胃と腸 36巻9号 (2001年8月)

今月の主題 GIST(gastrointestinal stromal tumor)―概念と臨床的取り扱い

序説

  • 文献概要を表示

 約10年くらい前から従来のH・E標本,鍍銀染色などで筋原性腫瘍とされていたものの中に免疫染色を行ってみると筋原性マーカーにも神経系マーカーにも染色されない腫瘍が存在することが指摘されていた.

 臨床家がGIST(gastrointestinal stromal tumor)という概念を受け入れ,使用するようになったのはAckermanのSurgical Pathology 8版1)に記載されてからと思われる.AckermanのSurgical PathologyではGISTを広く消化管間葉系腫瘍全体を総称する診断名として定義し,さらにsmooth muscle type (benign,borderline,malignant),neural type,combined type,uncommitted typeに分類している(Table 1).ところがGIST(gastric stromal tumor)という言葉は1983年にMazur2)によって,平滑筋系マーカーにも神経原性マーカーにも染色されない腫瘍群を包括する概念として導入されたものである.さらに,本号の執筆者の1人であるHirotaら3)がGISTにc-kit遺伝子の変異があることを明らかにし,さらにGISTはc-kit,CD34が陽性であること,およびc-kitがCajalの介在細胞に発現していることよりGISTはCajalの介在細胞由来であると考えられるようになってきた.

  • 文献概要を表示

要旨 消化管間葉系腫瘍(GIMT)251手術症例,特に間質腫瘍(狭義のGIST)105症例について,臨床病理学的立場から検討した.GIMTはRosai分類に従って平滑筋型137,神経型7,混成型2,中立型(狭義のGIST)105例に分類された.105例のGISTの発生部位は食道0,胃81,小腸16,大腸8例であり,またGIMT中に占めるGISTの割合も食道は他部位に比べて有意に低率であった.組織学的には良性19,境界領域22,悪性64腫瘍に類別されたが,それぞれの平均核分裂数は2.4,13.5,17.6個/50HPFであった.部位別の悪性腫瘍比率は胃54.3%,小腸75%,大腸100%であり,胃と大腸間には有意差を認めた.以上の結果から,GISTは食道には少なく,大腸では悪性腫瘍の比率が高いという臓器特異性を指摘した.併せてGIMTの概念の変遷,GISTの定義,悪性度の指標および組織発生について簡単に考察を加えた.

  • 文献概要を表示

要旨 gastrointestinal stromal tumor(GIST)が高頻度にc-kit遺伝子の機能獲得性突然変異を持つことは,GISTの発生にc-kit遺伝子の突然変異が関与している可能性を示唆し,KITレセプターを含めいくつかの分子マーカーがGISTとカハールの介在細胞(interstitial cells of Cajal;ICCs)に共通して発現していることは,GISTがICCs由来の腫瘍である可能性を示唆している.germlineにc-kit遺伝子の機能獲得性突然変異を持つ家系の患者にICCsの過形成を基盤とした多発性GISTがみられる事実は,これらの2つの可能性を裏付けている.今後はGISTに密接に関わるc-kit遺伝子・KITレセプターを標的とした臨床応用が期待される.

  • 文献概要を表示

要旨 当施設におけるGISTの発見頻度とその臨床的取り扱いについて述べた.健診の胃造影検査受検者を対象とすると約0.3%にGIMT(gastrointestinal mesenchymal tumor)が発見される.GISTは現時点では病理診断名であり,臨床的にはGIMTと診断される.GIMT中に占めるGISTの頻度は70.7%,筋原性腫瘍が24.4%,神経原性腫瘍が4.9%であった.従来の筋原性腫瘍の病理学的悪性度診断指標でみるとGISTは良性と診断されたものの52.4%,悪性と診断されたものの90%を占めていた.GIMTの大きさ別GISTの頻度をみると,大きさに関係なく認められた.従来の筋原性腫瘍に適用されていた臨床的悪性度診断指標はGISTにも適用される.しかし,遺伝子学的研究などが進歩している現在,組織を採取し,正確な組織診断を行い,その上で臨床的対応を決定する方向に進むことが必要と思われる.

