胃と腸 36巻10号 (2001年9月)

今月の主題 縮小治療のための胃癌の粘膜内浸潤範囲診断

序説

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縮小手術と粘膜内浸潤範囲診断の重要性

 早期胃癌症例の増加に伴い,術後のquality of lifeをより重視した手術方法が求められるようになってきた.しかしながら,従来の治療方法であれば治癒に持ち込める症例に対して,縮小した治療が選択されたためにその根治性が犠牲にされることがあってはならない.早期胃癌の治療方針を決める際に深達度診断と水平方向の拡がりの診断は重要である.後者については,随伴Ⅱbにみられるような診断に苦慮する症例に出くわさないとも言えない1)2).生検により初めて癌と診断されるような症例もある3).温存する部分は温存し,切除すべきは完全に切除するといったメリハリのある治療を目指すために浸潤範囲の診断は重要である.

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要旨 1970年代初期と1990年代後期の各々100例の早期胃癌を対象に,浸潤範囲識別能を比較した.1990年代後期には平均年齢が高齢に傾き,健検診発見例が増加し,大半の拾い上げが内視鏡で行われた.浸潤範囲識別が困難不能なものは1970年代初期の19例から1990年代後期の43例に有意に増加した,困難不能例は平均癌巣径が小さくなり,隆起型の肉眼型で増加し,1970年代初期のtub2,sigからすべての組織型に広がった.1970年代初期には萎縮した粘膜の中深層を癌が浸潤して識別できない例が多かったが,1990年代後期には他の進展形式による困難不能例が増加した.診断方法の変化により辺縁に所見が乏しい胃癌の拾い上げが増したことや,強力な抗潰瘍剤による癌巣の平坦化が要因ではないかと推論された.

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要旨 近年,早期胃癌に対してEMR,腹腔鏡補助下の手術,種々の縮小手術が行われるようになり,術前の正確なStage診断の重要性が再認識されている.そこで,胃癌の粘膜内浸潤範囲診断について,組織型によるX線像の差異,Ⅱb様病変のX線診断,噴門部および胃体部癌の口側浸潤範囲と表層拡大型胃癌のX線診断について,症例を呈示し解説した.胃癌の粘膜内浸潤範囲診断を確実なものにするには,病変が忠実に造影されたX線像を描出することが必要で,そのためには病変の存在別の造影法に習熟しておくことが大切である.また,正確な粘膜内浸潤範囲診断は術式の選択,患者のQOLを左右する重要なポイントである.

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要旨 過去5年間に,当センターで切除された平坦・陥凹型早期胃癌145病巣(外科手術:96病巣,EMR:49病巣)を対象に,対象病巣の口側境界の内視鏡所見を組織型,粘膜内浸潤様式,腫瘍径,境界の部位,背景粘膜と対比検討した.①組織型が中分化型または未分化型,②粘膜内浸潤様式が中間・深層型,③大きさ31mm以上の病巣,④M領域の小彎,U領域の小彎,後壁の病巣,⑤粘膜の萎縮と腸上皮化生のある病巣で境界不明瞭なものが多い傾向にあった.このような病巣に対しては,観察方法に工夫を凝らし,より正確な浸潤範囲診断を行うことによって,縮小手術の根治性を高めることが可能と考えられる.

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要旨 胃癌の粘膜内浸潤範囲の肉眼診断は,先達が苦労して作り上げた内視鏡,X線診断学のそれと同じである.すなわち,その診断にあたって大切なことは,癌の発生部位(粘膜背景),組織型,肉眼型,粘液形質などを熟知することである.更に付け加えたいことは,内視鏡機種などの改良により従来発見が非常に困難であった胃型の分化型癌が発見されるようになったことである,この癌の特徴は肉眼的に癌と非癌の境界がわかりづらいこと,生検で病理医が癌と診断することがしばしば困難であること,分化型癌から未分化型癌に変化すると考えられること,胃癌の中に占める割合も現在見つけられているより多いのではないかと考えられること,である.したがって,このような組織型の癌が生検で診断された場合EMRは慎重に行われなければならない.また,この癌を早期に発見することが,今後,進行胃癌を撲滅するのに最も大切なことと考えられる.

