胃と腸 25巻9号 (1990年9月)

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要旨 食道の上皮内癌(ep癌)・粘膜筋板までの癌(mm癌)と粘膜下層癌(sm癌)の深達度診断をX線学的に検討した.まず,診断の基礎となる病理学的事項として,肉眼型と大きさから深達度を検討し,次の結果を得た.①隆起型の1cm以下はmm癌であったが,1cm以上の病変はsm癌であった.②表面隆起型と表面陥凹型は大きさに関係なく全例ep癌かmm癌であった.③陥凹型と混合型は大きさに関係なく全例sm癌であった.このことから,X線像で肉眼形態を忠実に描出することができれば,大部分の病変の深達度診断は可能であることが示唆された.ep癌とsm癌の鑑別には問題がない.mm癌とsm癌の鑑別が問題である.なかでも,mm癌のうち粘膜固有層に深く浸潤した病変と,sm癌のうちわずかに粘膜下層に浸潤した病変との鑑別である.これらの病変のX線像を,辺縁像と辺縁近傍の粘膜像の不整および,粘膜像の所見から検討した.その結果,辺縁像と辺縁近傍の粘膜像の不整がごく軽度の病変はmm癌であった.また,これより明瞭な不整がみられた病変では,粘膜像の所見を加えることにより深達度の診断の向上が図れる.

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要旨 ①m癌とsm癌の鑑別に有用な指標は,隆起型病変では隆起の高さであり,陥凹型および平坦型病変では辺縁の陰影欠損あるいは二重輪郭,辺縁隆起の有無と共に病巣内の隆起の大きさが重要である.②ep癌とmm癌の鑑別は,正面像ではほとんど不可能で,辺縁像,特に伸展不良の強さの差が手掛かりとなる.③ep癌,mm癌の質的診断を確立するためには,まずそれらの病理組織学的診断基準を確立させておく必要がある.

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要旨 直視の細径ファイバースコープやヨード染色を中心とする色素内視鏡の発達により早期表在食道癌の発見例が急増している.われわれは97例の表在癌を扱っており,これは総症例の19.4%を占めている.これらの分析からm癌は脈管侵襲やリンパ節転移がほとんどなく,5年生存率も100%であったが,sm癌ではリンパ節転移33%,5年生存率52.4%であった.内視鏡所見ではm癌はⅡb,2mmに満たないⅡa,特に白色調のもの,陥凹面が平滑な顆粒状を呈する浅いⅡcであり,sm癌は0-1,0-Ⅲのほかに,2mm以上の隆起性病変,陥凹面が凹凸不整で白苔を部分的にかぶるⅡcである.深達度診断の正診率は約82%で,粘膜筋板を圧排するm癌,顕微鏡的なsm癌の診断には限界がある.質的診断,予後推定診断についても述べた.

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要旨 食道癌の新病型分類を用いて表在癌40例,55病巣の検討を行った.

ep,mm癌(29病巣)はすべて0-Ⅱ型に含まれた.0-Ⅱ型をep,mm癌診断の目安とすると,正診率は93.5%(29/31)であった.0-Ⅱ型以外の表在型癌をsm癌とすると,その正診率は92.3%(24/26)であった.sm癌のリンパ節転移頻度は48%であったが,ep,mm癌には転移は認めていない.0-Ⅱ型以外の表在癌は深達度smと考えられる.新病型分類はep,mm癌の特徴を反映しており,実用的であった.0-Ⅱ型病巣でリンパ節転移の可能性があれば外科治療を行うが,この可能性がない場合は内視鏡による局所治療を採用して,ともに良好な成績を示した.発見の時点で治癒を確信できることから,今後の食道癌早期発見の目標は0-Ⅱ型病巣と考えられた.以上の結果から食道早期癌の定義を変更し内視鏡診断では,0-Ⅱ型病変とすることを提案した.また,これに伴う新しい病型分類を提案し,その中で表層拡大型,早期癌類似進行型,進行癌類似早期癌の必要性を述べた.

