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この一冊は,特集記事が21頁に及ぶ座談会のみで,本誌としては特異な構成である.このタイトルは裏返せば,現状があるべき姿にないことへの嘆きである.座談会出席者(敬称略)は市川平三郎(司会),丸山雅一,牛尾恭輔,長廻紘,吉田茂昭,渡辺英伸,高木国夫,八尾恒良,多賀須幸男の諸氏で論客揃いである.市川の導入に続いて丸山は「消化管のX線診断は滅びつつある」と口火を切り,「放射線科は玩具と戯れすぎる」,「バリウム診断を継承していくことを全く怠っている」と述べるが,これに対して牛尾・市川はX線診断への原点回帰に希望をつなぐ.さらに丸山は「内視鏡が次の世代に残すことができるのは,生検の技術だけ」,「病理は感性に頼りすぎる」と批判し,長廻は「X線と違って内視鏡は芸術ではなくて,極めてプラクティカルなもので行き着くところが生検」,「ホームランでもホームスチールでも1点は1点」と応酬する.既にデジタル診断,人工知能への言及もみられている.30年前と言えば私が消化器内科に進んで3年目で,X線と内視鏡を消化管診断学の両輪と信じ,もがいていた時期である.「下手な内視鏡写真は下手なX線写真よりいいけれども,最高の二重造影写真にはどんなに頑張っても内視鏡写真はかなわない」.かくも刺激的な発言が満載の記事には昨今なかなかお目にかからない.一読をお勧めする.
ついでにcoffee breakについてふれておく.1981年から“M”氏(誰?)の執筆で始まった蘊蓄のある随筆のようなコーナーで,現在も続いている.2006年41巻12号に丸山雅一氏が執筆したcoffee break「経験を語る前に—最近の早期胃癌研究会に思うこと,そして運営委員の諸兄に望むこと」をたまたま読んで驚いた.自施設が提示した症例を俎上に診断学についての考察が展開され,話題がヒューリスティックにも及んでいる.氏の卓見にはただただ脱帽である.ちなみにこの症例は「大腸憩室を背景に発生したと考えられるfiliform polyposisの1例」として2012年47巻7号に掲載されている.このような予期せぬ出逢いがあるのは電子ジャーナルならではの醍醐味である.電子ジャーナルで「胃と腸」の海に漕ぎ出してみませんか.
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