胃と腸 50巻9号 (2015年8月)

今月の主題 食道胃接合部腺癌

序説

食道胃接合部腺癌とは 九嶋 亮治
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はじめに

 食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)を挟んだ領域に発生する癌を食道胃接合部癌(carcinoma at the esophagogastric junction)という.EGJならびに食道胃接合部癌の定義にはいくつかの種類があり,診断も容易でないことが多い.Helicobacter pylori(H. pylori)の感染率が低い欧米では従来Barrett腺癌〜食道胃接合部癌の頻度が極めて高いが,本邦でもH. pylori陰性時代を迎え,徐々にではあるが増加傾向にある1)

 本号ではこの領域に発生する腺癌を取り扱うが,組織発生論的には,食道噴門腺,胃噴門腺,Barrett上皮と食道腺がその発生母地になりうる.診断方法や内視鏡切除における根治性の基準(SM浸潤距離など),またリンパ節転移様式,頻度,郭清範囲など,いまだ十分なコンセンサスは得られていない.詳細は各分野のエキスパートによる主題をお読みいただきたいが,序説では初学者あるいは病理に馴染みの薄い先生方が食道胃接合部腺癌を理解するためのポイントと問題点を病理医の立場から紹介したい.

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要旨●食道胃接合部癌は,その中心が接合部上下2cm以内に存在する腫瘍と定義された.この腫瘍は単一の病態ではなく,胃噴門部癌とBarrett粘膜,特にSSBEに発生した食道下部腺癌が含まれている.診断するうえで,食道胃接合部を同定すること,発生母地としての食道・胃の同定が重要である.食道であることの診断には,固有食道腺とその導管,扁平上皮島,100μm以上の径を有する組織学的柵状血管,粘膜筋板の二重化が指標となる.内視鏡的切除検体でも複数の標本を作製して観察すれば,ほぼ全例で上記指標が認められる.食道胃接合部癌の定義が明記されてからまだ十分な期間を経ておらず,この腫瘍の病態を明らかにするために,接合部癌の診断,さらにはBarrett食道腺癌または胃噴門癌の鑑別診断を正確に行い,症例を集積することが必要である.

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要旨●食道胃接合部腺癌の臨床病理学的特徴について自験例を加えた論文レビューを行い,食道胃接合部腺癌に関連した諸問題について検討した.8論文と自験例より507例の表在食道胃接合部腺癌のデータを集計したところ,表在食道胃接合部腺癌は70歳前後の男性を中心に見られ,組織型は分化型腺癌が多く肉眼型では隆起型が多かった.また,本邦において食道胃接合部癌の定義は西分類が主に用いられており,EGJから上下2cmに腫瘍の中心を認める癌と定義されている.EGJの同定には短いBarrett食道の頻度が高い本邦では,内視鏡的に食道下部に観察される柵状血管がランドマークとして適しているであろう.本邦では欧米ほど症例数が多くないため共通の定義を用いてデータを解析し,治療適応条件などを決めていくことが必要であろう.

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要旨●対象27例のX線造影像と切除標本の病理組織学所見を遡及的に見直し,食道胃接合部腺癌におけるX線造影検査の浸潤範囲診断能および深達度診断能を検討した.浸潤範囲診断能は66.7%(18/27例)であり,診断不成功例は,浸潤境界部に平坦な病変を随伴した病変が多く,食道胃接合部腺癌においても平坦病変に対するX線診断は限界となりうることが示唆された.側面像における陰影欠損のみをSM2以深の指標とした深達度診断は,感度57.1%(4/7例),特異度85.0%(17/20例),正診率77.8%(21/27例)であった.浅読み例の病理組織学所見は,いずれもSM垂直浸潤距離が短く,SM小浸潤は診断限界と考えられた.深読み症例は全例不十分な壁伸展による偽SM所見が誤診の要因であった.食道胃接合部腺癌のX線診断においては,閉鎖期,半閉鎖期の所見を加味して診断することが重要である.

