胃と腸 25巻8号 (1990年8月)

今月の主題 臨床経過からみた胃生検の問題点

序説

  • 文献概要を表示

 電子内視鏡の時代へときている現在,その診断(病態)にも進歩の過程がうかがわれる.そしてその一端を担う胃生検が果たす役割も大きい反面,ややもすると臨床医が生検にたよりすぎる傾向がみられたり,また,病理学者にも胃生検組織診断をめぐり,見解の相違のみられる例が存在している.

 これまで胃生検を主題にした本誌をみると,4巻8号「X線・内視鏡で良性様所見を呈した生検陽性例」,9巻1号「胃の生検」,10巻11号「胃の良・悪性境界領域病変」,14巻2号「早期胃癌診断の反省」,19巻10号「胃生検の問題点」,22巻6号「胃の腺腫とは一現状と問題点」があり,時の流れと共に診断の推移あるいは生検の役割,病理診断の問題点などがそれぞれ論じられ,1歩1歩解決の方向へと浮き彫りにされてきている.

  • 文献概要を表示

1985年改訂後のGroupⅢ

 本号の主題である,臨床経過を問題とする胃生検として,真先に頭に浮かぶのがGroupⅢである.胃癌研究会の胃癌取扱い規約のうち,胃生検のGroup分類は1985年に改訂された,それによるGroupⅢの基準は「良性と悪性の境界領域の病変」とされ,「良性か悪性か鑑別の困難なもの」と説明されている.そのうえ,「再生検によって判定の適否を検討すべき」としている.

 上記の表現は,1971年に初めて設定されたGroup分類の不備が指摘され,度重なる討論の結果改正されたものなのであるが,やはり理想的の表現とはいい難い.その理由は,改訂前のGroupⅢの表現,「境界領域性病変」の影を色濃く残してしまったからである.時期をみて,GroupⅢの基準や内容の表現が的確であるように改める必要があろう.

  • 文献概要を表示

要旨 胃腺腫の予後を知る目的で,初回の胃生検でGroupⅢと診断され3年以上の経過を有する隆起性病変49例52病変の追跡調査を行った.結果は,16病変が増大し(30%),36病変が大きさ不変であった.増大例の最終診断は癌6病変,腺腫内癌2病変,腺腫8病変であった.増大群と不変群は初回のX線像,内視鏡像,生検像では鑑別不可能で,また,増大群の中でも最終診断癌と組織異型度不変例(腺腫)との鑑別は不可能であり,両群とも同一疾患(腺腫)として取り扱わざるを得なかった.更に,7例(14%)に他部位に胃癌の合併をみた,腺腫は高率に増大し癌化し,腺腫を有する胃は高率に胃癌の発生母地となる.

  • 文献概要を表示

要旨 初回生検でGroupⅢと診断された隆起性病変224病変のうち,手術あるいは内視鏡的切除術を行い,最終組織診断が得られた53病変について,内視鏡所見と組織所見を対比し,生検診断GroupⅢの問題点を検討した.53病変中36病変(67.9%)は組織学的にⅡa-subtypeを含む異型上皮巣であり,17病変(32.1%)が癌であった.癌はすべて高度に分化した癌であり,初回生検で癌と診断しえなかった理由は,生検という小さな組織片による限られた情報に起因していたと考えられる.内視鏡診断をみるとⅡa-subtypeを含む異型上皮巣では,多くはⅡa-subtypeないしはその疑いと診断していた.一方,癌では約30%がⅡa-subtypeとの鑑別が極めて困難であったが,65%はⅡa-subtypeと多少とも異なる内視鏡所見を示し,内視鏡的に癌が疑わしい例であった.生検でGroupⅢと診断された場合,内視鏡所見および生検所見より,総合的にⅡa-subtypeと判定した場合は経過観察でよいが,内視鏡的に癌が疑わしい場合は,病理医との緊密な連携のうえで速やかに再生検を行い,それでも結論の出ない場合には,内視鏡的切除術の対象となると考える.

