胃と腸 29巻1号 (1994年1月)

今月の主題 表面型大腸腫瘍―肉眼分類を考える

序説

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 みれどもみえずの時代から,微小なものまでみえる,また,微小なⅡc型の癌,Ⅱb型の癌もみつけた,という1984,1985年の工藤の業績から時を経た.臨床の診断感覚も高められ,診断の自信も深められた.休むことなく刺激しあった1991年から1992年にかけては,研究業績が噴出した感がある.お蔭で沢山の材料が得られ,出そろった.そこで本誌の特集をみたのである.

 マクロ,実体顕微鏡,ミクロの所見は,おのおのがオーバーラップする領域がある.それらを含めて上記の手法で診断が考察されてきたことから,さて,肉眼分類はとなると,不純物を取り除けないようなもめごとも多かった.もめる原因は,そのほかにもある.

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要旨 5mm以下の表面型大腸腫瘍174病変を陥凹型と隆起型に分け,腫瘍部分の大きさ,腫瘍部粘膜厚,腫瘍の粘膜内全層性置換率を求め,微小病変の肉眼分類の問題点,更に大腸壁(特に粘膜構造)の特徴から大腸の微小腫瘍が胃と同等に扱えるかを検討した.その結果,陥凹を有する腫瘍性病変は腫瘍の粘膜内全層性置換率が高く,隆起性病変はそれが低かった.また絶対陥凹と相対陥凹では粘膜内全層性置換率に差はなかった.しかし陥凹性腫瘍であっても辺縁隆起がみられる頻度が高く,臨床的には隆起のみで捉えられることもある.したがって5mm以下の表面型腫瘍は微小癌,陥凹(+)・(-)とすることが普遍的と考えられた.

主題 2.微小な腫瘍の肉眼分類について a.内視鏡の立場から

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はじめに

 微小な癌を含めて,腫瘍の肉眼分類1)(Fig.1)を規定し各腫瘍を類型化することは,腫瘍の生物学的,病理学的特性を判断するうえで重要なことである.また,診断した腫瘍が腫瘍の発育進展の中のどのレベルで診断され治療されているかを把握することは大切である.

 早期胃癌で行われた肉眼形態分類は大腸においても同様に意義があると考えられる.しかも大腸においては,5mm以下でも隆起型か陥凹型かを厳密に区別することは非常に大事であり,治療に直結する重要な問題である.両者において腫瘍の発育進展が全く異なり,自ずと臨床的扱いが異なってくるからである.

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はじめに

 大腸の微小癌が数多く発見されるようになり,大腸癌の初期形態が次第に明らかになってきた.しかし,施設によりその肉眼分類は様々で統一されていないのが現状である.本稿では現在われわれの行っている肉眼分類の妥当性について検討を行った.

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はじめに

 ある臓器におけるある病変は,その大小・時期によって通常は病名が変わらない.たとえば大腸の過形成性ポリープ(HP)は,点状でも扁平でも大きな有茎性となっても,特徴的な組織像(sawtooth patternなど)が得られればHPである.腺腫もそうである.腺腫は癌化するのでHPほど単純ではないが,腺腫・癌を一連の変化と考えることができるので,さほど問題はない.しかし,表面型腫瘍は,ある病変の一部分のみを,形態的特徴に基づいて取り出したものである.始まりから終わりまで表面型であるわけではない.逆に,大腸に限らず腫瘍は常に形態的に変貌するか,少なくともその可能性を持っている.形態のみで定義すれば,表面型に通常は入らない腫瘍も,少なくともある時期には,表面型ないし類似の形態をとりうる.ごく小さな病変の多くは表面型であるし,隆起性の癌が進行していくと,表層部分は逆に崩れて,外面のみを見るとsm癌,pm癌が表面型に見える.すなわち,“表面型腫瘍”ということばが病名としてふさわしいか否か,という問題がまずある.

 表面型腫瘍は,①純粋に形態学的に規定された雑多なものの集合なのか,②組織像も含めた単一病変なのか,が必ずしもはっきりしていない.多くの論者は心情的には②の立場に立ちながら,現実には①の行動をとる.これが表面型腫瘍をめぐる諸々の混乱のよってきたる因である.