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要旨●「胃癌取扱い規約 第14版」1)では食道胃接合部(EGJ)を“食道筋層と胃筋層の境界の上下2cmの部位を食道胃接合部領域”とし,内視鏡的なEGJの定義として“食道下部の柵状血管の下端”“胃大彎の縦走ひだの口側終末部”を挙げている.これらの所見を正確に観察するためには,深吸気時の観察が重要である.人間ドックで上部消化管内視鏡検査を受けた1,057例〔男性625例/女性432例,年齢中央値60(17〜93)歳〕を前向きに検討した結果,深吸気時に,胃のひだ上縁を564例,柵状血管下端を742例に認め,218例では共に観察できなかった.SSBEの頻度は728/1,057(69%)で,LSBEの頻度は0/1,057(0%),Barrettなしが111/1,057(11%),判定不能が218/1,057(21%)であった.食道胃接合部癌の鑑別診断には,通常観察における領域性(境界の有無)の観察と,NBI拡大観察における表面構造,血管構造の観察が重要である.また,EGJには扁平上皮,食道噴門腺,胃噴門腺,腸上皮化生が存在するため,その内視鏡的特徴を熟知する必要がある.炎症が高度の場合はPPI投薬後の再検が有用だが,病変が扁平上皮に被われて,範囲診断が困難となる場合もあり注意を要する.また,炎症異型にて生検診断が困難な場合もあるため,内視鏡診断と生検診断が乖離した場合は,内視鏡専門医および消化管専門病理医へコンサルトすることが重要である.

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要旨●食道胃接合部腺癌の増加や内視鏡治療技術の発展に伴い,食道胃接合部腺癌に対して内視鏡治療を行う機会は増えているが,治療の適応や治癒基準については,明確なコンセンサスが得られていない部分がある.当院では胃癌治療ガイドラインに準じて内視鏡治療適応の判断および治癒判定を行っており,治癒基準を満たした症例の治療成績は良好であった.一方で,これらの中には食道癌診断・治療ガイドラインに準じた場合に,非治癒切除となる症例が含まれている.内視鏡治療は食道胃接合部癌に対しても有用と考えられるが,治療の適応および治癒基準を確立させるためには,より多くの症例を集積し,詳細な検討を行うことが必要である.

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要旨●食道胃接合部癌は,食道と胃の境界領域に位置するという解剖学的特殊性のために食道癌として扱うべきか胃癌として扱うべきか議論があり,術式選択の基準とすべきデータがなかった.日本胃癌学会・日本食道学会合同で行われた全国調査により,暫定的基準としてのリンパ節郭清アルゴリズムが策定され,「胃癌治療ガイドライン 2014年5月改訂第4版」に収載された.No.4sb,4d,5,6といった幽門側胃の壁在リンパ節は,予防的リンパ節郭清の効果が限定的と考えられ,郭清推奨範囲に含まれていない.腫瘍径4cm以下の場合には胃全摘術は必ずしも必要がないという暫定的結論であり,今後の術式選択に一定の方向性が出てくるものと考えられる.

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要旨●食道胃接合部腺癌は,2種類の異なる腫瘍の混在であると報告されている.ひとつは,H. pylori陰性の場合が多いが,胃食道逆流症(GERD)に関連したBarrett腺癌と同様の特徴を持つものである.胆汁を含む十二指腸液の逆流が関与し,特に夜間の臥位の状態では,身体の背側に位置する食道胃接合部(EGJ)にて,ニトロソ胆汁酸の発生と安定化が起こり,発癌に関与していると考えられる.もうひとつは幽門側の胃癌のようにH. pylori関連の萎縮性胃炎を背景に発生するものである.胃酸分泌の低下に伴い,胃内に溶解している胆汁酸の割合が増加する.胆汁酸はH. pyloriに対して殺菌的もしくは静菌的に働くために,萎縮が高度になるとともに,H. pyloriは胆汁酸の逆流が多い幽門側から口側へと移動し,噴門部炎を起こし発癌に関与すると考えられる.本稿では,食道胃接合部腺癌を2種類に分類し,それぞれの発癌過程において,胆汁酸,胃内pH,H. pylori感染の3要素間にみられる相互作用を考慮しながら,食道胃接合部腺癌発生のメカニズムについて考察する.

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要旨●患者は70歳代,男性.通常観察にてSCJ直下2時方向に径15mm大のくびれを有する発赤調隆起性病変を認め,頂部はやや陥凹していた.NBI併用拡大観察では,表面構造は小型の乳頭・顆粒状構造と口径不同を伴う異常血管を認め,深達度T1a(M)と判断した.2か月後の通常観察では明らかに腫瘍は増大し緊満感を認め,深達度T1b-SM2と診断したが,CT検査上リンパ節転移を認めなかったため,高齢・合併症を考慮し局所制御を目的にESDを施行した.病理学的診断はadenocarcinoma with squamoid(or basaloid)differentiation in part,pT1b(SM2, depth:about 3,000μm),ly0,v1(marked),pHM0,pVM0,23×15mm.粘膜下層浸潤部および静脈浸潤組織像は扁平上皮への分化を示唆する充実性低分化型癌あるいはbasaloid carcinoma様の癌を呈していた.ESD施行4か月後に肝S4に転移を認めたため拡大肝左葉切除を行い,病理組織学的には原発巣のSM浸潤部と同様の組織像を呈していた.ESD施行7か月後には多発肺転移を認め,ESD施行1年3か月後に肺癌性リンパ管症で原病死した.

