胃と腸 36巻11号 (2001年10月)

今月の主題 sm massive以深に浸潤した10mm以下の大腸癌

序説

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はじめに

 最近,全国で小さな大腸癌の発見が増加している.このことは大腸癌の発育進展における考え方に重要な意味を持つと考えられる.大腸癌の全国登録から見た2cm以下の進行癌の頻度は51,711例中1,801例,わずか3.5%である1).2cm以下の癌は,Ⅰ型が多いとされている.しかし,最近のわれわれが内視鏡にて検索した大腸腫瘍の大きさと形態の頻度は全く異なったものであった2)

 陥凹型癌やLSTの一般化に伴い,大腸癌の発育進展が再考察されているこの時期に,この号にて1cm以下の深部浸潤癌を取り上げたことは大変タイムリーであると思われる.

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要旨 長径1cm以下の粘膜下深部浸潤癌の臨床病理学的な特徴を検討するために,171例の粘膜下浸潤癌(sm癌)を,微小浸潤癌14例(sm浸潤長1mm以下),長径1cm以下のsm深部浸潤癌20例(sm浸潤長1mmより大)および長径1cmより大なるsm深部浸潤癌137例に分けて検討した.1cm以下のsm深部浸潤癌の特徴は,non-polypoid growthの増殖様式を示す癌が多いことや主組織の細胞異型の高い癌が多いために,早期に深部浸潤を来した傾向があることである.さらに,浸潤性の増殖を示し,先進部でsprouting陽性を示す癌が多いことなどにより,リンパ管侵襲やリンパ節転移の率が高い傾向があった.以上より,1cm以下のsm深部浸潤癌は,sm微小浸潤癌や1cm以上のsm深部浸潤癌に比べて,悪性度が高い癌であると結論した.

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要旨 外科切除大腸sm癌341病変を対象とした.絶対値sm浸潤度分類でsm垂直浸潤長1,000μm以上を,相対値sm浸潤度分類でsm2, 3を,それぞれsm massive癌とした.10mm以下sm massive癌はsm massive癌全体の12.2%(35/288)(絶対値分類),9.2%(22/240)(相対値分類)を占めた.10mm以下絶対値分類sm massive癌のリンパ節転移陽性率は20%(3/15)で,10mmより大の同癌と有意差はなく,10mm以下sm massive癌も10mmより大の同癌と同等の臨床的取り扱いをすべきと考えられた.10mm以下相対値分類sm massive癌はde novo発生の表面型(特に表面平坦・陥凹型)癌を起源粘膜内癌とすると考えられた.10mmより大sm massive癌の81.3~89.1%は10mm以下sm massive癌を前駆段階としておらず,両者は異なる発育進展経路をたどる癌と考えられた.

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要旨 内視鏡的,外科的に切除された大腸sm massive癌70症例とmp癌51症例について,腫瘍径から10mm以下,11mm以上20mm以下,21mm以上の3群に分類し,増殖様式,adenoma componentの有無,K-ras変異の有無,p53,β-catenin,E-cadherinの免疫組織学的発現パターンについて解析し,10mm以下のsm massive以深に浸潤した大腸癌の分子病理学的特徴を検討した.腫瘍径10mm以下のsm massive癌とmp癌は,ともにnon-protruded typeの増殖様式を示す病変が多く,adenoma componentを伴う頻度は低かった.また,K-ras変異は低頻度であり,β-catenin,E-cadherinの細胞膜への局在が消失した病変を多く認め,21mm以上の病変とは異なった特性を示した.よって10mm以下のsm massive癌は水平方向への進展より垂直方向に浸潤する性質を持ち10mm前後の進行癌になると思われた.

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要旨 10mm以下のsm深部浸潤癌のX線所見について検討した.(1)10mm以下のsm深部浸潤癌のX線描出率は100%,側面像の描出率は74%であった.(2)10mm以下の早期大腸癌の深達度診断に有用なX線所見は,側面変形,皺襞集中,陥凹型における深い陥凹や陥凹内部の凹凸であった.(3)10mm以下のsm深部浸潤癌に対するX線深達度診断能は,内視鏡,超音波細径プローブ(HFUP)と同等であった.しかし,隆起型癌や表面隆起型癌においては,sm深部浸潤癌を浅読みする傾向にあり,これらの肉眼型における深達度診断指標の確立が必要であると考えられた.

