胃と腸 33巻6号 (1998年5月)

今月の主題 鋸歯状腺腫(serrated adenoma)とその周辺

序説

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 鋸歯状腺腫serrated adenomaという名称の歴史は新しい.Longacre TA & Fenoglio-Preiser CMにより提唱されてからいまだ9年にすぎない(Am J Surg Pathol 14:524,1990).以前はmixed hyperplastic adenomatous polypと呼ばれていたものに相当し,わが国においては樋渡らによりH型腺腫と呼ばれ,大腸ポリープに占める頻度は2.4%程度とされている(医薬ジャーナル9:83,1983).また,多施設問の共同研究によるRubio CAらによる扁平隆起性病変の10%に相当するという(Jpn J Cancer Res 87:849,1996).「胃と腸」24巻3号で微小な大腸腺腫の病理診断の特集を組んだことがある.その際,大腸腺腫の病理診断では異型度の判定に関して病理医間に大きな個人差があり,診断基準に混乱を来し,病理診断に対する誤解と不信の種を播いたことがあった.それは腺腫と癌の鑑別,すなわち腫瘍の良悪性の鑑別診断の問題であった.今回取り上げられた鋸歯状腺腫では,過形成性変化と腫瘍という異なるカテゴリーの病変の鑑別の問題と,通常の腺腫と鋸歯状腺腫との鑑別という2つの側面を持っている.Longacre TAらの最初の報告をみても27%,すなわち1/4以上が過形成性ポリープと診断されており,50%が腺腫,24%がmixed hyperplastic adenomatous polypと診断されていたにすぎない.日常の病理診断においてわれわれも以前からまれに遭遇していた変わった病変があり,特に肉眼形態が著しく分葉状を呈し,かつ鋸歯状の腺管構造と特有な上皮から成る腫瘍性病変の存在を認識しており,いずれ特殊な名称が必要になるであろうからと,蒐集を始めていた矢先のserrated adenomaの名称の提唱であった.過形成性ポリープと鋸歯状腺腫の鑑別のポイントとして記載された点は,幼弱な杯細胞が存在すること,核分裂像が腺管の表層部に存在すること,明瞭な核小体がみられること,上皮下の厚い膠原線維の欠如,核の偽重層化,N/C比の増大などが挙げられている.このような鑑別点にも客観性に乏しい部分があり,更にserrated adenomaにおいては迂曲,分岐した腺管の底部と表層では細胞増殖能に差があり,上皮の表層に向けての分化がみられる.そのために過形成性変化と腫瘍との鑑別が困難となり,病理医により診断基準が異なることが起こりうる.

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 Colorectal epithelial polyps have traditionally been divided into two broad histological subtypes-hyperplastic polyps and adenomas. These two subtypes, with their distinctive histologies, represent divergent patterns of epithelial growth and differentiation1)-6). However, despite abundant evidence for their divergent growth and differentiation patterns, it is also well known that hyperplastic and adenomatous glands may coexist in the same polyp7)-20). Adenomas, hyperplastic polyps, and mixed adenoma -hyperplastic polyps all affect older adults and are detectable during large intestinal endoscopy. In general, the nonneoplastic hyperplastic polyps are smaller in size, usually measuring only several millimeters in diameter, and lighter in color than adenomas. In contrast, adenomas which are benign neoplasms, range in size from unicryptal lesions to masses that measure more than 10 cm in greatest diameter. However, the endoscopic diagnosis of polyps 1 cm or smaller is not accurate enough to allow one to distinguish between adenomas and hyperplastic polyps21).

 Unlike hyperplastic polyps, adenomas constitute the proximate precursor to the development of colon cancer, and their detection and removal reduces the number of colon cancers in populations undergoing endoscopic screening. Thus, it is important to accurately diagnose colorectal polyps so that appropriate therapy and subsequent screening strategies can be devised for the individual patient. The sections that follow present the diagnostic features of hyperplastic polyps and the adenoma spectrum (Tables 1 and 2).

