胃と腸 3巻4号 (1968年4月)

今月の主題 胃の食物輸送機能

綜説

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 成書によれば,胃の運動機能は食物の貯蔵,ある程度の攪拌作用および排出の3つに大別されている.しかし,食物が胃からどのような排出機序によって十二指腸へと送り出されるかについては,いまだ必ずしも判然としていない,最近胃の筋電図学的研究の著しい進歩に伴ない,胃の運動機能の解明が飛躍的に向上してきた.そこで今回は,胃筋電図1)から得た胃の運動機能についてのわれわれの知見をもとにして,レ線学的に観察した正常胃の貯蔵,攪拌現象および排出機能について述べ,さらに切除残胃における食物の輸送機能についても言及したいと思う.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.まえおき

 摂取された食物が,胃の中でどのように輸送され,攪拌され,排出されてゆくか,という問題は日常の極めて常識的なことであるにかかわらず意外に真相がわかっていないもののようである.

 一方,近年輸入された筋電図が次第に実験の分野で数多くの興味ある成績を挙げつつあるに伴い食物輸送機能の再検討の機運が醸成され,また,胃切除術の普及に伴い,残胃の機能が注目されるにおよび,生理的な胃の食物輸送機能がどのようであるかがふたたび検討される傾向にある.

 そこで,われわれはX線学的にこの問題を再検討すると共に,病的状態,癌とか潰瘍のある場合などにはどのような影響をおよぼすものであるかを観察する機会があったので,ここにその概要を報告し,大方の御批判を得たいと思うのである.

 話の順序として,文献的に従来からどのような観察がなされていたかの概要を述べ,次いで,われわれの行なった観察結果を述べることにする.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.緒言

 従来より胃内容排出機転については諸家の研究が多数発表されており,その観察方法も腹窓法,内圧曲線描記法,筋電図法,各種X線学的方法など多岐にわたり,それぞれに工夫がこらされているが,なお不明の点が少なくない.

 最近,螢光増倍管の発達によりX線テレビジョンやX線映画による研究が各方面で行なわれるようになり,胃内容排出の状態も直接人体について明確かつ具体的に観察されるようになった.しかしここに得られた映画フィルムを観察分析するにあたって,旧来のスクリーン映写法あるいは転写法においては,研究者の要する努力もなみ大抵のものでなく,また正確度の点で必ずしも十分とはいい得ない憾みがある.

  • 文献概要を表示

症例

 患者:楠○政○ 42歳 男

 主訴:心窩部痛

 家族歴:父,胃潰瘍,肺結核の他,特記すべきことなし.

 既往歴:30歳痔核手術,両側扁桃腺摘出.

 現病歴:15~16歳頃からときどき胸やけを訴えていた.昭和40年暮,心窩部痛(食後約2時間)心窩部圧迫感胸やけ,嘔気を訴えて来院,レ線検査にて胃角部に潰瘍を疑い胃カメラで潰瘍と診断した.1ケ月後の胃カメラで潰瘍はほぼ瘢痕治癒化せるものと診断された.

 以後服薬に依ってL記症状は軽快していたが,昭和42年1月再び上記症状が発現し当科受診,レ線および内視鏡検査で早期胃癌と診断されて入院.

  • 文献概要を表示

 患者は55歳の農婦.主訴は約4年間,食後3~4時間頃に起る上腹部の鈍痛で,季節や服薬によっては変化がなかった.食思やや不良.悪心,胸やけ等なし.酒・煙草は嗜まず,既往歴,家族歴に著変はなかった.

〔一般検査〕

 栄養やや不良.胸部・心・肝等に異常は認めなかった.血色素78%,赤血球394万,白血球4,400,ワ氏反応(-),便の潜血(-)

  • 文献概要を表示

Ⅰ.まえがき

 胃癌の診断技術の向上に伴い,病変部を忠実に表わしたX線あるいは内視鏡の記録による経過が,胃癌の発育を知る一つの材料として重要になって来た.我々は幸か不幸か,患者の都合により肉眼的に癌と診断し得る像を得てから,3年9力月と言う期間の後,尚早期胃癌であった症例を経験し,その経過が主として内視鏡にて追求されたので報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.緒言

 胃に原発せる肉腫は胃癌に比較してまれではあるが,胃疾患診断の向Eのためか今日漸次増加の傾向にある,西欧では最初に胃肉腫を報告したのはCruveilheir(1827),Landesherg(1840)等である.本邦では1901年迄が胃円形細胞肉腫を報告し,1964年迄に324例の報告がみられる.われわれは最近胃悪性腫瘍の診断のもとに胃摘出術を行い,組織診断にて早期の胃細網肉腫と確認し得た1例を含み,計3例について述べる.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 近年,胃X線検査,内視鏡検査の発展にともない,胃粘膜下腫瘍が数多く発見されるようになった.この症例は胃粘膜下腫瘍と診断し,粘膜下腫瘍の摘出を行ない,胃寄生虫性肉芽腫にもとつく腫瘤で,その中心部の虫体はアニサキス属の幼虫であった例である.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.まえがき