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要旨 対象と方法:20mm以下の大腸sm癌を対象とし,(1)大きさ(10mm以下と11mm以上)と深達度(sm-slight[sm-s]とsm-massive[sm-m])で4群に分類し,注腸X線所見を比較した.(2)sm-m[≦10mm]群のX線・内視鏡所見を対比した.(3)垂直浸潤距離を側面硬化像の程度で比較した.結果:(1)正面像ではsm-m[≦10mm]群でバリウム斑の陽性率(82.4%)が他の3群(sm-s[≦10mm]群25.0%;sm-s[>10mm]群26.3%;sm-m[>10mm]群57.1%)より高く,平滑な辺縁隆起を伴う傾向を認めた.側面像では角状ないし弧状変形をsm-m[≦10mm]群の81.8%,sm-m[>10mm]群の82.4%に認めたがsm-s[≦10mm]群では11.1%,sm-s[>10mm]群では21.4%であった.(2)sm-m[≦10mm]群では隆起の性状と陥凹の有無は内視鏡所見との一致率が高かったが,陥凹の性状は乖離する病変が多かった.(3)弧状変形陽性病変の垂直浸潤距離は角状変形陽性ないし変形陰性病変よりも有意に大きかった.以上より,中心陥凹の有無と平滑な辺縁隆起,および側面変形は10mm以下のsm癌でも深部浸潤を示唆する所見と考えられた.

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要旨 筆者らが経験した経験した大腸sm癌368病変のうち,大きさ10mm以下のsm massive癌,すなわちsm1c以深の癌は53病変(14.4%)であった.以上を対象として,内視鏡診断の観点から臨床病理学的に検討した.その結果,sm massive癌の79.1%,sm2, 3癌の81.3%が陥凹型でⅡc型早期癌との関連が示唆された.また,陥凹型sm massive癌はtransmuralな増殖細胞帯の分布,ならびにdiffuseなp53発現様式を示し隆起型とは異なる特性を有すると考えられた.sm1a・b癌とsm1c~3癌の内視鏡的鑑別診断では,隆起型では病巣表面における粗糙な平坦局面,内視鏡的硬さ,緊満感,およびV型pitの所見,陥凹型では発赤,内視鏡的硬さ,緊満感,空気変形,陥凹部の不整凹凸,陥凹辺縁の明瞭な段差,およびⅢs型ないしⅤ型pitの所見が統計学的に有用であった.したがって,10mm以下のsm massive癌の内視鏡診断では陥凹局面等の詳細な通常観察の延長上で,特にⅢs型およびⅤ型pitの拡大内視鏡・pit pattern診断を一連のプロセスとして行うことが臨床的に重要と思われた.

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要旨 最大径10mm以下のsm massive以深(400μm以上)に浸潤した大腸癌の通常内視鏡による深達度診断能について検討した.sm400μm以深癌の指標として,隆起型で緊満感,表面不整・粗糙所見,表面型で表面粗糙,陥凹の存在・深さ・形状(類円形)が有用であった.sm 1,500μm以深癌の指標としては,隆起型で上記所見に加えてひだ集中所見,表面型で陥凹の存在・深さ・形状(類円形)所見が有用であった.また,径11mm以上の病変との比較では,sm massive以深に浸潤した隆起型癌は大きさ別に検討しても内視鏡像に有意差は認めなかったが,表面型癌では,径10mm以下のsm massive以深癌と比較して径11~30mmのsm massive以深癌で壁硬化像,表面凹凸不整,粗糙,びらん,陥凹内白苔の所見を有意に高率に認めた.径10mm以下の病変のうち,通常内視鏡観察施行後に拡大観察を施行しⅤ型pit patternを呈した病変の深達度診断能について検討したが,通常および拡大観察の診断能に有意差は認めなかった.

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要旨 EUSを施行した大腸癌について深達度診断におけるEUSの役割を検討し,sm massive以深に浸潤した10mm以下の大腸癌におけるEUSの役割について考察した.(1)EUSによる描出不良率と描出不良例を含めた深達度誤診率はそれぞれ全体268病変で10.1%,16.8%,早期癌167病変で14.4%,25.1%であった.(2)描出不良率や深達度誤診率は腫瘍径別,深達度別(m,sm1,sm2, 3以深),肉眼型別(0-Ⅰ型,0-Ⅱ型)いずれにも統計学的有意差は認めなかった.(3)10mm以下のsm massive以深癌12例中3例にEUS誤診例がみられた.しかし通常内視鏡検査で“迷って”診断した2例ではEUSにて確診された.そして結果的には通常内視鏡とEUSによる診断で1例を除いて,他は適切に処置された.以上の成績に考察を加え,10mm以下のsm massive以深癌であってもその深達度診断にはEUSは通常内視鏡との総合診断が必要であると結論した.

