胃と腸 27巻12号 (1992年12月)

今月の主題 難治性胃潰瘍(1)治癒予測を中心に

序説

難治性胃潰瘍とは 西澤 護
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 古くから治癒しないあるいは治癒しにくい潰瘍として,穿通性胃潰瘍,胼胝性胃潰瘍などの呼称があるが,再燃・再発を繰り返す潰瘍を漠然と慢性胃潰瘍とも呼んできた.

 1950年から1960年代にかけて,数多くの胃潰瘍についての研究がなされているが,形態的に難治のものとして,村上らにより特殊な形をとる線状潰瘍が挙げられ,その後,潰瘍の深達度によりUl-Ⅰ~Ul-Ⅳに分けられ,Ul-Ⅳは筋層を貫いているもので,難治とするものが多かった.

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要旨 難治性胃潰瘍と易治性胃潰瘍に対してH2ブロッカー投与下に24時間胃内pHモニタリングを施行し,両者を比較することによって胃液酸度の面から難治性胃潰瘍の病態を検討した.pH 3 holding time rate,平均pH値,胃内pH-profile をパラメーターとして両者を比較すると,夜間には全く差はなく,食事などの酸分泌刺激のある日中には有意な差が認められた.日中のpH 3 holding time rateは難治性胃潰瘍ではすべて45%以下であり,45%以上であった易治性胃潰瘍と判別できた.したがって,日中の胃液酸度の充進が難治性胃潰瘍の病態であると考えられた.また,この日中の胃液酸度を抑制することが難治性胃潰瘍の治療に有効であった.

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要旨 H2受容体拮抗薬あるいはomeprazole治療にて8週間で治癒しなかった胃潰瘍47例(難治群)と8週以内に治癒し,かつ難治群と大きさをマッチさせた62例(易治群)の間で,治療開始時のX線所見を最初に単変量分析で比較し,次いで多重ロジスティックモデルを用いていかなる要因が両群の判別に有効であるかを検討した.単変量分析にて難治群に有意に多かったX線所見は胃角小彎の線状潰瘍,深い潰瘍,Schwellungshof以外の潰瘍壁のあるもの,粘膜集中高度なもの,粘膜のまくれこみ,潰瘍底の不整,線状潰瘍の間接所見としての前庭部小彎短縮,囊状胃,小彎のU字変形であった.多重ロジスティックモデルを用いて,X線所見からみた難治性潰瘍の予測を行ったところ,小彎のU字変形,Schwellungshof以外の潰瘍壁のあるもの,および粘膜集中高度の3要因が有意かつ独立の難治要因となり,それぞれの相対危険度は14倍,14倍,12倍となった.そして,小彎のU字変形のあるもの,Schwellungshof以外の潰瘍壁のあるもの,および粘膜集中高度なものが難治性潰瘍である確率はそれぞれ72%,72%,69%と判定された.これらの要因が2つ以上あればほぼ100%が難治性潰瘍と予測できた.X線所見に内視鏡所見を加えても両群の判別率は向上しなかったが,上記X線所見に治療開始後2週間以内の症状消失の有無が加われば両群の判別率は更に向上した.

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要旨 初回内視鏡検査時に活動性潰瘍と診断され,H2拮抗薬で治療された症例のうち8週以内の治癒症例271例および8週での未治癒症例81例を対象とした.その背景因子,潰瘍の形態的性状から潰瘍の治癒を遷延させる因子を判別分析で解析し,初回内視鏡検査時におけるprospectiveな治癒予測の可能性を検討した.その結果,性,年齢,治療環境,合併症,潰瘍歴,喫煙および飲酒習慣,発症の誘因,自覚症状の背景因子は治癒予測の判定因子とはならなかった.初回内視鏡所見では下掘れ,2cm以上の大きさ,線状傾向,胃角部,A1 stageの順に未治癒要因としての重みがあり,これら要因の8週未治癒判別能は88.3%であった.