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要旨 鋸歯状腺腫(serrated adenoma,以下SA)に対する,われわれ(癌研)の組織診断基準を示した.“鋸歯状(serrated)”という語は,原典で強調されている腺腔(lumina)に対してでなく,上皮(epithelium)に対して用いたほうがよい.化生性ポリープ(MP)あるいは過形成ポリープ(HP)との最大の相違点は,増殖細胞の分布がMP/HPでは病変の深部(下1/2)に限られているのに対し,SAでは不連続にしても病変の深部から表層までにわたっていることである.同一標本を用いてのスウェーデンのDr. Rubioとの検討では,Rubioは,われわれ(癌研)がMP/HPとするものをSAとする傾向があった.すなわち,MP/HPとの鑑別において,SAのminimal criteriaをどこに置くかの問題が残った.SAの純型は少なく,他の型の腺腫成分を含むものが相当存在することがわかった.SAは従来の腺腫の中に整理されるものではなく,1つの独立した型として認められるべきと考える.しかし,われわれがかつてvillotubular adenomaあるいはvillomicroglandular adenomaと呼び,絨毛腺腫の一型として扱っていたものが,SAに含まれる可能性のあることがわかった.

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要旨 鋸歯状腺管形態を示す大腸のポリープ病変はwide spectrumで,過形成性ポリープ,鋸歯状腺腫まで多彩である.この中で鋸歯状腺腫は腫瘍性の鋸歯状腺管から構成されるものに限定すべきである.過形成性ポリープは5mm以下に多くみられるが,これが10mm前後まで大きくなると腺管形態は鋸歯状のみならず,腺管外方へのbudding形成もみられる.また,このような状態ではgoblet cellの減少ならびに細胞増殖活性の増加,腺管の幼若化などがみられる.このような過形成性ポリープと鋸歯状腺腫が混同されている可能性があることを指摘した.また鋸歯状腺腫はわれわれの経験ではほとんどが10mm以上と大きい病変で5mm前後の小病変がないことからも過形成性ポリープが増大する過程でその一部に腫瘍化を来したものと解釈すべきである.

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要旨 大腸鋸歯状上皮性病変を暫定的にserrated adenoma,過形成性ポリープ,異型過形成性ポリープに分け,それらの組織学的特徴の分析を行い,serrated adenomaのより明確かつ客観的な組織診断基準(私案)の作成を試みた.serrated adenomaの組織学的特徴として,①腺管中層~表層の核偽重層,②好酸性細胞質,③腺管分岐像,の3所見が特異的であり,①を主所見,②,③を副所見として,それらを組み合わせた組織診断基準について述べた.

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要旨 過形成ポリープ(hyperplastic polyp;HP)と鋸歯状腺腫(serrated adenoma;SA)に特徴的な鋸歯状腺管の形態学的特徴を解析した.鋸歯状腺管は,正常腺管の腺管開口部から表層部にかけての上皮細胞の形態変化,すなわち細胞更新の過程を模倣した病変であると考えられた.CEAやKi-67を用いた検討も細胞更新を模倣した病変の見解を支持するものであった.HPとSAの違いは細胞更新を模倣する細胞に分裂能力があるかないかであり,HPでは分裂像は病変の下部に限局し,鋸歯状腺管にはKi-67陽性細胞はほとんどみられない.SAでは分裂細胞は病変全体に分布し,Ki-67陽性細胞は鋸歯状腺管にも観察された.この診断基準で分類されたHPとSAのKi-67陽性率とargyrophilic nucleolar organiser regions (AgNOR)数には有意差が認められた.