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要旨 近年食道の表在型癌手術例が急増しているが,なおsm癌が圧倒的に多い.今回食道の早期癌としての条件は何か,sm癌につき予後の良いもの,悪いものの形態学的特色を食道表在癌159例の切除標本および治療経過から検討した.sm癌のsm層浸潤度と浸潤面積は予後と有意に相関した.わずかに浸潤をみるsm-Ⅰはほぼ粘膜癌の予後に匹敵,肉眼型は0-Ⅱb型,0-Ⅱc型に相当した.sm癌で予後の良いものの肉眼型はm癌類似の0-Ⅱb型,0-Ⅱc型と隆起型の単純型,深達度がsm-Ⅰとわずかなものと考えられた.予後の悪いsm癌の肉眼型は隆起型と陥凹型との混合型で0-Ⅰ型癌はIpl+Ⅱc型,0-Ⅱa型癌はⅡa+Ⅱc型であった.

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要旨 リンパ節の組織検索ができた食道の扁平上皮ep癌11例,mm癌8例,sm癌37例,とそれができなかった症例を加えた,ep癌88病巣,mm癌17病巣,sm癌48病巣を用いて,現行早期食道癌の定義の正否,否なら新しい定義とその肉眼診断および肉眼型分類をどのようにしたらよいかを検討した.n(+)はep癌,mm癌で0%,sm癌で30%であった.ly(+)はep癌で0%(病巣数でみても0%),mm癌で13%(同様に6%),sm癌で65%(同様に60%).v(+)はep癌で0%(病変数で0%),mm癌で13%(同様に6%),sm癌で68%(同様に63%)であった.患者5年生存率はep・mm癌で90~100%,sm癌で49~65%,再発率はep・mm癌0%,sm癌10%と言われている.したがって,早期食道癌は“リンパ節転移に関係なく,粘膜内癌”と定義されるべきである.肉眼形態も,m癌とsm癌の両者で異なっていた.肉眼型のうち,早期胃癌肉眼型に対応するⅠ型やⅢ型癌ないし部分的に,それらの型を有する癌はsm癌に属,Ⅱa型,Ⅱb型,Ⅱc型,Ⅱa+Ⅱb型,Ⅱc+Ⅱb型はほとんどが早期食道癌,ep癌,mm癌に属した.

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要旨 X線的な発見能と描写能は,epとmmは難しいが,早期の基本型を示す.一方,smは,たやすく進行期の像を示す.前者を早期癌,後者を進行癌とする分類がよい,活用できる,というのが主張である.この主張を基盤にすると,胃と大腸の最近の再吟味と結着にも対応し,分類上の共通性も共有できると思われる.あっても,あまり使うことのない早期胃癌分類のⅢ型の呼称は,食道では消した.epとmmを基本型としたとき,smなのに,それに類似するもの,それらが混合していて分類しにくいものがある・これらの分類上の位置づけを,今から討議すればよいだろう.

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 〔患者〕70歳,女性.約3か月前から上腹部痛が出現,1989年4月に当科を受診した.

 〔初回X線所見〕立位第1斜位二重造影像で,中部食道(Im)胸椎側に辺縁の軽度硬化像と複線化を認めた(Fig.1).

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要旨 患者は胃部不快感を訴えて来院した57歳,女性.1年9か月前に乳癌の手術を受けている.胃X線所見では胃体中部後壁に多発する不整陥凹と,その周辺粘膜ひだの肥厚した所見があり,表面に不整形陥凹のある小隆起が胃体上部後壁,胃角後壁大彎寄りにも認められた.内視鏡所見では表面に発赤顆粒と浅い陥凹のある扁平隆起が多発して認められた.これらの所見はメラノーマの胃への転移時にみられる“bull's eye sign”と似ているため以前の乳癌の手術を思い起こし乳癌の胃への転移を強く疑った.胃生検標本にも乳癌の細胞とよく似た癌細胞が認められた.他の部位に転移巣を認めなかったので胃全摘術を施行した.切除胃肉眼標本では胃体中部後壁にクラーテルがあり,その周囲の粘膜ひだは腫瘤状に隆起していた.また,表面に小不整形陥凹のある小隆起性病変が多発していた.病理組織標本では腫瘍細胞が粘膜下層に腫瘤状に見られ,その上に浅い潰瘍形成の見られる部位と固有筋層より漿膜面に腫瘍細胞がびまん性に浸潤している部分が見られた.腫瘍細胞はエオジン淡染性の,異型の目立つ癌細胞で,その中にはPAS陽性のintracytoplasmic luminaを有する癌細胞もあり,これらの腫瘍細胞は原発巣と考えられる乳癌とよく似ていた.以上の所見から,これらの胃病変は乳癌の転移によるものと診断された.文献的にみると剖検例の検討では乳癌の胃への転移はまれではない.乳癌からの転移性胃癌のX線所見はlinitis plastica型が多く,乳癌手術患者でlinitis plastica型胃癌を発見したときは乳癌からの転移も考慮する必要がある.