 特発性食道拡張症は,Willis1)が1672年に最初の記載をして以来,今日まで数多くの症例と多方面からの研究業績が発表されており,決してまれな疾患とはいえない.しかしながら,合併疾患を伴った本症については,その報告は少ないようである.われわれは最近胃潰瘍を伴った本症に対して,同時に観血的治療を行ない,良結果を得ている1例を経験したので,両疾患の間になんらかの因果関係があるかどうかを中心として,若干の考察を加えて報告する.

  • 文献概要を表示

胃潰瘍の手術適応

村上 大体お揃いのようですから,そろそろ初めたいと思います.まず胃潰瘍の手術適用については,前にも何回もこういうテーマで学会に取り上げられたと思います.特に今年(1967年)の春,名古屋での難治性胃潰瘍というシンポジウムと比較してお気付きになったところはなかったでしょうか.

白壁 この問題は京都府立医大の川井先生が熱心にやっておられたはずです.先生のご感想はいかがですか.

技術解説

私の胃レントゲン検査 木村 規矩志
  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 胃の診断は先づレントゲン検査が最初の手がかりとなるので,そのフィルム像は適確に読み易い様に撮影することである.然し症例によっては病変の現われる像がいろいろと違うという点を理解せねばならない.

 このようなことを考えると臨床医の診断面における位置は重にしてかっ大である.その責任を果すためには最も使い易い精密なレントゲン装置が必要である.そして,自分なりに見落し,見誤りを少くする撮影の基本方式を考え,レントゲン障害と疲労を軽減する様に努めねばならぬ.

 従来,一般に使用されているレントゲン装置でレントゲン障害を受けることなく,毎日透視撮影出来る限界はせいぜい7~8名程度のものではないかと考えている.10名以上になると私の経験では頭痛,眩量,時には嘔吐を催すことがあるので,これ等の悪条件を克服し,1人1人出来る限りの患者をこなし満足し得る診断能力を発揮するためにはX線テレビジョン方式を採用することが最も理想的と思う.

 しかし,X線テレビにも利点,欠点はあるけれども,利点を生かして,欠点を少くすることが必要で,その意味で私の病院は現在胃腸検査を主体としたオーバーチューブ方式(透視台を水平にしたときに被検者に対してX線管球が上にある)で島津製作のLs-3型の11吋イメージの遠隔操作装置を使用している.

 なお,X線テレビ装置のイメージ分配器より16mmX線映画撮影およびフィリップスの70mmスポット撮影装置を組合せている.

 仭て,レ線診断を行うにあたり,その一般的な方法についてはすでに多くの成書に述べられているので,私は,どの様に透視撮影すればよい診断効果が上るかの問題を中心に考えてみたい.今日なお,胃の形態を充分知ることが不可能な従来の解像力の悪るい螢光板を用いたX線装置で,いまだに習慣的と云おうか,透視検査の重要であると云う観念から抜ききれない様である.その上,透視検査に長時間かけると医師および被検者にレントゲン障害を起こさす危険ともなるので写真撮影に重点を置くべきである,写真撮影によって得られた像は透視像より鮮明さの点では遙かに優れたものがある.従って写真撮影にある程度の工夫を加えたならば透視では得られない診断の確率性が可能となる.

 ひるがえってX線テレビ方式では透視解像力は従来の螢光板透視に較べて圧倒的に輝度が優れており明るい室内で業務を行うことが出来,これらの悪条件を全部カバーして呉れる.一般に広く行われているX線撮影技術は充盈像を主とした透視触診,圧迫撮影の基本方式が用いられている.しかし,青山博士は粘膜レリーフ像について胃充盈像の撮影は容易であるが,充盈像のみの診断はしばしば誤診を招くので,粘膜像併用の重要性を力説している.ことにmm単位の病変を発見するには是非とも微細粘膜レリーフ像が絶対必要であるが,これはうまく撮れる様な技術を平生養って置くことが重要であると述べている.これについてあるX線学者は通常行われている1ロバリウム(約30cc)を飲ませて撮影するところのいわゆるレリーフ像に現われた所見は充盈,半充盈による透視後の適宜の圧迫像でも現わし得るので,今更単純レリーフ像より圧迫像の方が補助的診断価値は高いと述べている.

 私は胃微細病変の決め手には,何をさておいても先ず胃のレリーフ像の撮影を是非入れたいと考えている.胃の充満像による胃の辺縁の変形に注意することは,最も必要なことであるけれども,素直な充満像すら満足に撮れない場合が非常に多い.

