胃と腸 34巻2号 (1999年2月)

今月の主題 Barrett上皮と食道腺癌

序説

Barrett上皮と食道腺癌 吉田 操
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はじめに

 本来の食道の粘膜上皮は重層扁平上皮である.逆流性食道炎の修復過程で,重層扁平上皮に替わって円柱上皮が再生し,下部食道の粘膜が円柱上皮化する現象をみることがある.この現象に注目して,疾患としての位置付けをしたことに敬意を払い,Barrett's esophagus(Barrett食道)と呼ぶことは周知のことである.一般に下部食道の円柱上皮化が,本来の食道胃粘膜接合部から3cm以上の距離に及ぶとBarrett食道と称することが受け入れられてきた.食道胃接合部の状態が一定ではなく,2cm程度の胃粘膜の挙上は珍しくないので,これを正常範囲内とするためである.食道炎の終末像としてのBarrett食道は,逆流する消化液に弱い重層扁平上皮を,これによく耐える円柱上皮と置き換え,病的状態を改善するための絶妙な対応であると考えることができる.一方,Barrett食道を背景に新たに発生する病態があるため,この意味からBarrett食道が注目を引くことになった.すなわちBarrett潰瘍とBarrett腺癌である.わが国においては欧米に比べて食道炎の頻度が低く,あっても軽度のものが多かった.重症の食道炎患者の多い欧米と比較して,われわれのBarrett腺癌に関する研究成果は少なく,扁平上皮癌に関する豊富な研究成果に比べて貧弱である.しかし,最近は徐々にだが確実に変化が認められ,Barrett食道に関する知識や興味が高まってきた.これは日本入社会の国際化,生活や体格の変化に伴って逆流性食道炎の増加がみられ,その結果としてBarrett食道に遭遇する機会が増えたためである.Barrett食道,なかでもBarrett食道を背景に発生する腺癌に関連して今日われわれに要求されている点を検討してみる.

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要旨 食道胃接合部の組織学的所見をBarrett食道・食道癌・胃噴門癌の間で比較し,Barrett上皮にどのような特徴があるかを述べた.Barrett食道の噴門腺粘膜では,腸上皮化生が他の2疾患に比べて少ないにもかかわらず,なぜ腸上皮化生が好発するのか,更にBarrett上皮にみられる腸上皮化生の新しい分類法とその意義,食道噴門腺粘膜からの腸上皮化生の発生・進展についても考察を加えた.

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要旨 short segment Barrett's esophagus(SSBE)を検討するうえで重要なことは,Barrett粘膜ないしBarrett食道の定義である.われわれはBarrett食道を“胃側より連続して全周性に2cm以上食道に存在する円柱上皮”と定義している.したがって,SSBEは“胃側より連続して食道に存在する円柱上皮で,その長さが2cm未満の部分を有するもの”と定義される.SSBEは下部食道縦走血管を指標とすることにより,内視鏡で明確に診断できる.このようにして診断されたSSBEは上部消化管内視鏡検査を行った連続9,018例のうち約1/3の症例に認められた。SSBEにもBarrett腺癌が発生し,総数としては典型的Barrett食道に生じるものと比べても決して少なくないことから,注意深い観察と一定間隔ごとの経過観察が必要な病変である.

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要旨 外科的切除で得られたBarrett腺癌13症例14病変を含むBarrett食道22症例を用いて組織形態学的・粘液および免疫組織化学的にBarrett上皮ならびに腺癌の検討を行った.Barrett分化型腺癌を細胞異型・構造異型の点から高異型度と低異型度に分類したところ,主として早期の病変において,6病変に高異型度癌と混在した低異型度癌の成分が含まれていた.Barrett食道を構成する非癌上皮は種々の程度で胃型・腸型の組織形態・粘液形質発現を示しており,Barrett上皮が長くなるほど腸型の粘液形質を有する杯細胞の比率が有意に増加していた.しかし胃型形質を保持した上皮も保たれ,吸収上皮細胞への分化がさほど進まないことが特徴であった.Barrett腺癌の粘液形質は粘膜内では胃型優勢の胃腸混合型で,浸潤部では腸型優勢となっていた.Ki-67・p53蛋白についての免疫組織学的検討では異型度の高い上皮ほど増殖帯は粘膜深層から表層に分布し,Ki-67・p53蛋白染色陽性細胞のlabeling indexが高値となっていた.以上の結果から,Barrett腺癌の組織診断においては浸潤の有無ではなく,細胞異型・構造異型の点で評価することが重要と思われた.またBarrett腺癌は胃型の形質を有する上皮から発生し,進行とともに腸型への形質変化が起こると考えられた.

