胃と腸 28巻2号 (1993年2月)

今月の主題 内視鏡的食道粘膜切除術

序説

食道粘膜切除術の意義 神津 照雄
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 食道の切除標本を取り扱った経験のある医師であれば,切除直後の新鮮な状態やフォルマリン固定後でも標本が新しいほど,粘膜層と固有筋層の間にズレが生じたりあるいは遊離しやすい状況にあることに気づいているはずである.胃から始まった内視鏡的粘膜切除術が大腸に移り,そして食道にも応用されるようになってきた.粘膜切除術の基本は粘膜下層への生食水注入による粘膜層と固有筋層の剥離操作にある.食道に関しても内視鏡的に粘膜下層より表層の組織を剥離・切除しやすい臓器と言える.しかし,ひとたび穿孔などの合併症が発生した場合には,年齢,心肺腎機能,全身状態の迅速な把握のうえで,開胸処置に移らなければいけないなど,相応のリスクを念頭に置いておかなければいけない.手術侵襲度の差からみれば食道癌の治療としての,開胸をして食道を切除する方法,非開胸食道抜去術と,内視鏡的粘膜切除術のその差は歴然としている.

 食道癌外科治療の立場から,切除標本の病理組織学的検討の結果を踏まえても,粘膜切除という局所治療でよしとされるのは,最近の深達度亜分類診断から言えばep~mm2(施設によってはmm1と報告)までの症例である.そして切除された標本の検索で高度な脈管侵襲を有する症例や術前深達度診断を浅く読んでしまった症例に対しては,その後に適切な治療を加えればよいとする診断的意味も本術式の意義の大きな比重を占めている.

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要旨 食道癌に対する粘膜切除の適応を検討する目的で外科的に切除された食道表在癌61症例87病変(sm癌41症例,mm癌13症例,ep癌7症例)と食道進行癌に合併した食道表在癌を含む食道表在癌全病変117病変(sm癌53病変,mm癌29病変,ep癌35病変)について深達度と脈管侵襲,リンパ節転移の頻度について検討した.深達度epの病変では脈管侵襲,リンパ節転移は全く見られず食道表在癌の粘膜切除の絶対適応となりうる.深達度epの診断で内視鏡切除され,切除標本の組織学的検討からmm1では,浸潤はごく限局し,脈管侵襲,リンパ節転移の可能性も低く,追加治療は必ずしも必要ではない.mm3以深の浸潤が認められた場合には脈管侵襲,リンパ節転移を認めることがあり,根治を目的とする内視鏡治療の対象にはならないと考えられ,外科的切除とリンパ節郭清を追加すべきと考える.mm2の浸潤が認められた場合には脈管侵襲は少ないものの未だ問題が残る.分割切除については最深達部が切除断端にかからないように切除されることが重要で,それぞれの切除片相互の位置関係が切除標本の再構築写真や切り出し写真と組織標本によって評価できるのであれば患者の“quality of life”を考慮した治療法として分割切除を行うことも相対的な適応となりうる.また食道癌は多発例が多く,内視鏡的粘膜切除後の厳重な経過観察が必要である.切除された材料から適切かつ十分な病理組織標本を作製することが内視鏡治療の根治性についての評価に重要であり,病理の対応の仕方が根治性の評価を規定すると言える.

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要旨 表在癌の粘膜切除可能病巣を知り,その治療効果をみるために,当教室で切除した食道表在癌症例190例の遠隔成績と病理所見および自験粘膜切除13例を検討した.overallの累積生存率Aと明らかな他病死例を除いた累積生存率Bとを比較し,AはBより約10%低い予後を呈した.この累積生存率Aの低下はmm癌,76歳以上の高齢者群で顕著にみられた.内視鏡的粘膜切除の適応病変を切除標本から検討したが,脈管侵襲がなく絶対安全な病変はep癌,それも0-Ⅱbか平らな0-Ⅱc癌,比較的適応としては肉眼型0-Ⅱ型で深達度1pmまで,大きさ2cm前後の病変が挙げられた.sm癌でも大きさが1.Ocm前後のものは脈管侵襲率が低頻度でone pieceで切除可能なことから,このような病変をもつ高齢者やリスク症例には今後慎重に適応を拡大し,摘出標本の病理所見をみて更なる治療の必要性に関し検討していきたいと考える.

