Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
はじめに
本来の食道の粘膜上皮は重層扁平上皮である.逆流性食道炎の修復過程で,重層扁平上皮に替わって円柱上皮が再生し,下部食道の粘膜が円柱上皮化する現象をみることがある.この現象に注目して,疾患としての位置付けをしたことに敬意を払い,Barrett's esophagus(Barrett食道)と呼ぶことは周知のことである.一般に下部食道の円柱上皮化が,本来の食道胃粘膜接合部から3cm以上の距離に及ぶとBarrett食道と称することが受け入れられてきた.食道胃接合部の状態が一定ではなく,2cm程度の胃粘膜の挙上は珍しくないので,これを正常範囲内とするためである.食道炎の終末像としてのBarrett食道は,逆流する消化液に弱い重層扁平上皮を,これによく耐える円柱上皮と置き換え,病的状態を改善するための絶妙な対応であると考えることができる.一方,Barrett食道を背景に新たに発生する病態があるため,この意味からBarrett食道が注目を引くことになった.すなわちBarrett潰瘍とBarrett腺癌である.わが国においては欧米に比べて食道炎の頻度が低く,あっても軽度のものが多かった.重症の食道炎患者の多い欧米と比較して,われわれのBarrett腺癌に関する研究成果は少なく,扁平上皮癌に関する豊富な研究成果に比べて貧弱である.しかし,最近は徐々にだが確実に変化が認められ,Barrett食道に関する知識や興味が高まってきた.これは日本入社会の国際化,生活や体格の変化に伴って逆流性食道炎の増加がみられ,その結果としてBarrett食道に遭遇する機会が増えたためである.Barrett食道,なかでもBarrett食道を背景に発生する腺癌に関連して今日われわれに要求されている点を検討してみる.
Copyright © 1999, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.