胃と腸 55巻1号 (2020年1月)

今月の主題 早期胃癌の範囲診断up to date

序説

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胃癌範囲診断の歴史

 早期胃癌の治療は,内視鏡的切除術が開発される以前は,すべて外科手術によって行われていた.その当時も早期胃癌の範囲診断は重要であったが,定型手術である遠位側胃部分切除術の場合,通常の内視鏡診断に加えて想定される外科的切除断端となる肛門側から生検を行い,術前の範囲診断は完結した.しかしながら,早期胃癌の治療に対しEMR(endoscopic mucosal resection),ESD(endoscopic submucosal dissection)が開発され,内視鏡治療の時代になり早期胃癌の範囲診断の臨床が変わった.すなわち,治癒切除のためには,早期胃癌の範囲を全周にわたり厳密に同定する必要性が生じ,ESDを施行する際は,粘膜内癌・分化型癌・潰瘍の合併がない場合は,広範な病変についても全周にわたり厳密な範囲診断を内視鏡観察で行うこともまれではなくなった.すなわち,内視鏡治療の進歩とともに内視鏡観察による範囲診断にもより高度の技術や詳細な知識が求められるようになった.

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要旨●正確な内視鏡診断を行ううえで,病理組織像を内視鏡画像に還元することは重要なことである.特に画像強調内視鏡や拡大内視鏡の普及により,内視鏡画像はより組織構築を反映したものになっており,病理組織像との対比も腺管レベルの詳細なものが求められている.そこで筆者らは,内視鏡画像と病理組織像を体系的に対比する方法をKOTO methodとして提唱し,報告した.対比方法は,以下の3段階で行う.①検体の固定と画像撮影,②検体画像と病理組織像の重ね合わせ,③検体画像と内視鏡画像の対応および内視鏡画像と病理組織像の重ね合わせ.この方法の詳細を具体例の提示を含め,説明する.体系的な対比が内視鏡診断の進歩につながることを期待する.

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要旨●早期胃癌の範囲診断について,H. pyloriの感染状況,胃癌組織型,また内視鏡検査のmodality別,すなわち通常・色素内視鏡(C-WLI & CE),NBI併用拡大内視鏡(ME-NBI)観察の倍率別に範囲診断能について検討した.既報ではH. pylori既感染胃癌では範囲診断が困難とされているが,本検討ではC-WLI & CE観察はH. pylori現感染,既感染にかかわらず同等の診断能であった.ME-NBI弱拡大観察はH. pylori現感染においては最大倍率観察とほぼ同等の正診率を有していたが,H. pylori既感染ではH. pylori現感染の正診率と比較すると有意に低く,ME-NBI最大倍率観察が必要と考えられた.組織型で検討すると,分化型胃癌ではH. pylori感染状況にかかわらず正診率は高かったが,未分化型胃癌は少数例ではあるが各内視鏡modality別での範囲診断正診率は低く,さらにH. pylori現感染においての正診率が低い傾向であった.早期胃癌の範囲診断はH. pylori感染の有無,癌の組織型や内視鏡のmodalityによっても異なり,それらの性質を理解して慎重に行う必要がある.

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要旨●H. pylori現感染と既感染における早期胃癌の範囲診断困難例について検討した.当院の検討では,H. pylori除菌後胃癌は現感染胃癌と比べ,境界が不明瞭である病変が多く,非腫瘍粘膜の被覆や混在を認める割合が高かった.またH. pylori除菌後胃癌の中でもより境界不明瞭となる病変は,0-IIc型が多く,背景粘膜が腸上皮化生であることが少ないという特徴が判明した.境界不明瞭な病変の範囲診断を行う際,white zoneの幅に着目した観察が大切である.また,非腫瘍粘膜の被覆を疑うときは,粘膜構造内に不整な血管がないかを観察することが必要である.さらには,背景粘膜に腸上皮化生を認めない場合,腫瘍を非腫瘍粘膜が被覆する割合が高くなるため,範囲診断には特に慎重な観察が求められる.

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要旨●H. pylori未感染印環細胞癌の内視鏡的,病理組織学的特徴は明らかではない.今回,H. pylori現感染例とH. pylori除菌例との違いも含めて明らかにすべく検討を行った.対象は2010年1月〜2014年12月に,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行した印環細胞癌53例53病変(H. pylori現感染例19例,H. pylori除菌例14例,H. pylori未感染例20例).方法は範囲診断を含めた内視鏡的特徴,病理組織学的特徴の比較を行った.その結果,H. pylori未感染例は内視鏡的特徴として現感染例・除菌例と比較して0-IIb型が多く,NBI併用拡大観察では現感染例と比較して窩間部開大所見が多く,範囲診断正診割合が高かった.また,病理組織学的特徴としては現感染例と比較して腫瘍径が小さかった.これらを念頭に置き,内視鏡検査を行うことが,H. pylori未感染印環細胞癌の診断において重要である.

