胃と腸 28巻3号 (1993年2月)

特集 早期胃癌1993

序説

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 本特集の企画に当たって

 「胃と腸」が1/4世紀以上にわたって消化管の臨床,特に形態学に取り組み,早期胃癌をはじめ,あらゆる消化管病変の診断と病態について新しい知見を提供しつづけ,臨床のレベル向上に努めてきたという点には,すべての読者の同意が得られることと思う.

 しかし,かなり以前から診断学の最先端を走るあまり,新しく消化管の勉強を始めようとする人にとっては難解すぎるという批判もあった.考えてみると,本誌が誕生するきっかけとなった早期胃癌については,長い間それほど新しい知見がないために特集号をまとめるのに苦労し,「早期胃癌診断の反省」,「早期胃癌は変貌したか」,「早期胃癌診断20年の歩み」,などの懐古調の特集も組まれた,もちろん,「早期胃癌の粘膜切除術」,超音波内視鏡を主体とした「胃癌の深達度診断」など最先端の特集も組まれてはいるが,これらを現在の診療にどう組み入れ,どう利用すべきか,という視野に立った特集は組まれていない.

グラフ

早期胃癌肉眼分類典型例
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 A definition and classification of early carcinoma of the stomach have been settled in Japan to facilitate discussions between radiologist, endoscopist, cytologist, surgeon and pathologist who have been engaging in detection and study of gastric carcinoma. These definition and classification are widely adopted in Japan and might appear not infrequently in papers presented in this Journal.

Definition of Early Carcinoma of the Stomach

 At the annual meeting of JAPAN GASTROEN-TEROLOGICAL ENDOSCOPY SOCIETY in 1962 and of JAPANESE RESEARCH SOCIETY for GASTRIC CANCER in 1963, the early gastric carcinoma was defined as carcinoma of the stomach of which invasion was limited to the mucosa and submucosa.

グラフ 早期胃癌肉眼分類典型例

〔case 1〕Type Ⅰ 伊藤 誠
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54-year-old, male(polypectomy case)

well differentiated tubular

adenocarcinoma, 21×11mm, m

〔case 2〕Type Ⅱa 横田 欽一
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68-year-old, female

papillary adenocarcinoma

26×25mm, m

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67-year-old, male

well differentiated tubular

adenocarcinoma, 24×23mm, m

〔case 4〕Type Ⅱb 細井 董三
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47-year-old, female

adenocarcinoma mucocellulare

25×25mm, m

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44-year-old, female

moderately differentiated tubular

adenocarcinoma, 36×20mm, sm

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64-year-old, male

well differentiated tubular

adenocarcinoma, 31×18mm, m

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51-year-old, female

signet-ring cell carcinoma

19×20mm, sm

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61-year-old, female

well differentiated tubular

adenocarcinoma, 15×4mm, m

〔case 9〕Type Ⅲ 大井田 正人
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65-year-old, male

moderately differentiated tubular

adenocarcinoma, 21×25mm, m

〔case 10〕Type Ⅱc+Ⅲ 三谷 郁生
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51-year-old, female

poorly differentiated adenocarcinoma

25×16mm, sm

〔case 11〕Type Ⅱa+Ⅱc 渕上 忠彦
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58-year-old, male

poorly differentiated adenocarcinoma

5.0×1.5mm, sm

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要旨 現在われわれの行っている胃癌の拾い上げ法を,ルーチンX線検査法を解説することで,その利点と欠点とについて述べた.われわれの胃癌診断法はルーチンX線検査で拾い上げ,病変が胃上部または胃体中~下部大彎に存在する場合は側視鏡,他の部位に存在する場合は直視鏡により,X線で描写された部位を正確に観察し生検を行うX線・内視鏡併用診断である.ルーチン検査で拾い上げが難しいと言われている胃上部の癌は,過去5年間に発見された全胃癌の21%を占め,早期癌の割合は胃上部癌は68%,その中で噴門部癌は76%であった.