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要旨 Barrett食道癌切除例9例の検討では,評価できた8例中6例でp53蛋白過剰発現が認められた.背景となるBarrett上皮は比較的長い傾向があり(平均7.6±3.1cm),癌周辺では9例中8例で腸型上皮が認められた.p53蛋白過剰発現を示すものも2例あった.長期経過例15例の検討では,粘膜の変化として評価できたのは長さのみで,PCNA発現の状態から伸長例において増殖活性が高い可能性が示唆された.またp53蛋白過剰発現陽性例3例中2例が伸長例であった.適切なサーベイランスに必要な各種biomarkerの評価を行うためには,粘膜性状の評価と適切な生検部位の選択が必要である.拡大内視鏡など,新しい観察手段による粘膜評価法について現在検討を進めている.

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要旨 Barrett食道に発生した多発(二重複)腺癌の1例を経験した.患者は51歳,男性.胃検診で食道の隆起性病変を指摘された.裂孔ヘルニアを合併し,食道胃入口部から口側3.5cmまでの粘膜はBarrett上皮で置換され,同上皮部に2個の癌巣が存在していた.臨床的に発見された主癌巣はⅠ+Ⅱa+Ⅱc,tub1,sm2,30×28mm,組織学的に偶然発見された副癌巣はⅡb,tub1,m,20×15mmであった.主癌巣は食道下部(Ei)の前壁から左側壁(1/2周),副癌巣は腹部食道(Ea)の後壁に存在していた.比較的まれな症例と思われたので若干の文献考察を加えて報告した.

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要旨 患者は,78歳男性.検診目的の内視鏡検査で,食道胃接合部に異常を指摘され,精査治療目的に当院入院.内視鏡検査では,食道下端に全周性の発赤するわずかな陥凹性病変があり,前壁~右壁の陥凹内には,微細顆粒状の凹凸を認めた.生検では,well differentiated tubular adenocarcinomaであった.食道造影検査では,Billroth-Ⅱ再建の残胃でsliding herniaを認めた.EG-junctionのほぼ全周に,微細顆粒状の変化があり,後壁には不整形の明らかな陥凹を認めた.病変の長径は15mmであった.長径15mm,ほぼ全周性のBarrett食道腺癌,深達度mの診断で,下部食道切除・残胃全摘・脾摘・食道空腸Roux-Y吻合術を行った.切除標本の病理組織所見では,大きさ15×55mm,Ⅱbであった.腺癌の病巣の下には,二層性の粘膜筋板があり,粘膜下層には固有食道腺がみられ,筋層は食道の構造を示しており,Barrett食道腺癌,深達度m.ly0,v0,n0であった.

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要旨 患者は73歳,男性.自覚症状は特になく,近医で行った上部消化管内視鏡検査で下部食道の病変を指摘され,当科紹介入院した.内視鏡検査では食道裂孔ヘルニアと最長8cmにわたるBarrett食道を認めた.Barrett食道下端右側壁に1.5cm大の浅い陥凹性病変と,これに連続する約半周性の発赤粘膜を認めた.生検で高分化型腺癌と診断され,Ⅱc+Ⅱb型Barrett食道腺癌と診断した.クリスタルバイオレット染色を併用した拡大内視鏡観察では,Hb病変は腺溝模様が消失した無構造な領域として認識された.非開胸食道抜去術を施行し,4.0×2.5cmの高分化型腺癌,深達度m,ly0,v0であった.

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要旨 患者は67歳の男性で,胸やけを主訴に受診,上部消化管内視鏡で食道病変を指摘された.X線,内視鏡上,裂孔ヘルニアが認められ,上切歯列38cmに,辺縁に浮腫状の隆起成分を有する潰瘍病変を認めた.また,上切歯列35cmまで,舌状に拡がる発赤粘膜を認め,1時から4時の領域では粘膜は厚ぼったく,なだらかな凹凸を有していた.陥凹病変,および口側の発赤粘膜からの生検組織から腺癌が得られ,早期Barrett食道癌と診断された.病理組織学的所見では,主病変の口側の発赤したBarrett上皮も粘膜癌であり,全体の病変の大きさは34×26mmであった.病巣内には扁平上皮の遺残,および食道固有腺を認めた.組織診断は高分化型腺癌で,深達度はSM2,ly0,v0,n0であった.癌としての確定診断,および範囲の同定は画像所見のみからは,やや困難であった.