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要旨 serrated adenomaの性格を明らかにするために,61病巣のhyperplastic polypとserrated adenomaを組織学的に再検討し,Ki-67免疫染色で増殖能の検討を行った.serrated adenomaを組織学的に腺管内腔がserratedな様相を示し,種々の程度の細胞異型・核異型を伴い,表層へ向かっての分化傾向が少なく,腺管が分岐する傾向が強く,基底膜が凹凸不整を示すものと定義した.serrated adenomaの基本的なKi-67染色態度は,serratedな上皮の陥凹部に陽性細胞が認められ,陽性部は不連続であった.一方,hyperplastic polypは17例全例で腺管の腺底部から中層部まで連続性に陽性細胞がみられ,common type adenomaは腫瘍部全体にびまん性に認められた.以上の結果からserrated adenomaの診断は,上記のごとくの定義に基づいて診断するのが適当と思われた.

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要旨 鋸歯状腺腫(serrated adenoma;SA)411例,452病変について,臨床病理学的立場から検討した.その頻度は全腺腫の1.9%で,近年増加傾向にあった.本腫瘍は組織学的に,①通常型腺腫(以下TA)成分を伴わないA群333病変,と②それを伴うB群119病変に分けられた.A群に腫瘍径小,有茎性,軽度異型のものが多く認められた.過形成性ポリープ(以下HP)成分の共存率は,全体で45.4%(A群55%,B群18.2%)と高く,特にA群で高頻度であった.一方,癌化率は全体で1.5%(A群1.2%,B群2.5%)と低く,特にA群でそうであった.TAにはときに出現し,HPにはみられないPaneth細胞は全病変に認められなかった.以上の結果から,本腫瘍,特にA群の生物学的悪性度はTAのそれより低く,その発生母地としてHPの可能性が高いと結論した.

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要旨 鋸歯状腺腫(serrated adenoma;SA)または過形成性(化生性)ポリープ(hyperplastic or metaplastic polyp;H/MP)と同じ細胞系列上にあると考えられた癌(SA・H/MP由来の癌)の病理組織学的特徴と細胞分化を解析した.症例は70歳,女性.切除された右側結腸に6個の癌を認めたが,SAとH/MPも多発したことに加え癌の3病変にSAあるいはH/MP成分を伴うことからそれらはSA・H/MP由来であることが示唆された.更にこれらの癌は,①癌腺管のSA類似の鋸歯状構造,②特徴的なレース状の構造,③著明な浸潤性発育と先進部での脱分化,④免疫組織化学的にpS2およびhuman gastric mucinの発現,という共通する組織像と免疫組織化学的特徴を有し,それらの所見がSA・H/MP由来の癌の抽出に有用であると考えられた.

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要旨 過去7年間に当院で内視鏡的に切除され,組織学的にserrated adenoma(SA)と診断された63例,64病変の肉眼所見を中心に検討した.SAは直腸,S状結腸に多く分布し,大きさは5mm以上,不規則あるいは分葉・結節状の表面構造で,赤色調の病変が多い傾向であったが,特異的な所見はなかった.一方,64病変中,8病変12.5%に癌の合併を認め,化生性ポリープ(MP),SAの相方の成分を認める病変もあり,MPからSAを介するadenoma-carcinoma sequenceが示唆され,SAは,内視鏡的治療の適応となる病変と考えられた.

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要旨 過去3年間に経験した大腸鋸歯状腺腫(serrated adenoma;SA)の内視鏡所見と組織所見を検討し以下の結果を得た.(1)全53病変のうち36病変(68%)が直腸・S状結腸に存在し,有茎性ないし亜有茎性の隆起性病変が34病変(64%)を占めていた.(2)53病変はその表面構造から過形成様(H群)17病変,脳回様(C群)18病変,両者を有する混合型(M群)18病変に分類可能であった.(3)内視鏡的に切除された30病変を腺腫の診断基準に準じて分類すると,腺管状10病変(33%),腺管・絨毛状14病変(47%),絨毛状6病変(20%)で,高度異型を4病変に認めた.(4)同30病変の表面構造と組織像の対比では,H群(11病変)では腺管状が91%であったのに対し,C群(8病変)とM群(11病変)では全病変に絨毛成分が認められ,C群の1病変とM群の3病変が高度異型を呈した.以上から,SAは遠位大腸に隆起性病変として好発し,表面構造が特徴的であること,および癌ないし絨毛腺腫への進展が示唆されたが,臨床的には通常腺腫と同等に取り扱って問題ないと考えられた.