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要旨 患者は33歳の女性で,胃部膨満感で来院,内視鏡検査で体上部前壁に急性潰瘍,体中部大彎に径4mmの発赤を伴う小隆起性病変を認め,隆起部からの生検で胃カルチノイドと診断された.切除胃において粘膜下層に充実胞巣状,一部分索状に配列する腫瘍が認められた.胃底腺領域にendocrine cell micronest(ECM)の多発がみられたが,カルチノイドは単発であった.術前,血中ガストリンとグルカゴンが高値を示したが,PAP法による免疫組織化学的検索ではガストリン,グルカゴン,いずれも陰性であり,術後血中ガストリンは低値となったが血中グルカゴンは依然高値を示し,本腫瘍がこれらのホルモンを産生したとは考えにくかった.

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の検査法

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 1.はじめに

 ルーチンX線検査法の盲点については,X線検査での胃癌の見逃し例などの検討などが行われているが,見逃し例の検討だけではその全貌を捉えることは困難である.実際のルーチンX線検査で,どのような病変が描出が難しいのかについて知るため,Fig.1に示したような,対象,方法で胃癌の検診を行った.ルーチンX線検査の撮影法はFig.2のような方法で行い,腹臥位薄層像撮影後バリウムは130w/v%のものを250ml程度使用した.

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 X線検査にせよ内視鏡検査にせよ,私たちが現在行っている上部消化管検査には多分に独り善がり的な点が少なくなく,正直なところ撮影・読影をも含めて決してパーフェクトな検査が行われているとは言い難い.盲点の皆無な検査がなされることのほうが珍しく,後で青くなることも少なくない.自らの検査法を戒める意味も込めて,本稿をしたためている.

 ルーチンX線検査法といえども病院で行う検査は精密検査であるべきである.無症状の人たちに行う集団検診とは異なり,患者も正確さを期待して受診しているはずである.しかし現実には狭い胃の中といえどもなかなか完全に検査することは困難であり,妥協しなければならない場合も少なくない.すなわち,あってはならないことであろうが,どこまで手抜きが許容されるのか,その接点のうえでルーチンX線撮影がなされるのであろう.ちなみに私たちが行っているルーチンX線検査では,発泡錠を飲ますことからスタートして一通りの撮影を終了するまでの時間は高齢者とか理解力に乏しい人など,いろいろなケースはあるが約10分間前後であり,X線被曝を少なくするためにも,なるべく透視時間を短縮するよう心掛けている.また,ルーチン検査といえども全症例をあとで医局員全員で再度読影する体制をとっている.そこで多人数の医師の目で行う読影診断に耐えられるよう,なるべく一定の撮影方式に従うように心掛けているが,その方法は他の施設と大差はないであろう.そのうえで少しでも盲点を少なくする目的で,私たちは検査の終了間際に半立位腹臥位の前壁二重造影を追加するように工夫しているので,その点について紹介してみたい.

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 ルーチン検査の盲点として,胃前壁,胃上部,幽門部(特に幽門前部)の3つの部位が挙げられる.

 1.胃前壁

 (1)200mlの造影剤を飲ませ,500~600mlの空気を注入する.立位充盈像および半臥位で腹臥位充盈像を撮影したあと,腹の下に小さくて平らな布団を入れる.布団の下縁を臍のあたりに置く.そのあと,軽い半臥位で,強い腹臥位第2斜位(左前方位)にする.多量の空気が幽門部に入ってくるのを確認したら,そのまま逆傾斜させる.幽門から胃体下部にかけて,胃の前壁が二重造影像として現れたら,逆傾斜させるのを止め,できるだけ正面位に近づけて,幽門部前壁の二重造影像(Fig.1)を撮る.そのときの逆傾斜の程度は30~45度である.Fig.1の症例はⅡc,分化型のm癌である.