  • 文献概要を表示

要旨 これまで筋原性腫瘍が大部分を占めると考えられてきた消化管の紡錘形細胞腫瘍は,近年の免疫組織化学の知見に基づき,その多くがGISTという概念で包括的に論じられるようになった.われわれもこの考え方に従い,胃と小腸を中心にその臨床的取り扱いを検討した.市立豊中病院でこれまでに経験した症例は,胃30例,小腸26例(十二指腸7例,空腸13例,回腸6例)である.良悪の判定は,主に腫瘍組織の核分裂数を指標とし,良性・低悪性度,高悪性度の三段階に分類したが,これは予後とよく相関していた.GISTを臨床的に取り扱う上で最も重要なことは腫瘍の大きさと発育形式であり,可能な限り縮小手術(部分切除あるいは局所切除)にとどめるべきである.高悪性度と判定したものは全例肝または腹膜転移で死亡し,治療成績は極めて悪い.最近,c-kit陽性腫瘍に対してTyrosine kinase阻害剤を治療に応用し,効果が期待されている.低悪性度の腫瘍は術後10年以上を経て再発(肝転移)するものがあり,長期にわたる経過観察が必要である.なお,GISTは,臓器により悪性度が異なり,胃に比べて小腸では悪性度の高いものが多く,予後不良であった.

  • 文献概要を表示

要旨 広義のgastrointestinal stromal tumor(GIST)を,いわゆる筋原性腫瘍とすると,超音波画像上,第4層と連続する腫瘍としてほぼ診断は可能であった.しかし,狭義のGIST(ST-type)は,内部低エコー域を有する確率は高いものの,神経原性,筋原性腫瘍と区別することは画像上困難であった.しかし,超音波穿刺細胞診(または生検)を行い,得られた検体に免疫学的染色を行うことにより確定診断は可能と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨 胃の間葉系腫瘍55病変(53症例)について,CD34,c-kit protein,S-100 protein,Desmin,α-smooth muscle actin(SMA)の5種類の免疫染色を行い,免疫組織化学ならびに臨床病理学的検討を行った.この中でCD34およびc-kit陽性を示す腫瘍をCajal cell type(狭義のGIST)とし,他の間葉系腫瘍と比較し検討した.免疫染色を施行して再分類を行った結果では,これまで平滑筋肉腫として診断されていた31例中17例がGISTに,2病変が神経鞘腫に診断が訂正された.しかし,平滑筋腫からGISTへと再分類された腫瘍はなかった.腫瘍の形状をみてみるとGISTは多結節性を示す傾向にあり,さらに小さな腫瘍でも潰瘍形成を呈する頻度が高かった.また,CT,MRIでは,GISTは18病変中13病変において内部に変性所見がみられ,そのうち9病変は散在性の分布を示した.

  • 文献概要を表示

要旨 gastrointestinal stromal tumor(GIST)は,数年前まで消化管の平滑筋腫瘍として扱われてきた腫瘍群の過半数を占める.外科的治療について,以前は癌に準じた系統的リンパ節郭清が行われた時代もあるが,今日ではquality of lifeを考慮して,腫瘍を含めた局所切除が適応となる.診断の過程や治療に際して腫瘍細胞の遊離腔内への散布が起こらないよう配慮する.GISTに対する化学療法の有効性が確立していないので,進行例においても,転移巣,他臓器浸潤部分を含めた外科的切除が第一選択となる.最終診断が低悪性度のGISTであっても術後長期にわたる定期的な肝転移,腹膜播種再発に対するスクリーニングは必要である.最近,GISTの原因遺伝子と考えられているc-kitをターゲットにしたtyrosin kinase阻害剤による治療成功例が報告され,GISTの治療戦略に変革を来す可能性もある.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は72歳,男性.主訴は吐血.内視鏡検査および腹部CT検査で,胃噴門部後壁に粘膜下腫瘍を指摘され,胃全摘術を受けた.摘出腫瘍はSkandalakis分類の混合型発育を示す7×6×5cm大の粘膜下腫瘍で,内腔側突出部中央に1.5×1.0cmの不整な下掘れの強い潰瘍を有していた.病理組織学的に腫瘍は,比較的均一な紡錘形細胞の密な束状・柵状の増殖から成り,一部に大型の異型核を有する細胞を伴っていた.腫瘍細胞には50高視野当たり13個の核分裂像がみられ,また,左噴門リンパ節に転移を認めた.腫瘍細胞は免疫組織化学的にはc-kit protein,CD34,および筋原性マーカーのcaldesmonが陽性であった.以上の所見より筆者らの基準に従いgastrointestinal stromal tumor(GIST),smooth muscle type,malignantと診断した.GISTの肝転移はしばしばみられるが,リンパ節転移を認めた報告は少なく本症例はまれな症例と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨 胃GISTリンパ節転移例6例を提示した.胃GISTのリンパ節転移の頻度は,5.8%(6/103),高悪性度GISTで,8.7%(6/69)の頻度であった.転移例はいずれも腫瘍径5cm以上で,5cm以上の腫瘍でみると,9.8%(6/61)の頻度であった.転移様式には真のリンパ節転移と脈管侵襲の二通りがあり,真のリンパ節転移3例のうち1例が長期生存していた.胃GISTでは,胃癌に準じた郭清は必要ないが,腫瘍径が5cmを超える場合は,腫瘍近傍の郭清を伴う手術が望ましい.リンパ節転移例を解析した報告はいまだ少なく,郭清効果は今後の検討課題と考える.