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要旨 早期食道癌に対する内視鏡的粘膜切除法は,食道温存のまま小さな侵襲で癌が根治できる局所治療法であり,切除組織の病理組織学的検索から,局所根治の判定や追加切除の必要性が判定できる唯一の方法である.リンパ節転移や脈管侵襲のない深達度ep~mm2までの癌が適応であり,癌の根治目的にep癌28例,mm癌9例,手術拒否sm癌1例と,病変の全生検および確定診断目的に異型病変2例の計40例に粘膜切除を行った.診断に相違のあった症例は6例15%であり,扁平上皮癌の診断にて切除した38例中,3例は高度異型上皮,2例は癌が検出されず再生上皮のみであった.また,高度異型上皮の診断にて切除した2例中,1例にep癌が診断された.深達度診断に相違のあった症例は4例12%であり,粘膜切除前に深く診断した症例は1例,浅く診断した症例は3例であった.分割切除を併用しているため,病変の大きさに制限はないが,分割切除施行25例中,不完全切除1例と切除断端がぎりぎりであった2例で局所再燃がみられた.最長経過観察期間は5年であり,他臓器癌にて死亡した1例を除き,リンパ節転移や他臓器転移はなかったが,3例8%で異時性多発食道癌が診断された.

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要旨 食道の早期表在癌の増加と共にその治療方針が見直されるようになり,内視鏡的粘膜切除術が行われるようになってきた.その適応は,①ep~mm2の粘膜癌で,②mmの範囲が2cmぐらいまで,③全周性でなく,④病巣数3~4個まで,となる.内視鏡的粘膜切除用のEEMR-tubeを開発し,簡単かつ容易に,大きな粘膜切片(最大5cm)が安全に切除できるようになった.その手技の詳細と注意点につき述べた.粘膜切除を施行した81症例103病巣につき検討し,その成績,合併症などにつき述べた.以前は困難であった食道癌に対する内視鏡的粘膜切除術も,対象症例の発見,適応の決定,十分な大きさの粘膜切片の切除などすべての面で,胃や結腸を凌ぐものとなったと思っている.

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要旨 食道の上皮内癌および粘膜癌に対する内視鏡的粘膜切除術として,1989年より透明オーバーチューブを用いる方法(EMRT)を実施し,1992年より透明プラスチックキャップを用いる方法(EMRC)を導入した.現在まで9例(EMRT8例,EMRC1例)に施行し,いずれも特記すべき合併症なく病変を切除しえた.最長3年の観察では明らかな再発の兆候を認めていない.1回の切除量は長径約2cm前後であるが,反復切除により半周以上の切除も容易であった.経口摂取は1,2日後より可能であり,形成された潰瘍も約1か月以内に完治した.本法は侵襲も少なく安全性も高いことから,その適応が遵守されれば早期食道癌に対する有効な治療法の1つになりうると共に,ヨード不染部に対する完全生検の手段としても有用であると考えられる.

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 〔患者〕52歳,男性.1989年12月初旬より心窩部痛出現.胃潰瘍を指摘され近医に人院.そこで経過観察目的で内視鏡検査を行い噴門部の生検で扁平上皮の直下に腺癌を認めたので当院に紹介され人院となった.

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 〔患者〕60歳,女性.主訴:右下腹部痛,既往歴,家族歴:特記すべきことなし(虫垂切除の既往もなし).現病歴:1990年10月20日より右下腹部痛が出現した.発熱・下痢・血便はなかった.同年10月24日当科初診,初診時回盲部圧痛を認めた.初診時末梢血検査・血液生化学検査成績には異常を認めなかった.

用語の使い方・使われ方

囊状胃(Beutelmagen) 西澤 護
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 線状潰瘍が囊状胃の原因であることを明確にしたのは村上,鈴木ら(1954)である.Fig.1は囊状胃を示すX線像で,著明な小彎の短縮によりできたものである.胃角部に小ニッシェ様突出がみられるが,これは小彎をまたがる線状溝の一部で,充満像だけでも囊状胃であれば線状潰瘍といってほぼ間違いなく,小彎にニッシェあるいは小ニッシェ様突出を認めれば,診断はより確実となる.