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要旨 早期胃癌見つけ出しのための内視鏡診断能を左右するものは,①経験と読影力,①良い条件で観察する習慣,①一定の観察手順で検査すること,①異常所見を遠見と近接観察,観察方向を変えて観察する,空気量を増減して観察する,などのテクニック,①適切な器種を選択すること,①生検のテクニックとその解釈,などである.①の向上のためには所見会などで多くの症例を検討すること,①は所見会で術者の欠点を指摘し合うこと,①はルーチン検査法を確立すること,①は直視型内視鏡の欠点と利点を知ること,①は至適距離で正面から観察することが必要なこと,生検診断は観察した内視鏡診断と合わせて判断すること,などが必要であることを述べた.

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要旨 内視鏡的治療を念頭において,mかsm以深かに絞って,深達度診断能を検討し,以下の結論を得た.(1) 隆起型早期胃癌においてX線では隆起頂上の陥凹が,内視鏡では隆起頂上の陥凹および白苔付着と健常粘膜に覆われた粘膜下腫瘍様の立ち上がりがsm以深浸潤の重要な指標であった.EUSでは第3層の画然とした断裂が指標となったが,粘膜筋板が挙上するものではsm浸潤の診断が困難であった.(2) Ul(-)陥凹型早期胃癌においてX線では強い透亮像に囲まれた深い陥凹が,内視鏡では健常粘膜に覆われた周園隆起と白苔を有する陥凹がsm以深浸潤の指標であった.EUSでは第3層の画然とした断裂がsm浸潤の指標となった.(3) Ul(+)陥凹型早期胃癌においてX線では粘膜ひだ先端の太まり・癒合,周囲透亮,辺縁の画然とした硬化像が,内視鏡では粘膜ひだ先端の太まり・癒合,周囲隆起,台状挙上,陥凹面の硬化像がsm以深浸潤の指標となった.EUSでは胃内外への壁肥厚がsm浸潤の指標であった.しかし,開放性潰瘍合併例においてはいずれの検査法においても診断が困難であった.

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要旨 ①早期胃癌の治療法の選択に当たり,浸潤範囲の診断が特に重要となる場合について,主にX線診断の立場から検討した.①噴門部および胃体上部の癌では,下部食道への浸潤の有無とその範囲の証明が不可欠であり,撮影法としては右側臥位ないし半臥位第2斜位と立位正面ないし第1斜位の二重造影像が有効である.①胃体部の癌はEGJからの距離によって術式が全摘か部分切除かが決定され,それによって術後の quality of life が大きく影響される.したがって,胃体部では病変の口側境界の診断は特に重要となるが,その証明には背臥位二重造影像が優れており,EGJからの距離の計測には立位の胃上部二重造影像が必要である.①内視鏡的粘膜切除の適応を決める際に未分化型癌,特にその隆起型病変は周囲粘膜への浸潤に注意する必要がある.

主題 Ⅲ.治療の選択と考え方 A.内視鏡的治療

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要旨 内視鏡的切除術(以下ER)は切除標本の病理組織学的検索が可能なことから,症例を吟味すれば早期胃癌の根治治療として期待できる.すなわち,ERは縮小手術のうち最も侵襲の少ない術式と位置づけることもできる.根治を目的としたERの適応について当教室で過去6年間に経験した早期胃癌48例50病変,腺腫31例33病変を対象に検討した.断端陰性を,①単回のER標本であり,①切除標本を2mm間隔で切り出し組織学的に断端に正常腺管がみられること,と定義すると,83病変中38病変(45.7%)が断端陰性であり,これらの病変ではER後の胃切除術や経過観察で遺残がみられず治癒切除と考えられた.断端陰性例の病巣の大きさ,占居部位,Ulの有無をretrospectiveに検討すると,10mm以下,Ul(-),前庭部または体部大彎の粘膜内の病変が根治目的としてよい適応であった.断端陽性例で外科的手術を行った6例においては,1例を除いてすべて遺残が認められた.したがって,断端陽性となるような症例は単回ERを根治の条件とすると適応にはならないと考えられる.