Consensus Review

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はじめに

 大腸のserrated adenoma(鋸歯状腺腫)はhyperplastic polyp(過形成ポリープ)あるいはmetaplastic polyp(化生性ポリープ)に類似する鋸歯状形態を特徴とする腫瘍性病変であるとされている.しかし,典型例は別として,化生性ポリープや他の腺腫との鑑別はあまり明解でないところがあり,その組織診断基準は世界的にみても確立されているとは言い難い.このため,同一病変に対して異なった組織診断が下されることも生じている.

 本企画の目的は,消化器専門の病理医が,個々の症例の指定の部位の組織像を具体的にどのように組織診断しているか明らかにすることにより,多くの病理医が共通してserrated adenomaとする組織診断基準を明確にすることにある.

 用いた症例は内視鏡的切除例で,企画者の判断でserrated adenomaか,あるいはserrated adenomaとの鑑別が問題となるであろう病変を中心とした10症例である.これらの症例について,同一病変内で診断する箇所を指定し,指定箇所の組織診断と組織所見の読み方について複数の病理医に診断していただき,更に診断根拠を記載していただいた.病理医はわが国の5人とWHOの腸腫瘍シリーズの編者であるJR Jass,serrated adenomaの呼称の提唱者であるCM Fenoglio-Preiserである(Table 1).

症例からみた読影と診断の基礎

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〔患者〕59歳,女性.血便を主訴に当院を受診.既往歴や家族歴に特記すべきことなし.

【Case 27】 緒方 伸一 , 馬場 保昌
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〔患者〕62歳,男性.無症状.胃検診目的で内視鏡検査を受け,胃ポリープを指摘された.生検診断の結果が分化型腺癌であったことから,内視鏡的粘膜切除術をすすめられ,当科を受診した.

リフレッシュ講座 病理検査手技の基本・2

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はじめに

 消化管切除材料の取り扱いについては,「胃と腸」誌でも1987年から1988年にかけて16回にわたる病理学講座が持たれ,経験豊かな先生方による詳細な解説がなされている.最近では1993年から1995年の増刊号で内視鏡的粘膜切除を含めた切除標本の取り扱いについて述べられている.また,成書も少なくない.にもかかわらず,研究会,書籍などで丁寧に取り扱われたと感じられる標本が少ないのはなぜなのであろうか.今回のリフレッシュ講座で再び取り上げられた理由がそこにある.これまでの症例を振り返ると,伸展の十分でない標本が多く,そのような点についての解説も少なかったと思われる.内視鏡的切除標本と比べて取り扱いの悪い外科切除標本の伸展方法を中心として,固定方法と切り出し方法の基本を解説した.

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要旨 患者は63歳,男性で,大腸癌検診陽性のため大腸内視鏡検査を施行した.直腸S状結腸曲に偽足様所見を呈し,陥凹内に小結節を認めるⅡc+Ⅱa型腫瘍を認めた.推定深達度はmとしたが,表面陥凹型でX線検査上20mmであったことから高位前方切除術を施行した.実体顕微鏡ではⅢL+ⅢS+Ⅳ pitを呈し,辺縁隆起ではⅢL pitが認められた.病理組織学的には0-Ⅱc+Ⅱa,tub 1,sm1,ly0・v0,n0,15×10mmで,陥凹内小結節を含めた3か所でsm浸潤を認め,辺縁隆起部では癌が粘膜表層を這うようにかつ非全層性に拡がっていた.自験例は肉眼形態,辺縁隆起部のpitおよび組織学的所見から非顆粒型側方発育型腫瘍の範疇に入るⅡc+Ⅱa型早期大腸癌で,陥凹を有する非顆粒型LSTの病態を考えるうえで,また非顆粒型LSTのsm浸潤の初期像として貴重な症例と考えられた.