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要旨 大腸sm massive癌97例を腫瘍径10mm以下のA群(19例)とそれより大きいB群(78例)に分け,細径超音波プローブ(MS)の病変描出能と深達度診断能を検討した.描出能と深達度正診能はA群でいずれも100%であったが,B群では77%,78%と低かった(p<0.05).A群では腫瘍高が低く,至適距離による詳細な走査ができること,粘膜下層の線維化や炎症細胞浸潤などの組織学的所見に乏しいことが,良好な描出能,深達度正診能の原因と考えられた.したがって,10mm以下の病変の深達度診断にMSを積極的に用いることにより,適切な内視鏡的粘膜切除術の適応決定が可能になると考えられる.

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要旨 sm massive以深に浸潤した10mm以下の大腸癌の臨床病理学的特徴と治療方針に関して検討した.外科的に切除した腫瘍径10mm以下のsm以深に浸潤を認める大腸癌55病変のうち,進行癌は4例(7.3%)であった.10mm以下のsm massive癌と11mm以上のsm massive癌の比較では前者でリンパ管侵襲陽性率が低値であった以外には臨床病理学的に悪性度に差は認めなかった.術前に10mm以下のSM massive'以深の大腸癌と診断した場合には11mm以上の病変と同様の治療法を選択すべきだと考える.また腹腔鏡手術は早期大腸癌の外科的治療に関しては第一選択であり,進行癌に対しても適応を広げつつある.

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要旨 患者は50歳,女性.家族歴として母親に大腸癌,母方の従兄弟に膵臓癌と胃癌各1名.1996年7月左乳癌の診断にて当院乳腺外科にて根治的手術(非定型的左乳房切除術)を施行した.T2NlbM0 Stage Ⅱ.病理組織型schirrhous carcinoma.入院時の便潜血検査が陽性であったため大腸内視鏡検査,注腸X線検査を施行したところS状結腸に径8mmのⅡa+Ⅱc病変を認めた.生検ではwell differentiated adenocarcinomaが認められた.術前画像診断にて微小ながら,深部浸潤の所見を認め,術前予想深達度SM3以深と診断し1996年11月7日根治的手術(S状結腸切除術,D3郭清)を施行した.切除標本の病理組織学的診断にて径4mmのⅡa+Ⅱc病変であり,深達度はmpであった.この症例は当施設最小のmp癌である.

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要旨 〔症例1〕は,54歳,男性.便潜血陽性.大腸内視鏡検査で,上行結腸に約10mmの明らかな不整形陥凹を伴う隆起性病変を認めた.X線検査で,明瞭で不整なバリウム斑を認めた.外科切除術を施行した.10×10mmのⅡa+Ⅱc型病変で,深達度sm2,中分化腺癌であった.〔症例2〕は,65歳,男性.便潜血陽性.内視鏡検査で,S状結腸に約8mmの表面に凹凸不整を伴う隆起性病変を認めた.X線検査で,ひだ集中と側面変形を認めた.腹腔鏡下切除術を施行した.8.5×8mmのⅡa+Ⅱc型病変で,深達度sm3,中分化腺癌であった.sm massive以深に浸潤した10mm以下の大腸癌の多くは,内視鏡像では表面の不整陥凹,緊満感,ひだ集中,X線像ではそれらに加えて側面変形などの特徴的な所見を有しており,その診断は可能であった.

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欧文目次

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 医師国家試験の合格者発表も終わり,5月も末ともなると病院内にはついこの間まで学生であった連中が白衣の裾を翻し威勢良く飛び回っている.そういう彼らに紹介する本の1つに「インフォームド・コンセント」(ニール・ラヴィン著,李啓充訳,学会出版センター)がある.漫画に代表されるように絵物語が本という時代に育った彼らに“インフォームド・コンセントとは”と大上段に構えたテキストを与えてもまず読まれまいと考え,ラブ・ストーリーも適度に挿入され,そして一気に読み終わればインフォームド・コンセントが何たるか十分に理解できるのではという配慮からである.斯様に本というものは時代に即応した形で出版されなければたとえ内容が素晴らしくても死書同然の扱いを受ける.

 この度,畏友工藤正俊教授が「肝腫瘍の造影ハーモニックイメージング」という本を出版されたが,本書は活字離れの時代に育った若き医師たちにとっても挿入された多彩な症例からの鮮明で説得性のある超音波画像と解説図を見終われば造影ハーモニックイメージングの肝腫瘍の質的診断における重要性を十分理解できるように工夫されている.特に,第1章から13章まではハーモニックイメージングそのものの原理や検査手技の実際がわかりやすく解説されており,本書を読めばすぐにでも検査が始められるという心配りである.加えて,何よりもありがたいのはこの領域で汎用される用語について章を設けて解説されていることで,これは読者にとっては大変便利である.