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 消化管に造影剤を充満した充盈像の辺縁に局所的に陰影の欠けた所見をみたとき,その所見を陰影欠損という.この所見はほかに充盈欠損(Fullungsdefekt),陰影脱落(Schattenausfall)とも呼ばれる.この陰影欠損は辺縁に内腔に突出した病変があるときに認められ,進行胃癌で典型的な像をみる.境界は明瞭で欠損部は不整である.Borrmann2型癌では陰影欠損の中にクラーテルの側面像を表す陰影がみられSchattenplus im Schattenminusと言われる像を示す(Fig.1).造影剤に囲まれた陰影欠損は中心性欠損(zentrale Schattendefekt)と呼ばれ,辺縁に見られる(進入性)陰影欠損と区別される.陰影欠損は小規模になると陥凹ニッシェ(Niche encastrée)(Fig.2↓↓)や陥凹像(Aspect encastré)(Fig.3↓↓)として現れる1).これらの所見がⅡC病変でも見られることは,造影剤で膨らんだ周囲部に比べ伸展性の障害された病変部が内腔に突出するためと説明されている2)

 充盈像で陰影欠損を示した病変は二重造影像でも陰影欠損として現れるが,小病変では病変の周辺の所見が空気量で変わったり,病変部が回転してはっきりした陰影欠損の形をとらないこともあり,また,欠損部が平滑になったりして陰影欠損という表現が適切でないこともある.

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 1.strip biopsy法の発展

 消化管の早期癌に対する治療は今や外科から内視鏡へ移ってしまったかの観がある.最初にそのきっかけをつくったのは内視鏡レーザーであり,更にこれを決定づけたのは内視鏡的粘膜切除法である.なかでも多田正弘博士の提唱するstrip biopsyは簡便性と安全性から多くの人によって好んで使われ,内視鏡的治療の主役になっていることに誰も異存はないであろう.また内視鏡的早期癌治療の発展に尽くした多田博士の功績も大きい.

 strip biopsyがこのように普及したのは,高度の技術を必要とせず,また特殊な器具もいらないということと共に,最も重要なことは,切除標本の検査から癌の転移の可能性の有無を知ることができることで,もし癌が多量にsmへ浸潤していて転移の可能性があれば,すぐに外科へまわすことができるという治療適応の明確化があるからである.最近,smへ強く浸潤している病巣に対してスネアをかけることが癌細胞を拡散させはしないか,という危惧をもたれるようになってきてはいるものの,まずはstrip biopsy全盛というところであろう.

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 第47回日本大腸肛門病学会総会が1992年11月28日から2日間にわたって,近畿大学第1外科教授・安富正幸会長のご主催で,大阪国際交流センターで開催された.今回の学会では久し振りに第3回アジア結腸外科学会も併せて行われたが,内外から約1,800余名の学会員が集まり,370題を越す過去最多の演題が集まった.

 日本大腸肛門病学会は外科系,内科系,そして肛門科医師によって構成される.大腸肛門病学を追求する臨床医の研究の場であるが,意外と内科医は外科や肛門科の分野を理解する機会は少ないものであるし,また逆も同じであるのが現状であろう.3部門の医師が相互の分野を理解し合わなければならない,というのが安富会長の常からのご意向であり,本総会においても専門分野以外の領域についても修得することを目標に,苦心のプログラムが組まれたようである.

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要旨 都内3病院において21年間に確認・経過観察された潰瘍性大腸炎347症例(男女比1:1)を臨床病理学的に観察し,大腸癌の累積発生頻度:10年罹患で1.1%,15年3.2%,20年11.1%を算出して諸外国と比較した.潰瘍性大腸炎患者大腸切除32例,大腸切除後の残存直腸23例の観察から高率にdysplasia(それぞれ12.5%,8.7%)の出現を認め,日本人潰瘍性大腸炎患者も罹病期間の長期化に伴いdysplasia,carcinomaが明らかに出現してくることを示した.またsporadicな大腸癌と比較して有意に若齢者(平均46.8歳)に発生すること,大腸炎重症例,腫瘍性病変は女性に多いことを明らかにした.粘膜上皮のmitosis index,核内AgNORs顆粒,PCNA陽性細胞を観察した結果,大腸炎の反復に伴い壊死と再生によって粘膜上皮の細胞分裂・増殖が亢進していることが,突然変異による癌化を生じやすい大きな原因の1つとして挙げられた.