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要旨 hemangiopericytomaは血管外皮細胞から発生する比較的まれな腫瘍である,突然の貧血と意識消失で発症した53歳,女性で消化管出血は認めず,精査で胃幽門大彎近傍に嚢胞状腫瘤を認めた.手術を施行したところ胃幽門壁内に充実性腫瘤と幽門大彎側に血腫を含む腫瘤を認め,鍍銀染色で染まる腫瘍細胞間の好銀線維と電顕所見からhemangiopericytomaと診断した.術後43か月経過したが再発はみられていない.わが国では胃原発のhemangiopericytomaは18例が報告されている.本例のように意識消失を来す腫瘍内出血を生じた例は文献上報告がない.

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欧文目次

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 消化管のエコー検査は,最近,静かなブームである.これまで,体外からのエコー検査はもっぱら肝・胆・膵などの実質臓器が対象であったが,現在では虫垂炎・イレウス・炎症性腸疾患など,消化管疾患の診断にも欠かせない存在となっている.腹痛の患者を前にして,エコーで実質臓器しか診断できないのでは-以前はそれでも面目が立ったが-今や不十分であると言えよう.

 消化管疾患の検査では何と言っても内視鏡が主役であるが,内視鏡が苦手とする疾患がいくつかある.例えば胃外発育型粘膜下腫瘍や急性虫垂炎,あるいはイレウスや炎症性腸疾患の急性期などである。これらの疾患の診断はむしろエコーの独壇場であり,大いに威力を発揮する.

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 MRIが現在の画像診断法で占める役割の大きさについて,異論を唱える者はいないであろう.その重要性はまさに年ごとに高まっていると言ってよい.一方で,大部分の医療関係者あるいは学生にとって,MRIを理解することは決して容易ではない.その理由の1つは,MRIの原理自体が,100年を越える歴史を持つX線に比して臨床医療の場においてなじみが薄かったことである.すなわち,MRIを学ぶことは,われわれにとって全く新しい世界を学ぶことなのである.更に学習の過程において現れる数式や物理知識が,MRIをいっそう疎遠なものとしている.

 本書は,この難解と思われているMRIを可能な限りわかりやすく解説することを目的として記された教科書である,もちろん,この分野では従来多くの入門書が出されており,それぞれに多くの優れた点を持っている.本書がこれら類書と大きく異なるのは,著者自身がMRIについて教鞭をとる過程で書きためた講義資料がもととなっている点である.このため,各頁の左側に図(OHPシート),右側にノートを対比させ,項目ごとに簡潔に記載するという形式をとっている.人に教える場合には,教員自身がまずその事象について理解している必要がある.本書を一読して気づくのは,著者自身がMRIを理解しようとして努めてきた足跡がこのノートからうかがえることである.本書の69の項目は,その1つ1つが,著者自身の疑問をきっかけに,十分な考証と推敲を経て記されている.すなわち,MRIを学ぶ者がどこで迷い,どこで行き詰まるかを十分に把握したうえで書かれている.この点こそが,本書を他書から際立たせる点であろう.

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 大腸癌の多段階発癌関与遺伝子がフォーゲルスタインらによって示され,癌が癌遺伝子と癌抑制遺伝子の異常から生じることが明らかになった.また,遺伝子修復に関与した異常がその発生に絡み,臨床的にはこれらの検索が重複癌のスクリーニングに有効なことがわかってきている.最近の医学の世界で遺伝子を用いた分子病理学的診断や予後との相関に関する研究は日常的であり,これらの情報を日常の診断や治療業務に取り入れている分野もある.消化器でも種々の細菌学的検査やMALTリンパ腫の診断治療あるいは癌の放射線・化学療法感受性,occult lymphnodal metastasis,膵液・胆汁液を用いた癌の診断など枚挙にいとまなしである.この数年の進歩を見ていると,実地医家にとって,消化器癌の遺伝子情報を取り入れた治療もそう遠くないように思える.特に,テロメアーゼ活性の測定が癌の診断や治療に活用される時代などは本当に近いかもしれない.このような時代を背景として,時機よく,世界におけるこの分野のオピニオンリーダーである武藤教授のグループが訳された本である.それだけで名訳本と言って良いであろう.