  • 文献概要を表示

 〔患者〕患者は68歳,男性.1967年(37歳時)胃潰瘍にて幽門側胃部分切除(Billroth Ⅱ法再建)を受けている.術後31年後の1998年9月,無症状であったが,胃集団健診にて吻合部に異常陰影を指摘された.現症ならびに入院時検査成績では異常を認めなかった.

 〔胃X線所見〕残胃はBillroth Ⅱ法にて小腸と吻合されており,その吻合の胃側に丈が高く表面平滑な隆起性病変を認めた(Fig. 1a).圧迫像ではほぼ全周性で幅約2.5cmの柔らかいポリープ状隆起であった(Fig. 1b).その中央に淡いバリウム斑を認めた.

消化管病理基礎講座

  • 文献概要を表示

非腫瘍性のリンパ組織

 消化管に形成されるリンパ組織は,粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue;MALT)と呼ばれる反応性の二次リンパ濾胞である.これは,明るく見える胚中心(germinal center)と,その周囲をとりまくmantle zoneから構成される(Fig. 1a).胚中心には胚中心細胞(centrocyte)や核片貧食マクロファージ(tingible-body macrophage)など,様々な細胞が存在している(Fig. 1b).また,mantle zoneのBリンパ球は,CD5陽性であり,この細胞由来のリンパ腫がマントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma)で,しばしばMALTリンパ腫との鑑別が問題となる.mantle cell lymphomaはCD5陽性,cyclin D1陽性(MALTリンパ腫ではいずれも陰性)であることからも鑑別可能である.

早期胃癌研究会

2001年5月の例会から 長廻 紘 , 細川 治
  • 文献概要を表示

 2001年5月の早期胃癌研究会は,5月16日(水)に一ツ橋ホールで開催された.司会は長廻紘(群馬県立がんセンター)と細川治(福井県立病院外科)が担当した.ミニレクチャーは丸山雅一(早期胃癌検診協会)が「大腸癌の形態発生,有茎性病変から進行癌への進展はあり得るか」と題して行った.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は62歳,男性.上腹部痛で入院した.注腸X線造影所見では上行結腸に約10cmの限局性の狭窄があり,壁の伸展性が失われて拇指圧痕の所見を認めた.縦走潰瘍も存在し,粘膜面には小びらんが散在した.絶食,点滴で加療するも発症後24日目には盲腸から上行結腸の狭窄は前回より進行しさらに69日目には,バリウムがわずかに通過する程度になっていた.偽憩室様変化も著明になり手術を施行した.上行結腸の壁肥厚,硬化を認め粘膜面はびらんと浅い潰瘍を認めた.血管造影で上腸間膜静脈に血栓を認め,上腸間膜静脈血栓により発症した右側結腸の狭窄型虚血性大腸炎と判明した.狭窄に移行する過程を経時的に画像で確認できた.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は78歳,女性.血便にて近医を受診した.注腸検査にて異常を指摘され,精査目的に当院紹介となる.注腸X線精査で横行~上行結腸にかけて腸管の短縮,変形および回盲弁の破壊も認めることから腸結核と診断したが,本病変中肝彎曲部に壁変形を伴う陥凹性病変を認めた.大腸内視鏡検査では,①陥凹性病変を構成する潰瘍辺縁が不整であること,②拡大観察にて,潰瘍辺縁にV型pitが観察されたことから大腸結核に合併した大腸癌と診断した.病変は38×27mm大,中分化腺癌,深達度ssであった.腫瘍部周辺部に,多数の類上皮肉芽腫を伴う粘膜下層の強い線維化と固有筋層の肥厚を認め,病理学的にも腸結核に合併した大腸癌と診断した.拡大内視鏡は腸結核症に合併した大腸癌の肉眼診断にも有用と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は48歳,女性.主訴は肛門出血.大腸内視鏡検査にて下部直腸に丈の高い隆起性病変を認めた.基部は健常粘膜に覆われ,隆起部には,まだらな発赤調で凹凸不整な腫瘍の露出を認め,その表面の拡大観察所見は工藤分類のV型(無構造)に相当した.超音波内視鏡検査にて深達度は粘膜下層までと判定,近傍のリンパ節の腫大は認めなかった.生検にてカルチノイドと診断され,直腸低位前方切除術と所属リンパ節郭清(D1)を施行した.切除標本で腫瘍の大きさは16×15×11mmで粘膜下層までにとどまるカルチノイドであり,リンパ節転移は認めなかった.本症例はカルチノイドの発育過程で被覆上皮が脱落したために腫瘍が露出し特異な形態を呈したと考えられ,興味ある症例であった.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