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要旨患者は79歳,女性.心窩部痛および腹部膨満感を主訴に来院し,腹部超音波検査にて膵尾部に多房性の巨大膵囊胞を認めた.来院時血清アミラーゼは正常であったが同年5月23日,重篤な急性膵炎および麻痺性イレウスを併発し緊急入院となった.内科療法にて軽快後,ERPを施行し主膵管との交通を有する14×16cm大の巨大膵囊胞腺腫を認めた.悪性との鑑別が困難なため,手術を行った.組織学的には粘液性膵囊胞腺腫であった.

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要旨 明らかな潰瘍や潰瘍瘢痕を伴わず,粗大結節状隆起が集籏した極めてまれな回腸末端部結核の1例を報告した.患者は,30歳,女性,主婦.主訴は心窩部痛と発熱.右下腹部に圧痛あり,急性虫垂炎を疑い腹部超音波検査を施行,回腸末端部の肥厚とリンパ節腫大あり,急性回腸末端炎,なかでもエルシニア腸炎が疑われた.注腸造影で回腸末端部に粗大結節状隆起の集籏を認め,内視鏡検査にて粗大結節状隆起の集籏と,隆起の頂点にところどころ白苔を伴うびらんを認めた.生検にて,炎症細胞の高度の浸潤と類上皮細胞の増殖による肉芽腫が多数認められ,腸結核も考えられた.確定診断のためにリンパ節生検が行われ,リンパ節内に乾酪壊死性肉芽腫が認められ腸結核と診断された.抗結核剤の投与により病変は,瘢痕もなく消失した.なお,胸部X線上異常なく,ツ反は9×6mmと疑陽性,糞便中結核菌陰性,組織中の結核菌は,培養を行うも陰性.白血球は11,500と増多,CRP11.9mg/dlと強陽性,赤沈33mm/hrと充進,エルシニア抗体価陰性であった.

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要旨 患者は63歳の女性で上腹部不快感を訴えて来院した.胃X線および内視鏡検査所見から,幽門前部に全周性の,軽い結節状隆起や不整な陥凹の混在した粗糙な粘膜の拡がりと十二指腸球部のⅡa集籏様の隆起性病変を認めた.生検結果から,十二指腸腺腫を伴った幽門部早期胃癌と術前に診断したが,切除標本の検索で,胃・十二指腸に連続性に発育した深達度mの高分化型腺癌と診断された.癌の浸潤範囲は6.8×3.8cmで,十二指腸側の浸潤距離はBrunner腺出現部から16mmであった.癌は十二指腸側では異型の程度が弱く,胃側では一部に低分化腺癌を混じていた.早期癌の胃・十二指腸にまたがる浸潤は極めてまれであり,文献的考察を加えて報告した.

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要旨 患者は61歳の男性.症状はなく,健康診断により胃の潰瘍性病変を発見された.術前検査にて,血清alpha-fetoprotein(以下AFP)が51.2ng/mlと高値を呈していた.肝機能検査上,異常は認められなかった.胃癌の診断のもと,胃切除が施行された.病変は,幽門前庭部小彎のⅡa+Ⅱc型早期胃癌(sm)で,低分化腺癌であり,胎児性癌に類似した部分も見られた.肝転移,腹膜播種,リンパ節転移は認めなかった.免疫組織化学的検査にて,AFPが腫瘍細胞内に証明された.術後,AFPは正常域に復し,1年6か月後も再発の所見なく健在である.AFP産生胃癌の報告は多いが,早期胃癌は非常にまれと思われ,報告した.

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要旨 患者は63歳,男性.前立腺肥大の治療中,肛門出血のために紹介となった.大腸ファイバースコープおよび注腸検査にて,直腸前壁に多発する潰瘍を伴った巨大腫瘍を認めた.潰瘍底からの生検診断ではleiomyomaであったが,腫瘍の大きさ,大量出血,潰瘍形成などの臨床所見から臨床的に悪性化を強く疑い,骨盤内臓全摘術を施行したところ,摘出標本の病理組織所見ではleiomyosarcomaであった.