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はじめに

 内視鏡的粘膜切除(endoscopic mucosal resection;EMR)において,従来,適応の大きさが陥凹では1cm以内,隆起では2cm以内と比較的小さい癌に限られているので,術前の浸潤範囲は生検である程度決めることが容易にできていた.病理学的な検討にてm癌であればリンパ節転移はほとんど認めないため1),近年,その適応が拡大されつつあり,われわれは1994年7月よりm癌と診断されれば大きさ4cmまで適応としてEMRを実施してきた.特に陥凹平坦型癌を適応拡大して局所切除する場合,その浸潤範囲を正確に決めて切除することはEMRを施行するうえで重要である.しかし,胃癌では食道癌のヨード染色のように明瞭な浸潤範囲を認識することができず,肉眼所見,インジゴカルミン色素撒布像と生検所見で切除範囲を決めているのが現状である.今回,陥凹平坦型癌のEMRの遺残再発の実態を調べ,浸潤範囲診断の問題点について調べた.

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はじめに

 EMR(endoscopic musocal resection)を施行する場合における胃癌の粘膜内浸潤範囲診断について,基本的な考え方としては,治療法にかかわらず内視鏡による範囲診断が主であり,何ら特別なものがあるわけではない.EMRにおいても通常観察および色素撒布像を注意深く観察し,癌の辺縁を決定することにより,遺残のない切除が可能となる.肉眼診断そのものについては本特集の内視鏡診断の項を参照いただきたい.本稿ではEMRの際の切除範囲の決定法についてわれわれの考え方を述べる.

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はじめに

 腹腔鏡下手術は1990年にわが国に導入されて以来,その低侵襲性から患者QOLを高める手術としてさまざま分野に応用され,急速に普及してきた.早期胃癌に対しても低侵襲で根治性を損なわない術式として腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(laparoscopy-assisted distal gastrectorny;LADG)1)~3),腹腔鏡下胃局所切除術4),腹腔鏡下胃内粘膜切除術5)などが開発され,その手術件数は年々増加し,患者QOLの向上に貢献している.これらの術式の適応は個々の症例で必要とされる切除範囲とリンパ節郭清度から決められており,特に適切な切除範囲決定のために,より正確な病変の粘膜内浸潤範囲診断が求められている.われわれは1991年にLADGを開発し,これまでに84例の早期胃癌に対して施行してきた.そこで,LADGにおいて問題となる胃癌の粘膜内浸潤範囲診断とその対策について述べる.

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はじめに

 腹腔鏡を用いた胃局所切除術は内視鏡治療(endoscopic mucosal resection;EMR)と開腹による胃切除術の間に位置し,より低侵襲で確実な方法としてその意義が認識されている1)2).教室では,早期胃癌や粘膜下腫瘍,転移性腫瘍などに対して腹腔鏡下胃局所切除術を実施してきた3)4)

 早期胃癌に対する根治的局所切除の条件は,①リンパ節転移がないこと,②水平方向,垂直方向ともに十分なsurgical marginを確保した切除が行えること,③さらにその切除標本が詳細な病理組織学評価に耐えうることの3点である(Table 1)5).われわれの教室ではこれらの条件を満たすことができる腹腔鏡下胃局所切除術(Lesion lifting法)を積極的に実施してきた3).本稿では水平方向のsurgical marginを確実に得るための注意点を中心に腹腔鏡下胃局所切除術の意義を述べる.

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はじめに

 当院での切除胃癌に対する早期胃癌率は1988年には53.2%と過半数を超え,1996年には60.4%に達した.特に粘膜内(m)癌が増加し,早期胃癌の中でもさらに早期の癌の占める割合が増えている.転移形式や転移頻度が明らかになってきたため,1991年から外科的胃局所切除術(surgical local resection;SLR)を開始した1).この術式は小開腹による胃局所切除術として考案し,全層ではなく粘膜下層までを確実に切除する方法である.今回はSLRの手技および適応を述べるとともに,2000年末までに開腹下で施行したSLR155例の成績につき検討を加えた.

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はじめに

 胃粘膜内癌(m癌)のリンパ節転移陽性率は2.2%で,潰瘍の有無別にみると,Ul(-)では0.5%で,U1(+)では3.4%である1).Ul(+)症例にはリンパ節郭清を伴う胃切除術が行われているが,術後の後遺症も問題となってきている.リンパ節転移陰性症例を確実に診断することができれば,より多くの症例で郭清を省略して局所切除が可能となる.

