胃と腸 54巻7号 (2019年6月)

今月の主題 A型胃炎—最新の知見

序説

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はじめに

 自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis ; AIG)とは,壁細胞に存在するプロトンポンプ(H/KATPase)に対する自己抗体(抗胃壁細胞抗体)が産生されるために壁細胞が破壊され無酸となり,negative feedback mechanismにより高ガストリン血症を呈する病態である.形態的には胃体部を中心とした萎縮性胃炎で,胃前庭部には萎縮を認めないか軽度で,H. pylori(Helicobacter pylori)感染による胃前庭部を中心として胃体部に拡がる萎縮性胃炎とは形態像が異なる.内視鏡所見としては,黒川ら1)が提唱したように,胃体部の高度萎縮で胃前庭部には萎縮を認めない,いわゆる逆萎縮像を示す.AIGでは,血中に高率に抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体などの自己胃抗体を認め,ビタミンB12や鉄の吸収障害を来すと貧血を発症する.AIGのため,胃壁細胞で産生される内因子の分泌低下によりビタミンB12が欠乏し,巨赤芽球性貧血を発症したものを悪性貧血と呼ぶ.

 AIGを診断する意義は,貧血の原因疾患になるとともに,胃体部の高度の萎縮性胃炎のために胃癌発生の高リスク群であり2)〜5),さらに,高ガストリン血症を伴うために,胃NET(neuroendocrine cell tumor)の合併率が高いことにある5)〜10).Malfertheinerら11)のグループは,AIGの診断的意義は胃NETの発生リスクの評価にあると考えて,胃生検組織で胃体部のECL cell(enterochromaffin-like cell)hyperplasiaの存在を診断基準にしている.また,AIGは甲状腺や膵臓など胃外の腺組織の自己免疫疾患と高率に合併すること12)13),他部位の悪性腫瘍の発生率が高いことが指摘されており14),胃の病変ではあるが,単一臓器ではなく全身疾患として理解する必要がある.

 AIGは悪性貧血の頻度の高い,北欧,特にスカンジナビア地方に多い疾患とされ,本邦では悪性貧血の頻度が低いことから,AIGはまれな疾患を考えられていた.しかしながら,最近,本邦でもAIGが注目され,決してまれな疾患でないことがわかってきた15).その背景には,血清ペプシノゲン(pepsinogen ; PG)とH. pylori抗体を用いた胃癌のリスク評価(ABCリスク評価)を行った場合,PG法陽性,H. pylori抗体陰性のD群にAIGがかなり存在することがある16).また,AIGは胃体部の高度萎縮のために胃内pHが上昇し,H. pylori以外のウレアーゼ産生菌が胃内に増加し,迅速ウレアーゼ試験や呼気試験でH. pylori感染診断を行った場合,偽陽性を示し,繰り返しH. pylori除菌が行われる,いわゆる“泥沼除菌”の原因となっていることが明らかになった17)

 H. pyloriの診断と治療が普及し,胃炎の診療方針が確立された中で,AIGは注目度は高まっている.

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要旨●A型胃炎の病理組織学的所見を明らかにするため,手術9例および生検・内視鏡的切除28例を検討した.A型胃炎の病理組織像は,胃底腺領域の粘膜深部を中心としたリンパ球,好酸球浸潤による壁細胞の破壊・消失に始まる.主細胞は比較的保たれ,偽幽門腺化生の形態をとる.胃底腺が消失すると真の幽門腺化生,腸上皮化生,膵腺房化生に置き換えられる.内分泌細胞過形成も認められる.一方,腺窩上皮の萎縮は軽度で,終末期まで囊胞状変化や過形成を示すことも多い.幽門腺領域では粘膜の萎縮に乏しいが,粘膜内の線維筋症の所見が認められ,胆汁逆流性胃症の所見を呈することも多い.

