胃と腸 30巻11号 (1995年10月)

今月の主題 食道表在癌の発育進展―症例から学ぶ

序説

食道表在癌の発育進展 西沢 護
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 癌の自然史を知ることの難しさは,その方法論にある.癌とわかって観察することは,動物実験ではなしえても,患者を臨床研究に用いることはできない.偶然,retrospectiveあるいはprospectiveに自然史の一部を断片的にとらえることはありうるが,前者では見逃し例が主となるので,見逃し時の検査がよくないため,しばしば間違った推定をしてしまう.後者は,何か治療ができない理由でもない限り,その機会に恵まれることは少ないし,あったとしても癌と知って検査のfollow-upに応じる患者はほとんどない.どの臓器の癌の自然史も,いまだ霧の中にある理由はそのあたりにある.

 癌は自律的に無秩序に発育進展するものである以上,全く同じ道をたどるものはない.そのバラエティーに富んだ,発生から死に至る形態学的,生物学的推移の中から一定の法則を見いだすことは難しいが,その中でも類似の傾向を見いだすことはできる.それらの類似性を求める唯一の拠り所は,正確なcase reportの積み重ねである.その中からできるだけの情報を集めて推測することが唯一無二の方法であるが,簡単に結論が出てこないだけに興味は尽きない.

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要旨 患者は88歳,男性.1986年7月(79歳時)健診で胃角部開大を指摘され来院した.内視鏡検査で食道中部に不整なびらん様陥凹を認め,0-Ⅱcを疑い生検し,食道粘膜癌と診断した.積極的治療を望まないために化学療法のみ施行し,定期的に内視鏡検査を施行し,経過観察となった.少なくとも,2年2か月まではep癌,4年4か月まではm癌,そして5年3か月まではsm癌と,非常に緩徐な進展であった.その後,6年4か月になって,病変の一部でmpへの浸潤が疑われた後,急速に進行し,8年4か月後,通過障害自覚時には潰瘍浸潤型,3/4周を占める進行癌となった.本症例は食道粘膜癌から進行癌へのほぼ自然な経過を経時的に捉えた点で興味ある症例と思われる.なお,経過中,胃の腺腫の癌化も観察された.

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要旨 アルコール依存症患者の食道全域に多発するヨード不染病巣の経過追跡例において,下咽頭と食道に異時性重複癌の発生を認めた1例と,アカラシア患者に対しての術後6年間にわたる経過観察で食道表在癌と診断された1例を経験した.内視鏡での経過観察を中心に,病巣部での粘膜面の変化,ヨード染色での不染部の色調や形態の変化,また生検での病理診断の困難性と問題点につき言及した

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要旨 内視鏡的に長期経過観察した食道粘膜癌の2例を報告した.〔症例1〕は4年8か月の観察期間に0-Ⅱc+Ⅱb型のまま経過し,深達度もm1にとどまっていた.〔症例2〕は4年11か月の観察期間にm1からm2への進展が推定されたが,病型は0-Ⅱc+Ⅱb型のままであった.これらは,食道癌も粘膜癌の段階では,一般に言われているように発育は極めて緩徐であることの証明と考えられるが,2例とも組織学的に異型度の比較的弱い癌であり,粘膜癌の中でも発育は遅い部類に属する症例と思われる.

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要旨 患者は45歳,女性.19歳時,食道アカラシアに対して粘膜外筋切開術を施行した.42歳時,術後瘢痕狭窄に伴う食道炎,食道潰瘍のため,下部食道胃噴門部切除・空腸間置術を施行.その後,食道炎所見は改善していたが,半年ごとに内視鏡検査で経過観察し,3年後,上切歯列から24~29cmにⅡc病巣が出現,非開胸食道抜去・後縦隔経路頸部食道回腸吻合術を行った.大きさ6.5×5.5cm,m1,ly0,v0であった.retrospectiveにみると,再手術時に最も炎症が強く,びらんを形成していた領域の対側に癌が発見された.1946年から1995年7月までに当科を受診した食道アカラシア476例中,食道癌を合併した24例についても検討した.長期的かつ定期的な内視鏡による経過観察が重要であると考えられた.