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要旨 short segment Barrett's esophagusから発生した深達度sm1,高分化型腺癌の1例を経験した.最長2.5cmのほぼ全周性のBarrett上皮内に17×14mmの隆起型(0-Ⅰ)の早期Barrett食道癌でBarrett上皮の一部にdysplasiaを伴っていた.p53の免疫染色を行ったが,癌腫,dysplasia,Barrett上皮のいずれにも染色性を示さなかった.short Barrettにも発癌のpotentialがあり,注意を要すると考えられた.

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要旨 患者は73歳,男性.下部食道に2/3周が扁平上皮に囲まれた径1cm強のわずかに陥凹した発赤面がみられた.他院の生検で腺癌と診断され,当院を紹介された.腺癌の1/3周は狭いshort segment Barrett's esophagusに連続しており,Barrett腺癌と診断した.EMRを行ったが,切除標本では一部sm1であり,2か所が断端陽性であった.しかし,本人の希望により辺縁にレーザー照射を追加し,経過観察中であるが2年間再発はみられない.

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要旨 患者は,66歳,男性.1986年10月(55歳時),糖尿病での上部消化管スクリーニング検査で,Barrett食道と胃穹窿部の粘膜下腫瘍が発見された.経過観察中に胃病変は増大し,中央陥凹を形成したため,1988年11月28日(57歳時),悪性リンパ腫を疑い,胃全摘術,ρ型空腸間置術を施行した.大きさ2.2×1.6cm,粘膜下層に限局した粘膜下腫瘤様の悪性リンパ腫であり,リンパ節病変はなかった.術後に逆流症状が続くため,経時的に内視鏡検査が行われた.初回手術での吻合部の食道側にクサビ状にBarrett上皮が3か所遺残していることが,術前内視鏡像との対比で確認できた.1997年4月22日の内視鏡検査時の生検で中分化型腺癌が得られ,1997年7月9日,胸部中下部食道切除術が行われた.吻合部口側左壁の2.4×1.0cm,0-Ⅱc型Barrett食道癌,中分化型腺癌,深達度m3,ly1,v1であった.病巣部は他の2か所のBarrett上皮部と比べ,1991年4月でくすんだ発赤調であり,1994年6月には辺縁にニボー差がみられ,内部に小顆粒状変化をみている.1996年8月では軽度の辺縁隆起を持つ不整発赤陥凹像と認識できる.同時に行った生検組織所見も腺癌と同定できるものであった.本症例は粘膜筋板までの浸潤にとどまっていたBarrett食道腺癌の10年8か月に及ぶ自然経過が内視鏡的に逆追跡できた点で興味ある症例と思われる.

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要旨 患者は65歳,男性.心窩部痛を訴えて近医を受診,消化管透視で下部食道に腫瘍を認めた.精密食道透視で下部食道右側壁に不整な陥凹を伴う隆起性病変を認め,弧状の側面変形を認めた.内視鏡検査では腫瘍は発赤調の中心陥凹を伴う隆起性病変で,辺縁隆起部は白色調の重層扁平上皮で覆われ,粘膜下腫瘍様の形態を示していた.食道裂孔ヘルニアを伴い,狭い範囲のBarrett上皮を認めた.以上から,0-Ⅰsep型のBarrett食道癌,深達度はsm3と診断し,下部食道切除術を施行した.病理組織学的には0-Ⅰsep,sm3,tub1+2,ly0,v0,n0,17×16mmの早期Barrett食道癌で,Barrett上皮は最長でも7mmの狭い範囲にしか認めなかった.自験例はBarrett上皮が10mm以下でも腺癌が発生しうることを示した貴重な症例と考えられた.早期Barrett食道癌のわが国の報告例31例の文献的考察を加えて報告する.