 センチネルリンパ節とは,癌の最も近くにあるリンパ管からのリンパが最初に流れ込むリンパ節のことであり,このリンパ節に転移がなければ,その癌の領域リンパ節転移はないので,リンパ節郭清が不要になる.われわれはT1胃癌においてセンチネルリンパ節生検の同定率,転移検出感度が100%であることを報告した2).次のステップとして,倫理委員会の承認を得て,EMRの適応から外れる臨床的m癌を対象としてセンチネルリンパ節生検を適用した胃楔状切除を行っている.現時点では腹腔鏡の解像力の問題もあり,小開腹で直視下にセンチネルリンパ節生検を行っている.この際に実際にどのように粘膜内浸潤範囲診断を行っているかについて述べる.

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狭帯化RGB filter内蔵narrow band imaging (NBI) system

 電子内視鏡の色再現は違和感のない自然な観察を目標に設計されている.そして,これまでこの色再現に基づき内視鏡診断学が構築されてきた.一方で,蛍光観察や赤外観察などの特殊観察も活発に研究されている.この種の観察は,赤外観察における粘膜深部の血管など,目的とする情報をいかに効率的に取得するかに主眼が置かれており,そのために特別なイメージング方式が採用されている.われわれがこれまで取り組んできたNBIもこの種の特殊観察の一種である.

 消化管の腫瘍は上皮から発生するが(粘膜下腫瘍は除く),これらを内視鏡で効率良く早期発見するには,粘膜表層の微細構造(腺口模様,毛細血管構築など)の変化を高感度で捉える内視鏡が適するはずである,このような内視鏡システムを実現するために,われわれは光の生体組織への深達度の波長依存性を考慮した内視鏡照明光源の改良を検討した.

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要旨 患者は60歳,女性.上部消化管検診(直接X線検査)で異常を指摘され,内視鏡検査で早期胃癌の診断がなされた.癌の組織型は印環細胞癌であった.手術目的で当院外科に入院した.入院後の精密X線検査で,病変は胃体下部後壁に存在する粘膜異常(粗大顆粒状粘膜と不整な陰影斑)として,内視鏡所見では,褪色域中の発赤粘膜や散在する淡い白苔として認められた.色素撒布(インジゴカルミン)で褪色域の境界は血管透見像の消失として認められたがその境界は不明瞭であった.Ⅱc病変の周囲にⅡb様病変の存在することを考慮して口側と肛門側に点墨生検を行い癌陰性の粘膜を確認の後に胃切除術(幽門輪温存)が行われた.切除胃標本上,病変は粗大顆粒状粘膜と,その周囲の褪色域として認められたが病変境界は不明瞭であった.病理組織診断では低分化型腺癌(por2),Ⅱc(Ul-Ⅱ),m,大きさが30×25mmであった.

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要旨 患者は54歳,男性.1996年7月,胃集団検診にて前庭部の透亮像を指摘され当センターを受診した.胃内視鏡では前庭部にびらん性変化が認められたが,生検では悪性所見は認められず,以後逐年で内視鏡での経過観察を行っていた.2000年6月の内視鏡検査で体中部後壁に褪色調の粘膜不整像を認め,生検にて印環細胞癌と診断された.胃X線検査では体部後壁を中心に不整なバリウム斑と顆粒像とを認めた.精査の胃内視鏡では体中部後壁に,通常観察ではやや褪色調のほぼ平坦な粘膜不整像を認め,色素撒布像では色素をはじく局面として認められた.以上の所見から0Ⅱc,T1(M)の未分化型癌と診断した.病理組織学的には,Type OⅡc,pT1(SM2),大きさ9.0×7.5cmであり,組織型signet-ring cell carcinoma,INFγ,ly2,vO,pN0と診断された.病変は術前に診断した癌進展範囲よりも広く,非癌粘膜に被覆され粘膜固有層内を癌が進展した部分が認められた.術前の癌粘膜内進展範囲の決定が困難であった早期胃癌症例について,術後の臨床病理学的検討を含めて報告した.

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 〔患 者〕65歳,女性.主訴は全身倦怠感.既往歴に1994年8月肺癌で右下葉切除.現病歴では,1994年肺癌切除後特に問題なく外来経過観察中,1996年8月より全身倦怠感出現し,1996年8月13日上部消化管内視鏡検査にて異常を指摘され入院となった.