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要旨 長径6mmのヨード不染帯に対し26か月間の内視鏡的経過観察を行い,最終的に内視鏡的粘膜切除により,深達度m1の0-Ⅱc型食道粘膜癌と確認した症例を経験した.経過観察中に陥凹の出現と陥凹内の微細な樹枝状血管網の増生が認められ,0-Ⅱc型表在癌のごく初期の内視鏡像と思われる所見が得られた.本例を含めた経過観察食道粘膜癌9例と異型上皮1例を対象として,粘膜内癌の発育進展に関する形態的・時間的変化について検討した.

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要旨 3年および1.5年の自然経過を観察しえた隆起型食道表在癌2例を経験した.〔症例1〕は,下部食道に細顆粒状の凹凸を示す白色隆起を指摘され,生検で食道炎と診断され,経過観察となった.3年後には隆起は0-1型を示すほどに増大し,生検で扁平上皮癌と診断された.〔症例2〕は,中部食道の白色隆起を指摘され,生検で乳頭腫と診断され,経過観察となった.1.5年後には白色隆起は増大し,生検で扁平上皮癌と診断された.2症例とも,早期から隆起の周囲に陥凹を伴っており,病変の増大時にも形態的特徴に変化はなかった.また,いずれの症例においても,初回生検時には良性病変と診断されており,初期診断の難しい症例であった.

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要旨 比較的短期間に病変の形態が変化した2症例を経験した.〔症例1〕,Ⅱcの診断で他院から紹介された.内視鏡治療前の検査では,再生上皮で覆われた陥凹周囲に数個のⅡc病変を認めた.16日後の粘膜切除施行時には,Ⅱc病変の1個が,周囲に盛り上がりを有する0-Ⅲ型に変化していた.切除標本では大きさ3.5×3mmと小さいが,脈管侵襲陽性のsm1癌であった.〔症例2〕は下咽頭癌の重複例であり,初回内視鏡検査時,多発するⅡc病変を認めた.周囲に円盤状の盛り上がりを有したⅡcは,約9週間後の内視鏡再検時には,陥凹が深く,周囲の盛り上がりも著明となり,0-Ⅲ型に変化していた.2症例とも,単純なⅡcとは異なり,小病変のときから周囲に円盤状の盛り上がりが見られる病変であった.

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要旨 患者は63歳,男性.胃集検で食道病変を指摘された.初回内視鏡検査では,上切歯列から27~33cmの前壁を中心とした0-Ⅱc型,中央部は粗大顆粒状の辺縁隆起を伴った陥凹であり,0-Ⅱc(sm)型と考えられた.2か月後の内視鏡検査で,病巣の一部に丈の高い隆起が出現し0-Ⅰ+Ⅱc型に変化した.X線検査で0-Ⅰ部分は著明なひだ肥厚様の透亮像として描出され,深達度sm2と推定された.病理所見は,5.5×5.2cmの0-Ⅰ+Ⅱc型,深達度sm3,中分化型扁平上皮癌,ly2,v1,n4(+).0-Ⅱc病変の粘膜下層浸潤に伴い,0-I型の隆起が出現した症例であり,初回検査時の“壁を弛緩させると一部がわずかに盛り上がる所見”は粘膜下層浸潤を示唆すると考えられた.

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要旨 患者は61歳,男性.食物摂取時の異和感を主訴に1989年1月17日来院.同日の内視鏡検査で上切歯列から34cm前壁1/3周強に,菱形の発赤したⅡc病変を認めた.その後愁訴は消失し,手術直前(4週間後)の内視鏡検査では明らかに縮小し,点在するⅡa病変となっていた,粘膜下の癌遺残を危惧し,開胸切除を行った.中分化型扁平上皮癌,sm1,ly0,V0,n0,であった.切除標本で病変が非常に小さいにもかかわらずsm浸潤を呈していたことから,何らかの原因で表層性の癌が脱落したものと考える.