  • 文献概要を表示

要旨 臨床経過からみた胃生検組織診断の問題点は,一般的な胃生検組織診断の問題点と同一であった.問題点の第1は,人為的ミスであり,次いで生検組織診断基準そのものにあった.人為的ミスは病変組織の見落とし,異常所見の過剰評価と過少評価の3つがあった.組織診断基準の問題点として,組織異型度判定にのみ比重が置かれていること,組織異型度の記述が不明確であること,癌,特に分化型癌が高異型度と低異型度に区別されていないこと,Group分類の運用,特にGroupⅢのそれに異質病変を含める人があること,Group分類とdysplasia分類の大きな差,が挙げられた.

  • 文献概要を表示

要旨 臨床経過からみた胃生検診断の問題点として,隆起性病変の中で,特に境界病変の生検GroupⅢの推移を1年以上経過観察し,胃切除または内視鏡的切除が施行された症例を検討した.生検診断がGroupⅢからⅤに変化した早期胃癌3例,GroupⅢのまま推移し,病変の増大を示したⅡa様異型上皮巣の1例,ならびに内視鏡的切除を施行した隆起型異型上皮巣の7例を提示した.臨床経過中の生検診断GroupⅢ→Ⅴの変化に対する臨床的対応については,lcm前後の小病変では内視鏡的切除が可能であり,2~3cmの病変で増大を示すものには,組織学的に高分化型腺癌の早期癌の併存が認められ,胃切除と共に内視鏡的切除を伴う胃部分切除の縮小手術が検討されよう.

  • 文献概要を表示

要旨 胃癌経過観察例,GroupⅢ,Ⅳ病変の臨床経過を中心に,主として陥凹性病変に対する胃生検診断の問題点を検討した.胃癌経過観察例のうち,27例は経過中癌巣と同一部位から採取した生検でGroupⅡ以下と診断された.これらの生検が良性となった要因としては生検手技上の失敗も考えられたが,その大部分(22/27)を占める表層陥凹型(Ⅱc,Ⅱc類似進行癌など)では内視鏡的には潰瘍性病変,生検組織学的には再生粘膜像を示すものが多く認められ,5例では癌巣内と思われる領域から生検したことを示す内視鏡写真も得られていた.これらの成績から潰瘍性病変に共存する胃癌の生検診断には一定程度の限界が存在すると考えられた.当院でGroupⅢとした592病変のうち,Ⅱc類似のものは37病変(6%)と極めて少なかった.しかし,GroupⅢと診断した後に癌と確診した病変の頻度をみると,Ⅱc類似のものでは14%と他群(5-8%)に比し高率であり,臨床的に十分な注意が必要と思われた.また,悪性と診断された各例は組織学的に極めて分化した腺癌とみなされるものであり,これらに対する組織診断の問題点も指摘され.GroupⅣと診断した後,切除された174病変の中には,低率(8%)ながら良悪性境界領域病変や腺腫あるいは良性非腫瘍性病変なども含まれていた.また,非切除となった104病変のうち33病変(32%)は悪性と確診されたが,53病変はその後の経過観察によっても確診が得られなかった.この非確診例は内視鏡的に良性の潰瘍像とみられる症例に高かった.以上のように胃生検診断には明らかに不確実性が存在している.したがって,質的診断を全面的に生検診断に委ねることは臨床的取り扱いを誤る危険性が高い.これを克服するには肉眼所見と生検組織所見との対比,疑問例に対する積極的な経過観察が不可欠と思われた.

  • 文献概要を表示

要旨 異型性とされている腺管単位の核細胞質比,腺管密度に加え新たに定義した腺管大小不同指数,複雑形腺管出現頻度を用いて良性と悪性に振り分けるための4変量判別式を導いた.それを用いて胃の腸型腫瘍性病変の手術標本と生検標本とを検討し,以下の結果を得た.①手術標本では4つの異型度係数は共に有効であったが,生検標本では腺管密度は無効であった.②悪性判別率は組織異型度のみでなく,悪性であることの確率を示す数値であり,それは臨床的に有効であるとみなされた.③明らかな良性異型上皮巣の多くの病巣は,悪性判別率0~20%を呈し,その組織異型のとりうる幅は小さかった.一方,明らかな分化型癌では,組織異型のとりうる幅は大きいが,多くは悪性判別率80~100%を呈し,それが0~20%を呈することはまれであった.④3つの異型度係数に基づく生検組織診断基準によって,生検組織が良性異型上皮巣の異型の強い部位から採取されたのか,分化型癌の異型の弱い部位から採取されたのか予測することができる.