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要旨●これまでA型胃炎は,本邦では悪性貧血やこれに伴う神経内分泌腫瘍(NET)が少ないことから,欧米に比較してその頻度は低いと考えられてきた.しかしながら,近年,胃内視鏡検診を中心にA型胃炎と診断される症例が増加している.本研究では,当施設などで診断されたA型胃炎の臨床的特徴と血清学的所見の検討を行った.なお,A型胃炎の定義は,上部消化管内視鏡検査による逆萎縮を必須とし,抗胃壁細胞抗体あるいは抗内因子抗体が陽性を示す,またはECL過形成あるいはECMを認める症例とした.A型胃炎と診断された47例の性別は男性20例,女性27例,年齢分布は36〜89(平均年齢67.4)歳であった.悪性貧血は7例(14.9%),自己免疫性疾患は8例(17.0%)に認められ,その内訳は慢性甲状腺炎5例,Basedow病3例および1型糖尿病1例(重複あり)であった.胃腫瘍の合併は胃NET 6例および胃癌6例(12.8%,早期癌5例・進行癌1例)であった.抗胃壁細胞抗体は41例中36例(87.8%)が陽性,抗内因子抗体は29例中12例(41.4%)が陽性であり,ECMの出現率は71.0%(22/31)であった.血清ガストリン値は平均値2,930.0±1,849.8pg/ml,血清PG I値は平均値6.6±4.1ng/mlであり,H. pylori感染率は8.9%(4/45)であった.

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要旨●自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis ; AIG)の胃X線造影像に関して多施設後ろ向き研究を実施した.対象は2000年1月〜2018年9月末に胃X線造影検査を受けていたAIG患者とした.診断は内視鏡所見または病理組織学的な胃体部萎縮と自己抗体陽性を必須とした.患者は22例(女性18例,男性4例),平均年齢は61.7歳であった.AIG初期症例では胃底腺領域は顆粒様粗糙型の胃粘膜所見を呈していた.萎縮進行21例では,全例でサメ肌様,平滑に近い中間型またはすりガラス様粘膜像を呈し,18例で胃体部ひだが消失していた.H. pylori感染とAIGのX線造影所見に関係はなかった.AIGの50%にポリープまたは隆起性病変を合併していた.

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要旨●当院で経験した75例の自己免疫性胃炎(A型胃炎)の内視鏡所見について述べた.頻度の高い所見として,固着粘液が64%,WGAが56%,残存胃底腺粘膜が45%,過形成性ポリープが39%に認められた.残存胃底腺粘膜の形態は島状〜偽ポリープ状が最も多かった.本症と類似した内視鏡像を呈するopen型萎縮性胃炎との鑑別は予想以上に難しかった.特にHelicobacter pylori除菌後に胃前庭部の幽門腺が改善してきた症例では,胃前庭部の所見のみでは本症との鑑別は困難である.鑑別には胃体部萎縮粘膜部分の平滑さ,微細アレア,点状発赤が少ないこと,境界明瞭な非萎縮残存胃底腺粘膜の形状などの胃体部の所見が参考になることが示唆された.

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要旨●H. pylori由来の慢性萎縮性胃炎の拡大内視鏡像は胃底腺粘膜では円形〜楕円形の開口部を形成するが,胃底腺の消失した萎縮粘膜では腺窩は溝を形成し,その間の窩間部が管状模様を呈する.しかし,A型胃炎では萎縮粘膜においてもやや大型の円形や楕円形の開口部が密に配列する像を呈する傾向を認めた.近位側で萎縮が著明な胃は通常観察でもA型胃炎と容易に診断できるが,そのような所見を伴わない胃では通常内視鏡像からの診断は困難である.しかし,前述の拡大内視鏡像からA型胃炎と診断できた症例を経験した.それは胃炎の発症機序が異なるため腺窩上皮の改築に違いが生ずるためと考えられる.

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要旨●A型胃炎を背景に発生する胃NETは,I型胃NETに分類され,腫瘍径は小さく多発性であり,病理組織学的にも低悪性度で,予後がよいのが特徴とされる.本邦をはじめとしたこれまでの報告は,そのような特徴に沿うものが多かった.しかし,最近になり,リンパ節転移や肝転移を来すI型胃NET症例が,低頻度ながら存在することが明らかになり,その臨床的特徴として,①腫瘍径10mm以上,②Ki-67 index高値,③固有筋層以深の深部浸潤,などの危険因子が挙げられている.現在,本邦のI型胃NETの研究において,200例の登録が終了し,データの解析に入っており,その結果が注目される.