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要旨 患者は65歳,男性.1993年5月,つかえ感と胸痛が出現し,近医で食道癌と診断された.6月4日の内視鏡検査ではIm左後壁に長径6cmの0-Ipl+Ⅱc型表在癌を認め,易出血性の潰瘍面を伴っていた.7月2日には潰瘍面は消失し,0-Ⅰpl型(最大15×15mm,予想深達度SM2)の病巣が不連続に散在するようになった.その後,冠動脈造影検査のため一時退院した.8月18日の再入院時には口側の各隆起は更に縮小して0-Ⅱa型の多発病変に変わり,肛門側の病変は消失し,再生性の上皮が認められた.8月31日,手術を行った.切除標本では11×5mmまでの0-Ⅱaあるいは0-Ⅱc型の小病巣が6個確認された.深達度m3からm1までの低分化型扁平上皮癌で,ly0,V0,n0であった.

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吉田(司会) 発育進展というのは,癌を理解するうえで非常に大事な研究課題であると思います.従来は進行癌が多かったし,たまたま残されていた画像を遡って見る場合も,そう質のいいものではないことが多かった.不定期に検査の行われた資料で検討しなければならないという面もありました.最近は上皮内癌・粘膜癌の段階から見つかりますし,それを何かの理由でフォローアップするときは,適当なインターバルで,しかもいい画像で,生検とはいえ組織まで同時並行で見られるようになりました.質のいい資料を使って発育進展の検討ができるという時代になったと思います.

 今日は食道表在癌の発育進展というところに光を当て,主題症例を拝見したうえで,皆さんの豊富な経験を織り交ぜながら,何がわかったかということや,これから更に知りたいことは何かということを議論したいと思います.特に,食道癌が早期の癌から進行癌までどんなふうに育っていくのだろうか,その辺りを中心に議論したいと思います.活発な議論をお願いします.

今月の症例

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〔患者〕23歳,女性(九大2内,#6698).

 父が直腸癌で死亡.3歳ごろから全身に皮下腫瘤が生じ,切除術を繰り返していた.1984年1月,同胞2名が大腸腺腫症と診断されたのを契機に,精査のため当科入院となった.理学所見では全身数十か所に切除痕と皮下腫瘤(Fig.1a,b)を認め,組織学的にepidermal cystと診断された.下顎部には骨性腫瘤があり,pano ramic radiographyでは同部に塊状骨化像とびまん性の骨腫様陰影を認めた(Fig.2a).全身骨X線検査でも四肢骨に多発する骨腫を認めた(Fig.2b).眼底検査には異常所見はなく,頭部・腹部・骨盤部CT検査,甲状腺超音波検査でも異常は認めなかった.

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 症例)患者は83歳,女性.1991年5月,近医で施行した上部消化管X線検査で異常を指摘され,当科を受診した.

 当科で施行した上部消化管X線検査では,幽門輪から胃前庭部にかけてほぼ全周性に隆起性病変を認めた.胃壁の伸展は良好であったが,隆起の表面は顆粒状ないしは結節状を呈していた.更に,隆起は胃内のみならず,胃から連続して十二指腸球部にまで進展していた(Fig.1a,b).

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要旨 患者は47歳,男性.貧血の原因検索中に食道に異常を指摘され,当科に紹介された.X線・内視鏡検査で胸部中部食道に2cm大のpolypoid lesionが認められ,周囲に全周性のⅡc病巣を伴っていた.生検では扁平上皮癌と紡錘形細胞の両方が採取された.EUSで深達度sm3と診断し,右開胸による3領域郭清を行った.組織学的には扁平上皮癌と,錯綜する紡錘形細胞肉腫との問に移行像が認められ,肉腫様成分内に一部類骨の形成が認められた.免疫染色では扁平上皮癌部分はkeratin陽性,肉腫様部分はvimentin陽性であった.類骨の部分は両方陰性で,骨芽細胞の配列はなく,周辺部より類骨中に異型細胞が見られ,腫瘍細胞によって形成された類骨と判断し,類骨の形成を伴う“いわゆる癌肉腫”と診断した.深達度sm3,n0 であった.癌肉腫の本邦報告例は検索しえた限りでは140例あり,若干の文献的考察を行った.