主題症例をみて

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はじめに

 最近,逆流性食道炎が注目を浴びるようになり,これに伴い,Barrett食道やBarrett食道癌にも関心が持たれるようになってきた.

 欧米ではHelicobacter pyloriの感染率の低下とともに,高齢者の白人男性にBarrett食道癌が高率に発生するようになり,食道癌の60~80%が腺癌で占めるまでに至っている.

 わが国ではshort segment Barrett's esophagus(以下short Barrett)やpartial Barrett's esophagus (以下partial Barrett)を含めると,その頻度は一般成人の6.0%と決して低くはない1).しかし,Skinnerら2)の定義に合致するBarrett食道(long Barrett)は0.3%にすぎないが,Barrett食道癌の頻度は著しく少なく,全食道癌の3%以下である.わが国の報告例は81例を数える3)

 Barrett食道からの癌の発生率については,高いというのが通説であるが,その頻度は0~47%と種々ある4).Barrett食道・Barrett上皮からの発癌は,Bremnerら5)の456例の追跡から,2.4%との報告がある.われわれは40例の経過観察から1例(2.5%)を経験している.

 8例のBarrett食道癌報告例をTable1のように集計した.

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はじめに

 今回のBarrett上皮を背景にする表在癌の症例は見ごたえがあった.反面これだけの症例の背後にどのくらいの努力の積み重ねがあるのか興味のあるところである.主題症例をみて感じたことを以下に述べる.

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はじめに

 主題症例として,8例9病巣のBarrett食道表在腺癌が寄せられた.その臨床病理学的特徴,画像所見の特徴について,食道胃接合部早期胃癌と比べながら,胃のサイドに立って述べてみたい.

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 Barrett食道には食道潰瘍や食道腺癌が発生し,特に食道腺癌のhigh risk状態として知られている.南米の内視鏡医,あるいは消化管を専門とする医師と話をすると,下部食道癌の組織型は腺癌が主体であると彼らは信じていた.それほどに逆流性食道炎,Barrett食道の頻度が高く,合併する腺癌が多いということを示しており,わずかに数例の自験例とは対照的であると驚いた記憶がある.

 本号では主題症例としてBarrett食道に合併した表在型腺癌として8例が提示された.これらを通覧して病理学的に問題となるのはBarrett食道の定義である.従来広く知られているSkinnerらの定義に従えば,その拡がりに規定があり,“本来の食道胃接合部より全周性に3cm以上口側に円柱上皮が進展している状態”とされる.この定義に従えば,有馬ら,清水らの症例が典型例ということになる.当然,3cmまでの間に種々の幅のある円柱上皮の進展のみられる症例が存在するはずで,これらがshort segment Barrett's esophagus(SSBE)ということになる.他の6例はこの範躊に入る可能性のある症例であるが,どこまでをSSBEとするかにより除外される症例も出てくる.特に全周性でなく,限局性に円柱上皮の進展した症例の扱いが問題となる.

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はじめに

 Barrett食道では,食道胃接合部(esophagogastric junction; EGJ)の同定や平坦型ないしそれに近い0-Ⅱa型・0-Ⅱc型癌の診断がX線検査や内視鏡検査ばかりでなく,切除標本観察でも困難であることがわかる.Barrett食道におけるEGJの同定に,内視鏡検査で縦走血管が消失する像(食道粘膜に特徴的な像)が指標となるとされている1).更に,Barrett食道腺癌のうち,通常の術前検査では診断が困難である癌でも,その診断に拡大内視鏡検査(クリスタルバイオレット染色併用も含む)が有用であることが示された.すなわち,拡大内視鏡検査で,Barrett食道の非腫瘍部にみられる細長い腺溝模様が消失して無構造となった領域が腺癌の存在を示唆する所見と報告している2).この方法は,将来,Barrett食道腺癌の早期発見に有用な手段となることが期待される.

 上述のような背景を考慮しながら,主題症例をみた感想を病理学的視点から述べてみたい.

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 Barrett食道癌の主題号にあたって,多数例を経験し,かつその臨床的,病理的解析が行われる施設は極めて少ないと考え,できるだけ多くの施設から主題症例として掲載していただくことを計画した.また欧米では多くの集積例の報告があるが,Barrett腺癌で日本の特色を出せるとすれば,早期癌の症例解析であると思われ,今回は早期Barrett腺癌について報告していただいた.その目的はBarrett食道腺癌の発生ならびに進展,更には初期における肉眼形態の特徴などを知ることである.