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要旨 H2ブロッカー療法下の胃潰瘍の難治性について検討した.その結果,8週未治癒の潰瘍を難治性潰瘍とすることが妥当と考えられた.難治性を規定する諸因子は,潰瘍の形,潰瘍型,皺襞集中,縮小過程,周辺隆起,硬さなどであり,H2ブロッカー剤の登場によっても形態的特徴に変化はなかった.次いで,潰瘍の深さ(Ul)別の特徴をみると,Ul-Ⅳの平均治癒期間は16.9週と難治性で,形態的にも上述した難治性潰瘍の所見を呈していた.Ul-Ⅱでは,Ul-Ⅳの形態的特徴は全くみられず,かつ平均治癒期間も4.8週と易治性であった.Ul-Ⅲの内視鏡所見はUl-ⅡとUl-Ⅳの特徴が混在していた.平均治癒期間も10.5週と難治であったが,8週治癒率は約6割と易治のものも多く,両者の性格を併せ持つと考えられた.拡大観察では,易治性潰瘍ほど活動期より柵状や紡錘状の再生粘膜模様が観察された.難治性潰瘍では,結節状粘膜の占める割合が多かった.

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要旨 筆者らは拡大内視鏡観察した瘢痕所見から再発の予測が可能なことを報告してきたが,Sa(中心陥凹あり),Sb(中心まで粗大再生粘膜模様),Sc(周囲同様の微細粘膜模様)の瘢痕分類は通常内視鏡でも判定可能であった.通常内視鏡による2年間の経過観察で,易治性胃潰瘍群33例では67%がSc瘢痕に移行して再発は18%であったのに対し,難治性胃潰瘍群28例では68%がSa瘢痕で経過して再発が71%と高率であった.Ul-Ⅳ潰瘍の特徴である境界明確な顆粒状再生粘膜模様面である瘢痕帯は,易治群18%に対して難治群では71%に認められた.以上の結果より,胃潰瘍の難治性とその易再発性は,組織欠損の深さに起因すると考えられた.

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要旨 難治性胃潰瘍の超音波内視鏡(EUS)像について検討した.8週間以内に白苔の消失をみなかったものを難治として,活動期からH2ブロッカー単独あるいは防御因子増強剤併用にて94病変を治療し,プロトンポンプ阻害剤(PPI)単独あるいは併用にて46病変を治療し経過観察した.H2ブロッカー治療群全体の8週後の内視鏡的累積治癒率は68%であった.H2ブロッカー投与時の難治性胃潰瘍のEUS所見は,①Ul-Ⅳ,②Bf type,③潰瘍領域の断面積が400mm2以上,④潰瘍領域の収縮率が不良,の4点であった.PPIが投与された46病変全例で8週間以内に白苔が消失した.しかし,H2ブロッカー抵抗性潰瘍にPPIを投与し白苔が消失した例では,深部に幅広く潰瘍エコーが残存していた.真の意味で難治性胃潰瘍を克服するには潰瘍内部の治癒が不可欠と考えられた.

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要旨 胃潰瘍の治癒に働く組織因子は再生上皮と間葉組織である.この治癒には,間葉組織による潰瘍の収縮,潰瘍底の挙上・浅化,再生上皮による潰瘍表面の被覆,および間葉組織と再生上皮の順調な経時的変化が重要である.今日まで,再生上皮の研究に比べ,間葉組織のそれは極めて貧弱であった.筆者らは,初めて,間葉組織の経時的変化を明らかにした.そして,内側線維症と外側線維症が存在し,それらが潰瘍収縮,潰瘍底の挙上・浅化に重要であることを明確にした.内側線維症は筋線維芽細胞や線維芽細胞から形成され,膠原・筋線維症となり,最終的に平滑筋束のみとなり,筋層融合像や厚い粘膜筋板の形態をとって,永続して残存することも明らかにした.一方,外側線維症は膠原線維症となり,後に消失することも明らかにした.これら新知見を基にして,難治性胃潰瘍の形態学的特徴を述べた.

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 表面型大腸癌の増加に伴い,その治療方針決定の面から癌の深達度を診断することは,極めて重要である.

 〔患者〕66歳,男性.注腸X線検査にてS状結腸下部に小隆起性病変を指摘され,生検にて癌と診断された.X線および内視鏡所見から,sm中等度以深への浸潤が強く示唆され,手術が施行された.

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 〔患者〕57歳,男性.定期検診にて上部消化管造影施行後,胃精査目的に上部内視鏡検査を施行し,食道病変が指摘された.

用語の使い方・使われ方

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 胃の線状潰瘍を肉眼的および病理組織学的に明らかにしたのは村上,鈴木ら(1954)であるが,それをX線写真上に二重造影像で表し,「線状溝」あるいは「線状ニッシェ」と名づけたのは白壁,熊倉ら(1955)である.