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要旨●最近12年間に当科で診断したA型胃炎症例の中で,胃癌を合併した20例(23病変)を対象とし,その臨床病理学的所見を遡及的に検討した.対象の平均年齢は76.6歳,男性9例,女性11例で,7例に悪性貧血の合併を認めた.胃癌23病変の大部分は胃体部に発生した隆起型の高分化型腺癌であり,扁平上皮癌の1病変を除く22病変はすべて早期胃癌であった.半数以上は胃型の粘液形質を有し,胃底腺型胃癌や扁平上皮癌なども存在した.胃癌を合併していない自験A型胃炎症例と比較して,胃過形成性ポリープの合併が多く,胃体部の病理組織学的な慢性炎症細胞浸潤や萎縮の程度が強い傾向があり,胃癌合併例はA型胃炎晩期の特徴を有していた.

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要旨●自己免疫性胃炎には,H. pylori感染の関与がある場合とない場合があり,両者間で胃体部や前庭部での萎縮や慢性炎症性変化に違いを認める.いずれも胃酸分泌が著しく低下しており,H. pylori以外の細菌が胃内に棲息でき,その中にはウレアーゼ活性を有する菌もあり,13C-尿素呼気試験(13C-UBT)が陽性となる.H. pylori感染胃炎では除菌後に胃酸分泌が改善するため,H. pylori以外の細菌は棲息しにくいが,自己免疫性胃炎では胃酸分泌は低下したままであり,引き続きウレアーゼ活性陽性細菌が棲息でき,13C-UBTの陽性が継続するため除菌失敗と判断されて除菌療法が繰り返される,いわゆる“泥沼除菌”状態となるため注意が必要である.また,もともとH. pylori未感染であってもH. pylori感染診断に13C-UBTを用いた場合は,H. pylori陽性と判断され,“泥沼除菌”に陥りやすい.

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要旨●胃がんリスク層別化検診(ABC検診)のD群からは高率にA型胃炎(AIG)が発見された(6/24).しかし,2016年のABC検診の改訂基準ではH. pylori抗体価の陰性カットオフ値は3U/ml未満に変更されたため,今後はAIGの多くがC・D群に属することが想定される.いずれにしても,AIGはPGIおよびPGI/II比が著しく低値であるという特性を理解しておくことが,発見契機のうえでも重要となる.また,D群として発見されたAIG例を提示しながら,本邦でのAIG共同研究の結果から得られた内視鏡診断の留意点を紹介した.

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要旨●本邦ではA型胃炎は極めてまれな疾患とされてきたが,近年H. pylori未感染者や除菌後の受診者が増加しているためか,検診の場においてA型胃炎を疑う症例が増加している.当センターの一次内視鏡検診におけるA型胃炎は,2,591例中23例(0.89%)で,男性は1,168例中7例(0.60%),女性は1,423例中16例(1.12%)であった.しかし,A型胃炎の真の頻度はさらに高い可能性がある.今後は,A型胃炎の発症初期を含めた診断基準の確立,H. pylori感染との関連性の解明などが必要である.だが,何よりも内視鏡検診医自身が,本疾患を検診で拾い上げることの意義を理解し,特徴的な内視鏡所見を熟知しておくことが最も重要である.

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要旨●患者は70歳代,女性.心窩部痛の精査目的で行ったEGDで萎縮性胃炎を認め,尿素呼気試験でH. pylori感染陽性と診断した.2次除菌で除菌成功を確認した.除菌成功1年後のEGDで,胃前庭部の萎縮性変化が乏しいのに対して,胃体部から胃穹窿部にかけて萎縮性変化の進展が認められ,明らかな内視鏡的逆萎縮の所見を示した.この時点でAIGを疑った.空腹時血清ガストリンは673pg/ml,PCA陽性,胃体部粘膜の生検でECMを確認し,AIGと診断した.

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要旨●患者は60歳代,女性.検診の上部消化管内視鏡検査にて胃体部に高度萎縮と多発する扁平隆起性病変を指摘された.PG I 12.9ng/ml,PG I/II比1.1と高度萎縮を呈しガストリン値は4,804pg/ml,PCAは80倍であった.胃体部は木村/竹本分類でO-3の萎縮を呈した.平坦隆起部をNBI拡大観察すると,短管状ないし円形の模様が混在して観察されたが,顆粒状ないし乳頭状変化は認めなかった.平坦隆起からの生検では粘膜深層の胃底腺に中等度のリンパ球浸潤があり,固有胃腺は著明に萎縮し壁細胞が消失していた.免疫染色でも内分泌細胞の胞巣状増生は目立たなかった.偽ポリポーシスは固有胃腺の萎縮を伴った腺窩上皮の相対的過形成が本態であった.