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要旨 内視鏡的レーザー照射により治療され,6か月以上経過観察が可能であった早期胃癌84病変の治療成績を組織型,大きさ,肉眼型および深達度別に検討した.いわゆる絶対的適応(高分化型腺癌のm癌で20mm以下の隆起型と潰瘍を伴わない10mm以下の陥凹型)40病変のうち38病変(95.0%)において6か月以上の癌陰性が得られており,絶対的適応病変にレーザー治療は有効な治療法と考えられた.相対的適応(絶対的適応以外の早期胃癌)44病変では28病変(63.6%)で6か月以上の癌陰性が得られ,絶対的適応病変に比べ癌陰性率は不良ではあるが,対象が手術不能例であり合目的的な治療法と考えられる.しかし,相対的適応のうち陥凹型のsm癌12病変中6か月以上癌陰性が得られたものは3病変(25.0%)と極めて不良であった.

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要旨 ヒートプローブによる内視鏡的焼灼法を用いて早期胃癌13症例14病変に対して治療を施行した.治療効果は14例中12例(85.7%)に得られ,経過観察期間は2か月から60か月であった.深達度mでは12例中11例(91.7%)に,腫瘍長径20mm以内では11例中10例(91.0%)に治療効果が得られた.小彎,後壁病変では9例中7例(77.8%)に治療効果が得られ,腎不全,肝硬変などの合併例を含め全例安全に治療できた.本法は操作性,安全性に優れた内視鏡的治療法であると評価できた.本法の根治療法としての適応はリンパ節転移のないm癌に対してであるが,high risk患者や内視鏡的切除が困難な病変に対して,本法は特に有用であると考えられた.

主題 Ⅲ.治療の選択と考え方 B.早期胃癌の外科的治療

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要旨 早期胃癌の治療は,近年癌の進行度に応じた治療法が検討され,変革期を迎えている.早期胃癌の1cm前後のⅡa,Ⅱcに内視鏡的切除(ER)が行われ,他方,早期胃癌に対する各種の縮小手術の適応は,多くはERの適応に含まれるものであって,ERの適応外の2~3cmのⅡa,Ⅱcに対しては,ERの組織学的深達度診断のうえに立つ胃局所切除を提示した.早期胃癌の治療の適応を,Ⅱa(分化型腺癌)では,2cm以下はER,Ⅱcでは分化型癌,未分化型癌を問わず,1cm以下はER,2~3cmの症例では,ERの深達度がm,sm(+)であれば,組織型を問わず局所切除の適応で,ERでsm(++)の症例では,大きさを問わず,胃切除の適応であろう.ERによる癌遺残例に対しても,ERの組織学的深達度がm,sm(+)であれば,胃切除でなく積極的に胃局所切除を行うべきである.

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要旨 早期胃癌の治療は従来の胃切除術のほかに,内視鏡的粘膜切除が近年広く行われるようになってきている.切除胃の取り扱いは一般に胃癌取扱い規約により行われている.内視鏡的粘膜切除術も本来根治手術を目的としたものであり,その切除標本の取り扱いも根治性の判断が可能となるべく処置する必要がある.内視鏡所見とほぼ対応するように伸展・固定し,実体顕微鏡下に病巣の確認,カミソリによる細かい切り出しと,切除胃の“切り出し図”に対応する“切り出し写真”を撮影する.その具体例について示した.病理組織学的には癌との鑑別が問題となる小腸上皮型腺腫,再生異型との比較,診断の困難な腺窩上皮型癌,あるいは腸上皮化生に類似した癌の具体例を示し,生検診断の問題点を述べた.近年分子生物学が胃癌の診断にも応用され,これら境界領域病変に関して,あるいは胃癌の発生に関する研究が進行している.

主題 Ⅴ.早期胃癌の予後

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要旨 早期胃癌の予後に関して局所切除34例を含めた外科切除例1,486例を解析した.死亡例の死因に占める原病死の割合は25%と低率であり,最も多い死因は他臓器の癌であった.この2次癌の発生の問題は今後ますます大きくなると思われる.また,5年以降の再発死亡が全再発死亡中の30%に達することから,早期胃癌においては5年以降もフォローアップが大切であること,予後の評価は5年生存率だけでは不十分であることがわかった.全体の予後では5年生存率,10年生存率各92.2%,85.3%と良好で,sm癌では89.7%,81.2%であったが,他病死を除外すると,sm癌でも96.7%,91.9%と癌の中では極めて予後の良い癌であると言える.