 表面型大腸腫瘍(以下,表面型)は,その名称からいっても形態学的に定義すれば,能事畢り,であるはずであるが,なかなかそうはいかない.表面型は日本の大腸疾患の診断・治療・研究に携わるすべての医師の夢をのせたtermであり,大切に育てていかなければならない(その理由は後述).形態でまず規定し,更に,少々の形態変動に左右されない第2の因子でがっちり固めることが,表面型を曖昧でなく,皆で共通の言葉で語っていけるものとなしうる.表面型に固有のマークが特定できれば,表面型を,腫瘍のある時期の一過性のニックネームではなく,病名として使うことが可能になる.

 筆者は,表面型は肉眼的,組織学的(将来的には分子病理学的)に定義されるべき病変である,と考え,主張してきた.

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はじめに

 近年,大腸のX線・内視鏡検査の診断能向上によって,数多くの微小な上皮性腫瘍が発見され,その臨床病理学的特徴も次第に明らかになりつつある1)2).特に,表面型腫瘍は隆起型と比較して,微小サイズより担癌率およびsm浸潤率が高く3)4),臨床的に重要な病変と考えられる.しかし,表面型腫瘍の定義は施設によって異なっていること,および微小な腫瘍性病変の肉眼分類が統一されていないこと5)は,これらの病変を論じるうえで重大な問題点となっている.本稿では微小な大腸上皮性腫瘍の肉眼分類の臨床的意義を知るため,最大径5mm以下の腺腫と早期癌を対象として,臨床所見と病理所見を比較検討し,肉眼分類の問題点について考察した.

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はじめに

 近年,大腸腫瘍内視鏡診断は飛躍的に向上し,扁平隆起性病変や平坦・陥凹型病変といった表面型腫瘍が数多く診断・治療されるようになってきた.表面型腫瘍は従来の隆起性病変(ポリープ)に比べて癌の占める割合が高く,しかも微小なうちから深部浸潤するものも少なくない.したがって,大腸腫瘍の的確な診断・治療を行ううえで,微小表面型をも念頭に置いた十分な形態学的検討が必要と考えられる.

 しかし,表面型腫瘍の定義やその肉眼分類は未だ明確になされていない.今回,われわれは微小表面型大腸腫瘍を内視鏡像,実体顕微鏡像,病理組織像のそれぞれから形態分類し,その相関について検討し,微小表面型大腸腫瘍の肉眼分類とその運用法について考察した.

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形態分類は内視鏡所見に基づくべきであるとする根拠

 表面型(Ⅱ型)大腸腫瘍の形態分類を明確にしておかなければならない理由は2つある.第1は,このような病変に対する内視鏡治療の適応を決めるうえで,一定の尺度が必要であること,第2は,類似した病変も含めて,その組織発生の解明にも繋がる分類を作成しておかなければならないためである.特に,前者の目的に沿うためには,治療後に実体顕微鏡やルーペ組織像から行う分類は全く役に立たず,内視鏡分類でなければならない.また,切除材料で表現しようとする場合,試料の取り扱い方(挫滅,機械的損傷,固定の際の諸条件)によって,形は著しく変化してしまうからである.

 これらの病変のうち,特に5mm以下の小さい病変はX線検査で描出することは技術的に難しい.テクニックのうえで難しいのみならず,X線撮影装置やフィルムの解像力にも限界がある.しかし,内視鏡検査であれば病変を色調の差として捉えることができるし,色素撒布によって境界,表面性状などの形態にコントラストをつけることもでき,X線検査よりもはるかに小さい病変でも診断できるという利点がある.

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はじめに

 形態分類の有用性は,各形態がどれだけ独立した特徴を有するかに依存する.大腸腫瘍の形態分類においては既に隆起型と表面型に分けることが一般的になっており1),それぞれの特徴も報告されている2).しかし,報告者による表面型の定義,概念が異なるため,各例の比較検討が困難な場合も少なくない.そこでわれわれは,表面型の判定が客観的に行えるように判別式による判定を試みた.

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はじめに

 5mm以下の微小病変の病理所見,臨床所見上の特徴と,病変の凹凸をX線像,内視鏡像でどこまで正確に判定しうるかということから,肉眼的に分類することが可能か否か,必要か否かを論じたい.

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はじめに

 微小な腫瘍病変の肉眼分類についてX線診断の立場から述べる前に,基本となる肉眼形態について述べたい.肉眼形態について大腸癌取扱い規約1)では早期癌の肉眼分類として記載されている.しかし,大腸の小さな病変の多くは内視鏡的に切除することにより治療が完了し,早期癌に限らず腫瘍を含めたX線・内視鏡所見の分類が臨床の場で要望されている.今回の検討で,微小な腫瘍とは一般的に0.5cm以下の病変を指している.腫瘍病変であると言うためには組織診断が必須である.肉眼分類について,切除標本と内視鏡所見・X線所見の対比に関して,内視鏡的粘膜切除術を行った症例を中心に検討した.