  • 文献概要を表示

 八尾(司会) 今日はお忙しいところをお集まりいただき,どうもありがとうございます.「臨床経過からみた胃生検の問題点」というテーマで,先生方の忌憚のない意見を聞きたいということで座談会が計画されたわけです.

 良性と思って経過をみていたら癌であったということを臨床ではよく経験するわけですが,それには,臨床のほうにも病理のほうにも問題があると思います.

  • 文献概要を表示

〔患者〕47歳,女性.無症状であったが,胃集団検診で異常を指摘されたため当科外来を受診した.

〔胃X線所見〕背臥位二重造影では体下部後壁大彎寄りに皺襞集中を伴う病変を認めた(Fig.1).同部のスポット撮影では病変は辺縁不整かつ境界明瞭な陥凹性病変で,バリウムの量を変えると陥凹は浅く,陥凹内の皺襞集中部付近に数個の島状の小隆起を認めた(Fig.2,3).また,病変部の胃壁の伸展は良好であった.

早期胃癌研究会

1990年6月の例会から 多田 正大
  • 文献概要を表示

 梅雨空の6月の第3水曜日,恒例の早期胃癌研究会が開催されたが,今回も会場に入りきれないほどの大勢の先生の参加があり,熱気ある討論が行われた.会場の熱気のため,途中でプロジェクターのランプに故障が生じるほどであったが,素晴らしい症例が呈示され,出席者にとっては参加した甲斐のある研究会であった.今回は食道1例,胃2例,大腸3例が出題されたが,それにしてもこの研究会の名称は未だに“早期胃癌”研究会である.本会でも胃以外の消化管病変が多く登場するようになった昨今,“胃と腸”の名前が若干変更したように,25年間の歴史ある由緒正しい研究会の名称もあと何年続くことであろうか……などとつまらぬ心配をしながら今回の司会は山梨医大・藤野雅之と京都第一赤十字病院・多田正大の2人が担当して行った.

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の検査法

  • 文献概要を表示

 小彎,大彎の二重造影像の撮り方については,どのようにして,これらの部位の正面像を撮るのかがポイントとなる.症例を呈示し,その検査法について述べる.

 〔症例1〕(Fig.1)50歳,男性.胃体上部小彎のⅡc型早期癌.

  • 文献概要を表示

 1.小彎側病変の撮り方

 1)胃体部

 噴門部より胃体下部までの小彎側に病変が存在するとき,病変の存在は充満像で示唆されることが多い.背臥位二重造影像では病変の側面像が描出され,正面像を得るためには第2斜位像が中心となる.噴門部ならびに胃体上部小彎側は半立位第2斜位(High-Schatzki体位)が最もよい.台を挙上する角度は30~45°,体部もわずかな第2斜位からほぼ真横まで透視像により,噴門部がほぼ正面に見えるよう調節する.この際,背臥位でいったん穹窿部に溜めたバリウムを右側臥位とすることで流し,体上部小彎に塗りつけ,その後,徐々に背臥位方向へ戻すことが重要である.空気量は原則として中等量であるが,少量のときは台をより挙上させる,呼吸を利用するなどの工夫が必要となる.

 Fig.1は体上部小彎のⅡc+Ⅲ,深達度smの半立位第2斜位像.不整形の陥凹と皺襞集中,陥凹内インゼルの存在が明瞭である.病変の小轡側への拡がりも胃小区様構造の消失範囲より同定が可能である.この体位の撮影では脊椎との重なりを避けることも重要である.他の体位では半立位,背臥位が有用なこともあるが限界がある.すなわち,過緊張の胃は十分に伸展させ難く,多量の空気が必要であり立位第1斜位などと同じく補助的な診断法と考える.

  • 文献概要を表示

 このシリーズはルーチンのX線検査がテーマである.筆者は,日頃ルーチン検査とは精密検査手技の応用であると考えている.したがって,ここではルーチン検査の立場から述べなければならないが,精密検査の手技にも触れざるを得ないことになろう.