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 八尾 本日は「早期胃癌黎明期の回想」というテーマで,白壁先生,高木先生から当時の話をいろいろお聞きするという大役を仰せつかりました.なぜいま「回想」かと申しますと,早期胃癌が定義づけられ,そしてその研究がほぼ完成するに至るまでの事情が,いまではほとんど忘れられてしまっています.いろいろな記録を繰ってみても,どれが本当なのかがだんだんわからなくなってきています.そういったところに,ちょうど「胃と腸」増刊号“早期胃癌1993”が企画されましたので,この機会にそのころの事情をできるだけ明らかにしておこうというのがこの「鼎談」の趣旨でございます.

「鼎談」と申しましても,早期胃癌黎明期のころは私はまだ医師になっておりませんので,私はもっぱら読者代表の聞き手という役回りで,見当はずれの質問をするかもしれませんが,そのあたりは年齢に免じてお許しいただいて,早速お話を伺いたいと思います.

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要旨 胃癌の質的量的診断は,X線・内視鏡・生検病理組織検査を行うことによって完全になされ,それら検査法はいわば三位一体をなしている.しかしながら,日常診療においては,必ずしもそれら検査によって得られた資料がすべて良質であるとは限らず,病変の判読を躊躇するような場合がある.そのような場合,胃癌の三角を考慮することによって病変を判読することが可能となる.また,再検査においては無目的的にではなく,胃癌の三角から予測される所見の描出に重点を置くことができる.癌が存在するとは場があってはじめて存在しうるものであり,場なくしては存在はありえないから,場を無視して胃癌を論ずることはできない.胃癌の存在する場は本質的に異なる2つの粘膜(胃固有粘膜,腸上皮化生粘膜)に分けられ,癌組織型は2つの類に分けられる.それら粘膜と癌組織型とは[癌組織発生h:粘膜→癌組織型]で関係づけられている.一方,2つの癌組織型は肉眼型と転移様式において差異がみられ,[癌の性質c:癌組織型→肉眼型・転移様式]で関係づけられている.そうすると,推移的に[合成関係h・c:肉眼型・転移様式→粘膜]の関係が成り立つ.胃粘膜は定常的ではなく,経時的に変化する.F境界線によって胃という場を2つの領域(F線内部領域,F線外部領域)に分けると,場を構成する粘膜の質が決定される.すなわち,場と癌組織型と肉眼型は互いに関連していて,それぞれを頂点とした三角を形成している.これが胃癌の三角と呼ぶ所以である.

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要旨 早期胃癌の再発に関して,21論文を集め検討を加えた.術死・非治癒切除・残胃再発を除くと,12,481例中1.9%の再発死亡が報告されていた.他臓器の癌を含む他病死が,これを上回る10.9%にみられた.原発病変の深達度,組織型,リンパ節転移の有無が,再発に有意な関連を示した.特にリンパ節転移陽性の症例,および肉眼型が隆起・陥凹の混合型を呈する分化型癌症例は,比較的高い再発率を示しており,これらの特徴を有する早期胃癌に対しては,何らかの補助療法を行う価値があると考えられる.論文中に個々の症例提示がなされた109例について再発形式をみると,分化型癌では血行性転移が,未分化型癌では局所・腹膜再発が多かった.リンパ節転移の有無は,再発形式と無関係であった.

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要旨 拡大内視鏡の現況について,その有用性と限界を混じえ述べた.拡大観察の有用性は高いものの,あまりにも専門的になりすぎたきらいがある.拡大倍率と操作性は相反する関係にあり,一般臨床に普及させるためには20倍以上の高倍率を有する機種のみでなく5倍程度の低倍率であっても操作性の良好な機種が必要である.また,電子内視鏡の利点ともいえる画像処理を行うことにより主観的診断から客観的診断へと発展する可能性がある.