 通常のポリペクトミー・hot biopsyの処置により組織所見は得られるが,切除標本から肉眼所見を対比することは客観的に難しい.そこで,今回,表面型で陥凹した病変の大きさは,粘膜切除術によって得られた標本で組織学的に認められた腫瘍の大きさとした.これらの内視鏡所見について検討し,それを踏まえてX線所見について検討した.

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はじめに

 表面型大腸腫瘍の肉眼分類は統一されておらず混乱を生じている.われわれは,X線・内視鏡にて周囲粘膜に比べほとんど高低差が認められず,わずかに隆起したもの,または平坦ないしわずかに陥凹した病変を表面型大腸腫瘍としている.以下,われわれの判定基準とその根拠を示す.

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はじめに

 表面型大腸腫瘍の肉眼分類の問題点については,本誌の特集号(1992年8月号)でその概略が明らかにされた.しかし,その後もⅠsとⅡaの区別,陥凹を伴うⅡa+Ⅱc,Ⅱc+Ⅱa病変の肉眼分類に対する明快な解答は得られていないのが現状であろう.これは,表面型腫瘍の多くが,5mm以下という微小な病変であり,更に,それらの病変は内視鏡的粘膜摘除術が施行されることが多いため,摘除前の内視鏡・X線所見と病理所見との間に乖離が生じる結果と考えられる.よって,今回われわれは,そうした問題を解決するために,特に微小な表面型大腸腫瘍の肉眼分類の検討を行ったので報告する.

 なお,既にわれわれは,内視鏡所見,実体顕微鏡所見および病理組織学的形態との間には様々な乖離を認めたことを報告し1),3者の一致の程度を比較した.その結果,X線所見は病理組織学的形態よりも色素法を用いた内視鏡所見によく一致したため,肉眼型は病理組織学的形態よりも内視鏡所見,X線所見を重視すべきであると主張した.したがって,肉眼型は色素撒布法を併用した内視鏡所見で分類している.

主題 2.微小な腫瘍の肉眼分類について c.病理の立場から

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表面型の定義

 筆者らは表面型(Ⅱ型)を「高さが3mm以下の病変」と定義している1).その中で隆起病変を表面隆起型(Ⅱa型),周辺粘膜と高低差のない病変を表面平坦型(Ⅱb型),周辺粘膜より低い病変を表面陥凹型(Ⅱc型)としている.

 表面型の高さについては,1~3mmまで様々な規定がなされている(第39回大腸癌研究会).しかし病変の高さ3mmは,腫瘍部粘膜の厚さ(正常粘膜に対する比),大腸粘膜内上皮性腫瘍の肉眼形態変化,および担癌率に関してほかの値にはない特徴を持つ.

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はじめに

 大腸癌の肉眼形態を幾つかの類に分ける肉眼型分類の意義は,その類の名称を言うことによって癌の肉眼的容姿を想起できるという,共通用語としての役割にある.ある癌の肉眼的容姿を既存の癌肉眼型分類に当てはめようとする場合には,肉眼的分類なるがゆえに,肉眼的に癌全体を眺めて感じた形そのものがどの類に相似しているかによって類別する.

 癌が大きい場合には,癌周辺の腸管の伸縮状態がどのようであっても,癌の肉眼型についてはX線・内視鏡所見と肉眼標本所見との問にあまり乖離はなく問題とはならない.ところが癌が小さくなってくると,癌とその周辺腸管を含む領域の肉眼観察から受ける癌の形が,腸管壁の伸縮状態によって変わってくる.ここにおいて,小さい癌の肉眼型分類への当てはめをどのようにするかということが問題となってくる.この問題は,肉眼型に観察方法とそれによる場の伸縮状態を明記することによって簡単に解決する.しかし,そのようにすると同一の癌に複数の異なった肉眼型を付与することになる.

 ある微小癌に対してどのようにしたら,観察方法と場の状態によらない統一した肉眼型を与えることができるであろうか? 癌の肉眼型分類への当てはめ,そして癌の形が肉眼的にどのように認識されているか,ということを改めて考えてみなければなるまい.