 〔上部消化管造影所見〕胃噴門部に約5cmほどの円形の腫瘍を認め,腫瘍の立ち上がりはなだらかで正常粘膜像を示した.腫瘍の頂部に不整形の潰瘍を思わすバリウムの溜まりを認めた。腫瘍は一部食道ド端に浸潤していた(Fig. 1a~c).

消化管病理基礎講座

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蚕食像または虫食い像

 陥凹型胃癌でみられる陥凹境界の凹凸不整像は,その形態が蚕に食べられた桑の葉に類似していることから,蚕食像または虫食い像と表現される.胃小区の破壊傾向が強い未分化型癌で多く認める所見で,肉眼的には蚕食像で縁取られる陥凹内部が,癌の粘膜進展範囲であるとされる.

 Fig. 1は0Ⅱc,pT1(M)の印環細胞癌の切除標本肉眼像である.癌部と非癌部が接する境界線の胃小区輪郭が,蚕食像を形成している1).Fig. 2は陥凹境界部の組織像である.陥凹部では,印環細胞癌が粘膜表面に露出し,正常の粘膜構造が破壊されている.一方,非癌部分には腺窩上皮,胃底腺で構成される正常粘膜構造が認められる.このため,癌部と非癌部の間には粘膜面に高低差が生じ,陥凹境界が形成される.組織学的には,印環細胞癌は段差の境界よりわずかに広く進展している.しかし癌細胞が腺頸部で広がり,腺窩上皮の破壊がみられないために,肉眼的には蚕食像で形成される陥凹境界線が,癌の粘膜内進展の境界であると認識される.

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要旨 患者は29歳の女性.約10年前より胃内の多数の隆起性病変を指摘されていたが,低蛋白血症が出現したため,1999年3月に当院に紹介された.消化管検査にて胃と大腸に多発性ポリープを認め,診断的内視鏡的粘膜切除術を行い若年性ポリポーシスと診断した.経過観察していたところ,8か月後に胃ポリープは著明に消褪し,同時に幽門輪上に基部を持つ0Ⅰ型早期胃癌の存在が明らかとなり,幽門側胃切除術を行った.これまで若年性ポリポーシスにおいて本例のように自然消褪した報告はない.

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要旨 患者は76歳,男性.近医で回腸末端の腫瘍を指摘され,生検でカルチノイドを疑われたため当科に紹介入院となった.注腸X線検査および大腸内視鏡検査で回腸末端に表面に陥凹を持つ約4cm大の粘膜下腫瘍を認めた.体外式超音波,123I-MIBGシンチグラフィー,腹部CT所見もカルチノイドに矛盾せず,回腸カルチノイドの術前診断のもとリンパ節郭清を含む回盲部切除を行った.回盲弁より2cm口側の回腸に3.5×2.8×2.5cm大の亜有茎性粘膜下腫瘍を認め,病理組織学的には小型円形な核と両染性胞体を持った腫瘍細胞が充実性胞巣~管状構造を示し増殖していた.特殊染色,免疫染色と合わせ,カルチノイドと診断した.

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要旨 患者は32歳,女性.胃上部大彎に,中心に深い潰瘍を有し,なだらかな立ち上がりの馬蹄型隆起を主体とする病変を見い出した.隆起の表面はイクラ状を呈していた.生検にて低分化型腺癌と診断された.胃全摘,膵・脾合併切除術を施行したが,大動脈周囲リンパ節にも転移を認めた.切除標本にて腫瘍は最大径11.8cm,肉眼分類上5型癌であり,組織学的には腺管構造を認めず,胞体成分の乏しい異型細胞が充実性に増殖し,胃壁全層に浸潤していた.免疫組織学的検索ではvimentinとcytokeratinが陽性であり,両者陽性の低分化型腺癌と判断した.術後約1か月後には多発肝転移が出現,その後も腹腔内を中心とした広範なリンパ節転移,癌性腹膜炎を来し,診断から約10か月後に死亡した.vimentin陽性胃癌は,より未成熟な細胞レベルでの癌化と推察され,生物学的悪性度が極めて高いと考えられた.