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 本書は第1版が1984年に出版され,以来25年間にわたり臨床検査の基礎読本として多くの医師や技師に愛用されてきた.

 今回第4版が出版され,内容も感染症をはじめ最新の事象が加わり,前回の第3版より約60頁ほど増頁され,ますますブラッシュアップされた.具体的にはベンス・ジョーンズ蛋白,リンパ球表面マーカー,トロンビン時間,血清マグネシウム,ナトリウム利尿ペプチド,免疫グロブリン,補体,甲状腺自己抗体,感染症関連検査,エンドトキシン,HTLV-Iなどが新たに加えられた主な項目である.これらの最新の項目の追加により旧第3版に比し,かなり刷新されたものになっている.

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 臨床医学の入門は診断学であり,診断学の入口は患者への面接である.ことほどさように,面接は医師が医師としての業を適切有効に発揮するために重要なことである.高度な医療技術が展開されている現在ではあっても,面接というテーマは,医師が存在理由を明らかにするためにも,いかに重要であるかは,本書を読めばよく理解できるであろう.

 学生時代,および戦後の慌ただしい時代に私が学んだ内科診断学の教科書では,面接とは言わずに問診という項目が巻頭に設けられていた.そして,その項目に割かれている頁数は,ごくわずかなものであった.近年になって,ようやく面接の重要性が叫ばれるようになり,面接を表題とする参考書も数多く刊行されるに至った.その中で,私が最近のヒットと思ったものに,2000年8月刊行の「はじめての医療面接-コミュニケーション技法とその学び方」(斎藤清二著,医学書院)がある.この書は,あくまで“患者の観点”に立って,どういう会話のやりとりが適切か,どういう態度が医師と患者の関係を良好に保つのに必要か,という点に力点がおかれているすばらしい本である.

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 2001年9月19日(水),一ッ橋ホールで行われた早期胃癌研究会の席上,第7回白壁賞と第26回村上記念「胃と腸」賞の授賞式が行われた.第7回白壁賞は八尾恒良・他「Phlebosclerotic Colitis: Value of Radiography in Diagnosis-Report of Three Cases」(Radiology 214: 188-192, 2000)に,第26回村上記念「胃と腸」賞は岩下明徳・他「胃カルチノイドの臨床病理学的検索一特にType Ⅰ(A型胃炎に合併)とType Ⅲ(sporadic)のリンパ節転移率について」(胃と腸35:1365-1380,2000)に贈られた.

 司会の渕上忠彦氏(松山赤十字病院消化器科)から,まず白壁賞受賞者の発表があり,受賞者代表として八尾氏(福岡大学筑紫病院消化器科)が紹介された.本賞は,故白壁彦夫氏のご業績をたたえて,消化管の形態・診断学の進歩と普及に寄与した論文に贈られるもので,「胃と腸」に掲載された論文に加え,応募論文も選考の対象となる.今回は「胃と腸」35巻に掲載された全論文と応募のあった英文論文2篇が選考対象となった.なお,八尾氏は,第17回の村上記念「胃と腸」賞を「X線・内視鏡所見からみたCrohn病の術後経過」で受賞している.

編集後記 飯田 三雄
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 通常,癌は深部浸潤とともに大きさを増すため,10mm以下の比較的小さな状態でsm massive以深に浸潤することはそれほど多くはないが,このような病変の発見は大腸癌の予後向上のため,また大腸癌の発育経過を考えるうえで極めて重要である.そこで本号は,sm massive以深に浸潤した10mm以下の大腸癌の臨床病理学的特徴,診断,治療法に焦点をあてて企画された.掲載された10の主題論文の結論を要約すると,①リンパ節転移率は11mm以上のsm massive癌と同程度である(味岡論文)が,組織学的な悪性度は高く(石黒論文),分子病理学的な性質も異なる(藤井論文);②X線描出率は比較的良好であり,深達度診断上有用なX線所見として側面変形と中心性陥凹の有無・性状が重要である(藤谷論文,松本論文);③内視鏡上sm massiveを示唆する所見として,緊満感,内視鏡的硬さ,表面不整・粗糙所見,陥凹の存在・深さ・不整凹凸などが挙げられるが,拡大内視鏡観察によるⅢs型およびⅤ型pitの診断が重要である(為我井論文,永田論文);④超音波内視鏡による深達度診断正診率は75~100%と比較的良好である(菊池論文,松永論文);⑤11mm以上のsm massive以深癌と同様の治療法が選択されるべきであり,早期癌であれば腹腔鏡手術が第一選択である(山本論文),となる.

基本情報

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胃と腸
36巻11号 (2001年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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