 小彎の病変と充満像

 小彎病変を存在診断の立場からみると,二重造影と共に,適正な充満像の撮影ときめ細かい読影も捨てがたいと考えている.

入門講座・8

小腸X線検査の実際 八尾 恒良
  • 文献概要を表示

 2)Kerckringひだの変化―〔2〕

 ②皺襞数の増加(縦軸方向への伸展障害)

 前回主として腸管の浮腫に基づく区域性の皺襞幅の肥厚について述べた.この反対の所見,すなわち単位面積当たりの皺襞数の増加は進行性全身性硬化症(PSS)の場合によくみられる所見である.Fig.1はその典型像であるが,渕上ら(1982)によると,経口法では腸管の拡張があるが,皺襞山幅は正常,谷幅は狭いという.そして二重造影のために遮断剤を静注すると腸管幅は更に拡張し,皺襞山幅は軽度に縮小し鍍襲谷幅はより一層狭くなったという.この所見はPSSでは腸管の筋層が障害されて縦軸方向への伸展性が障害されているために横軸方向への過伸展が起こったための所見と解釈している.

 欧米では,この所見は“hide-bound”appearance(HorowitzALら,1973)として知られ,食道,十二指腸の拡張と共にPSS特有の所見とされており,この所見が皮膚症状を欠くPSS(PSS sine sclerodermia)の診断根拠ともなっている.

  • 文献概要を表示

 政 信太郎君,こんなことがあってよいものか!これが,「胃と腸」の編集委員の切ない気持です,で始まる弔辞を捧げつつ私は涙した.

 別れは人の世の常だという.彼は人生を駆け抜けていった.あとに友,美,心を遺した.讃えることは,たやすい.しかし,友を想うとき,そこには心が,心がなくてはなるまい.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

 医師の中で最も多面性を要求されるのは外科医であろう.守備範囲の広さもさることながら,一方では,外科学をマスターした学者でなければならず,また,その学識を具象化する「手術」に長けた職人であることも要求される.どちらに片寄っても完成した外科医とは言い難いが,いくら学理に通じていても,安全,的確な手術を遂行する「手の術」がないと迷惑するのは患者である.したがって,外科に入局すると同時に,誰もが学問と実地の勉強に追われることになる.そのような外科研修医の諸君にとって,この新著はまたとない座右の書となるべき最近のヒット作と思われる.

 従来,外科医がまず修得するべき一般外科の大綱はアッペ,ヘモ,ヘルニア,マーゲン,胆囊,イレウス(昨今では大腸がその座を奪いつつあるが)といわれてきた.これらはいずれもありふれた疾患とはいえ,病期,合併症の有無,患者のリスクなどによって,その手術の難易度に著しい差異がみられ,時には重篤な術後合併症を招いて,予想外の治癒遷延をみることもあり,それぞれに対して的確な判断を下し,自信をもって対応できるようになるまでにはかなりの年季を要するものである.

編集後記 西元寺 克禮
  • 文献概要を表示

 胃生検の問題点としては生検採取という手技と,採取された生検材料の読みの2点に集約される.この2点に関し,渡辺,吉田論文は実際の症例を示しながら,生検に対する過剰な信頼に対する警鐘を示している.臨床の立場よりみると,大腸腺腫でも言えることであるが,腺腫と癌との鑑別,GroupⅢと診断された病変の取り扱いが問題となる.喜納論文では今日のGroupⅢの考え方が解説してあり,渡辺論文も併せ,これに対する疑問点が述べられている.光顕での診断にはやはり限界があり,石堂の研究のように誰にでも判定できるための情報の客観化が望まれる.隆起型腺腫の癌化は古くて新しいテーマであるが,渕上,早川の2論文は多数の症例の追跡によるもので,「胃と腸」ならではの美しい写真と共に,興味深い報告である.病変の性状の変化について電子スコープなどを用いたより詳細な検討が今後は必要であることを痛感させられる.

基本情報

05362180.25.8.jpg
胃と腸
25巻8号 (1990年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月11日~3月17日
)