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はじめに

 大腸腫瘍の肉眼型は,大腸癌取扱い規約では,胃癌の分類に準じて分類されており,表在型は,0型(表在型)として,Ⅰ:隆起型,Ⅱa:表面隆起型,Ⅱb:表面平坦型,Ⅱc:表面陥凹型,Ⅲ:陥凹型と分類され,特にⅠ型は,Ⅰp(有茎性),Ⅰs(広基性)に分類されている.

 内視鏡診断の技術の進歩により,5mm以下の腫瘍が日常の診断で数多く発見されるようになった現在,これらの腫瘍を上記の胃癌に準じた表在型の分類に当てはめて表現することの妥当性が論じられている.ここでは,5mm以下の微小病変に限って,われわれが行っている分類とその妥当性について述べる.

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はじめに

 胃癌取扱い規約1)では,肉眼分類の原則を粘膜面からの観察での「かたち」のままを表現することとしている.そして,早期胃癌の肉眼分類のうち,表面型は明らかな隆起も陥凹も認められないものと定義され,表面隆起型(Ⅱa),表面平坦型(Ⅱb),表面陥凹型(Ⅱc)の3型に大別されている.5mm以下の微小胃癌を含めてこれらの肉眼像は,X線,内視鏡,切除標本,組織標本の間でほぼ一致している.

 一方,大腸癌取扱い規約2)では,早期癌の肉眼的分類は早期胃癌肉眼分類に準ずるものとされている.しかし,小さな表面型大腸腫瘍,ことに5mm以下の微小腫瘍ではその肉眼像が,X線,内視鏡,切除標本,組織標本の問で乖離することが少なくない3)~6).したがって,表面型大腸腫瘍の肉眼的亜分類は,分類する人の立場により異なり,いまだ統一した見解はないといっても過言ではない.本稿では,病理の立場から,大腸の微小な表面型腫瘍の定義,肉眼分類上の問題点,頻度,組織型などについて,現時点での筆者らの考えを素直に述べてみたい.諸賢のご批判を仰ぐ次第である.

主題 3.微小な腫瘍を除く表面型大腸腫瘍の肉眼分類

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表面型大腸腫瘍の定義

 内視鏡的に腫瘍の表面が平坦ないしは陥凹しており,しかも腫瘍の高さが腫瘍の直径に比べ高くない印象を受ける腫瘍を表面型大腸腫瘍とする.

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分類における名称の問題点

 表面型腫瘍は,今に始まった呼び名ではない.われわれは,それをⅡa型と称してきた.Ⅱc型は表面陥凹型,Ⅱa型は表面隆起型である.ことの起こりは,大腸では腺腫も癌と同様の肉眼形態を呈するがゆえに表面陥凹型腫瘍と呼ばざるをえなくなったことに原因がある.同様に,Ⅱa+Ⅱcにおいてもしかりである.

 原点に帰れという運動が歴史の中では常に繰り返されてきたが,胃に始まった早期癌の肉眼分類とその名称は,大腸,食道のそれにも使用され,時間が経過した時点でその原点を少しはずれた状況で一人歩きし始めた感がなきにしもあらずである.もっとも,それも歴史の必然として受けとめるだけの度量が必要なのかもしれないが,例えば,Ⅱa+Ⅱc型をⅡaⅡcなどと呼ぶがごときは,むしろ歴史に無知であることの証でこそあれ,新しいものの名称として認知されるものではない.大きさの単位が少しだけ異なっていただけで,同じような表面型腫瘍を,われわれは大腸早期癌の診断の揺籃期において既に観察・記載していたのである.それらを,われわれはⅡa+Ⅱc型と記載していたが.

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はじめに

 大腸癌の増加,免疫学的便潜血検査の集検への導入,注腸二重造影法と大腸内視鏡(特に電子内視鏡)の普及などが重なって,大腸の検査が急増している.また,大腸腫瘍の発育・進展に関する,adenoma-carcinoma sequence説とde novo説の論争,病理学者間での境界病変への関心の深化,工藤らによる平坦・陥凹型病変の研究,更にはVogelsteinらによる大腸腫瘍の遺伝子学的な新しい知見が加わり,現在は百家争鳴の感がある.