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要旨 患者は57歳,女性.卵巣腫瘍の疑いで当院産婦人科で開腹したが,骨盤内に卵巣,S状結腸,間膜などが一塊となる易出血性の巨大腫瘤を認め,根治手術が危ぶまれた.腫瘤表面の術中迅速組織に悪性所見を認めなかったことから,いったん閉腹し当科に診断の依頼がなされた.問診にて患者の子宮内避妊具長期留置歴を聴取,注腸検査のS状結腸広域のほぼ全周性狭窄と腸管辺縁鋸歯状陰影所見より,骨盤放線菌症の腸管浸潤病変を疑った。自験例では,病理組織学的な放線菌塊の証明はなされなかったが,CT,MRI所見も検討して各種類似疾患を除外し,penicillin療法の著効した臨床的推移と併せ,骨盤放線菌症と診断した.

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欧文目次

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 肝癌診断・治療の目覚ましい進歩は,各種画像診断の発展・普及によることは論を待たない,本書は,導入されて2年に満たない最先端の肝画像診断法である造影ハーモニックイメージングのすべてについて述べたものであり,これから本法を始めようとする人,既に用いている人,さらには肝臓に興味を持つ病理医にとっても,肝の結節性病変を血流動態から理解するのに欠かせない書と言える.

 著者の工藤正俊氏は京都大学医学部を卒業後,早くに象牙の塔を離れ医療の最前線で数多くの肝癌患者の診断・治療に当たる一方,CO2造影超音波やカラードプラーにより早期肝癌の血流動態について多くの新知見を内外に明らかにし,肝癌の早期診断に多大の貢献をしている.著者は近畿大学にhead huntingされ,わずか2年の短期間でゼロからスタートした教室を有数の消化器内科教室に築き上げ,さらに超多忙にもかかわらず本書を上梓されたことで,筆者は改めて著者への畏敬の念を強くしている.本書の強みは,多くの生検例や切除例の検討に基づいた著者の肝結節性病変,特に早期肝癌や境界病変の組織形態についての正確で豊富な知識と,それらの画像診断によるダイナミックな血流動態についてのevidenceの積み重ねにある.そのことが,著者が動注造影エコー法を肝結節性病変の画像診断のgold standardとみなす信念の裏付けともなっている.

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 一言で評すると,上部消化管の内視鏡検査にたずさわる医師,特にこれから取り組もうとしている者から研修を終わって独り立ちしたばかりの医師には,強力な味方となる必読のテキストである.精読をして,上部消化管の内視鏡歴40年以上の小生も,大いに教えられるところがあった.カンファレンスに参加する時間がない開業医は,診断レベルを維持するため,常に座右に置いて参照するべき本である.

 全体の2/3を占める「所見からみた診断へのアプローチ」の章に,研修医や開業医にいつもつきあっている著者たちが,恐らく最も教えたい,ぜひとも伝授したいと思い続けてきた部分が,1,000枚近い内視鏡写真を示して詳細に解説されている.

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 このたび医学書院から出版された清水信義監訳「ヒトゲノムの分子遺伝学」は,初心者にも最先端の内容が十分理解できるように入念に配慮された優れた入門書である.

 著者の一人,Francis Collinsらは,1989年,ポジショナルクローニングによって白人に多い囊胞性線維症(GF)の遺伝子をクローニング,塩基配列の決定から機能解析を一挙に行い,さらに,遺伝子診断で白人患者の70%で同じ突然変異(ΔF)が認められることを発見して報告し,世界を驚かせた.デュシェンヌ型筋ジストロフィーとハンチントン舞踏病でもあい前後して遺伝子が単離され,原因となる異常が同定された.これら3つの疾患でなされた研究のストラテジーと成果は人類遺伝学史上,長く記憶にとどめられるものであり,その後に展開したヒトゲノム計画の推進力になったと思われる.

編集後記 長南 明道
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 EMRをはじめとする各種縮小手術の普及に伴い,深達度診断のみならず,正確な粘膜内浸潤範囲の診断が要求されるようになっている.前回,胃癌浸潤範囲の診断が「胃と腸」の主題に取り上げられたのは約10年前(25巻3号)である.この間内視鏡はファイバースコープから電子スコープに大きく変わり,その診断能がどのように変化したのかみるのは楽しみであった.

 X線診断に関しては,横山論文にはきれいなX線写真が掲載されており,その情熱が伝わってくるが,X線だけで浸潤範囲を診断できる施設が現時点でどのくらいあるのだろうか.

基本情報

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胃と腸
36巻10号 (2001年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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