 この本は,国立がんセンター名誉総長(現横浜労災病院長)・阿部薫先生が推薦の序でも述べているとおり,国立がんセンター中央病院改築にあたり,新棟の情報化を行ううえで,必要であった組織,体制,プロジェクトの管理,システムの考え方などを手順に従って整理し解説したものである.ナショナルセンターである国立がんセンター中央病院は特定機能病院であり,国内のがん基幹病院とのネットワークの中心であるとともに,世界的にもネットワークを組んでいる.その情報システムを刷新するために,筆者はまず第一に“『患者のためのシステム作り』と思うことで気持ちを整理してきた”と視点を明らかにしている.

 本書の構成は「はじめに」でこの本の目的とともに,なぜシステム化が必要かを述べ,「組織化と役割」,「システム化とプロジェクトの概要」,「病院の業務と施設の機能モデル」,「病院業務の再編成」,「調達の方法」,「仕様書の作成」,「選定システムの稼働まで」,「要件定義・外部設計・内部設計:システムアナリスト」,「総合リハーサル」,「システムを育てる」,「システム障害対策」,「病院システムの今後の課題」,へと進められている.

編集後記 大谷 吉秀
  • 文献概要を表示

 「胃と腸」では1995年,第30巻第9号で「胃の平滑筋腫と平滑筋肉腫-新しい視点を求めて」が特集され,良悪性の鑑別を中心に,当時としてはup to dateな議論が交された.その後,わずか数年の間に消化管間葉系腫瘍のひとつであるGISTの名称が世に広まり,多くの報告を目にするようになった.残念ながら,その概念,分類,良悪性の基準などの記述が統一されていないのが現状である.GISTをテーマに取り上げるにあたって,本誌編集委員会では,解析に必要な症例の集積が少ないことを危惧する意見も出されたが,これまでの流れを整理するためにも,「胃と腸」として,消化管間葉系腫瘍の中でのGISTの位置づけを示し,分子生物学的背景,臨床的対応などを論じることを目的に今回の特集が組まれた.GISTの歴史をわかりやすく解説した岩下論文をはじめ,遺伝子レベルの解析から,診断,治療に至るまで,最新の情報が網羅されたのではないかと考えているが,読者の皆様のご批判をいただければ幸いである.GISTは胃に多いが,小腸,大腸に少なく,食道にはない,生物学的には下部消化管ほど悪性度が高いなど,臓器特異性という点で興味深い成績が明らかにされた(岩下,高見論文).大重,大山論文に示されたGISTのリンパ節転移例の報告はたいへん貴重である.そのほとんどが,肝転移再発死亡していることは臨床的対応について多くの示唆を与えてくれている.c-kit遺伝子変異に関する研究は,腫瘍の悪性度判定のみならず,GISTに対する有効な治療薬の開発に一縷の光を投じており,今後の展開が期待される.

基本情報

05362180.36.9.jpg
胃と腸
36巻9号 (2001年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
9月9日~9月15日
)