 本書は全部で11章から成り,遺伝子学への招待から将来の展望までで構成され,初歩的な遺伝子構成の基礎で始まり,腫瘍学と遺伝子,大腸癌のスクリーニングと遺伝子,遺伝性非ポリポーシス性大腸癌,大腸癌登録まで,きめ細やかに作られている.更に,遺伝子検索の手技が原理も含めて丁寧に説明されている.最後に用語解説まで盛り込まれている.この内容を更に充実したものにしているのが,なんと言っても翻訳文がわかりやすいことである.武藤教授,名川助教授のこの本の翻訳に対する意欲が強く感じられる.

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食道,十二指腸,大腸の超音波内視鏡検査におけるゼリー注入法

 質問 食道や大腸の超音波内視鏡検査において,脱気水やバルーン法ではなく,ゼリー注入法が効果があるとのことです.具体的な手技とそのメリットについて教えてください.(大阪K.K.)

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「Strip biopsyの実際」という副題の,美しい内視鏡写真を表紙に戴いた本ができ上がり,手もとに送られて来た.

 言うまでもなく,著者多田正弘氏は,日本におけるstrip biopsyの開発者である.この本で多田氏はその開発の歴史から,胃内視鏡の観察法,strip biopsyの手技に至るまで,具体的な症例を美麗な内視鏡写真とわかりやすい図で示しながら解いている.

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 本書は対象を消化器癌に絞り込み,食道,胃,小腸および大腸の診断と内科的治療について系統的な記述がなされている.癌の診断に重点が置かれていることはもちろんであるが,特に治療の項では内視鏡的治療と癌の化学療法が一括して記述されており,このような企画はおそらく本書が初めてではなかろうか.

 内容は大きく6章に分けられている.すなわち,診断篇では食道癌,胃癌,小腸癌,大腸癌,消化管悪性リンパ腫,それに前述した消化管癌の内科的治療から構成されている.更に,それぞれの章は早期癌,進行癌,深達度,浸潤範囲,生検,病理などの項目別に診断法が詳述されている.随所に症例が提示され,内視鏡,X線,超音波像,切除標本などによって具体的に診断のポイントが的確,かつ平易に解説されている.例えばⅡc型早期胃癌の内視鏡診断は“病変部の周辺,病変部境界,陥凹内面に分けてみるとわかりやすい”と述べられ理解しやすいし,同様に,内視鏡による深達度診断は“病変の形態,組織型,大きさなどから深達度を類推する方法と,粘膜下層以深への浸潤した変化をもとに深達度を推定する方法”があるなど,要点を押さえながら病変の特徴と目のつけどころが簡潔でわかりやすく記述されている.

編集後記 飯田 三雄
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 鋸歯状腺腫(serrated adenoma;SA)は,1990年Longacre TAとFenoglio-Preiser CMによって提唱された新しい疾患概念であるが,われわれ臨床医にとってはつい最近まであまりなじみのない名称であった.筆者自身,これまで日常の内視鏡検査で一見絨毛腫瘍に類似した表面構造を有する隆起で生検はGroup 1という病変に何度か遭遇したことがあったが,今振り返ってみるとこのような病変こそSAの典型例であったと考えられる.本号は,いまだ確立したとは言い難いSAの病理組織診断の現状と問題点を明らかにし,典型例の臨床診断がどこまで可能かを探る目的で企画された.

 本号では,①SAの組織診断基準は各病理医問でそれほど大きくは違っていないこと,②発生頻度は全大腸腫瘍の1~2%であり,最近増加傾向にあること,③SAの組織学的鑑別にCEA,p53,Ki-67などの免疫染色が有用であること,④担癌率は通常腺腫と同じかむしろ低いこと,⑤大部分は隆起性病変として発見され,遠位大腸に好発し,特徴的な表面構造を有すること,などが示された.

基本情報

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胃と腸
33巻6号 (1998年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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