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鋸歯状腺腫serrated adenomaという名称の歴史は新しい.Longacre TA & Fenoglio-Preiser CMにより提唱されてからいまだ9年にすぎない(Am J Surg Pathol 14:524,1990).以前はmixed hyperplastic adenomatous polypと呼ばれていたものに相当し,わが国においては樋渡らによりH型腺腫と呼ばれ,大腸ポリープに占める頻度は2.4%程度とされている(医薬ジャーナル9:83,1983).また,多施設問の共同研究によるRubio CAらによる扁平隆起性病変の10%に相当するという(Jpn J Cancer Res 87:849,1996).「胃と腸」24巻3号で微小な大腸腺腫の病理診断の特集を組んだことがある.その際,大腸腺腫の病理診断では異型度の判定に関して病理医間に大きな個人差があり,診断基準に混乱を来し,病理診断に対する誤解と不信の種を播いたことがあった.それは腺腫と癌の鑑別,すなわち腫瘍の良悪性の鑑別診断の問題であった.今回取り上げられた鋸歯状腺腫では,過形成性変化と腫瘍という異なるカテゴリーの病変の鑑別の問題と,通常の腺腫と鋸歯状腺腫との鑑別という2つの側面を持っている.Longacre TAらの最初の報告をみても27%,すなわち1/4以上が過形成性ポリープと診断されており,50%が腺腫,24%がmixed hyperplastic adenomatous polypと診断されていたにすぎない.日常の病理診断においてわれわれも以前からまれに遭遇していた変わった病変があり,特に肉眼形態が著しく分葉状を呈し,かつ鋸歯状の腺管構造と特有な上皮から成る腫瘍性病変の存在を認識しており,いずれ特殊な名称が必要になるであろうからと,蒐集を始めていた矢先のserrated adenomaの名称の提唱であった.過形成性ポリープと鋸歯状腺腫の鑑別のポイントとして記載された点は,幼弱な杯細胞が存在すること,核分裂像が腺管の表層部に存在すること,明瞭な核小体がみられること,上皮下の厚い膠原線維の欠如,核の偽重層化,N/C比の増大などが挙げられている.このような鑑別点にも客観性に乏しい部分があり,更にserrated adenomaにおいては迂曲,分岐した腺管の底部と表層では細胞増殖能に差があり,上皮の表層に向けての分化がみられる.そのために過形成性変化と腫瘍との鑑別が困難となり,病理医により診断基準が異なることが起こりうる.
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