 その結果,主題症例として8症例,9病変が掲載されている.Barrett食道腺癌についてはその発生ならびに進展については不明なことが多い.特に癌の発生についてはBarrett上皮の異形成(dysplasia)との関係が欧米では議論されている.早期の病変を解析することによりdysplasia-carcinoma sequenceが証明可能であるか否かに関してである.この点については,既に読者も承知のごとく,生検で経過観察された症例の解析からは,浸潤の有無が不明である以上,欧米からはdysplasia-carcinoma sequenceの考え方以外にはなされえない.また切除材料からの解析では,高度異形成は浸潤の所見を伴う頻度が高いために,生検でsevere dysplasiaと診断されるものは積極的に手術をすべきであるとされている.

Coffee Break

忘れられない症例 市川 平三郎
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 昭和37年(1962年)の年末のことである,食べすぎて下痢をしたという中年の女性が福島で開業している医師から国立がんセンターに紹介されてきた.その年の6月から診療を開始したばかりの国立がんセンター病院で,当時としては多数の早期胃癌を発見して意気高らかで,夜を徹して頑張っていたわれわれグループの1人,土井偉誉君がその患者のX線撮影を行った.胃角部に小さな隆起性病変が写っている.きれいな二重造影像だった.皆で確認して,その形状からこれは早期胃癌に違いない,と結論づけて,当時の初代病院長,久留勝先生に手術をお願いした.

 手術日,たまたま手術室に行けずに透視室にいた私のところに,久留院長がご自身で切除したばかりの標本を持参してくださった.

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 「胃と腸」の症例報告は毎号とも楽しみにしている.主題論文よりも簡潔で,写真を見れば事実がわかるし,臨床の場ではこの事実(fact)が重要だと考えているからである.

 さて,33巻12号1671-1674頁(1998年)に「Ⅰs型からⅡc+Ⅱa型へ形態変化を来した大腸sm癌の自然経過をみた1例」という表題の症例報告が掲載されていたが,大腸腫瘍の自然史に興味のある筆者は,“オッ”と思って写真を眺め,その後に“オヤオヤ”と思った.以下にその理由を記そう.

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〔患者〕60歳,女性.胃集団検診で異常を指摘され,当センターを受診した.

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要旨 患者は44歳の男性.腹部症状はなかったが,検診で便潜血陽性を指摘され,1997年1月大腸内視鏡検査を受けた.その際,S状結腸に脳回様の軟らかい,手拳大のポリープを認め,入院となった.大腸X線検査では,長径7cm,最大幅5cmの亜有茎性の隆起として描出され,頭部には数条の皺を認めた.体位と空気量により,可動性と形態の柔軟な変化がみられた.特製のジャンボスネアを用いて,内視鏡的に切除した.組織学的には隆起の表面は正常粘膜に覆われ,粘膜下層は静脈とリンパ管の拡張と,脂肪組織の増生を伴った,浮腫状の疎性結合織から成り,真武らの提唱するcolonic muco-submucosal elongated polyp(CMSEP)に一致するポリープと考えられた.

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欧文目次

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 医学の領域でも,その時代が要求している斬新な書物を作るということは大変重要であるし,大変難しいことでもあります.ことに英文の学術書を出版することは並大抵のことではできません.この度,藤盛孝博,星原芳雄,田淵正文の3先生と共同編集でAtlasを出版された長廻紘先生は,この仕事をいとも簡単に,そして的確に成し遂げるすばらしい才能をお持ちの方だと,いつも感嘆しております.だから先生の出版される書物は,時宜を得た,簡潔なもので,多くの読者に歓迎されるのです.

 本書も先生のこの哲学のような思想から作り出された,大変簡略で,わかりやすいAtlasであります.ここには食道から大腸までの高解像(high-resolution)内視鏡写真が美しく,実に鮮明に大きく印刷され,英文の解説はあくまで簡略に,必要最低限ですましているのは何ともありがたいものです.医学書のAtlasというものは,何といっても,そこに揚げられている写真が生命であります.本書の内視鏡写真は見事なものばかりです.そもそも,通常の拡大内視鏡の写真はコマ全面が焦点よく,求めるものが的確に捕らえられているものが少なく,大きく引き伸ばしても満足できるものを撮るのに大変苦労することは,多くの内視鏡医が経験していることです.