 胃の線状潰瘍は,原則的には小彎に対し直角方向に走る線状の溝であるが,その溝を組織学的に検索してみると,どこかにopenの潰瘍がみられることから,一般に線状潰瘍と言われている.線状潰瘍は普通3mm以上の長さのものを言うが,線状溝が長いほど潰瘍の発生からの歴史の古さを示すもので,Ul-Ⅳの潰瘍を伴うことが多いことと合わせて,難治性潰瘍の1つに挙げられている.また,線状溝が長くなるにしたがって,小彎が短縮し次第に囊状胃を示すようになる.再燃すると,しばしば線状溝上に円形潰瘍を伴う.

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 この用語の語源は,本誌12巻12号「大腸結核のX線診断」(白壁ら,1977)にあると思われます.白壁,中村(恭),そして筆者の3人がこの論文に着手する際に検討会を重ねるなかで,自然発生的に使用していたものを,この論文中に用いました.ただし,そのときには,“潰瘍瘢痕を伴う萎縮帯”と表現し,英語の訳語としては,“scarred area with discoloration”と意訳しました.

 おそらく,この表現では長すぎるので,その後,これも白然の成り行きで,“萎縮瘢痕帯”という表現が慣用的に用いられ,現在では,この用語が1人歩きしているのでしょう.

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要旨 小腸,大腸に病変をもつ44症例51病変に対して,大腸内視鏡検査を利用した逆行性回腸造影および選択的大腸造影を行い,そのX線検査法の有用性を検討した.①下部回腸および終末回腸病変の診断能について逆行性回腸造影法とゾンデ式小腸二重造影法で比較すると,従来のゾンデ式小腸二重造影法では,描出が悪く性状診断ができなかった症例が半数以上を占めた.一方,逆行性回腸造影法では,描出が良く診断可能な症例が過半数みられ,ゾンデ式小腸二重造影法よりも逆行性回腸造影法のほうが下部回腸の病変描出能は優れている傾向にあった(0.05<p<0.10).②下部回腸の逆行性回腸造影法による描出範囲,描出能とバルーンの位置については,バルーンが回腸に存在したまま造影したほうが,結腸に位置して造影した場合よりも,描出範囲,描出能とも有意に優れていた(p<O.001,p<0.025).③選択的大腸造影法と通常の注腸二重造影法の比較では,その描出に有意差はなく,2度の前処置を必要としない選択的大腸造影法は有用と考えられ,微細病変も描出された.そのほか,(a)下部回腸に狭窄が存在する例,(b)大腸に狭窄や腫瘍,あるいは攣縮があり,大腸ファイバースコープが通過できない例,(c)小腸・大腸吻合部に病変が存在した例などに対して有用であった.

海外だより

ドイツ留学体験記(4) 木村 理
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 Alexander von Humboldt(AvH)Stiftung

(アレクサンダー・フォン・フンボルト財団)

 Humboldt財団は,探検博物学者Alexander von Humboldt(1769-1859)にちなんで1860年に創設され,戦後1953年に以下に示す理念のもとに再設立された研究奨学金制度を司る団体である.

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要旨 患者は24歳,女性.発熱,腹痛,下痢,下血を主訴に入院.39℃を上下する弛張熱,比較的徐脈,末梢血の好酸球消失,脾腫を認めた.大腸X線および内視鏡検査にて盲腸から横行結腸ほぼ中央部まで,円形または卵円形の小潰瘍の多発と回腸末端の腫大したPeyer板上に単発の潰瘍を認めた.便培養にてSalmonella typhiが検出され,腸チフスと診断し,福岡市立こども病院感染症センターに転院となった.chloramphenicol 1~2g/日の経口投与にて治療後,当院再入院.多発潰瘍は横行結腸にわずかな変形を残すのみで瘢痕治癒していた.

早期胃癌研究会

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 9月の早期胃癌研究会は,9月16日(水)に開催された.当番司会は高木(林外科病院)および丸山(癌研究会附属病院内科)が担当し,食道2例,胃2例,大腸2例が検討された.

学会印象記

第34回日本消化器病学会大会 清水 誠治
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 第34回日本消化器病学会大会は獨協医科大学第2内科原田尚教授を会長として,10月12日から14日の3日間,栃木県字都宮市で開催され,盛況裡に幕を閉じた.