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要旨●早期胃癌のうち,未分化型癌の範囲診断誤診に寄与する因子について検討した.2002年9月〜2017年12月の間に,術前に未分化型癌と診断されESDが行われた282例を対象とした.ESD施行時のマーキング内に病変が限局している症例を範囲診断正診例と定義し,範囲診断誤診に寄与する因子について比較検討した.ESDのマーキング外進展例は29病変(10.3%)にみられ,ESDのマーキング外進展に寄与する因子として,M領域の病変,M-NBI使用なし,最終陰性生検陽性が抽出された.本検討の結果から,未分化型癌の範囲診断困難例に対しては,ESD前にM-NBIを用いて周囲陰性生検を行い,陰性生検陰性を確認することが重要と考える.

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要旨●2012年1月〜2018年4月までに当院で内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)もしくは外科手術をされ,切除検体で手つなぎ・横這い型胃癌と診断された早期胃癌44病変に対して範囲生検の陽性・陰性的中率および術後のマッピング像を後ろ向きに検討し,範囲診断能を検討した.白色光像,インジゴカルミン撒布像,NBI拡大像で範囲明瞭と判断できたものはそれぞれ38.6%(17/44),56.8%(25/44),68.2%(15/22)であった.術前の範囲生検において陽性,陰性の正診率は95.5%(84/88),85.9%(263/306)であった.切除検体のマッピング像をもとに腫瘍の拡がりを検討したところ,類円型24病変に対して不整型は20病変と,類円型である病変が多かったが,約半数ほど不整な伸展を呈していた.術前に範囲を正確に認識できていた症例も認められたが,当初の認識と異なっていた症例が数例見受けられ,手つなぎ・横這い型胃癌に対して生検による範囲診断は重要と考えられた.

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要旨●胃型形質を示す胃腫瘍の中で,①胃底腺型腺癌,②胃底腺粘膜型腺癌,③腺窩上皮型胃癌(白色扁平隆起,ラズベリー様),④H. pylori現感染・既感染の胃型形質の胃腺癌について,範囲診断を中心に報告した.さまざまな発育進展形式を有していることから各腫瘍において特徴的な内視鏡所見や境界の所見を呈していた.表層が非腫瘍性粘膜に覆われている可能性が高い胃腫瘍(胃底腺型腺癌,H. pylori現感染・既感染の胃型形質の未分化混在型胃癌)においては,白色光観察の色調や形態の所見で境界を推測することが可能な症例もあるが,基本的には内視鏡的に正確な範囲診断をすることは困難であり,推測できない場合には術前の4点生検が必要である.一方,表層に腫瘍が露出している胃腫瘍(胃底腺粘膜型腺癌,腺窩上皮型胃癌,H. pylori現感染と除菌後の胃型形質の胃分化型腺癌)においては,基本的には白色光観察に加えNBI併用拡大観察による範囲診断が有用である.胃型の腺癌にはさまざまなパターンが存在するが,H. pylori感染状況により各腫瘍を分類することが可能であり,背景粘膜の性状を加味したうえで各腫瘍の内視鏡的特徴を類推することが正確な内視鏡診断,範囲診断につながる可能性がある.

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要旨●早期胃癌の診断・治療では病変の範囲診断は重要だが,臨床では潰瘍瘢痕(UL)併存病変の範囲診断に難渋することが見受けられる.UL併存病変の形態的特徴を後ろ向きに検討した.2018年8月〜2019年8月までに当院でESDを施行し,UL併存と判断した病変を対象とした.病変の形状が類円形のものを整,辺縁が突起状に拡がるものや,瘢痕上に複数の病変を認めるものを不整・分断に区分した.解析対象となった14例のうち,不整例は7例(50.0%)で5例(35.7%)は病変の境界を全周に追うことが困難だった.不整・分断例のうち,2例は多発病変だった.UL併存病変は高率に不整形で,病変の範囲の評価が困難な症例が多く,範囲診断に十分な注意を払う必要があると考えられた.

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はじめに

 手つなぎ型胃癌とは,腸上皮化生腺管に類似した細胞異型の乏しい腺管から構成され,あたかも腫瘍腺管同士が手をつないでいるような“手つなぎ”型吻合をはじめ,特徴的な構造異型を示す低異型度分化型腺癌である.特徴的な腫瘍腺管構築をアルファベットの形にたとえ,“WHYX lesion”と称されることもある.粘膜内,特に増殖帯の高さを中心に,水平方向に這うように進展する例が少なからず経験されることから“横這い型胃癌”とも呼ばれ,ほぼ同義語として使用される1)

 腸上皮化生と類似した低異型度癌のため,生検診断が難しい例がまれではない2).病理組織学的特徴を反映して内視鏡検査での範囲診断が困難な例も経験される3).このような胃癌が存在することを認識し,その特徴を知っておくことが肝要である. 近年の胃癌ゲノム研究の進歩により,手つなぎ型胃癌の遺伝子異常についてもその一端が明らかになってきた.この癌の病態解明や治療戦略を検討するうえで重要な知見と考えられ,後半で紹介する.

