがってその尖端部のほそまりが目立っている.なお後壁の矢印の部に大彎側方向から3~4本の粘膜ひだがあつまり,その合流部附近にびらんを思わせる変化がある.

印象記

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 いつの学会でもそうであるが,今度も名古屋の学会から帰ってきて,ホテル,レストランetc.のマッチなどとともに総会と関連研究会のname card兼領収証の何枚かを鞄からとりだしてみた.

 ずいぶんと学会費をとられたもんだなと一応思うものの,総会会費だけではとても消化器病学会総会のような大きな学会をスムースに運営することがむずかしいという楽屋裏の苦労も近藤台五郎先生のお手伝いしていささか知っているだけに,とても文句をいう気にはならない.

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 1970年より2年間,西ドイツAachen Prof.W.Frikの教室に,1年2カ月スウェーデンMalmöのProf.E.Boijsenの教室にいて,1月に帰国した,1973年5月26日から29日まで4日間,MünchenでInternational Society of RadiologyとDeutschen Röntgengesellschaftの共催でSymposium Radiologicum Pancreatisが行なわれ,当時Malmöで一緒に働いていたHamburgのH.W.Förste,Malmöの助教授L.Wehlinと出席し,3人で詳細に欧米各国の膵レントゲン診断の現況について聞き,あとでいろいろ議論したり考えたりしてみた.そのSymposiumの概要を報告したい.

 SymposiumはMünchenのShellaton Hotelで行なわれ地元のProf.H.Anackerが世話役で英独仏3力国語が公用語で同時通訳がついた.Prof.Anackerが開会の挨拶を述べ,実際的な問題をdiscussし,research的な問題はさけること,討論に十分な時間をさき発表者のみならず全員が経験,意見を述べるようにすること,出席者が十分な自由時間をとれること,出席者全員の交流,討論に重きをおくことをとくに配慮したと述べた.

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 低緊張性十二指腸造影では,まずゾンデを十二指腸まで挿入することが必要であるため,種々の迅速挿管法が報告されており,柿崎ら1)により本誌にも紹介されている.特にガイドワイヤーの応用により,ゾンデを自然に嚥下させるのに比べて,挿管に要する時間が著しく短縮された.

 しかし,われわれの調べた範囲では,ゾンデとしては単管が用いられており,ガイドワイヤーと造影剤は同一の管を共用している.従来われわれも単管とガイドワイヤーの組合せによる挿管を行なってきたが,この場合次のような問題点があった.①挿管の途中で造影剤の試し注入を行なったり,胃液や胃内の空気を吸引したりする場合,その都度ガイドワイヤーを抜去しなければならなかった.②ガイドワイヤーの滑りを良くするために潤滑剤を使用することがあるが,そのために造影剤を汚す恐れがあった.③操作しやすいようにゾンデの体外に出る部分を長くするためには延長チューブが必要であった.

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欧文目次

質疑応答 青山 大三 , 五ノ井 哲朗
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日頃の臨床体験で疑問を持ちながら,解決してくれる書物がない,というようなことはありませんか? 本欄は日常の診療や勉学上の疑問にお答えする揚です.質問をどしどしお寄せ下さい.

(尚,質問の採否,回答者の選定につきましては,編集委員会にお任せ下さい)

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 たいへん意地のわるい指名をうけたものである,消化管の診断学を勉強している自分に「肝臓」のしかも基礎的な本の書評をせよということである.

 ひとつこの機会にと思って約1週間かけてこの本と取組んでみた.門外漢であるが,読んで頭が痛くなることもなかったし,たいへん面白く,読んでよかったと思っている.ちょうど乾燥しきった砂漠にスコールが長時間続いたような思いがした.当分の間は砂地もしめっているだろうと期待できる.

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 急性腹症のブームは,筆者が昭和39年頃,当時在勤していた墨東病院のデータをもととして臨床研究の結果を盛んに発表した頃より始まったのではなかろうか.

 さて,この本の著者は3人とも筆者の知巳であるが,そのうち2人は昨年身罷られた.人物的にも学問的にも尊敬に価する人達であった.ここに深く哀悼の意を捧げる次第である.残る1人の放射線医は筆者の大学の放射線科の助教授であり,X線診断のエキスパートでもある.この3人の外科医,内科医および放射線医が対話形式をとりながら診断を進めてゆく過程をペーパーに表わした試みは大変おもしろい.

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 本書の内容は大きく二部に分けられている.第一部はいわば総論にあたる部で,胃病変の診断にあたってとして,1.胃X線検査による病変のとらえ方,2.胃内視鏡検査のあり方,3.早期胃癌とその周辺,の3項目を2,3の図表を示し,それぞれ診断学上の重点について簡潔に説明している.ついで第二部はいわば各論で,症例と診断ポイントと題し,現在の方法論でほとんど極限にまで達した内視鏡およびX線診断によって発見されるほとんどの胃病変を1,2例ずつ,X線写真,内視鏡写真,切除標本写真と図示し,その各写真の読み方の説明とともに,いわば結論的にその疾患についての最近の概念と診断のポイントが特に枠に囲んで,実に要領よく記されている.

 本書の特徴は,この枠内に記された簡潔な解説にあり,それらはこの十数年間,日本において多くのその道の研究者,すなわち内視鏡X線病理の各専門家によって開拓されてきたそれぞれの疾患や興味ある主題についての新知識を,多くの代表的文献を参照しつつ要領よくまとめたものである.この枠内の解説文のみをまず読んでゆくのも楽しいし,この本のひとつの読み方であるともいえる.編著者らが最もカを入れたのはおそらくここではないかと想像する.

編集後記 岡部 治弥
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 本月号は少しく趣向をかえて,胃腫瘍を除いた上腹部触診可能腫瘍の診断の現況にその焦点をあててみた.あえて触診可能例としたのは胃腫瘍を除いては,1)上腹部腫瘍のそのほとんどが現在なお,発見のキッカケは触診であり,さらに2)触知はしえても,触診のみではその確定診断はきわめて困難であり,むしろ不可能という事実からである,つい10年前までは試験開腹のみが唯一の確定診断法であったが,本誌にみられるごとく現在では血管造影を初めとして,きわめて多くの診断手技が開発され,多くの腹部腫瘍について術前に,発生臓器や性状はもとより,転移の有無や,手術の適応,根治手術の可能性等,手にとるように的確な情報が得られる状態となってきている.とはいえ,腫瘤の触診はすでに古典的診断手技とさえ見なされるほどの進歩をとげた早期胃癌の診断学に比較すれば,上腹部腫瘍の早期診断はまだ全くその緒にさえついていないといわざるを得ないのが実状である.

 腹部腫瘍には,触診がいまなお無視できぬ重要な発見のキッカケであり,前述のごとく現在では,開腹することなしに確定診断がつけられるようになったとはいえ,その時点では大多数はすでに手遅れであり根治手術は不可能である.この現実を十分に認識していただき,真の早期診断学樹立の意欲を若き研究者に燃やしてもらう端緒ともなれば本誌編集者の企画は成功したことになる.

基本情報

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胃と腸
9巻6号 (1974年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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