 会場はマロニエの繁る街並の中,栃木県総合文化センター,栃木会館,宇都宮市体育館,マロニエプラザの4か所に設けられた.時に小雨が混じる曇天であったものの,過ごしやすい時候であり,日光東照宮,中禅寺湖をはじめ近郊の名勝を訪れた参加者も多かったのではなかろうか.

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欧文目次

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 明治2年,新政府によりドイツ医学を取り入れることが決定されて以来,第2次世界大戦が終了するまでの約80年間,日独医学の交流は極めて密接であったことを知らない医者はないであろうが,更にその二百数十年前に溯ってオランダ医学(蘭学)と言われてきたものが,実はドイツ医学に端を発し,またドイツ人医師が蘭医と詐称して来日していたこと,言ってみれば日本における西洋医学の淵源はドイツ医学であったことを知る人は少ないであろう.

 今回,畏友比企教授より本書を手渡され,表題をみて年数の多さに,まず意外な感じを受けた.また,この3年ほどはお互いに少し離れた職場にいるが,時々会っていたにもかかわらず,このような本の企画を進めていることは全く知らなかったので,見るからに堅牢なドイツ装丁の本を手に受けたときには大変驚いた.聞けば,この本は数年前に,氏の親友であるクラース教授からの相談を受け,両人でいろいろ企画を練り,苦労を重ねてきてついに完成したものであり,その間助手を務めた夫人もドイツ語論文内に現れる日本人名の同定に大変な時間と苦労をしたとのことであり,夫妻共々の労作に心からお祝いの言葉を述べた.ほどなく,出版社から,書評の依頼状が送られてきた,その依頼状には,この書の特徴が実に簡潔,適切に記述されていた.すなわち,“本書は,日本とドイツの医学を巡る300年に亘る交流関係を,医学の現場にある両国の50人がドイツ語と日本語で纏めた,他に例を見ない力作です.遠く離れた2つの国の間で,このような協力関係が医学という一分野を巡って連綿と築かれたという歴史には誠に興味深いものがあります.これまでに纏まった形では公開されることのなかった歴史の一こまを後世に残し,今後の学問に於ける国際協力の在り方を考える一つのヒントを本書が投げ掛けることができれば,とスタッフー同願っております”とあり,まさにそのとおりと言えよう.

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 わが国では,偏らない立場で記述された臨床腫瘍学に関する良書は少ない.恐らくそのために,癌治療の第一線では少なからず混乱がみられているのが現状である.その点で本書は,臨床の第一線で活躍している外科および放射線科の専門家が,それぞれに相手の立場を尊重しつつ,謙虚な態度で客観的な記述を心がけているので,全体としてバランスの取れた良書となっている.

 総論では,放射線治療の基礎知識として,放射線の物理学的・生物学的性質,ならびに治療計画法が要領よくまとめられている.各論では,食道癌,胃癌,膵臓癌,胆道癌,肝臓癌ならびに直腸癌について,それぞれに最新のデータが呈示され,手術と放射線の効果的な併用のあり方がわかりやすく解説されている.消化器癌の臨床に携わっている外科医,放射線科医にとっては待望の手引書であるといえよう.

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 小腸の検査はX線,内視鏡検査を問わず煩わしいものである.長く,面積としても広い小腸をくまなく造影・観察することが難しいこと,苦労のわりには上部消化管や大腸ほど病変が多くないこと,などが今日の小腸の形態診断学の進歩を妨げている.

 このような時期にYMC Chenらが編集した“Radiology of the Small Bowel”が発行された.私自身,Dr. Chen とは直接面識はないが,彼はしばしば消化管X線診断学についてシャープな論文を報告しており,注目していた医師の1人である.改めて本書にしるされた彼の肩書を見て驚いたことに,彼は放射線科医であることを知った.なぜなら,彼の過去の論文を読んでみても,X線診断のみにこだわることなく,患者の症候や病因なども考慮に入れて理論展開する姿勢が好ましく感じられ,彼はてっきりgastroenterologistであると思っていたのである.ともあれ,Chenとその仲間達がかくも立派な小腸X線診断学をまとめたことに対して,驚きと敬意の念を抱いている.

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 「引用」の範囲を超えて他人の著作物を,自身の著作物へ取り込む場合(“転載”)には相手方(著作権者・出版社)の許諾が要ります.(許諾の条件として著作権使用料を請求される場合もあります)但し,「引用」の条件を満たして利用する場合は自由に利用できます.