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 「大腸癌診療マニュアル」は一言ですばらしい本である.著者は序の中で,“一般外科の修練過程にある若い外科医を対象に書いた”と述べているが,とんでもない誤りである.大腸癌を専門にしていると自負している医師もこの本を読んで必ず得るところがあり,明日から実際に役立てるはずである.すなわち,大腸癌のどの方面から診療にかかわるにしても,本書の内容はすべての臨床医によって重要な知識であり,第線の現場で役立ち,最良の医療の基となることばかりである.大腸癌の診断では検診の普及による拾い上げ,診察の仕方,注腸造影および内視鏡検査,超音波検査などの細かなことだが絶対に必要なことのみを,箇条書きにして極めてわかりやすくまとめている.大腸癌の病態の理解には病理が必要で,病理所見の項目だけでなく必要な部分では肉眼像,ルーペ像,弱拡大あるいは強拡大の顕微鏡像を示して理解しやすく工夫されている.

 また,大腸癌の治療では早期癌の治療方針とその具体的な方法から始まって,進行大腸癌を結腸と直腸に分け,特に直腸癌では選択する術式の適応を明確にし,日常の診療でしばしば遭遇するイレウスを起こしている進行癌の治療方針とその実際などと大腸癌の治療については全体に痒いところに手が届くように書かれている.もし本書のとおりに手術をすれば最高の医療を患者に提供することができることであろう.後半では大腸癌患者の術後follow-upの仕方,術後の遠隔転移再発症例の対処とその方法,化学療法および放射線療法などについても極めて実践的に具体的に,要点を理解しやすく書かれているのは,著者がどれだけ多くの患者を直接診療しているか,その豊富な経験に負うところ大である.

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 わが国は国民皆保険によって“誰でも,いつでも,どこでも,平等に”医療を受けられることを誇りとしてきた.しかしながら,検査漬け,薬漬け,3時間待ちの3分診療などと言われるように,医療の質やサービスについて国民の不満が大きい.更に,国民は現物支給方式によって窓口で医療費を支払わないため医療はタダという意識を作り,医者はでき高払い方式によってコスト意識が働かず,医療費の増大を招いてきたことは事実であり,これからの高齢社会に対応するためにも医療の抜本的な改革が求められている.

 このような状況に対して,厚生省はもっぱら医療費対策の面から矢継ぎ早に対策を打とうとしている.すなわち,平均在院日数の“しばり”によって急性期病床と慢性期病床に分け,過剰になった一般病院の病床数を削減する.いろいろな方法によって医師数を減らす.医療費の支払い方式としてDRG・PPS(診断群別定額支払い方式)を慢性疾患だけでなく一部の急性疾患についても導入する,等々である.

編集後記 西俣 寛人
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 通常の内視鏡検査時に,ヘルニアが存在し,逆流性食道炎が併存している場合は癌,Barrett上皮の存在を意識して観察しているが,それ以外はBarrett上皮の存在を意識して内視鏡検査を行っていなかった.しかし,今回呈示されたBarrett上皮内に存在した早期癌は癌の存在診断も,浸潤範囲の決定も困難な症例がみられた.序説で吉田が述べているように,Barrett上皮内に発生する癌がどのような形態を示し,発育していくのかまだ不明である.田嶋によると,Barrett腺癌は低異型度癌が高異型度癌と混在している症例が約半数を占め,その特徴は背景のBarrett上皮に類似した組織形態を呈し,境界は肉眼的,組織学的に極めて不明瞭である.またKi-67・p53蛋白染色は組織学的に異型のないSECでも高異型度癌の約半数に発現がみられたと述べている.吉村が述べているように,逆流性食道炎→Barrett上皮の発生→腸上皮化生の出現→p53などの遺伝子異常→高分化型腺癌という過程が発癌過程の1つと考えられ,逆流性食道炎を厳重に経過観察することがBarrett食道癌に対する適切なサーベイランスにつながると考える.更に星原が述べているように,SSBEにもBarrett腺癌が発生することを考えると,下部食道の観察は縦走血管を含めて,丁寧な観察が必要になる.

基本情報

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胃と腸
34巻2号 (1999年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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