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要旨●近年,AI(artificial intelligence)による内視鏡診断が注目されている.AIによる胃癌の通常内視鏡診断では,存在診断と深達度診断の報告があり,前者は感度92.2%,陽性適中率30.6%である.後者はAUC(area under the curve)が0.851と超音波内視鏡検査よりも優れている可能性が示されている.一方,AIによる胃癌の拡大内視鏡診断では,小陥凹型胃病変の鑑別診断において,感度96.7%,特異度95%,正診率96.3%と報告されており,非熟練医と比較して感度,特異度,正診率は有意に高い.範囲診断能は,感度65.5%,特異度80.8%,正診率73.8%と報告されている.

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要旨●患者は70歳代,男性.自然除菌後の胃体上部後壁に,一部境界不明瞭な20mm大の発赤扁平隆起性病変とその周囲に平坦発赤域が散在していた.扁平隆起した主病変部分はNBI拡大内視鏡でVEC patternを呈し乳頭腺癌を疑った.その周囲の発赤域は概ねLBC(light blue crest)を伴う形状均一なvilli様構造で腸上皮化生と診断した.内視鏡的切除標本では主病変部分は主に乳頭腺癌・管状腺癌から成り,深達度pT1b(SM2),脈管侵襲陽性であった.その周囲には随伴IIb病巣として横這型癌が存在し側方断端陽性であった.追加外科的切除標本では癌の遺残,リンパ節転移は認めなかった.横這型癌は,非全層性発育によりNBI拡大内視鏡診断が困難な場合もあり,陰性生検も時に併用し慎重な範囲診断が求められる.

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要旨●患者は80歳代,男性.除菌後胃炎を背景として胃体下部前壁に約20mm大の境界不明瞭な発赤調陥凹性病変を認め,NBIではbrownish areaを呈した.ME-NBIにて,表面構造の違いで境界明瞭であった.除菌後の粘膜内高分化管状腺癌と診断しESDを施行した.病理組織学的には粘膜内高〜中分化管状腺癌で,辺縁のわずかな範囲で表層非腫瘍であった.また,この病変と一部重なって肛門側前壁側に胃底腺深部に進展した術前未診断の粘膜内低分化腺癌があり,側方断端陽性となった.通常,低分化腺癌は腺頸部に存在するが,本例では粘膜筋板直上のみに存在していた.粘膜中〜表層は胃底腺粘膜が保たれており,同部位のME-NBIは背景粘膜と同様の整な腺管構造を呈していたことから,内視鏡診断の限界例と判断した.このような症例では再発リスクが高いため,正確なマッピングと内視鏡像との対比に基づいて再発予測部位を同定し,サーベイランス内視鏡時に詳細に観察することが重要である.

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目次

欧文目次

早期胃癌研究会 症例募集

「今月の症例」症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 九嶋 亮治
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 われわれ病理医は,非腫瘍と腫瘍の鑑別をする際,病理組織学的に異型性を示すところが“領域性”を示すかどうかを観察している.その“領域”の辺縁を“フロント”と呼んでいる.同様に内視鏡医も,通常内視鏡検査において,色調を含む粘膜の表面構造の異常が“領域性”を示すかどうかを観察されているはずである.拡大観察では病理組織学的要素が加味され,粘膜表層部の血管像と上皮の構築の異常をみることで病変の領域性とdemarcation lineを認識されていると思う.拡大観察をもってしても範囲診断を見誤るということは,領域性とフロントが認識し難いということであり,拡大観察は病理学的検索に近づいているので,そのような症例は病理診断も難しいはずである.藤田論文では,内視鏡画像と病理組織像を腺管レベルで一対一対応させる画期的で実用的な方法を紹介している.

 胃腫瘍の範囲診断には腫瘍の病理組織学的特徴,進展様式と背景粘膜との対比に加えて,二次的な修飾も考慮しなければならない.内多論文は,連続的多数例の早期胃癌を対象として,内視鏡のmodality別の範囲診断能をH. pylori感染の有無,胃癌組織型別に検討した大論文であり,これで全体像がわかる.潰瘍併存症例の範囲診断の難しさについては齋藤論文で,少数例であるが詳しく検討されている.

基本情報

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胃と腸
55巻1号 (2020年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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