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要旨 患者は64歳,男性.下腹部痛のため注腸X線検査を施行し,下行結腸中部に径5mmの中心陥凹を疑わせる隆起性病変を認めた.内視鏡検査でも中心陥凹をみる平盤状隆起を確認し,生検したところ診断は中等度異型の腺腫とされた.注腸検査,内視鏡検査で経過をみていたところ,隆起も中心陥凹も,共に著しく大きくなり,ひだ集中も著明になったので,浸潤癌を強く疑い,下行結腸切除を行った.切除標本では,粘膜ひだ集中を伴うⅡa+Ⅱc病変であり,組織学的には,腺腫成分を認めないsmに中等度浸潤する高分化腺癌であった.また,生検組織を詳細に見直すと高度異型腺腫(境界領域病変)と考えられ,異型の極めて低い病変が短期間に粘膜下浸潤を来したと考えられた.

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要旨 患者は54歳,女性で,数年前,他院にて内視鏡検査を施行され食道裂孔ヘルニアと診断された.今回は継続する胸やけを主訴に胃X線検査を施行され,胸部下部食道(Ei)後壁寄りに結節状および顆粒状小隆起の集籏した病変を指摘され,当院に紹介された.食道内視鏡では上切歯列より35~41cmの部位に全周性に発赤した毛細血管網を透見しうるビロード状粘膜を認め,その後壁を中心にほぼ半周にわたり周辺粘膜より更に発赤の強い,周辺にびらんを伴う凹凸不整な隆起病変を認め,滑脱型食道裂孔ヘルニアを伴うBarrett食道に発生した深達度sm,0-Ⅰ+Ⅱa型の食道腺癌と診断した.組織学的には中分化型管状腺癌,深達度sm,n0,ly(+)であった.本邦におけるBarrett食道に発生した表在型腺癌の報告例15例につき検討を加え報告した.

早期胃癌研究会

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 11月の早期胃癌研究会は,11月18日(水)に開催された.当番司会は吉田(国立がんセンター東病院内視鏡部)および牛尾(国立がんセンター中央病院放射線診断部)が担当し,胃2例,回腸1例,大腸3例が検討された.

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欧文目次

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 編者も冒頭の第3版の序に述べておられるように,医学は常に進歩し,その進歩は想像を絶する勢いでますます加速され,特に遺伝子組み換え技術の導入により次々に新知見が得られている.内分泌・代謝学においても新しいホルモン,あるいはホルモン様物質,例えば心房性ナトリウム利尿ペプチドとそのファミリー,エンドセリン,およびパラソルモン様物質(PTHrP)など,従来その存在が全く予測されなかったホルモンが次々に発見されている.また,サイトカイン(例えばインターロイキン1)がホルモン作用を有することも明らかにされている.これらの新しく発見されているホルモンは古典的内分泌臓器以外の組織,例えば血管系,骨やリンパ球で産生され,多くはその局所で働くパラクライン作用が明らかにされている.血流を介して働く古典的なホルモンと,この局所で働くホルモンは密接に関係を保ちながら作用していると考えられる.更に情報伝達のメカニズムの研究も目覚ましい勢いで進歩し,各種ホルモンレセプターの構造が解明され,次いで情報伝達物質の細胞内における作用機構も解明されつつある.これらの研究の進歩はホルモン不応症やレセプター病を遺伝子レベルで解明し,今後糖尿病,肥満,高血圧などの成因,病態の解明にも寄与するものと考えられる.今や臨床内分泌・代謝学は古典的内分泌の枠を越えて,確実に境界領域に拡がりつつあり,今後ますます重要な領域になると考えられる.

 本書は1979年にNIM iecture seriesの1巻として初版が発刊されて以来,医学生,研修医,および内分泌・代謝の専門医に幅広く利用されている名著である.特に病態生理の理解に重点を置き,最初に基礎知識をわかりやすい図と記述によって理解させ,次いで症状,診断,治療に入る一貫した記述は,臨床医学の新しい方向性を示す画期的な本である.第2版が1985年に,第3版が今回出版され,第2版より116頁ページ数が増えており,内分泌・代謝学領域の進歩を物語るものである.

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 Helicobactor pylori and gastric cancer: correlation with gastritis, intestinal metaplasia, and tumour histology: Wee A, et al (Gut 33: 1029-1033, 1992)

 Helicobactor pylori(以下HP)が胃癌発生と関連があるとの主張がある.この研究は,胃癌の異なる組織型(腸型とびまん型)におけるHP,胃炎,腸上皮化生との関連を明らかにするために行われた.