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 本書は食道癌,膵癌,直腸癌などの消化器癌治療における手術補助療法としての放射線療法について詳述したもので,腫瘍放射線学および外科手術に放射線治療を併用して実績をあげておられる外科領域のそれぞれのエキスパートの先生方により執筆されている.

 序論にて,われわれ臨床外科医には理解度が低いと思われる放射線治療の基礎的事項が,“放射線とは何か”から始まって,治療機器,放射線の細胞に対する作用,正常組織の反応などまでわかりやすく解説されている.

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(質問)妊婦,授乳中の潰瘍性大腸炎患者へのSASP,ステロイド使用の安全性と注意点について,大阪市立大学・小林絢三教授にお教え願います.

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 この本はもともと筑波大学医学部附属病院放射線科においてローテーションで来るレジデントのための教育用のマニュアルとして作られたものの由であるが,著者らが前書きで述べておられるように,消化管の造影手技を咽頭から直腸までについて記述してある,他に類例のない大変ユニークな本である.

 消化管の診断に関する教科書はたくさんあるが,手技に限って書かれた本は放射線技師のためのものを除いてはこれまでなかったのではないかと思う.

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 消化管出血に関する集大成の本と言えよう.歴史から現在まで,最近1991年までの豊富な文献を含んでいて,例えばショックについて病態・対応を整理するのにも好都合である.成因・病理・病態生理・診断はもちろん,出血に対する初療,小児における病因と対処から,放射線・内視鏡治療・外科治療まで包括されている.筆頭編者の須川暢一教授(Wayne State大学外科)は小生の親友であり,昭和大学藤が丘病院外科の客員教授も勤めていただいている間柄であるので,特に興味をそそられ,あら捜しも兼ねて(?)一読した.

 消化管出血は古くからの病態であるが,内視鏡・放射線診断学の発達によって,適切かつ迅速な処置が可能になったことは周知のとおりである.序文にもあるように“消化管出血の対処に当たっては,熟練した医師が集合して,病態生理を踏まえたうえで,正確で迅速な決断が要求される”のであり,そのdecision makingには多くの知識が裏打ちとして必要である.わが国では緊急内視鏡が普及し,内視鏡治療が普段に行われている.それに関する成書も少なくない.しかし,この本の章立てをみて驚くのは,その基礎知識にかなりのスペースが割かれていることである.病理ではDieulafoy's潰瘍の概念をくわしく記載してあり,angiodysplasiaの項と共にその整理に役立った.内視鏡止血の項にクリッピングが含まれていないのが物足りなかったが,わが国から引用されるべき英文献が少なかったせいかと自己反省もさせられた.もう1つ気が付いたのは,わが国では一般化して用いられているAGMLという略語にお目にかかれなかったことである.AGMLは既に日本英語化してしまったのであろうか.胃炎については原因別に,例えば NSAIDs胃炎,SRMD(stress-related mucosal damage)などと表現されている.

編集後記 岡崎 幸紀
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 本誌が消化性潰瘍の特集を組むのは1986年の10月号以来である.この間,H2ブロッカーの普及,プロトンポンプインヒビターの登場と話題に事欠かず,潰瘍に関する論文はすさまじいほどである.なのに,なぜ,沈黙を守ったのか.本誌の主眼とする形態学の観点からすれば,主観に陥らず客観的判断に堪えるデータの蓄積と思考が不可欠なのである.その意味では,今回の難治性胃潰瘍の特集は満を持していた感がある.渡辺らの病理組織学的見解や,岡田らのX線所見の統計学的処理は,新たな消化性潰瘍の研究方向を示唆した.内視鏡やEUSの論文も興味深いが,今ひとつ迫力を感じないのは,一面からのみの捉え方という基本的な弱さがあるのだろうか.他検査との対比,対決の姿勢が必要なのかもしれない.企画に際して,難治性潰瘍を激論の末,8週未治癒としたが,いずれの論文にも有意義な結果が得られており,安心した.形態学にも統計学が不可欠の時代となったが,インプットする検査所見の読みが正しく確立されたものでなければ,結論に大きな誤りの生まれる可能性のあることを改めて述べておきたい.

基本情報

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胃と腸
27巻12号 (1992年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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