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要旨 患者は78歳,男性.痛風のため近医に入院中,食道腫瘍を指摘され当科に紹介入院となった.食道X線検査で下部食道に径1.5cm大の表面凹凸を示す隆起性病変を認めた.内視鏡所見では食道胃接合部口側に2/3周を占める,発赤した毛細血管網を透見しうるビロード状粘膜を認め,これから3~4mmの幅を有する帯状のビロード状粘膜が2条口側に伸び,うち1条の口側端(切歯列から33cm)に発赤,表面凹凸を示す隆起性病変が認められた.Barrett食道に発生した食道腺癌と診断し,内視鏡的粘膜切除術を施行した.組織学的には深達度m3の高分化型管状腺癌であった.p53による免疫組織染色では癌部,非癌部とも染色されなかった.

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要旨 患者は73歳,女性.血便を主訴に来院.大腸内視鏡検査で上行結腸に管腔のほぼ全周を占める丈の低い隆起病変を認めた.隆起表面は顆粒~結節状を呈し,隆起中央には,周堤を伴う潰瘍を認めた.X線所見では,潰瘍周囲は台形状変形を呈しており,結節集簇様病変内の進行癌の存在が疑われた.丈の低い隆起および潰瘍辺縁からの生検病理組織診断はそれぞれ腺腫,中分化腺癌であった.以上から,進行癌を伴った,いわゆる結節集簇様病変と診断し右半結腸切除術を施行.切除標本では病変は9×5cmで,中心に陥凹を有する丈の低い表面結節状の隆起病変から成り,病理組織所見は丈の低い隆起は腺管絨毛腺腫で,病変中心部の潰瘍部は中分化腺癌で深達度ssの2'型進行癌であった.このような症例は比較的まれであり報告する.

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要旨 患者は42歳,男性.主訴は便秘.腹部単純X線像で上行結腸に一致して,大小不同の小円形の石灰化陰影を認めた.注腸X線像で上行結腸に比較的表面の平滑な隆起性病変を認め,内視鏡所見では亜有茎性病変で,腫瘍の表面は正常粘膜で覆われるが,青色調の透見部分が散在し,血液の貯溜が示唆された.単純CT像で腸管の輪郭内にIow density areaと石灰化巣を認め,造影CT像で一部に周囲の腸管壁と同等に不均一に造影される腫瘤陰影を認めた.血管造影では石灰化巣を包む濃染像を呈し,大腸血管腫と診断した.肉眼像は径53×33mm,亜有茎性の粘膜下腫瘍で,病理組織所見では粘膜下層,筋層,漿膜下層に,多数の大小不同の血管腔と内腔に赤血球,fibrinを含み,器質化や石灰沈着を認めた.血管壁の大部分は弾性線維から成り,平滑筋の発達は弱く,海綿状血管腫と診断した.

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要旨 オキシドールを浣腸して生じた急性出血性大腸炎を経験した.患者は67歳の男性.便秘がありオキシドールを浣腸したところ,肛門出血・便意頻回・残便感を生じた.発症後3日目に行った大腸内視鏡検査では,歯状線から35cmまでの直腸・S状結腸に粘膜の著明な発赤・浮腫を認め,下部直腸にはびらん・出血が見られた.7日目には症状はほぼ消失し,17日目の大腸内視鏡検査では,粘膜の発赤・浮腫は改善しており,再生上皮を伴った浅い縦走潰瘍瘢痕が見られた.25日目にはほぼ正常の粘膜となった.薬剤を注腸して発症した大腸炎はまれであり,内視鏡所見を呈示し報告した.

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欧文目次

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 本書は内科雑誌「medicina」(医学書院)に2年間にわたり好評裡に連載されたものをベースに,単行本に編集しなおされたものである.項目別にみると,写真の撮り方,胃外病変病変の見きわめ,胃病変の拾い上げ診断,胃の隆起性病変,良性潰瘍と悪性潰瘍,潰瘍の良性サイクルと悪性サイクル,Ⅱc型早期癌,Ⅱc類似進行癌,微小病変とⅡb病変病変,スキルス胃癌,胃・十二指腸潰瘍など,大きく12章から成っている.

 本書は放射線診断を専門としない方々のために,まず診断に足る写真の撮り方から,見落としをなくすためのチェックポイントまで,通常の書物には書かれていないようなきめ細かい点まで,懇切丁寧に解説している.