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 本書は救急初療における座右の書としてベストセラーになったものの第2版である.一般に,改訂版は語句の修正や新しい項目の補填が多いが,編集者・小濱啓次教授の“改訂の序”にあるように,装いを一新した全面改訂版である.

 書名は変わっていないが,救急医学(医療)の神髄が全体に織り込まれ,格調高いマニュアルになったことが第一印象である.例えば,バイタルサインのチェックの記事の一部を記すと,“呼吸状態の良し悪しは,その患者がどれだけ十分な酸素を取り入れているか否かを示すものであり,血圧の測定と同様に重要な項目になる.”この文学的表現の中に救急医学(医療)の真骨頂を読むことができる.このような気持ちで診療に臨めば,“患者を診ずして,検査結果をみる”こともないであろう.

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 Association of nm23-H1 allelic deletions with distant metastases in colorectal carcinoma: Cohn KH, et al (Lancet 338: 722-724, 1991)

 近年,癌遺伝子と転移との研究が活発になされており,その中で結腸・直腸癌に関しては,ras癌遺伝子や癌発現抑制遺伝子の変異が注目されてきた.一方,nm23(nonmetastasis 23)はマウスmelanoma(K-1735)やヒト乳癌の研究で脚光を浴びつつあるNDP(nucleoside diphosphate)キナーゼ活性を有する転移抑制遺伝子で,そのメカニズムとしては転移形質発現期でのGTP供給システムの異変による情報伝達系や細胞骨格への影響が考えられている.今回著者らは,このnm23の発現性と結腸・直腸癌の遠隔転移との関連性につき検討した.

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 膨大な解剖学の情報をいかに最小限のものにまとめるかということは,常に古くて新しい難題である.今回医学書院から出版された酒井恒教授著「臨床解剖学へのアプローチ」は,この問題の1つの解決例と言えよう.111頁にわたる図と650の問題と解答という方式を用いて,この本は骨学から神経解剖学にいたる系統解剖学の知識を,索引を除くA5判237頁の中にまとめきっている.まさに解剖学的知識のminimum requlrementsを示す1例であろう.

 著者が述べられているとおり,これだけの内容は,医療技術短期大学(学部),保健学部,看護学部などの学生にとっては必要十分なものであろうと思う.しかし医学部の学生にとっては,あくまで最低限知っておかねばならない解剖学的知識を示すものであって,これ以上のものが要求されることは言うまでもない.ただこの本は,医学部の学生にとってもQ&A方式で,説明図を楽しみながら,基礎知識を整理するのに,手ごろなものではないか,と思われる.

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 脳死,終末期医療,死ぬ権利など医療の中での死が話題を賑わしている.多くは,客観的な死の認定や処理をめぐる医療技術論,法律論に終始しているのに対し,この書物は,主体者である人間の内的な死の感知と受容について,生物学的,精神医学的,社会医学的,そして内省的,哲学的な考察を試みている.

 第三者の死については,医療技術論でも扱えるが,主体的な「自己」の死は,同じ視点から自然現象としては扱えない.養老孟司氏の言うように,自分では経験することのない「一人称の死」というのはありえないのである.それでは,人間にとって「自己」の死とは何であろうか.

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 Carcinoma of the body and tail of the pancreas: Is curative reseclion justified?: Dalton RR, et al (Surgery 111: 489-494, 1992)

 膵体尾部癌治療における切除術の役割は不明瞭なままである.体尾部の腫瘍発生は多くはないが,診断時に進行していることや成功報告例が少ないことから,多くの外科医の治療無用論を生み出す原因となっている.そこで著者らは1963年から1987年の25年間,Mayo Clinicで原発性悪性膵腫瘍のため膵体尾部治癒切除を受けた患者44名の長期生存の再評価を行った.

編集後記 望月 福治
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 今月の主題「食道粘膜切除術」は,外科的材料からみた予後の検討を踏まえながら,深達度診断の裏づけがしっかりして初めてなされる治療学である.しかし,本法の導入によって,分割切除した場合,十分に再構築がなされたとしても,きめ細かな臨床と病理の対比が可能であろうか.より高いレベルの深達度診断学の砦に迫っていただけに,外科的切除標本と画像診断の対比に,もう少し時間がほしかった気もしないわけではない.

基本情報

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胃と腸
28巻2号 (1993年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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