 これらの中で,扁平な腫瘍や平坦・陥凹型腫瘍の持つ重要性は,世界では認識されておらず,わが国で主に形態診断学を実施してきた研究者によって明らかにされてきた.それだけにわが国の責務は,大であると言わざるをえない.今後その自然史を解明してゆくためにも,用語や肉眼分類,組織学的な診断基準の統一が必要である.

 だが大腸腫瘍,特に表面型の大腸腫瘍に関して定義や分類の仕方に差があるのも事実である.このような背景のもとで,この1年間をみても,第39回大腸癌研究会(1993年7月,八尾恒良代表世話人)で「表面型大腸腫瘍-定義,肉眼分類および病理組織診断について」が主題の1つに取り上げられた.また,第46回日本消化器内視鏡学会総会(1993年9月,藤田会長)では「大腸癌のメインルート」についてのパネルディスカッションが行われた.これらの2つを聞いて感じたこと,および肉眼分類に対する考え方について私見を述べる.

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はじめに

 1.“表面型”の定義とその理由

 筆者らは,画像診断,特に存在診断の立場から“表面”型と呼ぶにふさわしい丈の低い病変をもって表面型と考えてきた.現在,筆者らが表面型としている病変は,肉眼形態の基本型が扁平で,腫瘍頂部の大部分が平坦,もしくは陥凹した病変(Ⅱ型病変とする)のうち,丈の高さが,正常粘膜の厚さとほぼ同等以下の病変である1)

 ここに定義した丈の高さについては,内視鏡的に表面型とされた病変の計測結果から得られたものである1).形態分類は主として内視鏡所見によって行い,基本的には腸管を伸展した状態で判定している.すなわち,①診断・治療は内視鏡によることが多い,②治療適応外とされ標本の得られない病変が増加しつつある,③切除法や固定法により形態が変わりうる,以上の3点より,肉眼形態判定の基本は内視鏡所見をもって行うのが臨床には即していると考えている.

 2.肉眼分類における問題点

 最大径が6~9mmの病変には,肉眼形態が5mm以下の微小腫瘍に近似したものが多く含まれる.また,新鮮標本と固定標本のいずれで計測したか,更に陥凹型においては,周辺隆起部を計測に入れるか否かなどによって,6~9mmの病変は扱いが異なってくる.本稿では,ある程度の大きさを持った表面型腫瘍の特徴をみるため,対象を10mm以上の病変に絞って検討した.

 10mm以上の病変の肉眼分類における問題点として,①筆者らが画像診断の立場から表面型を定義した場合,外科切除病変における肉眼分類上の慣行としてⅡ型とされている病変,および大腸癌取扱い規約で言うⅡ型(表面型)との関係はどうなるか,②10mm以上の病変をあるサイズで区切って分類することに意味があるか,③Ⅱa+ⅡcとⅡc+Ⅱaをどう扱うか,などが挙げられる.本稿では主として①を中心に検討した.

今月の症例

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〔患者〕37歳,女性.主訴:特になし.職場の検診で胃X線検査を受け,異常所見を指摘され来院した.入院時,身体所見,一般検査所見に異常は認められなかった.

〔胃X線所見〕胃角小彎に病変があることがわかっていたので,その部を中心に検査を進めた.二重造影法では,ゾンデを使い胃液を十分排除し,バリウムを約250ml注入し,充盈像,背臥位の第1斜位,正面の二重造影像を撮影後,Fig.1のように透視台を水平,または少し起こしたところで,体を正面から第2斜位に何度も変換し,バリウムが胃角小彎を流れ,洗い流すようにした.正面から第2斜位にする段階で病変部にバリウムがうまく流れ,溜まるのが観察された(Fig.1).病変部にバリウムがよく付着したところで,体をよじらせるようにし少し頭低位とし,病変が椎骨の向かって左側に外れるようにしてFig.2の二重造影像を撮影した.不整形の淡い陰影斑の中に顆粒状陰影が認められる典型的なⅡcの所見が描出された.病変は厳密に言うと胃角上の小彎にあったが,ほぼ全体が正面像として捉えられている.不整陥凹に向かい粘膜集中が認められ,そのうちの幽門側からの粘膜集中点にはほかより深い不整陥凹が認められ,その部に潰瘍があることがわかる,全体像としては,Ⅱc+Ⅲとするよりは潰瘍を合併したⅡc型早期胃癌と診断した.深達度診断は陥凹内の顆粒状陰影が大型であったが,特に目立って大きく,陥凹面より高いことを予想させる結節状陰影もなく,陥凹辺縁に辺縁隆起,粘膜ひだの癒合などの所見もないので,粘膜内癌mとした.このX線像では,不整陥凹の辺縁の微細な不整が描写されていないので不十分である.