トピックス

画像強調処理 吉田 行雄 , 木村 健
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要旨 われわれは,より見やすく,より見落としの少ない診断画像を得ることを目的に,HSI色空間における形態強調処理とHSV色空間における色調強調処理を試みている.各々の処理法には一長一短があり,われわれの臨床経験ではHSI色空間における形態強調処理ではより詳細な観察が可能な診断画像が得られ,HSV色空間における色調強調処理ではより見落としの少ない診断画像が得られると考えている.

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 4.strip biopsy がオリジナルではないことを学会で公表

 このことを知ってしまって,私としてはどのように対処したらいいのか大変迷ってしまった.放置しておけば,そのうち多田博士本人,あるいは身近な人が気づいて注意してくれるだろう,という安易な気持に対して,当然このことを公にすべきだという義務感とが交錯したからである.

 そうこうするうちに第40回日本消化器内視鏡学会総会の福富久之会長からビデオ実技討論の司会を引き受けてくれるようにとの依頼があった.ところが,何とそのなかに多田博士の内視鏡的粘膜切除に関する演題があったのである.予報集の抄録を読んでみると,やはり strip biopsy の実技についての発表であり,例によって“われわれの開発した……”となっていた.事ここにいたってはほうっておくわけにもゆかず,ダイレと内田博士の論文を多田博士のもとに送り,更に学会当日,多田博士の"われわれが開発した"という発言(録音?……消し忘れたか)に対して,病変部の粘膜下に生食水を局注して病変を浮き上がらせ,これにスネアをかけて切除するという技術は多田博士の strip biopsy が最初ではなく,それより10年以上も前に発表されていることを指摘した.

学会印象記

ヨーロッパDDW(アテネ) 平田 一郎
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 最初のヨーロッパDigestive Disease Week(DDW)―正式にはFirst United European Gastroenterology Week(UEGW)―がギリシアの首都アテネにおいて,1992年9月25日~30日の6日間にわたって開催された.この学会は,従来4年ごとに開かれていたInternational Congress of GastroenteroiogyとEuropean Congress of Digestive Endoscopyに代わるもので,ヨーロッパにおける7つの主な学会の賛同を得て今年から毎年開かれることになったものである“ヨーロッパにおける最初の試み”ということが理由ではないと思うが,最初のDDWがアテネで開催されるということは,近代オリンピックが1896年にアテネで最初に開かれたことと考えあわせると,何か偶然のようには思えず,ヨーロッパ文明の原点はやはりギリシアなんだなあと,あまり意味のない感慨にふけっている.

 今回の会長はThessaloniki大学(ギリシア)のC.Arvanitakis教授で,会場はアテネ市の中心部から車で約20分ぐらい行ったところの海辺にあるpeace and friendship stadiumという建物である.遠くから眺めると白い大きなホットケーキのように見える.アテネは埃っぽく,街全体が少し汚れた感じで,透明感のある地中海の街という期待とは違っており,やや失望した.後で聞いたところによると,この時期,地中海対岸のアフリカから砂塵が風に乗ってやって来て,アテネの乾燥した気候が加わり砂埃を舞い上げているらしい.市街地のホテルから学会場までシャトルバスが出ていたのでそれを利用したが,本数は非常に少なかった.

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欧文目次

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 本書をひもといて先ず感じたことはタイトルのことである.『胃と腸ハンドブック』という書名.本書は判型も大きいA4判で564頁に及ぶ大作であり,“ハンドブック”というより成書といってよい.外国にはままこのような大冊を“ハンドブック”と冠した例がある由であるが,恐らく本邦では最初のことであろう.近年の医学の進歩は誠に早く大きく,その意味で今後は“ハンドブック”も薄い小冊子というわけにはいかなくなることを本書のタイトルは示唆しているのかもしれない.

 ともあれ,主として診断学を中心としつつも,一部治療にも及んだ消化器病学のup-to-dateな現状を紹介し,長年の『胃と腸』誌の蓄積の上に立って執筆・編集されたこのような大作が,このたび世に出たことについて,私はまず敬意の念を表するとともに,衷心より祝詞を捧げたい.