入門講座・9

小腸X線検査の実際 八尾 恒良
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 3)Kerckringひだの変化―〔3〕管腔変形

 前述したようにX線学的な小腸管腔の変化はわずかなKerckring皺襞の異常で認識される軽度の辺縁硬化像から,管腔の辺縁像が原形をとどめないほど破壊されたものまで,いろいろな段階のものがある.これらの変化を効率よく正確に拾い上げるためには,経口法,二重造影法を問わず,造影剤または空気で十分に伸展された充盈像を,小腸索と分離して撮影することが大切である.

 通常,管腔変形は種々の程度の狭窄または管腔狭小を伴っている.そして両側性変形と偏側性変形がその代表とされる.

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欧文目次

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 第15回村上記念「胃と腸」賞は,工藤進英・他(秋田赤十字病院外科)「平坦・陥凹型早期大腸癌の内視鏡診断と治療―微小癌の内視鏡像を中心に」(第24巻3号掲載)に贈られた.本賞は昨年度「胃と腸」誌に掲載された全論文を審査対象に最優秀論文を編集委員会で選ぶものである.

 贈呈式はさる7月18日,早期胃癌研究会7月例会(エーザイ本社ホール・東京)で行われた.例会幹事の福地創太郎氏(虎の門病院副院長)より受賞論文が紹介された後,受賞者を代表して工藤進英氏が登壇,早期胃癌研究会代表の白壁彦夫氏(早胃検理事長)より賞状と賞牌が,また金原優医学書院社長より賞金が手渡された.

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 1985年,筆者らはlymphocytic gastritisと呼ばれる胃粘膜上皮内に高密度のリンパ球浸潤で特徴づけられる新しい病理組織学的な疾患単位を発表した.著者らのretrospectiveな研究では,varioliform gastritisの多くの生検所見はlymphocyticgastritisに典型的な粘膜上皮内の高密度のリンパ球浸潤所見を呈した.

 今回prospectiveに内視鏡によるvarioliform gastritisの診断と組織学的なlymphocytic gastritisの診断との関連性を明らかにする目的で研究が企画された.

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 本書の編者である大澤忠氏は若くして米国へ留学され,オールラウンドのX線診断学を学ばれた方であり,オーソドックスな考え方をされる放射線科医の代表である.最近の各種の新しい画像診断法の開発・発展にもかかわらず,X線診断学が最も基本にあるべきだとの考え方から,この本のタイトルは新臨床X線診断学とされている.編者以外の5人の執筆者もすべて海外留学の経験者のようである.

 わが国の放射線診断学のレベルは最近とみに向上し,幾つかの分野では世界をリードするほどである.しかし放射線診断学の全般的なレベルは,まだ米国にはるかに及ばないと思っている.それは,研究を中心としたこれまでのわが国の医学部放射線医学教室の在り方と無関係ではないようである.研究をおろそかにしてはならないことは言うまでもないが,臨床に直結した放射線診断学の全般的なレベルアップが必要である.換言すれば,われわれは,まだまだgeneral radiologyを重要視するべきであろうと思うのである.

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 潰瘍性大腸炎の再燃要因を調べることを目的に,著者らは非活動期に入っている92人の患者を48週以上にわたって経過観察した.12週ごとに患者と面談し,その間の感染の有無,維持療法の継続状況,食事の変化,非出血性下痢の有無,精神的ストレスの有無,精神的不安や抑うつ状態などについて質問した.

 35人(38%)の患者で再燃が起こった.研究開始後3~46週,平均17週後に起こった.再燃は前に再燃を起こしたことのある患者で有意に多く起こり,前回の再燃が最近のものほど高い傾向にあった.

編集後記 西沢 護
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 ここ数年来,m癌,sm癌,特にep,mm癌の発見数が飛躍的に増加した.いろいろの症例が見られるようになってくるにつれて,新しい問題点も出始めてきた.

 なかでも,m癌とsm癌との鑑別が重要なのは,それがX線,内視鏡で鑑別でき,病理組織学的に裏付けされるならば,今までとは臨床の対応が大きく変わってくるからである.大方の予想どおり,十分臨床の場に間に合うほどに鑑別できるとの結論で,その肉眼的特徴もかなり明確になってきた.幾つかの間題は残されているが,新分類案もかなり整理され,わかりやすくなってきた.

基本情報

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胃と腸
25巻9号 (1990年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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