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〔患者〕59歳,男性.嚥下時のしみる感じがあり,食道内視鏡検査を受けた.食道病変を指摘され,精査目的で当院を受診.

〔食道X線所見〕食道造影では,胸部中部食道後壁に長径2cm,横径1/3周程度の比較的境界明瞭な陥凹性病変が見られ,粗大顆粒状の周囲隆起を伴っていた.側面像で壁変形が見られ,中央部は周囲より高度な壁不整と変形を呈していた.空気大量の正面像でバリウム斑として描出されている陥凹部分は,深達度m2以上と推定された.更に,Fig.1aのA,Bの明瞭な顆粒と辺縁隆起で囲まれたやや深い陥凹部分はsm浸潤が疑えた.この所見は,空気量を減らし病変周囲の縦ひだを描写することで明瞭になると思われた.Fig.1cはA,B付近の側面像で,病変全体の示す伸展不良からsm2~3と推定できた.

Coffee Break

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 胃癌研究会がどのようにしてでき上がったのか,そしてその発足以来の歴史については,既に胃癌取扱い規約の第10版発行(1979年5月)ならびに第35回研究会開催を記念した,「手術」34巻11,12号に詳しく記述されているので,ここでは胃癌研究会の創設時や草創期の経緯を中心に,文献や記録をもとに述べてみ

たい.

 胃癌研究会の正式な発足は,1962年4月12日の第1回の研究会開催(於:東大構内如水会館)にさかのぼる.これはbusiness meeting的な要素が強く,世話人は,外科から久留勝(会長),梶谷鐶,陣内傳之助,中山恒明,堺哲郎,愼哲夫,綾部正大,村上忠重,井口潔,卜部美代志,内科は田崎勇三,田坂定孝,山形敞一,病理からは滝沢延次郎,赤崎兼義,今井環,太田邦夫,長与健夫らの諸先生であった.

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 早期胃癌研究会30周年記念大会が,1993年2月13日,ホテル・ニューオータニで開催された.1,250人の先生方が参集して成功裡に終わった大会の好印象を持ちながら,この大会に間に合った本誌増刊号の「早期胃癌1993」を手にすると,早期胃癌典型例11例が巻頭を飾っていた.この11例を通覧してまず気づいたのは,X線所見に比べて内視鏡所見,肉眼所見の呈示がお粗末に尽きることである.

 X線所見では色がない.だから,黒白で表現するには粘膜の凹凸をどのようにすればよいかをいつも考えている.一方,内視鏡検査では色があるから,色の変化に頼りすぎて,粘膜の凹凸を表現するのに色素撒布すればよいと甘く考えている.

用語の使い方・使われ方

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 本来この用語が使われるようになったのは,食道粘膜癌の深達度診断の細かい読影からである.ただ内視鏡観察時に見られる場合(Fig.1)と切除標本の引き伸し固定が悪い場合に見られるひだ(Fig.2,3)と混同されている.本来は前者の場合を言う.両者ともFig.4のような畳目の近接模様に似ているところからニックネーム的に使われている.

 内視鏡観察時にはヨート染色前にも出現することかあるが,ヨード染色後に出現することが多い.その際,意識的に出現を狙ってもなかなか出ないが,吸引を行いながらじっと待つとよい.そして出現しているときにタイミングよく病巣を撮影する.

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欧文目次

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 Acid secretion and sensitivity to gastrin in patients with duodenal ulcer: Effect of eradication of Helicobacter pylori: Moss SF, et al (Gut34: 888-892, 1993)

 Helicobacter pylori(HP)と慢性十二指腸潰瘍の病因を関連づける疫学および臨床上の強い根拠にもかかわらず,HPが潰瘍を再発させる機序はまだ明らかではない.

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 Gall-bladder sludge: Lessons from Ceftriaxone: Kim YS, et al (J Gastroenterol Hepatology 7: 618-621, 1992)

 Ceftriaxone(CTRX:商品名ロセフィン)は第3世代の広域に有効なセファロスポリンで,胆道感染を含む各種感染症に選択される抗生剤である.これは尿中に排泄されるが,30~90%は,代謝されないまま胆汁に排泄される.1986年SchaadらはCeftriaxoneを投与された患者で胆泥が生じることを初めて報告したが,その後,胆囊炎や胆道痛も報告され,胆石の発生が認められることもある.