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要旨●患者は40歳代,男性.主訴はなく,生来健康で既往歴は特に認めなかった.健診目的に大腸内視鏡検査を施行したところ,直腸下部(Rb領域)に20mm大の隆起性病変を認めた.病変の境界は比較的明瞭でLST(laterally spreading tumor)様の形態を示しており,拡大観察では楕円形,直線型の多彩なpitが観察され,腫瘍性病変・非腫瘍性病変の鑑別を要する病変であった.病変部からの生検では,線維筋症(fibromuscular obliteration)を認め,直腸粘膜脱症候群の像を示していた.

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 この一冊は,特集記事が21頁に及ぶ座談会のみで,本誌としては特異な構成である.このタイトルは裏返せば,現状があるべき姿にないことへの嘆きである.座談会出席者(敬称略)は市川平三郎(司会),丸山雅一,牛尾恭輔,長廻紘,吉田茂昭,渡辺英伸,高木国夫,八尾恒良,多賀須幸男の諸氏で論客揃いである.市川の導入に続いて丸山は「消化管のX線診断は滅びつつある」と口火を切り,「放射線科は玩具と戯れすぎる」,「バリウム診断を継承していくことを全く怠っている」と述べるが,これに対して牛尾・市川はX線診断への原点回帰に希望をつなぐ.さらに丸山は「内視鏡が次の世代に残すことができるのは,生検の技術だけ」,「病理は感性に頼りすぎる」と批判し,長廻は「X線と違って内視鏡は芸術ではなくて,極めてプラクティカルなもので行き着くところが生検」,「ホームランでもホームスチールでも1点は1点」と応酬する.既にデジタル診断,人工知能への言及もみられている.30年前と言えば私が消化器内科に進んで3年目で,X線と内視鏡を消化管診断学の両輪と信じ,もがいていた時期である.「下手な内視鏡写真は下手なX線写真よりいいけれども,最高の二重造影写真にはどんなに頑張っても内視鏡写真はかなわない」.かくも刺激的な発言が満載の記事には昨今なかなかお目にかからない.一読をお勧めする.

 ついでにcoffee breakについてふれておく.1981年から“M”氏(誰?)の執筆で始まった蘊蓄のある随筆のようなコーナーで,現在も続いている.2006年41巻12号に丸山雅一氏が執筆したcoffee break「経験を語る前に—最近の早期胃癌研究会に思うこと,そして運営委員の諸兄に望むこと」をたまたま読んで驚いた.自施設が提示した症例を俎上に診断学についての考察が展開され,話題がヒューリスティックにも及んでいる.氏の卓見にはただただ脱帽である.ちなみにこの症例は「大腸憩室を背景に発生したと考えられるfiliform polyposisの1例」として2012年47巻7号に掲載されている.このような予期せぬ出逢いがあるのは電子ジャーナルならではの醍醐味である.電子ジャーナルで「胃と腸」の海に漕ぎ出してみませんか.

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編集後記 蔵原 晃一
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 A型胃炎は成因から自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis ; AIG)とも呼ばれ,胃体部優位の萎縮を特徴とし,無酸症と高ガストリン血症を呈し,悪性貧血の原因疾患として,また,胃NET(neuroendocrine cell tumor)と胃癌の発生母地として知られている.本邦ではまれな疾患と考えられてきたが,近年,A型胃炎の頻度は,内視鏡検診受診者の0.49%,ABC検診D群の25%などと報告され,従来の報告よりもはるかに高頻度であることが判明しつつある.一方,その病態や実態は不明な点が多く,高ガストリン血症の定義や抗胃壁細胞抗体陽性を必須とするかなど,明確な診断基準は依然確立されていない.その内視鏡所見はいわゆる逆萎縮パターンが特徴的とされるが,AIGの病期,H. pylori感染の有無により多彩な像を呈するなど,「木村・竹本分類」に当てはまらない胃炎として,確定診断に至っていない症例が潜在している可能性がある.

 本特集号では,「胃と腸」誌初のA型胃炎特集号として,昨今のH. pylori胃炎の減少とともにクローズアップされつつあるA型胃炎に関する最新の知見を提供し,診断基準の確立,拾い上げ診断の向上に寄与することを目標とした.企画は小澤・海崎・蔵原の3名が担当した.自施設でA型胃炎症例を集積し,精力的に学会・論文発表している先生方に,序説,主題とノートの執筆を依頼した.

基本情報

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胃と腸
54巻7号 (2019年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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