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消化管出血に関する集大成の本と言えよう.歴史から現在まで,最近1991年までの豊富な文献を含んでいて,例えばショックについて病態・対応を整理するのにも好都合である.成因・病理・病態生理・診断はもちろん,出血に対する初療,小児における病因と対処から,放射線・内視鏡治療・外科治療まで包括されている.筆頭編者の須川暢一教授(Wayne State大学外科)は小生の親友であり,昭和大学藤が丘病院外科の客員教授も勤めていただいている間柄であるので,特に興味をそそられ,あら捜しも兼ねて(?)一読した.
消化管出血は古くからの病態であるが,内視鏡・放射線診断学の発達によって,適切かつ迅速な処置が可能になったことは周知のとおりである.序文にもあるように“消化管出血の対処に当たっては,熟練した医師が集合して,病態生理を踏まえたうえで,正確で迅速な決断が要求される”のであり,そのdecision makingには多くの知識が裏打ちとして必要である.わが国では緊急内視鏡が普及し,内視鏡治療が普段に行われている.それに関する成書も少なくない.しかし,この本の章立てをみて驚くのは,その基礎知識にかなりのスペースが割かれていることである.病理ではDieulafoy's潰瘍の概念をくわしく記載してあり,angiodysplasiaの項と共にその整理に役立った.内視鏡止血の項にクリッピングが含まれていないのが物足りなかったが,わが国から引用されるべき英文献が少なかったせいかと自己反省もさせられた.もう1つ気が付いたのは,わが国では一般化して用いられているAGMLという略語にお目にかかれなかったことである.AGMLは既に日本英語化してしまったのであろうか.胃炎については原因別に,例えば NSAIDs胃炎,SRMD(stress-related mucosal damage)などと表現されている.
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