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 息を抜かずに一気に読了した.

 ユニークな新しいスタイルの胃の疾患論が展開されている.それも新知見の集積に裏づけられている.何しろ読みやすいから万人の書である.今話題になること,話題になるものが,すべて本書に収められていて,欠けるところがない.

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 Is the use of antihypertensives and sedatives a major risk factor for colorectal cancer?: Suadicani P, et al (Scand J Gastroenterol 28: 475-481, 1993)

 大腸癌のリスク因子として,運動,喫煙,アルコール,コーヒー,肥満,アスピリン,非ステロイド系鎮痛剤との関連が研究されているが,主たる焦点は食事性因子に向けられている.

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 The response of cells from low-grade B-cell gastric lymphomas of mucosa-associated lymphoid tissue to Helicobacter pylori: Hussell T, et al (Lancet 342: 571-574, 1993)/Regression of primary low-grade B-cell lymphomas of mucosa-associated lymphoid tissue type after eradication of Helicobacter pylori: Wotherspoon A, et al (Lancet 342: 575-577, 1993)/低悪性度の胃MALTリンパ腫のHelicobacter pylori(HP)に対する免疫学的な反応をみるために,3例のリンパ腫瘍細胞をNCTC 11,637株ならびにリンパ腫を持たない患者から分離した12株のHPと混合培養したところ,それぞれ1つの菌株について腫瘍性B細胞および非腫瘍性T細胞の増殖,インターロイキン2レセプターの増加がみられ,腫瘍性免疫グロブリン,インターロイキン2の分泌増加が認められた.HPは菌株によりゲノム,cytotoxin,120-130kDAの抗体など多様性があり,宿主の反応も一様でないとされている.またこれらの反応は高悪性度の胃MALTリンパ腫や他部位のMALTリンパ腫ではみられない.T細胞を除去したところ腫瘍細胞の増殖が抑えられたことから,HPに対するリンパ腫の反応はHPそのものによるものではなく,T細胞およびその生成物を介するものと考えられる.

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 医師の留学先としてはアメリカが圧倒的に多く,カナダ,イギリス,ドイツ,フランスなども多少ある.その理由としては,アメリカが学問的に進んでいる分野が多いのに加えて,アメリカでレジデント研修を受けようとする外国人医師を対象に医学と英語の試験を行い,合格者にはアメリカでの臨床研修を許可している国際性が挙げられる.アメリカ医学留学を志す人のために,試験の受け方,留学先の捜し方,ビザの取り方,アメリカでの免許の取り方などを詳しく説明した手引きが本書である.

 アメリカでレジデント研修をするための留学試験は,私が留学したころはECFMG医学試験であったが,その後VQEになり,次いでFMGEMSになり,1993年からUSMLEになった.本書は留学試験の変遷と共に改訂を繰り返し,第5版ではUSMLEに関しても詳しく解説してある.この新しい留学試験はUnited States Medical Licensing Examinationという名前が示すとおり,アメリカの医学生が受ける試験と同じであり,アメリカ人と外国人を学問的には差別しないという原則に基づいている.この試験は東京でも受けられるので,将来アメリカでレジデント研修をしようと思っている医師や医学生は,自分の実力を試す意味でも一度は受験したほうがよい.

編集後記 小池 盛雄
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 数年来,各種の学会で論議されてきた小さな表面型大腸腫瘍の定義や肉眼形態の分類は,本特集号にみるごとく,陥凹性病変を有するときには問題を含んでいることは明らかである.もちろんその背景に,病理組織学的診断基準が病理医により異なり,診断の統一がなされていないという事情があり,われわれ病理医の責任を痛感する.

 陥凹性病変も周辺隆起やその周囲の軽度の隆起を伴っており,診断の方法による大きさの測定にも問題が生じてくる.これはひとえに大腸粘膜および粘膜筋板の性状や腫瘍の発育形態に由来するものであることも明らかになってきた.X線,内視鏡では伸展の程度により病巣がその像を変化させるように,固定時の伸展程度により,実体顕微鏡像や組織標本のルーペ像も当然変わってくる.伸展を一定にして比較することができないために,ある程度の混乱はやむをえないとしても,陥凹を伴う病変は,大腸癌の形態発生を考えるうえで重要な鍵を握る病変である.

基本情報

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胃と腸
29巻1号 (1994年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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