 大体,胃のレ線像と云うものは誰が撮一,ても同じ像が得られるとは限らないので,非常に個人差があるけれども,自分にも読み易くかつ他人にも読ませ易い写真撮影をしなければならない.そこで私はどのようにすれば良い診断成果が上るかの問題点を中心として,その方針と心構えを述べてみたいと思う.ここで胃X線診断には粘膜像がよいか,充盈像がよいかの論議は後日にゆずり,今迄の各種撮影方の利点,弱点をよく見極めて誰が行なっても比較的同様な写真が撮れる様な方法を考えてみたい.

 勿論,特殊撮影法には高度の撮影技術を持った人によって初めて精度の高い結果が得られることになり,問題は仲々むずかしいと思う,保険経済の観点からもある程度の限られたフィルム枚数で最大の効果の診断価値を発揮する様な能率のよい組合わせが是非とも心要であることは云うまでもない.

研究会紹介

  • 文献概要を表示

 佐賀県の西北に位する伊万里市及び西松浦郡は長崎県北部と境しているが,佐賀県には医科大学もなく,九大,長崎大からは可成り離れており,九州北部では学問的に辺地と考えられる地域である.又この地区には大きい公立病院もなく,従って核となる病院がないわけで,開業医は胃疾患の診断について信頼して依存出来る場がないという,悩みがあった.各地区特に大学や大病院の所在地で行われている胃についての研究会とは可成り趣を異にして,日夜第一線で活躍している多忙な開業医が目進月歩してやまない胃疾患の診断学に何とかついていこうという向学心から出発したのが,この会台である.

 昭和41年7月伊万里市及び有田地区の医師会内の同好の士で胃についての勉強会をやろうという話がまとまり差当り講習会の形式をもって発足することにした.参加希望者は40名で,エーザイ株式会社及び大黒南海堂伊万里支店が世話役となり,伊万里保健所会議室を会場とすることにした.そして講師として中村は,41年7月から12月迄,胃についてのレントゲン及び内視鏡の撮影方法及び読影の初歩を実技までやり,典型的な症例について説明を加えながら指導講習を行った.その後は,42年1月より開業医の実際に経験した症例についてX線フィルムと内視鏡フイルムを持寄り,お互いにディスカッションをして大体の結論を出し,最終的には中村がアドバイスをするという変則的な懇話会に移行して今日に至っている.

  • 文献概要を表示

 山形県消化器病懇話会の設立は,昭和36年秋のことである.今は亡き山形県立中央病院副院長,清野祐彦先生を中心に,会則の目的としてうたわれているように「消化器病に関する研究と学会の進歩におくれぬよう知識,手技の練磨及び経験の交換をはかり,消化器病による県民の災害を防止する活動を行う」と意欲的な目標をかかげ出発したものだ.

 そして年一回は総会を開き,各地区では(山形・米沢・新庄・庄内など)それぞれにブロック会を開いて研究会,検討会を行なっている.これまで総会にお招きした方々は,黒川利雄,山形敞一,間島進,白壁彦夫,増田久之,大森幸夫,石川誠,佐藤寿夫,市川平三郎,村上忠重,芦沢真六の諸先生であり,私達の胸に灯をともし,燃えあがらせるお話しばかりであった.

  • 文献概要を表示

 宮城県では昭和35年2月から東北大学山形内科と宮城県対がん協会とが一体となり,組織的に胃集検に関する一連の業務を担当してきている.現在われわれは集検から精検,事後管理までを一貫した方針で実施しているが,以下われわれの行なっている集検の実際についてのべる.

編集後記 並木 正義
  • 文献概要を表示

 胃腸疾患をとりあつかう場合,機能的面からの考慮が必要であることはいうまでもない.この点本号の綜説テーマとして,胃の食物輸送機能がとりあげられたことは,まさに当をえたものといえる.示された3つの論文はいずれも力のはいったものであり,非常に参考になった.

 座談会では1月号にひきつづき,和歌山における42年度消化器病学会秋季大会の主題中,胃潰瘍及び胆石症の手術適応の問題,更に慢性胃炎について語られているが,いずれも今後なお検討すべき多くのことがらを残しているように思う.この座談会のなかで,悪性潰瘍が治癒所見を示すことがある点についてのべられているが,筆者も昭和37年以来,自らの苦い体験からこの点を重視し指摘してきた.生体というものは,たとえそれが悪性のものであっても,なんとかしてなおそうとする方向にある機転が働くものだと考えているので,この事実も不思議ではないと思っている.ただこのことを頭におくとき,胃潰瘍の治癒判定,経過の観察はよほど慎重でなければならない.

基本情報

05362180.3.4.jpg
胃と腸
3巻4号 (1968年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月5日~11月11日
)