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要旨●患者は68歳,男性.自覚症状なし.上部消化管内視鏡検査にて食道胃接合部に長径20mmの隆起性病変を認め,頂部に不整形陥凹を伴っていた.病変の立ち上がりは粘膜下腫瘍様で非腫瘍性粘膜に覆われて陥凹面は発赤調粗糙粘膜であった.NBI併用拡大観察で陥凹部にループ形成の乏しい異常血管がみられ,一部でType R様の網状血管を認めた.生検で中〜低分化腺癌が検出され,下部食道・噴門側胃切除術を施行した.切除病理標本で腫瘍は粘膜下層を主体に増殖した腺内分泌細胞癌で,大部分は内分泌細胞癌であったが,管状腺癌の部分や印環細胞を呈する部分が併存し,陥凹部で表層に露出していた.術後化学療法を施行し9か月無再発生存中である.

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要旨●患者は60歳代,男性.検診時の便潜血反応陽性精査のために施行した大腸内視鏡検査にて,横行結腸に10mm大のIs+IIc型病変を認めた.拡大内視鏡観察では,Is型隆起部は開大したII型様pitと鋸歯状構造を伴うIIIL型様のpitが,IIc型陥凹面には小型で不整な腺管開口部が観察された.鋸歯状病変より発生した癌で軽度の粘膜下浸潤を伴うものと診断し,EMRを施行した.切除標本で病変の大きさは10mmで病変肛門側に3mmほどの陥凹を伴っていた.病理学的診断では陥凹部に一致して中分化型管状腺癌を認め,深達度はSM(800μm)で深部に粘液結節を伴っていた.非癌部の隆起部は鋸歯状腺管より成り,深部に向かい分岐や拡張を伴い,腺底部には一部に横走腺管も認め,SSA/Pに相当する病変であった.本例は3年6か月前に大腸内視鏡検査を施行しており,今回の病変と同一部位にほぼ同じ大きさのIIa型でII型pitから成る病変を認めていた.このことから,本例は鋸歯状病変より発生した早期大腸癌であると考えられた.鋸歯状病変由来大腸癌の経時的形態変化を確認できた症例であった.

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要旨●患者は70歳代,男性.2012年に便潜血反応陽性の精査目的に大腸内視鏡検査を施行,S状結腸に径15mm大の0-IIa+IIc型病変を認めた.通常内視鏡観察では陥凹部に硬さがありSM浸潤の可能性が示唆されたが,拡大内視鏡観察ではSM深部浸潤所見は認めなかったため,完全摘除生検目的にてESDを施行した.病理組織学的所見は,well differentiated adenocarcinoma,pT1a(SM 600μm),ly0,v0,budding(簇出)Grade 1,HM0,VM0で治癒切除であった.表面型腫瘍において,腫瘍の硬さはSM浸潤以外の理由でも呈する場合があるが,今回,腫瘍の硬さを認めるものの,拡大内視鏡観察でSM深部浸潤所見を否定でき,内視鏡治療で根治できた大腸SM癌を経験したので報告する.

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早期胃癌研究会 症例募集

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次号予告

編集後記 小野 裕之
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 本号を手にした初学者の皆さんは,まず序説の「食道胃接合部癌とは」をご一読いただきたい.かくいう私も初学者と言うにはやや薹が立ちすぎているかもしれないが,まず一読し,二読,三読した.

 食道胃接合部癌について,何となくわかっているような気がしていたが,きちんと捉えていないことがよくわかり,勉強になった.多くの論文に記載されているように,食道胃接合部の定義や,この部位の癌は食道癌なのか,胃癌なのか,ということが欧米と本邦では異なっており,私だけかもしれないが,頭が混乱してくる.まずこの序説を読んで,頭を整理したのち,他の論文を読み進めていくのがお薦めである.

基本情報

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胃と腸
50巻9号 (2015年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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