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 本書は,長い年月にわたり,情熱を持って大腸ファイバースコープに従事した者にしか書けない実用書である.すなわち,10年余にわたり35,000例ものファイバースコープ検査を行い,20,000個のポリープを内視鏡的に切除した経験を持つ著者が成した快挙である.そこには,自ら苦労し,自ら考え,自ら改善し続け,その内容を世に問うていることがよくわかる.これから大腸の内視鏡検査を始める人や,検査に従事しても途中で壁にぶつかり思い悩んでいる人たちに役立ててもらいたいという,著者の考え方が文章ににじみ出ている真摯な本である.私自身,大腸のX線検査のみならず,過去20年にわたり,大腸のファイバースコープも行ってきた.その間の,初期の2人法による検査法から1人法への変遷,スライディングチューブの挿入,助手としての用手圧迫,ポリペクトミーなど,大腸内視鏡検査の歴史とその進歩を知っている.その間で,失敗もし,顔が青ざめるような経験もしてきたが,本書は,私自身のこれまでの疑問に,目の前の霞を晴らすように答えてくれた本である.

 内容は,検査前のチェックリストの項目,スコープの持ち方,点検の仕方から始まり,1人操作法でいかに患者の不快感や苦痛なしに深部ないし深部の大腸へ進めてゆくかを詳しく述べている.わかりやすく,特に注意してほしいと訴えるところは,短文でゴシックで書かれ,美しい内視鏡写真とともにその説明入りのシェーマが生きている.しかも,すべて著者自身が経験したことであるから,これまでの,この種の実用書とは“一味違う”臨場感にあふれる内容である.

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 本書は“臨床のため”の肝臓病理とあるように,肝疾患の治療に直接携わる臨床医と病理診断に携わる病理医との肝疾患に対する見解を結び付けるような形で,またそのような目的を持って書かれた書である.他の臓器の病態と同様,肝の病態についても最終診断は病理組織像によるところが大きい.われわれ臨床医の努力は問診,臨床検査,画像検査を駆使することにより,臨床診断をいかにして病理診断に近づけるかに向けられていたと言っても過言ではない.幸いなことに肝臓は肝組織標本が肝生検によって得られるという意味で,診断決定のうえで臨床医と病理学者との対話を構築することが可能である.しかし,異なった領域の研究者が共通の対象について対話をするためには共通の言語を持つことが必須のことであり,共通の言語を持つべく努力することが必要である.

 本書の著者である奥平名誉教授はわが国の肝臓病学の分野で長年にわたって御活躍されており,肝臓病を専門とする臨床医が絶大の信頼を寄せ,また同時にわれわれ臨床医の信頼,期待に応えてこられた病理医であり,本書のような著書を上梓されるには最適の方である.

編集後記 神津 照雄
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 食道表在癌の発育進展に関して,貴重な症例を拝読させていただいた.症例を見る限り,ほとんどが0-Ⅱ型の症例の経過観察であったが,林論文の,粘膜癌から進行癌まで8年4か月間の経過を追えた症例は圧巻である.食道癌の発育進展を考える際,その初期像は,座談会でも述べられているように,一様の展開を示すものでないことは明白である.われわれがまだ把握していない部分が大部分であろう.急速に増殖する症例に関しては2週間程度の短期間でも大きく変化することを知った.このような症例に遭遇したとき,病巣のどの部分が変化したのか,本来は既にsm浸潤を示していたのではないかなどの対応観察が重要であることを本号では指教している.そして逆に急速に縮小した症例も呈示されている.食道粘膜癌が生検やヨード染色により予想もできないほど形態変化することは,食道専門医にとっては現在では常識となっている.しかし永井論文にみるごとく,明らかにsm癌と診断できる症例の中にも短期間に縮小した症例が存在する事実からは,食道癌の発育進展に関しては今後,宿主側の詳細な検索が必要であることを痛感する.一方,アカラシアやBarrett食道,腐食性食道炎など長い経過の後に発癌してくる疾患,ならびに発癌リスクの高い生活環境も明らかとなってきた.本号は,食道粘膜癌を見つけようとするには絶対にヨード染色が不可欠であることを読者に訴えている.

基本情報

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胃と腸
30巻11号 (1995年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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