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 食道・胃・腸を中心とした,消化器の見事な形態診断学の集大成である.わが国で消化器病学に携わる医師なら,少なくとも月刊雑誌「胃と腸」を知らぬものはいないであろう.本書はまさにその26年間の「胃と腸」誌の集大成と言える本である,

 1966年(昭和41年),ちょうど「胃と腸」の創刊号が世に出たころ,私は米国シアトルのワシントン州立大学附属病院で臨床病理学の2年間のコースを修了したころであった.創刊の第1巻1号は1966年4月であるが,米国に第1号が届いたのは夏休みごろであったろうか,7,8月ごろであったと思う.頁を開いたところに増田論文・崎田論文の美しい内視鏡カラー写真が載っており,早期胃癌研究会代表村上忠重先生の創刊の辞が載っていた.しかし私が覚えているのはそのせいばかりではなかった.当時私と病理を一緒に勉強してきた外国の友人が,英文のサマリーと英文flgure, table legendsのついた「胃と腸」を私に示して(その当時,日本から送られてくる雑誌としては珍しく,「胃と腸」は上質の紙を用いていた),白壁彦夫先生の早期胃癌に関するレントゲン診断における「早期胃癌」“early gastrlc cancer”の分類について熱心に質問されたのである.早期“early”とリンパ節転移の関係が理解できないと彼にしつこく食い下がられたのを覚えているのである.いずれにしても当時レントゲンによる二重造影法が画期的なものとして米国で受けとめられ,また日本の内視鏡技術に対して感嘆している様子は,私は全く関係のない単なる日本人の医者であったにもかかわらず,鼻が高く感じられたことをよく覚えている.

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 Yield of upper endoscopy in the evaluation of asymptomatic patients with hemoccult-positive stool after a negative colonoscopy: Hsia PC, et al(Am J Gastroenterol 87: 1571-1574, 1992)

 40歳以上の健常者にスクリーニングとして便潜血テスト(FOBT)を行うと1~5%の陽性者が出るとの報告がある.検査法の感度の問題もあると思われるが,陽性となった原因は究明されなければならない.FOBT陽性者の出血源が上部消化管にある頻度は報告によってまちまちである(8~55%).そこでこれらの症例に対する上部消化管内視鏡検査の意義を検討する目的で,無症状で便潜血反応陽性の大腸内視鏡検査ネガティブ例に対して上部消化管内視鏡検査を行った.

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 Self-expanding metal stents for palliation of malignant esophageal obstruction―A pilot study of eight patients: Bethge N, et al(Endoscopy 24: 411-415, 1992)

 食道および食道胃接合部の進行癌は予後不良の疾患であり,切除不能例の治療の目的は狭窄症状の緩和にある.この治療法に関しては①手術療法,①(内照射を含む)放射線療法,①レーザー療法,①化学療法,①内視鏡プロステーシス・ブジー,①以上の組み合わせなどが試みられているが,いずれも安全性・コスト・患者に与える苦痛と有用性を考慮した場合,必ずしも有効と言えないのが現状である.

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 Colonoscopic screening for neoplasms in asymptomatic firstdegree relatives of colon cancer patients: Guillem JG, et al(Dis Colon Rectum 35: 523-529, 1992)

 大腸癌の家族歴のある人は,大腸癌のハイリスク者と認められている.

編集後記 武藤 徹一郎
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 早期胃癌の概念と診断法の確立によって日本の医学は世界に多大な貢献を果たした.欧米では胃癌は死の宣告に等しかったが,治療可能な早期胃癌の存在を認識することにより,胃癌へのアプローチが変わってきたことが,最近の欧米外科系雑誌の発表からも窺われる.ここに至るまでの先達の努力にはただ頭の下がるばかりであるが,30年前に早期胃癌肉眼分類のできたころ,すなわち早期胃癌黎明期の実態と裏話が鼎談の中に披露されており,まことに興味深い.登場する先生の約1/3の方々が既に故人であることにも時代の流れを感じる.歴史にはあまり関心のない若い方々も,消化管を専門とする以上,是非ともこれは熟読してもらいたい.

基本情報

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胃と腸
28巻3号 (1993年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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